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獅子の仔 Ⅰ 009 べリアン Ⅱ


べリアン Ⅱ


1 æ°Žæ·±

 鬱蒌ず繁る「西郚」りェスタ―ランズ最倧の森林は、海岞線にたで迫り、沿岞の河口の川湊を包み蟌むように広がっおいた。森から流れ出た河川は、いく぀かの流れに分かれ、その狭間の䞭州では川湊が栄えおいた。
 優矎な曲線を描く海岞線は、癜砂の砂浜が広がり、陜光は、青く柄んだ遠浅の海を底たで照らし出した。数えきれない魚圱がよぎるこの豊かな海で、小さな持船がそこかしこで操業しおいた。

 「麗しの島」フェアアむルの長船ロングシップ「赀の海鳥」号は、この遠浅の海を緩やかな曲線を描いお旋回し、やがお船底が浅瀬の砂を擊る鈍い音を立おながら、ゆっくりず桟橋に接舷した。

 べリアンは、船銖に立ち、朮颚に目を现めた。かざした手で陜光を遮り、県前に広がる優雅な河口を芋枡した。

「やっず着きたしたか  。もう䞡腕が䞊がりたせん   」
 埌ろで赀毛の埓士マむロンが、肩で息をしながら泣き蚀をこがした。航海の途䞭、䜓調を厩した氎倫の代理で櫂かいを匕く矜目になったのだ。
 だが、呚蟺の景色に目を奪われたのか、顔を䞊げお、眩しそうに癜砂の海岞を芋枡した。
「矎しい砂浜ですね。吟遊詩人の歌に出おくるような  」

 べリアンは、マむロンの呑気な感想を黙殺した。沖合にはどこかの暜型垆船コグが停泊しおいた。平底の艀はしけが、その沖合の垆船ず䞉角州の川湊を埀埩しお荷の積み䞋ろしをしおいる様子を䞀瞥しお、顔をしかめた。 

 ベリアンは船内を振り返り、この船旅を倧過なく終えた船長のヘむズを劎った。
「ご苊劎だった。ラニスポヌトから、この「クレむクの期」クレむク ラグヌンたで、二日半か、玠晎らしい速床だ」

「恐瞮です、ボりマ卿」
 軜く䌚釈したヘむズは、小柄で日焌けした初老の男だった。噂に聞いお、指名した甲斐があった。「麗しの島」フェアアむルの船乗りたちの腕は確かだった。
 ヘむズは、ただ腕をさすっおいる赀毛の埓士マむロンの肩を叩いお、その健闘を劎っおいた。

 顔を䞊げるず、现長い桟橋をこちらに向かっお歩いおくる耇数の人圱が芋えた。先頭を歩く小柄な男は、先に掟遣しおいた茜重官のダグりェルだ。舫もやいを結ぶ船員たちの脇を抜けお、べリアンを出迎えに寄っおきた。小柄な䜓に焊茶色の髪、しなびた草色の倖套、茶色の短衣チュニックずいう地味な身なりで、盞倉わらず真面目そのものの颚貌だった。

「ボりマ卿、長旅、お疲れ様でございたした」
 ダグりェルは桟橋に降りるベリアンを助けようず手を差し出した。

 ベリアンは手をあげおその助けを制し、枡し板の䞊を自力で枡り切った。鋌鉄の歩行補助具が鈍く軋む。有胜な男だが、ダグりェルの小柄な䜓ではベリアンの巚躯を支え切れない。

「出迎えご苊劎。䞀目で、枯湟の建蚭は厳しそうだず分かるな」
  べリアンは小柄な郚䞋を芋おろしお話しかけた。

「早速ですな」
 ダグりェルに苊笑され、ベリアンは己の拙速さに気づいお僅かに口元を緩めた。倚少の䞖間話を挟んだものの、結局はすぐに任務の話ぞず戻った。

 桟橋を䞊んで歩きながら、䞀぀目の任務に぀いおダグりェルが報告するのを聞く。キャスタリヌロックの地䞋倉庫に攟眮しおいた、叀い歊具の払い䞋げの亀枉は、こちらの蚀い倀で劥結したずのこずだ。
 叀い歊具でも鉄は貎重な資源であり、鉄資源に恵たれない、このクレむクホヌル呚蟺では猶曎そうだ。 
 二぀目の任務に぀いお確認を求めた。
 べリアンはこのために、倚忙な䞭、歊骚な自分には堎違いなこの優雅な海岞にたで、足を運んだのだ。

「この期に枯湟を建蚭すべきか、それずも他を圓たるべきか。お前の結論を聞かせおくれ」
 小柄な郚䞋を芗き蟌むようにしお、尋ねた。

「  どのような困難があろうずも、この『クレむクの期』クレむク・ラグヌンに枯湟を築くべきです」
 普段は慎重なダグりェルが、力匷く断蚀した。我が意を埗たりず、ベリアンは、この間の調査の説明を促した。

「この河川の氎運が極めお有甚です。この西郚最倧の森林を蛇行しお、緩やかで十分な氎量で流れおいたす。曎に、各地の河岞には攟牧地や集萜もありたす。朚材は蚀うに及ばず、毛皮や家畜の茞送が容易に行われおおり、あの䞭州の川湊は非垞に効率的な物資の集積地ずしお機胜しおいたす」

 満足しお頷く。ここたでは、べリアンの目算どおりだった。
「だが、この遠浅の岞では海ぞ物資を茞出する枯湟ずしおは話にならん。どうする」

「はい。この砂地を掘るのも、埋め立おるのも、かなりの難事業です。砂の質がきめ现やかで、海遊びには快適ですが埋め立お地ずしおは最悪です。無理しお埋め立おおも数幎も持たないでしょう」
ダグりェルは淡々ず事実を䞊べた。

「湟内は諊めるずいうわけか。代案は」
 ベリアンの質問に答えお、小柄な茜重官は右前方、河口の南岞から倖海ぞず突き出た方向を指し瀺した。

「あちらをご芧ください。海流に掗われた巚倧な黒い岩瀁が二぀ありたす。あの岩瀁の倖偎ならば、倧型の暜型垆船コグが接舷するのに十分な、十メヌトル以䞊の氎深が確保できたす」

 ベリアンは目を现め、癜波を立おる荒々しい岩瀁垯を睚み぀けた。二぀の岩塊を繋げれば、ざっず䞉十メヌトルにはなる巚倧な倩然の防波堀だ。
 二人しお、砂浜を歩き、河を枡っお、岩瀁の麓に蟿り着いた。長身のべリアンが芋䞊げる高さだ。迂回しお、なんずかよじ登る。岩瀁の海偎は断厖ずなっおおり、確かに氎深は十分だ。だが、海流が匷い。

「たず、この岩瀁の間をどうやっお繋ぐ」

「岩瀁の接合面に溝を掘り、鉄の鎹かすがいを打ち蟌みたす。あずは粘土で固めお岩同士を連結させたす」
小柄な胜吏は、岩瀁を手にした金槌で叩きながら答えた。

「硬さは十分です。この岩瀁の衚面を削り、平らにしたす。海偎は海棚状になっおいる箇所が二぀ありたすので、石を詰めた朚箱を幟぀か沈めおかさ䞊げしたす」

べリアンは、顎の髭をさすりながら岩瀁から海偎の流れを芋枡した。
「もう䞀぀。この䜍眮では河口からの流れず倖海の波がぶ぀かっおいる。船を安定しお、係留できるのか」

「おっしゃる通りです。ゆえに、河口偎に石積みの「導流堀」を築きたす。川の流れを岩瀁に圓たらないよう倖海ぞ逃がすのです。そうすれば、岩瀁の内偎は波の立たない穏やかな深氎枯ずなりたす」

ベリアンは抌し黙った。
  岩瀁をそのたた波止堎ずしお䜿う。悪くない。極めお合理的だ

「  倖海に面した枯になるな。長期停泊には向かんぞ」

「それも諊めたす。しかし、河川茞送で䞭州の川湊に物資を集積させおおき、倧型船が着いた瞬間に䞀気に積み䞋ろしをする䜓制を組めば問題ありたせん。船を係留するのは䞀日で枈たせるだけの䜓制を組みたす」

「䞭州の集積地からここたで、川を超える必芁があるぞ。段差もある」

「橋を䜜りたす。ちょうど河の䞡偎が固い岩の堎所がいく぀かありたす。橋を架けるのは可胜ず刀断したした。段差は岩瀁の内偎に石積みでゆるやかな傟斜を䜜りたす」

「莅沢は蚀えんな。  よし、その案で進めよう。マむロンも亀えお、今倜䞭に基瀎蚭蚈ず倧たかな工皋の芋積もりを緎り䞊げろ。私はこれからサムナヌクレむクホヌル卿に面談しに行く。」
 ベリアンがそう蚀った時だった。ダグりェルが河湊を芋䞋ろす小高い䞘の方角ぞ芖線を向けた。

「申し遅れたしたが、サムナヌクレむクホヌル卿は、昚日からこの期にお越しです」

 䞉角州の川湊は、積み石により、河口を芋䞋ろす小高い䞘ずなっおいる。その䞊から、黒鹿毛の銬に跚りこちらを芋぀めおいる階圱が芋えた。
 サムナヌクレむクホヌル卿のようだ。数人の䟛を連れおいる。

「実は、そのための石工ず人倫の手配は、すでにクレむクホヌル家が動いおくれおいたす」

 先頭で黒鹿毛くろかげの軜軍銬に跚り、こちらに向かっおきおいるのは、西郚の南方を領有する雄、クレむクホヌル家の次期圓䞻、サムナヌクレむクホヌル卿だった。䞊叀の時代の英雄「むノシシ殺しのクレむク」を始祖ずする最初の人々の末裔。その尚歊の血を匕くサムナヌ卿は、銬䞊からでも分かるほど骚倪な䜓躯をしおいたが、歎代の圓䞻たちに比べれば小柄だ。歊術よりも読曞を奜むず噂されおいるが、その颚貌は黒髪に倪い眉、匵った顎ず、䞀族の象城である「ただらの猪」を思わせる愛嬌ず気難しさを同居させおいた。

「サムナヌ様、ご無沙汰しおおりたす。わざわざの出迎え、痛み入りたす」

 慇懃に頭を䞋げるベリアンに察し、䞊質な黒矊毛の胎衣を着た若き猪は、挚拶も返さずに䞍愛想に蚀った。
 「蚈画の件は聞いおいる。父も了解した。朚ず豚は有り䜙っおいる。鉄ず亀換できるなら文句はない」
 挚拶も返さず、結論を蚀うずすぐ銬銖を巡らせお䞊足で去っおいった。慌おお埓士たちが埌を远う。盞倉わらずの偏屈な人柄だが、このためだけにわざわざ出迎えに来おくれたのは玛れもなく厚遇だった。

「次垭茜重官殿、非瀌を蚱されよ。サムナヌ様は奜意を瀺すのが苊手でな」
 困り顔の初老の階士が銬䞊から詫びおきた。叀匷者ずしお知られるオルムンドクレむクホヌル卿だ。サムナヌクレむクホヌル卿ず異なり、クレむクホヌル家らしい、骚倪で倧柄な䜓栌をしおいる。真っ癜な髪ず髭、幎老いた猪ずいった颚貌だ。

「跡継ぎが迎えに来お頂き、厚遇に恐瞮するばかりです」
 サムナヌの背䞭が遠ざかるのを芋送りながら、ベリアンはその奜意ぞの謝意を述べた。あの「猪の貎公子」は、蚀葉こそ少ないが、取匕の芁点は完党に理解しおいる。そしお䜕より、決断が早い。

「クレむクホヌル家はこの開発に合意臎したす」
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 ベリアンは背埌のダグりェルに芖線をやった。茜重官はすぐさた矊皮玙の束を取り出す。

「お玍めください」
 ダグりェルが矊皮玙の束を手枡した。今回の䞭叀の歊具を払い䞋げる取り亀しだ。

 初老の階士は、しわがれた声で䜎く笑った。
「公劃様のご厚情、ありがたく頂戎いたしたす。さお、工事の人員は揃えおおりたす。い぀から取り掛かりたしょうか」

「今すぐにでも。茜重官のダグりェルをこの地にしばらく掟遣臎したす。優れた知芋を有しおおりたすので、お圹に立おるかず思いたす」

 振り返っおこの茜重官に指瀺を出す。
「ダグりェル。ここに残り、クレむクホヌルの石工たちず協議しお基瀎工事を遂行しろ。立案どおり、河口の南偎に、氎流を倖海ぞ逞らすための「導流堀」を築き、あの二぀の巚倧な岩瀁をそのたた埠頭ずしお利甚するための防波壁ずせよ」

「  埡意に」
 ダグりェルは口元を匕き締めお片膝を぀いお、承服した。

   ãƒ™ãƒªã‚¢ãƒ³ã¯å€§ããæ·±å‘Œåžã‚’した。
 ラニスポヌトの空気ずは異なり、ここでは、青々ずした森の湿った空気ず、海から吹き蟌む朮颚が混ざり合った、自然の豊かな匂いがする。

  オルムンド卿が、静かに呟いた。
「  公劃様にくれぐれもご自愛くださいずお䌝え頂きたい。我らは南の端、駆け぀けるには遠すぎる」

  べリアンは深く頷いお、頭を䞋げた。
「あの方こそが、「西郚」《りェスタ―ランズ》の芁石。我らが呜に換えおもお守り臎したす」

2  è’れる海

「では、頌むぞ。二か月でなんずか工事を軌道に茉せおくれ」
   æ¡Ÿæ©‹ã®äžŠã§ã€å°æŸ„な郚䞋の肩を叩く。

「党力を尜くしたす」
   å°æŸ„な茜重官は明蚀を避けた。いく぀か困難な䜜業の目途がたっおいないずいう。その頑なさに苊笑し぀぀、暪に䞊ぶ石工たちの背䞭を軜くたたいお桟橋から船に降りる。
既に「赀い海鳥」号の挕ぎ手たちは船に揃っおおり、べリアンの乗船を埅っおいた。

 舫い綱が解かれ、氎兵たちが䞀斉に長柄の櫂オヌルで浅瀬の海底を突き、砂に乗り䞊げおいた船䜓を海ぞ抌し出す。
「麗しの島」フェアアむルの長船ロングシップ 「赀い海鳥」号はゆっくりず動き出し、波間に浮かび䞊がった。
 ヘむズ船長が号什をかけた。
 鬱蒌ず繁る森に抱かれた期を埌にしお、船は海面を滑り出した。ダグりェルず石工や官吏たちが、桟橋の䞊から船を芋送っおいる。ここの敎備は、圌らに任せるしかない。

 ラニスポヌトぞの垰り道は、埀路のように順調にはいかなかった。

 出枯しお半日。陜が傟き、海面が血のように鈍い茜色に染たり始めた頃だった。船柱マストの䞊の芋匵りが、波音を切り裂くような悲鳎を䞊げた。
「南東の方向に船圱 黒い垆です。倧型の長船ロングシップが迫っおきたす」

   ãƒ™ãƒªã‚¢ãƒ³ãšãƒžã‚€ãƒ­ãƒ³ãŒã™ãã•た、船䜓䞭腹の甲板に駆け䞊がり、目を凝らす。二十人の挕ぎ手たちの背䞭にも、䞀瞬にしお冷や汗が這い䞊がったのがわかった。

「倧型の長船ロングシップだず  。「鉄諞島」アむアンランズの協定砎りか、「跳び石諞島」ステップストヌンズの海賊か。たずもにやり合えば数が違いすぎる」
   ã€Œéº—しの島」フェアアむル出身の船長ヘむズが忌々しげに舌打ちをし、甲板を螏み鳎らしお号什をかける。

「暗くなるたで逃げ切るぞ双垆に颚をはらたせお颚䞋ぞ逃げる 北東ぞ旋回しろ」
   æŒ•ぎ手たちは悲鳎のような掛け声を䞊げ、息を揃えお櫂を匕き、船䜓を倧きく旋回させた。ここからは玔粋な速さ比べだ。

 ヘむズ船長が叫ぶ
「盟板を立おろ号什に埓い、防埡態勢を取れ」
   æŒ•ぎ手たちは、矢から自分たちを守る盟板を船偎に立おる。

「マむロン、長匓ロングボりの修緎は欠かさずしおいるか」
   åŒ·é¢šã«ç…œã‚‰ã‚ŒãªãŒã‚‰ã€éš£ã§é¡”面を蒌癜にしおいる赀毛の埓士に尋ねる。

「は、はい なんずか続けおおりたす」
   ãƒžã‚€ãƒ­ãƒ³ã¯è£è¿”った声で答えながら、長匓ではなく、手回し匏の重匩クロスボりを取り出し、震える手で倪矢を装填し、匊を巻き䞊げおいる。
 マむロンには定期的に歊芞の皜叀を぀けおいた。筋は悪くないが、どうしおも長匓の指導は埌回しになりがちだった。

「私は階士で、お前は埓士だ。曞物や垳簿だけでなく、歊芞をおろそかにするな」
   ã“の赀毛の埓士に歊勇を期埅したこずはないが、もう少し歊術指導に時間を割くべきだった。

   ãƒžã‚€ãƒ­ãƒ³ã¯é¡”を匷匵らせながらも匩を構え、波間に目を凝らした。べリアンも倧きな矢筒を立おかけお、矢を抜き、甚心のために携垯しおきたむチむの重長匓ヘノィボりの匊を匵る。

「私も、そこそこの腕前ですがね」
 ヘむズ船長もたた、舵を操舵手に任せ、䜿い蟌たれた、梣トネリコの長匓ロングボりを構えお隣に䞊んだ。

   æŒ¯ã‚Šè¿”るず、黒い船䜓は右斜め埌方から癜波を立おおぐんぐんず近づいおきおいた。こちらが旋回で手間取った分、距離を詰められたのだ。䞍気味な黒垆の䞋で、おびただしい数の櫂が、たるで巚倧な癟足むかでの足のように䞍気味な統制をもっお海面を叩いおいるのが芋える。

 ベリアンは䞭倮甲板を暪切り、船尟右舷ぞ移り身を乗り出す。
 敵船の巊舷の櫂列が、倕陜の海にむき出しだった。

「巊舷の挕ぎ手だけを集䞭しお狙え」
   æ³¢ã§èˆ¹äœ“が䞊䞋に揺れるなか、ベリアンは冷静に指瀺を出した。
   æŒ•ぎ手ず操舵手は操船に専念させるため、迎撃の射手は䞉人だけだ。

   ã€Œäž€äººã§ã‚‚倒せば、片偎の掚進力が狂う。巊ぞ旋回しお速床が萜ちる」
 鉄棍や鉄槌ほどではないが、長匓の扱いも腕に芚えがある。速射や粟床はずもかくずしお、重長匓ヘノィボりから攟぀匓勢で䜙人に埌れを取ったこずはない。誓玄の兄匟であるクレストルの冷やかな口元が頭をよぎる。

 この距離なら、奎ほどの粟射の腕前がなくずも、櫂を匕く挕ぎ手を狙える。波に揺れる船䞊であっおも、巊足の鋌鉄の歩行補助具は甲板を離れず、倧朚の根のように䜓幹を固定しおいた。

 鵞鳥の矜の錐鏃矢を぀がえる。分厚い胞板の筋肉を軋たせながらむチむの重長匓を限界たで曳き絞る。颚の向きず、波の䞊䞋のうねりを読む。呌吞を鎮めお、海面が䞀番高く持ち䞊がった䞀瞬、盞手の挕ぎ手に照準を合わせ、匊を匟く。

 鈍い颚切り音ず共に攟たれた矢は、茜色の海面を䞀盎線に飛び越え、黒い長船の巊舷で櫂を匕いおいた男の胞板に深々ず突き刺さった。男が海ぞ転萜し、䞀぀の櫂が持ち手を倱っお乱暎に跳ね䞊がる。

「第二射、構えろ」
 装填に時間のかかるマむロンの匩を埅たず、ベリアンずヘむズが長匓を぀がえた、その時だった。

 距離を詰めようず焊る敵船の船銖で、半裞の男が剣を振りかざしお野倪い怒号を響かせた。それを合図に、远撃船の前甲板から十数本の黒矜の矢が䞀斉に攟たれる。

 空気を切り裂く無数の䞍気味な音が倕闇の空から降り泚いだ。

「䌏せろ」
 ヘむズ船長が怒鳎り、挕ぎ手たちは䞀斉に船偎の瞁に䌏せる。

 甲板や垆柱、そしお盟板に無数の矢が突き刺さる重い音が響き枡る。
 マむロンが玠早く掲げた倧きな䞞盟ラりンドシヌルドにも倪い矢が深々ず突き刺さり、圌はその衝撃でよろめいた。

「挕ぎ手、戻せ」
 ヘむズの号什で挕ぎ手たちは䞀人も欠けるこずなく、䞀斉に挕ぎを再開する。

「恐れるな 順颚で垆も匵っおいる。敵船は遅れおいるぞ」
  ベリアンの力匷い錓舞が甲板に響き枡った。
 マむロンは意倖にも勇敢な所を芋せ、甲板を這いながら、盟板が倒れおいる船偎郚に蟿り着き、挕ぎ手を守る盟板を幟぀か立お盎した。
 盟板の圱に身を隠し、再び長匓を曳き絞る。降り泚ぐ矢の雚が止むず、盟板の隙間から矢を攟぀。敵船巊舷の挕ぎ手をたた䞀人仕留める。
   æ‡ã‹ã—い高揚感が身を包む。思わず口元から笑みがこがれる。鍛錬を欠かさない䜓幹ず射撃の姿勢は埮塵もぶれない。

 隣で鈍い音が響く。ヘむズ船長が自らの長匓を甲板に攟り出し、分厚い暫の䞞盟ラりンドシヌルドで飛来する矢を匟き萜ずしおいた。ベリアンは飛んでくる矢に構わず、皮革鎧を纏っお、櫂かいを匕く巊舷の挕ぎ手たちを芋据えた。手元の现長い錐鏃矢は、装甲を玙のように貫通する。この距離で、軜装備の挕ぎ手たちが逃げる術はなかった。ベリアンは機械のように正確な動䜜で淡々ず矢を぀がえお、攟぀。挕ぎ手たちは、䞀方的に次々ず撃ち萜されおは海に萜ちおいった。
  巊偎の掚力が削がれたこずで、黒い垆の倧型長船ロングシップの艊銖が巊ぞ傟き、目に芋えお速床が鈍る。

 「赀い海鳥」号は挕ぎ手たちがヘむズ船長の指瀺のもず、防埡姿勢ず挕ぎの切り替えを適切に行い、埐々に敵船を匕き離す。双垆が远い颚を捉えるず、䞀気に波を蹎り、速床を䞊げた。
 少し匕き離したずみるや、ベリアンは船尟に移動しお、䌑むこずなく敵船の船銖に向かっお向かい颚をものずもせず匓を打ち続けた。敵船を指揮しおいた半裞の男も打ち抜いた。
 矢筒が二぀空になるたで䞉十回打ち続けた。マむロンも震えを抑えながら、手際よく倪矢を装填しおは正確な射撃を行い、再び匓をずったヘむズ船長の長匓も着実に敵の櫂を乱しおいった。

 数十分の息詰たる競争の末、倪陜が完党に海ぞ沈み切る頃には、黒い船圱は远撃を諊め、宵闇の圌方ぞず消え去っおいた。

「  ラニスポヌトの近海で、この有様だ。思いやられるな」
 長匓を䞋ろし、蜜蝋を塗った亜麻糞の匊を倖しながら呟く。さすがに、これだけ矢を連続で攟぀ず右腕の筋肉が熱く脈打っおいる。

「獅子の灯台の光は近海にすら届きたせん」
 枩厚なヘむズ船長が、倜の海に向かっお䜎く吐き捚おるように蚀った。垞に鉄諞島の脅嚁に晒される、麗しの島フェアアむル出身の圌には忞怩たる思いがあるのだろう。

 ラニスポヌト艊隊が「匵り子の獅子」ず揶揄される理由がよくわかる。これでは護衛艊無しで航行する商船など、狌の矀れに攟り蟌たれた矊ず同じだ。
 マむロンはただ青い顔のたた、ミア補の遠芋筒スコヌプを芗き蟌んで、倜の海を神経質に芋回しおいる。

「日没だ。操垆のみの航行に切り替えろ。挕ぎ手は暫時䌑憩に入れ」
   ãƒ˜ã‚€ã‚ºã®é‡Žå€ªã„指瀺が飛び、汗ず海氎たみれになった挕ぎ手たちは、その堎に倒れ蟌むようにしお息を぀いた。

   ãƒ™ãƒªã‚¢ãƒ³ã¯å€œé¢šã«å¹ã‹ã‚ŒãªãŒã‚‰ã€è…•組みをしお真っ暗な波間を睚み぀けた。

 ラニスポヌトに垰還したのは翌日の昌になった。矎しい街䞊みず城壁が芋えおくるず、さすがに船内に安堵の空気が挂う。隣に立぀マむロンは、芋るからに安堵した衚情だ。

「垆をたため 操舵航行に切り替える。右ぞ舵をきれ」
   ãƒ˜ã‚€ã‚ºèˆ¹é•·ã®æ“èˆµæŒ‡ç€ºã«åŸ“い、船は右ぞ旋回しお枯の奥ぞず進む。船籍を瀺す小旗を掲げられた。
   æ¹Ÿå†…に入った「赀い海鳥」号は滑るようにラニスポヌトの枯湟内を進み、その北郚枯湟、公甚船専甚の静かな桟橋に到着した。ヘむズ船長ずこの高速船を指名したのは正解だった。船長を劎い、死力を尜くした挕ぎ手たちず固く握手を亀わしお、船を降りる。疲劎困憊のマむロンも重い荷物を背負っお、ふら぀きながら降りおきた。

 ラニスポヌトの近海を船籍䞍明の倧型長船ロングシップが我が物顔で遊匋する状況を痛感した。海域の治安の回埩は、もはや䞀刻の猶予もない。

3 官吏

 北郚枯湟は官庁街に隣接しおいた。船から降りお、埒歩で軍の茜重郚官庁に向かう。鉄朚アむアンりッドの黒い六角棒を぀き、鋌鉄の歩行補助具を軋たせお灰色の街䞊みを歩く。
 五日ぶりに芋䞊げる石造りの五階建おの官舎は、䜕も倉わりはない。その東棟に茜重郚のラニスポヌト支所が眮かれおいる。本郚はキャスタリヌロックの䞊局階にあるが、西郚最倧の郜垂であるラニスポヌトのこの支所こそが茜重郚の実質的な本拠地である。

「ボりマ卿、任務お疲れ様でした」
   é¡”銎染みの初老の衛兵に挚拶を返しお、䞉階の執務宀に向かった。

 真鍮の取手を握り、暫の分厚い扉を抌し開ける。宀内は窓の朚戞が閉じられおいたため、真っ暗で、淀んだ空気がこもっおいた。
 䜕も蚀わなくずも、マむロンは手際よく四぀の窓を開けお、その朚戞を抌し開ける。光が入った宀内には、胡桃の朚の執務机、真鍮の蝋燭台、癜朚の簡玠な杯、そしお、䞭倮の長机には山のように積たれた未決裁の玙や矊皮玙の曞類、読みかけの曞籍、䞞められた地図の束が䞊んでいる。
 マむロンはべリアンが奜む葡萄酢の暜を運び蟌み、郚屋の隅に眮いた。
  ベリアン愛甚の蜜蝋を塗った癜朚杯に葡萄酢を泚いで、机の䞊に眮いた。 
 次に垆垃袋の玐を解いお、旅で䜿った衣服や食糧を取り出しお、片づけを始める。

 ベリアンは、壁に鉄朚アむアンりッドの六角の棒杖ず匊を倖したむチむの長匓を立おかけた。腰に䜩はいおいた、やや短く詰めた鉛色の長剣を倖しお脇に眮く。無地の灰色の矊毛倖套を脱ぎ、汗たみれの厚垃防衣ギャンベ゜ンも脱いで䜓を拭う。䞊から、玅色の薄手の矊毛の長衣ロヌブを纏う。牛の角で䜜られた携垯甚の印字墚の壺むンクケヌスず、鵞鳥の矜根筆ペンを収めた革筒を机に眮いた。
 久しぶりに胡桃の机に向かっお怅子に座り、癜朚杯の葡萄酢氎を口に含む。酞味が疲れた頭に柄み枡る。郚䞋たちが決裁を埅っおいる曞類の山を暪目に、目を閉じお、瞑想するように課題を頭の䞭で敎理した。思い぀くたたに、課題を鵞鳥の矜根筆で曞き留めおいった。

 郚屋の暫の朚の扉を軜く叩く音がする。

「倱瀌臎したす。ご垰還ずお聞きしたしお」
 マむロンが扉を開けるず、四人の官吏が足音を立おお、郚屋に入っおきた。この数日間、留守にしおいたため、決裁の催促に蚪れた郚䞋たちである。溜息を぀き、執筆を䞭断した。

「今日䞭にお願いしたい案件でしお」
 詰め寄るような目぀きで取り囲む郚䞋たちの勢いを片手を䞊げお制する。無蚀で曞類に向かった。

 茜重官の職務は、兵站や陣地構築だけではない。この平和な時代にあっおは、氎路や街道など領内のあらゆる建蚭行政を担う実務が本業ずなっおいた。
 ベリアンは䞀心䞍乱に、近幎頻発しおいる氎隒動の報告曞ず、その原因ずされる氎路老朜化の補修蚈画を読み蟌んでいく。予算の過倧なもの、資材調達の芋通しの甘いものなどに容赊なく、蚂正や远蚘を行った。
 蟲業甚氎の氎路に぀いおは、穀物官たちに仕事を回すように指瀺曞を曞く。珟地争議の仲裁には、巡回番の階士や兵士ぞの掟遣芁請を曞き添える。郚䞋たちはそれぞれの案件を適切に捌いおいるが、他郚眲の怠慢をはね぀けるような抗議じみた芁請曞も重ねお発出する。

 い぀しか郚屋が暗くなり始めおいた。い぀もならマむロンが灯りを点けおくれるはずだが、目をやるず、圌は執務宀の䞭倮にある長机に突っ䌏しおいる。どうやら眠っおしたったらしい。
 癜朚杯に残っおいる薄い酢氎を飲み干しお立ち䞊がる。
 長机には、胡桃の緎りものペヌストずラむ麊の黒いパン、倧蒜が浞けられた食甚油オむルが眮かれおいる。昌食を摂る間もなかったべリアンのために、マむロンが甚意しおくれた軜食だろう。真鍮の燭台には獣脂蝋燭も立おられ、火口箱も準備されおいる。

 マむロンを起こす気にもなれず、自分でするこずにした。火口箱を開け、火打ち石を数回打ち合わせ、火花を萜ずす。也燥させた茞の断片が赀く這うように燃えお、熱を持぀。息を吹きかけお広がった火皮に「硫黄の付け朚」の先端を抌し圓おた。

 音を立おお立ち䞊がった小さな炎を長机の䞊の獣脂蝋燭の芯に移す。付け朚を振っお火を消し、火口箱の蓋を閉めお火皮を消した。明りの灯った燭台を匕き寄せ、軜食の黒いパンに胡桃のペヌストを塗り、頬匵りながら、曞類に向き合った。二぀目の黒パンには、倧蒜挬けの油をしっかり浞しお口に運ぶ。

しばらくするず、暫の朚の扉を叩く音が響いた。

「はっ、申し蚳ありたせん、ただいた」
マむロンが驚いお飛び起きる。目が芚めたようだ。

「構わん、さっきの郚䞋たちだろう。通しおくれ」

マむロンは扉に駆け寄り、開けお四人の茜重官を郚屋に招き入れる。

 郚屋の䞭倮の長机を五人で囲んで、それぞれの事案の担圓者に、蚂正、远蚘した内容ず理由を説明する。いく぀か質問をした埌に、それぞれの課題に぀いお担圓の垣根を超えた意芋亀換を行った。
 マむロンはそれぞれに葡萄酢氎を泚いだ杯を配り、傍らで蚘録を取る。

 優秀な官吏である圌らはすぐ、こちらの指瀺の意図を呑み蟌んで、曎に具䜓化した案を提瀺しおくる。この数人での議論ず認識のすり合わせが䜕よりも倧事な時間だ。各分野の専門官である圌らの知芋には孊ぶずころが倚い。圹職こそべリアンが䞊䜍であるものの、歊官䞊がりの自分よりはるかに長い経歎を持っおいた。
 マむロンも議論に加わり、時折、質問を亀える。獣脂蝋燭が燃え尜きようずしおいるが、埌䞀回は取り替える必芁があるだろう。熱心な議論が続く。キャスタリヌロックの自宀に戻れるのは倜半を過ぎるこずになりそうだ。

4 åž°è·¯

 ようやく仕事を終えお、倜の街道を月明りず角板の手燈ホヌン ランタンの仄かな灯りを頌りに、垰路に぀いた。垰り道の前方には倜の闇にキャスタリヌロックの巚倧な黒い圱が沈んでいる。ずころどころに灯る篝火が岩肌を照らし、その嚁容をがんやりず浮かび䞊がらせおいた。

 キャスタリヌロックの麓に着くず、乗っおいた黒いラバをマむロンに任せお、先に、自宀に垰るこずにした。岩山の最䞊階たで䞊がるのは時間がかかるが、自宀のある五階局に行くのはさほど苊ではない。
 べリアンは䞀人でキャスタリヌロックの正門「獅子の口」にお、青銅板の通行蚌を呈瀺した。

「ボりマ卿、倜遅くたでお疲れ様です」
 今倜の圓番の兵士長は、顔芋知りだった。
 軜く頷き返し、䞀人、角板の手燈ホヌン ランタンを手に、倧階段を䞊り始める。遠く響く波の音ず、海から吹き蟌む湿った空気が、倜の闇のなかで肌にたずわり぀いた。
 歩行補助具を軋たせながら、鉄朚アむアンりッドの六角の棒杖を぀いお、階段を䞊る。鍛錬を欠かしおいないべリアンは、息切れもせず、五局階の官吏たちの居䜏区画ぞず蟿り着いた。
 昚幎の末に、これたで䜏んでいた䞊局階の高玚官吏の居䜏区を匕き払い、この居䜏区に移り䜏んだ。
 この区画には官吏たちのために、曞庫を蚭けたり、その子匟が読み曞きを習える堎所を蚭けたりしおいる。
 劻ず子どもたちは既に、ゞェむン公劃の差配でマヌブランド領の「トネリコの蟺地の城」アシュマヌクぞず移した。遠からずこの西郚りェスタ―ランズが、血で血を掗う政争の枊に呑み蟌たれるこずを予期しおの措眮だった。

 広堎の長怅子で、倜番明けの官吏たちが麊酒を飲んで静かに語り合っおいるのを暪目に、さらに奥の闇に包たれた区画ぞ進む。
 自宀の前に立ち、真鍮の鍵を取り出そうずしたベリアンの手が、ふず止たった。
 扉の隙間から、仄かな灯りが挏れおいる。この居宀の鍵を持぀人間は、限られおいる。ベリアンは音を立おずに長剣の柄に右手を添え、巊手で静かに扉を抌し開けた。
 灯りは客宀から掩れおいた。
 客宀に入るず、粗末な蔓で線たれた怅子に男が座っおいた。その男に声をかける。 
「任務、ご苊劎。垰ったか」

 くすんだ耐色の皮革軍衣バフコヌトを矜織った男、宣誓の兄匟であるクレストルナヌ卿が、灰色の目を、こちらに向けお、芋぀めおいた。盞倉わらず衚情は読めない。

「  遅かったな、次垭茜重官殿。これからの段取りを盞談したい」


009 ベリアン Ⅱ 完


煀けた石 第䞀郚 獅子の仔 第䞀線 ゆりかごの宣誓
べリアン Ⅱ009 猪の貎公子
248 AC・倏末期 / 西郚 クレむクラグヌンラニスポヌト
POVべリアンボりマ (Beryan Bowma)


【本䜜は「氷ず炎の歌」のファンフィクションです】
原䜜者のゞョヌゞ・R・R・マヌティン氏、および関連する出版瀟・映像補䜜䌚瀟等の暩利者様ずは䞀切関係がありたせん。
本䜜は「氷ず炎の歌A Song of Ice and Fire」の䞖界芳をベヌスにした非公匏のスピンオフ䜜品であり、原䜜の五十幎前の時代埁服暊248幎以降の䞃王囜西郚りェスタヌランズを独自の解釈で描いおいたす。


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