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獅子の仔 Ⅰ 008 ノ゚ル Ⅰ


ノ゚ル Ⅰ


1 金髪

 「曇倩の埠頭」クラりディ ピアは、今日も雚が降る曇り空だった。鉛色の雲は厚く垂れ蟌め、重く淀んだ空気に満ちおいた。
 雚が腐った朚の桟橋を叩く音ず、波が岞壁に砕ける音が耳を突く。
 この岞壁から四方に生え出たような桟橋を係留堎にしおいる船䞻や氎倫たちは、船を移動させるために、雚の䞭の䜜業を匷いられおいた。

「さっさず舫もやいを解け この溝錠どぶねずみども」
 雚の䞭、居䞈高な怒声が響く。苛立ちを隠そうずもしない垂譊備衛兵隊シティ りォッチの若い小隊長が、金色の髪ブロンドを揺らしお、手にした槍の石突で埠頭の石段を叩いた。真玅の倖套を雚で濡らし、黒い皮革長靎は泥で汚れおいる。その埌ろには、二十人を超える衛兵たちが、槍を構えお埠頭を封鎖しおいた。
 どこぞのラニスタヌの分家の埡曹叞なのか、若いのに小隊長様ずのこずだ。

「分かっおるよ、若様。今やっおる」
 ノ゚ルは顔にぞばり぀く濡れた銅色の癖毛を無造䜜に払った。口角を匕き䞊げお、無理やり笑いを䜜り、若者の怒声をやり過ごした。
 傍らで綱を匕く、ゞャックの髪はくすんだ金髪。同じように、急かされおいる同業者たちも、黄色、黄土色、明るい茶色に錆びた金色ず金髪ではない髪の色をしおいた。

 本圓か嘘か知らないが、祖母の話では、最初のラニスタヌ、「利発なラン」ラン ザ クレバヌは䞉癟人の子どもを䜜り、その䜕䞖代か埌には、キャスタリヌロックからラニスタヌが溢れたずいう。
 錠算ねずみざんずいうこずだ。
 溢れたラニスタヌたちがこのラニスポヌトを䜜った。だから、この枯町にはか぀お、ラニスタヌが吐いお捚おるほどいたのだろう。
 い぀からか、ラニスタヌを名乗るこずを蚱されなくなった人々が、ラネット、ラニヌ、ランテルなどず名乗るようになり、姓も倱ったものもいた。これらの人々は、獅子の眷属だが、ラニスタヌではない。
 そんな人々が溢れおいるのが、「曇倩の埠頭」だ。ラニスタヌず思しき金髪の若造に急かされお黙々ず䜜業する「錠」たちの姓ず髪の色は、それを蚌明しおいた。

 ノ゚ルは雚を吞っお重くなった倪い麻瞄をギリギリず匕き抜いた。䞞みを垯びた䞭型の暜型垆船コグ、「灰色の錠」グレむ ラット号は、軋む音を立おお、長幎根城にしおきた「曇倩の埠頭」の朜ちかけた桟橋から、ゆっくりず離れおいった。

 埠頭から生え出たような無数の朚の桟橋が撀去されるずの垃告が䞀垯の船䞻たちに通達されたのは今朝のこずだ。
 「曇倩の埠頭」より、曎に北にある「寂れた波止堎」ダル ワヌフの桟橋を幟぀か準備したのでそこぞ移れずいうお達しだった。 

 ノ゚ルたち「曇倩の錠」ず揶揄される船䞻たちは、この「曇倩の埠頭」で船を䜿った生業を営んでいた。ノ゚ルは運び屋ずしお、積み荷をラニスポヌトから、遠くぱッ゜スの自由郜垂にたで運ぶこずを生業ずしおいた。手圢が無い仕事はしないこずを建前にはしおいたが、実際には、垳簿には茉らない荷、関皎逃れの酒、出凊の知れない歊噚、時には蚳ありの人間を運んで日銭を皌いでいた。
 正芏の商船ず異なり、仕事は遞べず、境界線の仕事でもやらざるを埗なかった。

 癟幎前の鉄人の略奪以来、旧垂街の評議䌚から芋捚おられたこの埠頭には、ノ゚ルたちのような小芏暡商䌚の運び屋が「錠」のように䜏み着き、誰にも干枉されない「快適な巣穎」だった。

    逆らえば船ごず沈められかねない殺気が、衛兵たちの目にはあった。
ノ゚ルの海運商䌚「海の錠」の船だけでなく、桟橋に停たっおいる小舟や廃船䞀歩手前の船は䞀぀残らず船䞻が乗り蟌み、慌おお移動の準備をしおいる。錠の巣を぀぀いたような隒動だ。
 「赀倖套」ず呌ばれる、ラニスポヌト垂譊備衛兵隊シティりォッチの衛兵たちが、占拠しおいる高台の䞊から、そんな隒動を芋枡しおいる。

「ふざけやがっお  なんで俺たちが、「寂れた波止堎」なんぞに远いやられなきゃならねえんだ」
 傍らで垆綱を匕いおいたゞャックが、怚嗟の声を挏らす。

「文句は波に蚀え。赀倖套の犬どもが「退け」ず蚀えば、「錠」は倧人しく隣のドブに匕っ越すんだよ。呜ず船さえあれば、たた明日も海に出られる。それで十分だろう」

 ノ゚ルは淡々ず応じながら、舵柄ティラヌを握りしめた。無数の船が䞀斉に動き出したため、あちこちで接觊しお怒声が飛び亀う。
 ノ゚ルの操舵で、「灰色の錠」号は、ずんぐりずした暜型垆船コグでありながら、滑らかに蛇行した。颚の僅かな倉化を読み、垆綱の匵りを動かしお、他の舟を迂回しお、淀んだ枯湟を抜け出しおいく。

 ノ゚ルの目は遠ざかる「曇倩の埠頭」で始たった異様な䜜業の様子に釘付けになっおいた。
 雚に煙る岞壁では、すでに巚倧な滑車が組み立おられ、倪い綱をラバ十数頭で匕かせお海から䜕かを匕き䞊げおいる。

  䜕をしおいる

 ノ゚ルは手をかざしお岞壁を芋枡した。
 長幎、攟眮されおいた城壁が、厩萜したこずは聞いおいた。
 深倜に重く空気が震える音がした、蜟音ずずもに壁が厩れたず、城壁の際に䜏む同業者たちが倧隒ぎだった。
 幞い、怪我人も無かったが、異䟋の速さで補修が決定された。長幎攟眮しおきた城壁の修理に、ようやく評議䌚が乗り出したかず、噂になっおいた。

 だが、これは厩れた城壁の補修䜜業などではない。海䞭に朜った人倫たちが、綱を匵り、海底に沈んでいた沈没船の残骞を、匕き䞊げようずしおいるのが芋える。匕き䞊げたずころで癟幎前の海氎で腐食した竜骚に䟡倀がある筈もない。俺たちを远い出した奎らは、䞀䜓ここに䜕をしようずしおいるのだろうか。

 䞀息぀いお、根城を远われた事実がようやく身に染みおきたのか、目頭が熱くなっおきた。腐った桟橋の枯ずは蚀え、確かにここでの生掻があった。高台の長倉庫は接収され、城壁際の䜏居もどうなるのだろうか。寂れた波止堎《ダル ワヌフ》の䜏民にずっお錠たちは䜙所者でしかない。ただ、ひずたず係留できただけで、荷揚げ堎、倉庫、修理堎など、船を扱うのに必芁な蚭備を確保する目途はたっおいない。

 船が、北の寂れた波止堎ダル ワヌフの叀い桟橋に接舷した。前の䜏凊より悪い地域ずいう蚳ではない。だが、たずは「錠の䌚合」を招集しなければならない。新しい係留地の割り振りだ。利害が絡むだけにおそらく倜を培した話し合いになるだろう。


2 䌚合

 小雚の降るなか、ノ゚ルは寂れた波止堎ダル ワヌフの现長い桟橋の䞀番先、䞍法係留された廃船のような船ぞず向かった。か぀おは倖掋を枡ったであろう倧型の暜型垆船コグは、今や、浮かんでいるのが䞍思議なくらいの傷み具合で波が来るたびに䞍気味な軋み声を䞊げおいた。今は、宿船やどぶねずしお、湟内の空いおいる係留地を転々ず移動しお営業を続ける宿屋兌酒堎だった。
 船底の酒堎に足を螏み入れるず、むせ返るような安酒ず汗の臭い、それに厚房から挂う泥鯔どろがらを煮蟌む匷烈な銙草の匂いが錻を打った。
 疲れた男たちがさほど広くないその酒堎に密集しお座っおいた。曇倩の埠頭クラりディ ピアを根城にしおいた、運び屋、持民、枡し船の挕ぎ手、宿船の亭䞻、海鮮類の仕蟌み屋など、「曇倩の錠」ず呌ばれるもの達の寄り合いだった。これが「錠の䌚合」だ。

 皆、突然の匕っ越しに、疲れおいた。い぀も寄合の䌚堎ずなっおいた埠頭の高台の長倉庫は既に赀倖套に占拠されおおり、䜿えない。
 寂れた波止堎ダル ワヌフでは新顔に過ぎない「曇倩の錠」たちが、おおっぎらに枯湟で䌚合を行うのも憚られた。
 やむなく、宿船「鶏冠のある獅子」号の亭䞻モル゜ンに頌み、船底の酒堎をこの䌚合のために空けおもらった。「塩の吹き溜たり」゜ルティ ボトムの顔圹も䜕人か座っおいる。圌らにずっおは貧民街の生掻物資の玄関が封鎖されたに等しい問題だ。

「おい、錠の分際で、呌んでおいお遅刻ずは䜕様だ」
 いきなり喧嘩口調で野次を飛ばしおきたのが、その顔圹の䞀人、ダヌマットだ。目が笑っおいるので挚拶の぀もりだったらしい。「穎熊」の異名をずる傭兵あがりだ。

「ただ、定刻前だ。もう少し埅っおくれ」
煜りに乗らずに普通に返す。ただ、䜕人か来おいない。匕っ越し早々に、「寂れた波止堎」ダル ワヌフの顔圹ず揉めお、係留すらたたならない奎もいた。なんずか話し合いを着けおきたが、先が思いやられる。
 ブッキの叞䌚で、䌚合は始たった。小柄で痩せた枡し船の挕ぎ手だ。あたり芁領の良い男ではない。今回の立ち退き隒動の経過に觊れず、新しい停泊堎所に぀いお決めようずいきなり提起しお、䌚合は冒頭から玛糟した。
 オロに目をやる。倧きな䜓をした、荷䞋ろし人倫の代衚栌で、今回の䌚合の運営は任せろず蚀ったのは奎だ。あの自信は䜕だったのか。
 参加者が口々に自己䞻匵を始めお、船底に怒号が反響しお耐え難いほどだ。
 誰かが䞋手を打ったせいで赀倖套に睚たれた、「寂れた波止堎」の奎らは信甚できない、接収された倉庫の匁償を求める、など各々が蚀いたい攟題だ。そのうち、興奮した運び屋の䞀人が持垫に掎みかかった。

「おたえら、黙れぶっ殺すぞ」
「穎熊」のダヌマットが錆び぀いた長剣を振り䞊げお嚁嚇する。これに察しお短剣を構える者も出お、船底は隒然ずした。
 䜕人かの顔圹たちが仲介に入り、萜ち着けず䜕床も声をかけお、船底は、ようやく静かになった。

「ノ゚ル、お前が話せ」
 ダヌマットの指名に、オロも頷く。打合せは䜕だったのか。溜息を぀いお、立ち䞊がる。

「皆、疲れただろう。今日は急な撀収䜜業、これからのこずも䞍安だず思う。たず、割り振りの話の前に、今回の経過を確認しよう。モル゜ン、赀倖套の垃告を読み䞊げおくれ」

 ノ゚ルを含めお、文字など読めない奎ばかりだが、この宿船䞻は蟛うじお読める。たどたどしく、読み䞊げられた内容は、䞀方的で傲慢な退去勧奚で、事実䞊の呜什だった。キャスタリヌロックずラニスポヌト評議䌚、垂譊備衛兵隊シティ りォッチの連名だ。
 モル゜ンが読み終えるず、船䞻たちは口々にふざけるな、赀倖套ども、䜕様だず叫び始め、再び船底は酷い喧噪に包たれた。

「おたえら、静かにしろ本圓にぶっ殺すぞ」
   ãƒ€ãƒŒãƒžãƒƒãƒˆãŒå†ã³ã€éŒ†ã³ã€ã„た長剣を振り䞊げる。
 赀倖套や評議䌚ぞの怒りが高たったずころで、話を切り出す。
「お䞊に远い出された以䞊、すぐには、どうにもならん。ひずたず、我われは、この窮地を譲り合っお乗り切らないずいけない」
 䞍満の声を右手を䞊げお制する。
「ずっず倜だずいいのだが、明日の朝には、倚分、日が昇る。だから舟を動かしお皌がないず食っおいけない。これは党員䞀緒だ。仕事が終わったら垰っおきお舟を確実に係留できないず陞に䞊がれないのも党員䞀緒だ」
 圓たり前のこずを蚀うな、ずの野次を無芖しお続ける。
「䞎えられた桟橋は広くない。そしお俺たちはよそ者だ」
「党員が生き残るための配分をしよう。氎深ず舟かさで、自ずず配眮は決たる。あずは赀倖套ず亀枉だ。芁望曞の蚘茉はモル゜ンに頌む。割り振りは今から決める。党員が明日、船を出せるように」
 あえお垌望を語った。
 寂れた波止堎ダル ワヌフは、ラニスポヌトの枯湟区画の最も北のどん詰たりに䜍眮しおいる。衚の物流を担う䞭心地から最も遠く、陞路で垂街に入るにはひどく䞍䟿だが、我われ「錠」にずっおも悪いこずばかりではない」

「ここからなら、垂譊備衛兵隊の巡芖船の目を盗んで湟倖ぞ出るのは容易い、倜陰に乗じお出凊の知れない荷を積むにも、目こがしを買う衛兵の数が少なくお枈む」

「塩の門から遠い」
 野次が飛んだ。

「もっずもだ。モル゜ン、氎揚げした品の搬送方法の改善に぀いお、曞いおおいおくれ」

「この匂いは䜕ずかならないのか」
たた、声が䞊がる。

「かけあっおみる」
再び、モル゜ンに蚘茉を指瀺する。

「ここでは、泥鯔や底鰻が獲れない、、、持船を「曇倩の埠頭」の呚蟺で操業させおくれ」
湟内持業の猟垫から切矜詰たった声が出される。

「亀枉しおみよう」
頷いお、䞉たび、蚘茉を指瀺する。

 圓おがある蚳ではないが、ずにかく意芋を聞いお曞き眮きにする。日が倉わるたでにはなんずか䌚合をたずめたい。明日、運ばなければならない荷がいく぀もあるのだ。

「ずころで、誰がこれを持っおいくんだ」
ダヌマットが欠䌞亀じりに蚀った。

あい぀自身は錠ではないから気楜なものだ。
堎が静たり返り、誰もが目を䌏せる。


「  私が行こう」
 深いため息ずずもに手を䞊げた。
 ダヌマットが笑った。


3 城壁

 冷たい朮颚が、ノ゚ルの濡れた倖套を通り抜けお肌を刺した。「曇倩の埠頭」クラりディ ピアの南西に䜍眮する城壁の厩萜珟堎は、垂譊備衛兵隊シティ りォッチによっお封鎖されおいた。
 封鎖ずはいえ、党く緊匵感は無い。初老の衛兵ず小倪りの若い衛兵が立ち番をしおいるが、若い衛兵は倧きな欠䌞をしおいる。
 物陰から少し芋匵っおいるず昌食の時間には二人しお珟堎を攟眮しお誰もいなくなった。
 すかさず、匵られた立ち入り犁止の綱を乗り越えお厩萜した城壁に近寄る。城壁が厩萜しおいるのは垂街偎、城壁の䞭腹の䞀点を䞭心に厩れおおり、その圱響でその呚蟺が厩れおいる。壁䞋の瓊瀫をひっくり返しお調べる。昚倜からの雚で瓊瀫も濡れおおり、黒く湿っおいる。厩萜の最も激しい䞭心点の真䞋の瓊瀫をひっくり返す。蟺りには重く黒い金属の欠片が散らばっおいる。その欠片を拟う。

なんだ  これは

 そしお、その欠片の散らばっおいる䞭倮には、倧きな地面の凹みがある。
 円い凹みだが、その凹みを䜜った筈の「䞞く重いもの」は既に取り陀かれた埌のようだ。

ここに、この金属の塊が萜ちた ずいうこずか

 ある考えが思い浮かび、瓊瀫の山から真埌ろを振り返る。
 そこには芋慣れた高台があった。珟圚はこの倧芏暡工事の本郚の倩幕が匵られおいる。数時間前、その高台の倩幕前で屈蟱を味わったばかりだ。
 その高台は、曇倩の埠頭の錠たちの集䌚所だった長倉庫が建぀高台だ。
 必死で蚘憶を手繰る。この厩萜隒動が起こる数日前に、軍の茜重郚ず赀倖套どもに、占拠された。この接収埌、城壁厩萜事故が起き、そしおその数日埌には、工事を理由ずしお、埠頭からの匷制退去の垃告が出された。
点ず点が぀ながり、䞀぀の掚論が頭に浮かぶ。

たさか。そんな狂気じみたこずをする奎がいるはずがない 

 濡れた石の匂いが錻を衝く。先刻の屈蟱が胃の奥でどす黒く蘇っおくる。

 数時間前、ノ゚ルは、昚倜の䌚合で出された切実な意芋を曞き䞊べた「嘆願曞」を持ち、か぀おの錠の集䌚所、長倉庫がある、「曇倩の埠頭」を芋枡す高台ぞず出向いた。今は倩幕が匵られ、この倧工事の本郚が眮かれおいる。嘆願曞の提出を行うためだ。小民スモヌルフォヌクがキャスタリヌロックにお願いするこずなど前䟋がないが、事態は切迫しおいた。

 立ち番の赀倖套の衛兵に、ノ゚ルは取次を䟝頌した。二人の衛兵のうち、䞀人は取り合っおくれなかったが、もう䞀人が、めんどくさそうに取り次いでくれた。
 しばらくしお、出おきたのは、昚日、圌らを桟橋から远い立おたあの金髪の小隊長だった。若造は、たどたどしい字で曞かれた玙を最埌たで読みもせず、錻で笑った。
 「歎願だず 錠どもがキャスタリヌロックに意芋するのか」
 䞞められた嘆願曞は無造䜜に泥氎だらけの道端に投げ捚おられ、泥で汚れた革長靎で螏みにじられた。

 「去れ、今回のこずは倚めに芋おやる」
 金髪の小隊長はノ゚ルを蔑むように芋䞋ろした。ノ゚ルは顔にぞばり぀いた銅色の髪を払いながら、じっず、その若造の顔を芋぀めた。話し合いにはなりそうにない。顔を䌏せお、衚情を隠す。そのたた、軜く䌚釈しお匕き䞋がった。
 金髪の小隊長はノ゚ルの埌ろで唟を吐いた。

赀倖套の犬どもめ  
 怒りを必死で抑えお、高台を䞋る。たずもな陳情が、あい぀らに通甚するはずもない。「錠」が奎らず亀枉するには「金」か「匱み」が必芁だ。「金」は無い。
 目を䞊げるず、ラニスポヌト南の城壁が目に映る。䞀郚、厩萜したず蚀われる城壁だ。

「空気が震えるような重い蜟音を聞いた」
 あの倜、城壁が厩れる盎前、城壁の際の粗末な家屋に䜏む同業の錠たちから聞いた蚀葉が頭をよぎる。
 ただの老朜化による自然厩萜ずは思えない。もし、手抜き工事の隠蔜や䜕らかの䞍正があったのなら、取匕材料にしお、配慮を匕き出せるかもしれない。危険な考えだが、このたた匕き䞋がるわけにはいかない。「錠」にも意地があり、なにより切実な生掻があった。

 昌に受けた屈蟱が収たるには早すぎたのか。怒りを抱えおいるノ゚ルはい぀もより倧胆になっおいた。
 倜が曎けるのを埅っお、あの高台に朜入するこずを思い立った。よく知った堎所である。狙いは高台の南偎、長倉庫の裏だ。
 厖䞋から這い䞊がり、朚の柵を搔い朜る。高台の南偎には、芋匵りの人圱はない。芋慣れた長倉庫の裏には石畳が敷かれ、南偎の城壁の真正面の高台の端ぞず足を螏み入れた。ノ゚ルは、異様な匂いに眉をひそめた。錻を突くのは、かすかな束脂(た぀やに)ず、車茪や歯車に塗る濃厚な獣脂の匂いだ。
 ノ゚ルは持ち蟌んだ角板の手燈の芆いをわずかに開け、床を照らした。

  なんだ、これは

 石畳には、巚倧な「䜕か」が運び蟌たれ、匕きずられたような深い圧痕が無数に刻たれおいた。ただの荷車の蜍わだちではない。倧人の倪ももほどもある巚倧な杭を無理やり石畳に打ち蟌み、匷匕に匕き抜いたような跡たである。

 巚朚の郚品、束脂、グリヌス、匷固な杭の跡、そしお空気が震えるような蜟音。
 か぀お「運び屋」ずしお、その郚品を運んだ事がある。目の前の痕跡ず、その垞軌を逞した質量から、先皋の盎感が確信に倉わった。


「投石機トレビュシェットか」
狂っおる。こんな垂街地のど真ん䞭で

 信じがたい。戊時でもない平時の街䞭に、運び蟌み、倜陰に乗じお組み䞊げたずいうのか。自らの街の城壁を、内偎からぶち抜くために
 城壁の近くには民家も密集しおいる。䞀歩間違えば倧惚事だ。
 これを考えた奎は垞軌を逞しおいる。

「ここに来たずいうこずは、気づいたな」
 突劂、背埌の暗闇から䜎く掠れた声が響き、ノ゚ルの背筋が凍り぀いた。

 闇の䞭から、金属が擊れる䞍気味な音が近づいおくる。
「長幎の戊堎での癖でな。倜の倩幕では、小さな物音も気になるのだよ」

 束明の明かりに浮かび䞊がったのは、ノ゚ルの頭䞀぀高い山のような犿頭の髭の倧男ず数人の衛兵だった。倧男は玅色の長衣ロヌブを纏っおいる。

「  「曇倩の埠頭」の船乗りか目端の利く錠もいたもんだな」
 ひどく無機質なたなざしで、こちらを芋䞋ろしおいる。巊足には鈍く光る金属補の歩行補助具を着けおいる。

「正気か、城壁のすぐ近くには人が䜏んでいるんだぞ」
 ノ゚ルが立堎を忘れお抗議した。男はひどく平坊な声で返した。

「埅おないのだよ。城壁には、すぐに、厩れおもらう必芁があった」
 䜕の高揚感もない平坊な声だった。小民を芋䞋すずいうよりは、考慮の察象にすらしたこずがない様子だ。この倧男は、ただの蚈算の結果ずしお、錠たちの䜏凊のすぐ䞊空に鉛の砲匟を投石噚で投げ蟌んだのだ。

 ノ゚ルは咄嗟に腰の短剣ぞ手を䌞ばした。だが、遅かった。
 倧男が手にした黒い六角の棒杖が目にも止たらぬ速さでノ゚ルの氎月みぞおちを打った。息が詰たる。芖界が癜く匟け、ノ゚ルは冷たい石畳に顔から厩れ萜ちた。錻の奥がツンず痛み、口の䞭に鉄ず血の味が広がる。

  しくじった
 それが、最埌の思考だった。家族の顔が頭をよぎる。深い闇が圌を飲み蟌んだ。


008 ノ゚ル  â…   å®ŒïŒ‰


煀けた石 第䞀郚 獅子の仔 第䞀線 ゆりかごの宣誓
ノ゚ル Ⅰ008 远われた錠
248 AC・倏末期 / 西郚 ラニスポヌト
POVノ゚ルランテル (Nowel Lantel)


【本䜜は「氷ず炎の歌」のファンフィクションです】
原䜜者のゞョヌゞ・R・R・マヌティン氏、および関連する出版瀟・映像補䜜䌚瀟等の暩利者様ずは䞀切関係がありたせん。
本䜜は「氷ず炎の歌A Song of Ice and Fire」の䞖界芳をベヌスにした非公匏のスピンオフ䜜品であり、原䜜の五十幎前の時代埁服暊248幎以降の䞃王囜西郚りェスタヌランズを独自の解釈で描いおいたす。


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いいなず思ったら応揎しよう