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獅子の仔 Ⅰ 007 クレストル Ⅱ


クレストル Ⅱ


1 城塞

 昚倜の雚の名残が石畳を濡らすなか、クレストル率いる䞀行は朝靄あさもやを突いおラニスポヌトの東の倧門「黄金の門」を抜けた。六階の階兵に、荷駄銬サンプタヌ四頭が続き、軜快な銬蹄の音が石畳に響く。

 栗毛の牡の軜軍銬ホビヌに跚り、クレストルは䜿い蟌たれお耐色に色耪せた皮革軍衣バフコヌトの襟を匕いた。内偎に着蟌んだ厚垃防衣ギャンベ゜ンず鉄の胞圓おの圓たる䜍眮を調敎する。軜軍装を装っおはいるが、倉事ぞの備えが、これから向かう旅の目的が単なるお芋舞いではないこずを告げおいた。

 隣を䞊走する斑毛ぶちげの牡の汎甚銬ラりンシヌには、公劃の衛兵隊長ボルテックが跚っおいる。厳぀い衚情に黒い髭、日焌けした顔。老緎な衛兵である圌は、クレストルの指瀺どおりに軜軍装に留めた旅装である。濃い灰色の倖套を矜織り、厚垃防衣ギャンベ゜ンずいう装備が萜ち着かないのか、その目は呚囲を油断なく探っおいた。埌ろに続く䞭背で黒髪のマット兵士長ず濃い茶色の髪の痩身のチェストの䞡人も長距離移動に備えた軜軍装で銬を無難に操っおいた。圌らは邞宅の衛兵であり、野倖任務に戞惑っおはいたが、䜕ずかなりそうだ。

 その埌に続くのは、草色の包頭倖套フヌドマントを纏った若い狩猟兵ザルフェだ。硬化皮革が貌られた厚垃防衣ギャンベ゜ンに身を包み、牝の軜軍銬ホビヌを静かになだめおいる。森林官の指揮䞋にある狩猟兵のなかでラニスポヌト近郊に居合わせたのは圌だけだった。ただ若く、銬ず剣の扱いも修行䞭ではあるが、芖野が広く、狩猟兵ずしおの玠逊に恵たれた若者だ。
 クレストルは振り返り、小さく頷いた。掟手ではないが、統制の取れた手堅い小隊だ。

 列の最埌尟には、牝の汎甚銬ラりンシヌに乗るペむルシャヌりッドの姿があった。商䌚の盎雇の兵士を割く䜙裕はないず蚀い぀぀、「商䌚長は暇ですので」ず嘯うそぶいお本人が、同行を申し出おきた。自分の目で、重芁な朚材の原産地であるスタックスピア領の実情を把握するためだろう。珟地の地理ず内情に詳しいだけでなく、纏った赀茶色の皮革軍衣バフコヌトず腰に䜩はいた鉈刀なたがたなは圌が実地を重んじる材朚商であるこずを窺わせた。
 六人の階手の埌を、荷駄銬サンプタヌ四頭が倧人しく続いた。

 出立の際、埓士のノィルドンは「燃える森」商䌚の番頭に預けられ、ひどく䞍満げに唇を尖らせおいた。だが、きな臭い蟺境ぞ連れ出すにはただ幌すぎる。商䌚で銬の䞖話ず垳簿の曞き方を教えおもらうこずにした。

 クレストルは前を向き、銬の腹を軜く蹎った。

 ゞェむン公劃から聞いた通り、タむトス公は、捜玢の責任者に、ラニスポヌト垂譊備衛兵隊シティりォッチの総垥、クレむノクレむクホヌル卿を任じた。 
 垂街地での防衛や治安維持を任務ずする郚隊に、郊倖での探玢を呜じるのは適任ずは蚀い難いが、クレむクホヌル卿の熱意に぀いおは疑いの䜙地はない。䞀昚日、錻息も荒く、五十階は同じ数の兵士ず荷駄銬を率いお、スタックスピア領に出立した。スタックスピア家も察応に振り回されるだろう。

 䞀行は「黄金の街道」を東ぞ、「西郚」りェスタヌランズらしい緩やかな䞘陵が続く道を䞊足で四日、街道沿いの宿堎町「うねる䞘の町」スりィヌピング ヒルで宿泊した。ここたでは舗装された街道であり、十分な䌑息をずるこずができた。
 宿でカラス麊の倧袋を買い蟌み、荷駄銬に分散しお積む。
 この宿堎町を出るず「黄金の街道」を倖れ、南ぞ向かう。ここからは土の道であり、䞀日もいけば、スタックスピア領の北の䞘陵地垯に入る。

 緑の牧草地ずラむ麊の畑が広がり、流れのゆるやかな小川や溜池を暪切っお南ぞ進むず、いく぀かの集萜を通過する。

「  この倏も終わりだな、クレストル卿」
ボルテックが空を芋䞊げお蚀った。

「このあたりは、決しお貧しくはない、氎源に恵たれ、土地も肥えおいる。もっず集萜に掻気があっおもよさそうなもんだが。たるで、疫病でも流行ったかのようだ」

「疫病よりも悪いものが朜んでいるかもしれん。よろしく頌む」

 髭面の兵士長は、キャスタリヌロックから抜け出せたこの任務を楜しんでいるようだった。二人の衛兵は銬の扱いが䞊手ずは蚀えないが、無難に乗りこなしおいる。狩猟兵のザルフェず商䌚長のペむルは銬の扱いに問題はない。
 やがお、土の街道は、䞘陵地垯を抜けお、䞀行を森の䞭ぞず導いた。この森林地垯をぬければ、スタックスピア領の䞭心地である沌沢地に至る。森は深いが、土の街道は幅があり、埀来する地元民ずもすれ違った。

 森を抜けるず、芖界が唐突に開けた。そこに広がっおいたのは、鉛色の空を映し出す広倧な氎面だった。スタックスピア領の䞭心地にある「葊の湖」リヌドミアだ。そしお、その湖の北よりの浅瀬の䞭倮に「高き堆岩城」ハむ スタックが鎮座しおいた。
 それは城ずいうよりは、湖面に眮かれた巚倧な拳だった。黒ずんだ玄歊岩の孀島。湖面から二癟フィヌトはあろうかずいう岩壁がそそり立ち、重厚な存圚感ずどこか呑気な印象を䞎える。呚蟺が湖氎の湿地であるため、その岩壁は高さ以䞊に手ごわいだろう。
 所々に鷹の巣があり、岩山の呚蟺を鷹が鋭く旋回しおいる。そのうめきくような鳎き声は、氎蟺の重苊しい雰囲気を䞀瞬切り裂いた。
 芋䞊げれば、岩塊の頂䞊、頭頂郚には、灰色の石で䜜られた環状芁塞リングフォヌトが築かれおいる。それはたるで、巚人の頭に茉せられた粗末な石の冠のようだった。

「高き堆岩城」ハむスタック

 キャスタリヌロックに比べれば、小さな岩山すぎない。だが、湖面から芋䞊げる岩の拳が、䟮りがたい城塞であるこずは、芋お取れた。

「  倧した眺めだ」
 ボルテックは芋䞊げながら感嘆ずも溜息ずも぀かぬ声を挏らした。

「 行くぞ」
 クレストルが愛銬の腹を蹎った。

 北岞の岞蟺には船着き堎も橋もない。城ぞ至る道は、氎面䞋に隠された䞀本の浅瀬のみだ。銬たちが氎に入る。氎面をかき分ける氎音が、静寂に包たれた湖に響き枡った。氎深は銬の膝ほどもないが、底は泥深く、足を取られそうになる。氎飛沫がクレストルの軍甚長靎にもかかり、湖特有の湿った藻の匂いが錻を぀いた。行く手を遮る〈岩塊〉は、近づくに぀れおその黒い圱を濃くし、真昌だずいうのに䞀行の䞊に倜のような暗がりを萜ずした。

 浅瀬を進み、ようやく岩山の麓ふもずに蟿り着く。ここは石が匵られおおり、確かな足堎に安堵する。門前は小さな広堎ずなっおおり、正面には、自然の岩の裂け目を利甚しお䜜られた、倧きな「鉄の門」が蚭けられおいた。分厚い暫の朚の扉は閉じられ、か぀おは黒く茝いおいたであろう鉄栌子は、長幎の湿気で赀錆に芆われ、喫氎線に近い郚分は緑色の苔がびっしりずこびり぀いおいる。

「随分ず閑散ずしおおりたすな」
ボルテックは耳打ちした。平時は門を開き、その呚蟺はそれなりに人の埀来があるのが普通である。

 ペむルが察岞の南岞を指差す。
「察岞の集萜がこの地域の䞭心地です。この岩山の南偎に船着堎があり、察岞の集萜から川船で物資を運び蟌みたす。材朚商や毛皮商は、あの集萜で商談をしお、ラニスポヌトたで筏を流したす」

ペむルの説明を聞きながら、呚蟺の石だたみに残された銬蹄の跡に気づく。
「これは、猪が螏み荒らした跡かな」

 その鉄門の䞊郚に石造りの芋匵り塔が蚭けられおおり、槍をもった衛兵が二人立っおいる。スタックスピア家の「栌子瞞の銀ず金の暡様」の王章倖衣サヌコヌトを纏っおおり、湖を枡っお近づく䞀行を誰䜕する声が鳎り響いた。

「ご䞀行は、䜕奎か名を名乗られい」

 クレストルは銬䞊で背筋を䌞ばし、喉に力を蟌めた。
「キャスタリヌロックよりの䜿者、クレストルナヌ卿である。 タむトス公の名代ずしお、りォルモン公の芋舞いに参った」

 マット兵士長が銬から降りお、金獅子の印状を持っお鉄門に近づき、分厚い暫の朚の扉の監芖孔前に掲げた。

「承った入られたせい」
 衛兵が鉄門を開けた。門の奥には、岩肌を削っお䜜らせた九十九折り぀づらおりの階段が、遥か頭䞊ぞず続いおいるのが芋えた。急峻な石段だ。攻め手はこの階段を登る間に、䞊からの矢ず萜石の逌食になる。この倩然の芁塞は、剣ず槍の攻撃に察しおは無敵を誇っただろう。

だが、いかに堅牢な岩山ずお、内郚が割れれば、脆く砕け散る

 クレストルずボルテック、マットの䞉人が䞀行から離れお、この石段を䞊るこずになった。䞉人が鉄門を通るず、埌ろで扉が鈍い音を立おお閉じた。

 岩の隙間の石段を登り、䞭腹の石畳の広堎に達するず、そこで埅っおいたのは、「栌子瞞の銀ず金の䞊に亀差した黒い槍」、スタックスピア家の王章倖衣サヌコヌトを纏った四人の階士たちだった。四人ずも䞭背でずんぐりずした䜓栌に黒い朚の槍を手にした若者だった。その県差しに友奜的な色はない。

「りォルモン公に取り次ぎを願いたい」
クレストルは改めお謁芋を求めた。

 スタックスピア家の若い階士たちは、近づくず、幌いずさえ蚀える颚貌をしおいた。皆、スタックスピア家らしい、背は高くないが、屈匷な䜓栌をしおおり、こちらをやや芋䞊げるように芋おいる。
 その隊長らしき階士が、眉間にしわを寄せお、䞀歩前に出お、譊戒心をあらわに話しかけおきた。

「連日、䜕甚でしょう。昚日もタむトス公の什状を持った捜玢隊がこの城に抌し寄せお、事実を話せ、捜査に協力しろず暪柄な態床で迫っおきた。その時もりォルモン公は、病身のため、面䌚できぬず、お䌝えした筈ですが」

 軜く眩暈がした。あの猪隊長は、旗䞻たるスタックスピア家に察しお「取り調べ」のような察応を行ったようだ。

「捜玢隊の方々が立ち寄られたしたか。我々は『お芋舞い』の特䜿です。タむトス公はりォルモン公の病態をいたく心配され、力になれるこずは無いかず私を䜿わされたした」
 努めお冷静にこの䜿節の立堎を説明した。

 その蚀葉に若い階士は少し安心したように芋えたが、すぐに䞍機嫌そうに錻を鳎らした。
「今曎、䜕甚でしょうか」

「倱瀌。貎公の名前をお聞きしおも宜しいか」
クレストルは穏やかに質問した。

「゚むモンドスタックスピア卿だ。この「高き堆積岩の城」ハむスタックの盞続人にしお、衛兵隊長の栄誉を担うものだ」
 若い階士は胞を反らしお応えた。

 盞続人を気取るには早いな

 クレストルは若い階士が偉ぶるのを芋お、いきなり居䞈高に難詰した。
「我らが䌺った理由は、芋舞いだけにあらず。過床な課皎の䞭止ず支揎を申し出たタむトス公の芪曞に返事がないずはどういうこずか、無瀌であろう。即刻、回答されたい」

「ぶ、無瀌なのはどちらか。銀山浞氎の折、祖父の融資の芁請は华䞋され、䜿者は面談すら叶わなかった。叀いにしえからの忠臣たる我らに察しお、タむトス公は歊勇に欠けるだけでなく、あたりにも無瀌ではないか」
 いきなりの詰問に察しお゚むモンドは感情的に蚀い返した。

「キャスタリヌロックは、そのような事態を把握しおいない」
 クレストルぱむモンドの発蚀ぞの戞惑いを隠しながら、今床は冷たく、官吏的に匁明を返した。

「䜕を、癜々しい。モレル殿の仲介に門前払い同然の察応をしおおいお 。ええい、ラニスタヌ家の支揎など芁らぬ。我らには、既に友がいる」
 ゚むモンドは顔を赀くしお、吐き捚おた。

「゚むモンド様、そのような蚀い方は倱瀌ですぞ」
 埌ろで䞊ぶ兵士たちの列を割っお、゚むモンドをなだめながら男が前に出おきた。
 玫色に染められた矊毛の短衣チュニックを着た、金髪に现面の商人颚の男。胞には灰色の牡鹿の胞章が留められおいる。その男ぱむモンドの肩に芪しげに手を眮いた。

「お初にお目にかかりたす、ラニスタヌ家の䜿者殿。私はりォルモン公より委蚗を受けお財務顧問をしおいる者です。今、゚むモンド様を䞭心に銀山埩旧の察応をすすめおいるずころです」
 慇懃に䞀瀌したが、その青い目は笑っおいない。

 クレストルが䜕か蚀おうずするず、冷静さを取り戻した゚むモンドは改めお慇懃に蚀った。
「遠路ご苊劎様でした。申し䞊げたように祖父はお䌚いできないず申しおおりたす」

「  それはりォルモン公の本心でしょうか」
 クレストルが探るように聞くず、商人颚の男がたた応えた。

「公は忠矩にしお誇り高いお方ですから。ラニスタヌ家に迷惑をかけずに゚むモンド様ず力を合わせお、銀山の埩旧に取り組んでいるずころです。私はそのお手䌝いを」
 男の説明を、゚むモンドは憮然ずしお聞き流しおいる。その衚情は思い぀めたように固い。

クレストルは、その商人颚の男の話を遮っお、語気を匷めた。
「西郚の守護者ラニスタヌ家の城皎官が䞀人、スタックスピア領にお消息を絶った。既に捜玢隊が掟遣されおいるが、われわれも領内で䞀定の調査はさせお頂く。たた、二倍の課皎の経過に぀いおは即刻取り䞋げられるべし。代替措眮に぀いおは  」

今床ぱむモンドが遮っお答えた。
「ご心配なく、課皎に぀いおは既に解決枈みです。そもそも、課皎の暩利は公䞻たるスタックスピア公家に垰する事項。タむトス公からのご助蚀は痛み入りたすが、それ以䞊の気遣いは無甚にお願い臎したす。領内の巡芖に぀いおは、タむトス公の印状がある以䞊、お断りはできたせんが、数日の内でお匕き取りください」

「  そこたで仰るなら、謁芋の件は諊めお、匕き䞋がりたしょう。調査に぀いおは圓該集萜を尋ねたのち、数日のうちに倱瀌する」
 この若者の無瀌を詰問するこずを止めた。領内においおは、課皎は裁刀ず同様、公䞻の独立した暩限である。これ以䞊は立ち入れない。

「行くぞ」
 ボルテックずマットに声をかけお、クレストルは螵を返した。石段を䞋る䞀行を䞊からじっず芋据える、スタックスピアの若い階士たちの衚情は固く暗い。
 九十九折りの階段を䞋りお埅機しおいた䞀行ず合流する。浅瀬を蟿り、「葊の湖」リヌドミアの北岞に出る。東の湖岞を迂回しお進みながら、ボルテックずペむルず䞊走しお話す。

「タむトス公がりォルモン公からの支揎芁請を断るなど、ありえん」
 ボルテックは憀ったように吐き捚おた。

「「銀山の浞氎」があり、キャスタリヌロックに支揎の芁請をしたこずは確認できた」
クレストルは思案するように呟いた。

これで繋がったな

「あの若僧は、タむトス公を「歊勇に欠ける」ず䟮蟱した。特䜿に察しお公䞻を䟮蟱する発蚀をするずは、聞き捚おならん」
 ボルテックは唞った。

 クレストルは苊笑いをした。「西郚」りェスタヌランズではよくある蚀説だった。
「若い階士にありがちな「玅の獅子」レッド ラむオンの信奉者かな。おそらく、りォルモン公の䜓調䞍良は事実だろうが、家䞭は分裂状態だな」

坑道の浞氎。そしお、モレルの介入に、あの「灰色の鹿」の男

 クレストルは振り返り、右埌方の商人に芖線を向けた。
「ペむル、『灰色の鹿』の王章を぀けた商人がいた。正䜓を知っおいるか」

ペむルは眉をひそめおから忌々しそうに頷いた。
「『灰色の鹿』ですか、ええ、知っおいたすずも。それは、「鉛の牡鹿」レドゥン スタッグ商䌚ですね」

「「鉛の牡鹿」レドゥン スタッグだず聞いたこずがないな。どこの旗䞻だ」
 ボルテックが怪蚝そうに眉を寄せた。

「旗䞻では無く、商䌚の商暙です。「鉛の牡鹿」レドゥン スタッグ商䌚。出自は鹿の毛皮を商う商䌚でしたが、珟圚は高利貞しず乗っ取りが本業です。経営の傟いた商䌚や、借金に苊しむ小貎族に甘い顔で近づき、法倖な利息で金を貞し付ける。そしお返枈が滞るず、担保にした土地や利暩を根こそぎ奪い取る。ハノィラニスタヌずいう男が商䌚長をしおいたすが、その手口の汚なさから、たずもな商人は盞手にしたせん」

「ハノィラニスタヌ  知らんな」
クレストルは蚘憶を探った。ラニスポヌトで商いをする、材朚商や毛皮商は党お把握しおいるが、党く蚘憶にない。もう䜕代も前から、毛皮の取匕はしおいないのだろう。

「もうひず぀。仲介者ずしお、モレルの名前が出た」
 クレストルが゚むモンドずのやりずりを説明するず、ペむルは抌し黙った。圌も䞀連の事件の党貌を掎んだようだった。

 モレルラネット。キャスタリヌロックの䞉人の金庫長の䞀人にしお、ラニスポヌト評議䌚の末垭に座る、新興商䌚の䌚頭。高利貞しを生業ずする所謂「金座掟」の䞀人だ。

 掚枬だが、りォルモン公がタむトス公に支揎を求めたずき、仲介者であるモレルよっお握り぀ぶされた。
 人の奜いりォルモン公はタむトス公に抗議もせず、自力で金策を探すこずにした。そのスタックスピア家に぀け蟌んだのが、「鉛の牡鹿」レドゥン スタッグ商䌚だろう。圌らは銀山の埩旧支揎ずいう名目で入り蟌み、銀山の管理暩や代理城皎を請け負ったに違いない。

「『我らには、すでに友がいたす』か」
クレストルぱむモンドの蚀葉を口にしお、錻を鳎らした。

「あの若造は、「高き堆岩城」ハむ スタックの懐に毒蛇を招き入れおしたったようだな」
 ボルテックが苊々しく呟いた。

ペむルが声を䜎めた。
「「鉛の牡鹿」レドゥン スタッグ商䌚は、異囜の傭兵ず契玄しお取り立おに䜿いたす。ペントスやタむロシュの傭兵の噂を聞きたすが、取り立おのためなら暎力も厭わない連䞭です。  クレストル卿、圌らが城皎を代行しおいるなら、村は悲惚な状況になっおいるかず」

「ずにかく珟地に行かねばならんな」
 クレストルは銬腹を軜く蹎った。「葊の湖」リヌドメアの集萜で䞀泊する予定だったが、予定を切り䞊げるこずにした。゚むモンドず玄束した調査期間は数日間。向かう先は、ノルりィンが最埌に目撃されたずいう蟺境の村だ。

2 集萜

 晩倏の曇倩の埮かな日差しは、鬱々ずした暹々に遮られ、森林を旅する䞀行は、冷たく、湿気た空気を吞いながら黙々ず行軍した。䞊空を芆う鉛色の雲は重苊しく垂れ蟌め、もうすぐ䞭倩に達するはずの陜の光は頌りない。この深い森のなかでは、随分ず前の雚で濡れた土は也くこずなく、ぬかるんだ泥道ずなり、街道ずは名ばかりの狭い林道に銬の蹄が泥に沈む。

「こんな道を官吏が、護衛を䞀人だけ連れお通ったず」
 ボルテックは呆れたように呟いた。老緎な衛兵である圌は、その無謀さに無知以䞊の䜕かを嗅ぎ取ったようだ。この林道は狭く、泥は蹄を捉えお速床は䞊がらない。芖界が悪く、藪に朜んだ襲撃者がいればひずたたりもないだろう。
 ボルテックは号什をかけ、半兜の頬圓おを䞊げ、角板の手燈ホヌン ランタンを掲げた。自ら先頭を走り、チェストにクレストルの右を固めさせ、倧盟を持たせた。マットはその埌方を譊戒し、ペむルは手綱を巧みに操っお荷駄銬を率い、狩猟兵のザルフェが最埌方を远走する。䞀行は譊戒しながらも隊列を組んで森を足早に通り抜けた。

 このあたり、スタックスピア領の南西郚の地勢は、起䌏が激しくなり、䞘陵地垯から山岳地垯ずなる。森林地垯を抜けるず、蟺りは、岩の倚い山間地に寒村が点圚する颚景ずなった。もはや土の道もない地域だが、䞀行は隊列を組んで黙々ず進んだ。

 目的地の集萜は、たるで集萜党䜓が死に絶えたかのように静たり返っおいた。
 䞉十䞖垯ほどの小さな環濠集萜だ。この呚蟺は狌が埘埊するため、粗末な柵ず盛り土、浅い堀で集萜を守ろうずしおいる。呚蟺の田畑は荒れおいるが、根菜などが䜜られおいたようだ。

「  これは、死人の村のようだ。晩飯も期埅できそうにありたせんな」
 ボルテックが眉を朜めお集萜を芋枡す。

 クレストルは音もなく銬を降り、手綱を曳いお、環濠集萜の粗末な門を抌し開ける。門番もなく、䞍快な擊過音を䞊げお、薄い朚の板の扉が開いた。

 集萜の䞭に立ち入るず、数週間前にこの地を襲った略奪、その惚劇の爪痕は、雚に掗われおはいた。だが、焌け萜ちお黒い骚組みを晒した家屋や、泥濘ぬかるみに沈んだ生掻甚品の残骞、そしお物陰から怯えきった芖線を向けおくる村人たちの様子は、ここで䜕が起きたのかを雄匁に物語っおいた。
 若い狩猟兵のザルフェが、空き家ずなった民家の様子を調べおいる。クレストルは圌に目配せし、怯えおいる村人を刺激しないように指瀺を出した。

「クレストル様、これを」
 埌方から商人のペむルが呌ぶ声がした。

 クレストルが声の方ぞ寄るず、玍屋の前でペむルが床を指し瀺した。ひび割れた煉瓊の床の䞊に残っおいたのは、銬蹄の跡だった。数からしお十頭以䞊だろう。軍甚銬の銬蹄だ。

「既にクレむクホヌル卿がこの集萜に来られたようですな」
 ペむルは䞹念に銬蹄の数ず倧きさを数えおいる。

 どうやら、あの猪たちは、銬で集萜の䞭に土足で螏み入ったらしい。
溜息を぀いお、若い狩猟兵に問いかける。
「ザルフェ、村人の人数が少なすぎる。逃げたか、連れ去られたか、どちらだ」

血だたりや死䜓はない。殺されおはいない。自分の足で逃げたか、歩かされたか

「新しい銬蹄の埌の他には、比范的叀い倧勢の人間の足跡がありたす。集萜から出お、南ぞ向かっおいたす」
 狩人は獲物の足跡には目敏い。

「歩幅はどうだ」
 質問を重ねる。

「歩幅は、、普通だったかず思いたす」
 若い狩人の蚀葉が詰たる。

「もう䞀床、確認しおおいおくれ。逃げたか、連れ去られたか、それで答えが出る」
 重ねお指瀺を出す。ザルフェは敬瀌するず螵を返しお、集萜の倖ぞ駆けお行った。

 ひっそりずした家屋の䞊びを通り抜け、集萜の最奥ぞ向かう。
 村長の家は扉が閉ざされおいた。ボルテックが䜕床か扉を叩き、ラニスタヌ公の特䜿であるず叫ぶず、ようやく閂かんぬきの倖れる音がした。扉の開いた隙間から顔を出したのは、枯れ朚のように痩せ现り、目だけが異様にぎら぀いた老人だった。

「もう取り調べはご容赊ください。お話するこずはございたせん」
 老人は怯えた様子だった。

「䜕床もすたない。すぐ枈たせる」
 クレストルは軜く埮笑んで、村長の家に足を螏み入れた。怯えた村長は蚀葉少なく、先日も捜玢隊の倧柄な隊長に長時間の尋問を受けたず蚎え、疲れ切った様子だった。
 クレストルは柔和なペむルず共に話を聞き、ノルりィンの行動を順を远っお質問した。

 ノルりィンに芋せたずいう曞付に぀いお尋ねるず、村長は銖を暪に振った。
「この集萜が収めた物産の曞付でございたすが  クレむクホヌル卿に抌収されたした」

「ノルりィンずはどのようなやり取りをした」
 穏やかな声でゆっくり質問する。

「  台垳ず曞付を突き合わせお、数字が䞀臎するのがおかしいず、仰いたした」
 ペむルず目が合う。集萜が収める物産ず玍皎の台垳が完党に䞀臎するこずは皀だ。損耗など誀差が発生するのが垞だからだ。

「その他には」
 ペむルが促す。

「、、、いいえ、ずくには、、」
 村長は目を合わせない。

 䜕かを隠しおいるず感じたが詰めずに、話を進める。
「、、穀物庫を芋せおもらおうか」

 村長の家の裏には、この集萜唯䞀の石造りの倉庫があった。ここが収穫物を貯めおおく穀物倉庫ずのこずだ。
 ボルテックが重い暫の朚の扉を抌し開いた。錆びた蝶番が軋む音が響き、䞀行はさほど広くない倉庫に足を螏み入れる。明かりに照らし出された倉庫の煉瓊の床を蟿るず奥に荒い麻の袋が数えるほどだけ積たれおいる。おそらく、皮籟が入っおいるのだろう。

「  こい぀は酷い。次の収穫たでに食べるものが無いな」
 ボルテックが䜎い声で呟いた。村長は涙目のたた立ちすくんでいる。

「根こそぎ、ですね」
 ペむルが麻袋の䞭身を芗き蟌み、顔をしかめた。

「これが党おか」
 クレストルが静かに尋ねるず、背埌で肩を瞮こたらせおいた村長が、涙を溜めた目で䜕床も頷いた。

「はい  城皎官様たちが、銬車で乗り付けお根こそぎ  これでは、ずおも冬を越せたせん」

 クレストルは村長の嘆きには答えず、無蚀のたた倉庫の䞭倮ぞず歩み出た。角板の手燈ホヌンランタンを手にしお、赀茶けた煉瓊の床を䞹念に調べる。床は所々がひび割れ、党䜓が薄汚れた泥ず埃に芆われおいる。

 ある䞀点に違和感を感じお芖点が留たる。角板の手燈ホヌンランタンの芆いを倖し、獣脂蝋燭の炎で盎接照らし出す。䞀箇所だけ、たるで誰かが指で拭い取ったかのように、泥が䞍自然に途切れおいる堎所があった。

「村長。ノルりィンは、この堎所で䜕をしおいた」
 クレストルの抑揚のない問いかけに、村長は䜓を震わせた。圓時の恐怖が蘇ったのか、その声は震えおいる。

「は、はい  。あの方はそこで、残りの麊の袋を䜕床も数えおおられたした  」

「それだけか」
 片膝を぀き、煉瓊の割れ目にある小さな溝を、革手袋を倖した指先で慎重になぞった。溝の泥が、そこだけ新しい。䜕かを掘り起こした埌か。

「圌はここで、䜕かを拟わなかったか」

「あ  」
 村長は息を呑み、黙りこくった。芖線が泳ぐ。

「もう䞀床聞く。䜕か拟わなかったか」
 じっず、怯える村長を芋据える。

「お、お答えできたせん、たた城皎官様に  」

「この村の戞数は䞉十ずある。だが、倖を芋る限り、残っおいるのはお前を含めお数人だ。残りの人間はどうした過酷な城皎に耐えかねお離散したのか」
 クレストルは畳みかけた。村長の芖線が、北の方角ぞ逞れた。

「最埌に䞀぀だけ確認したい。この村の城皎を担圓したのはスタックスピア公の階士か」

「ご容赊ください、たた『虎』がやっおきたす、なにずぞご容赊を  」
 村長はその蚀葉を口にした瞬間、したったずいう顔をしお口を抌さえ、埌ずさりした。その倧袈裟な身振りが、蚀葉以䞊の恐怖を語っおいた。

  だが、䜕か欠けおいる
 クレストルは灰色の目で老人を凝芖した。極床の恐怖に怯えおいるはずなのに、男から挂うのは泥ず獣脂の臭いだけで、冷や汗特有の酞っぱいにおいがない。

 盎蜄領でもない、スタックスピア領で、領民にこれ以䞊の蚌蚀を匷いるのは限界がある。クレストルはゆっくりず立ち䞊がり、膝の埃を払った。村長を芋る芖線は倖さず思案する。

 おそらくノルりィンは、圚庫確認の最䞭に、この倉庫の床で䜕か「決定的な蚌拠」を芋぀けた。

城皎者はスタックスピアの兵士たちではない、「虎」だ。そしお、おそらく、倚くの村人が䜕凊かぞ連れ去られた

「行くぞ」
 クレストルは螵きびすを返した。冷たい颚が吹き抜ける倉庫の䞭には、今は、圌の興味を匕くものは䜕䞀぀残されおいなかった。

「ここではもう、芋るべきものはない」

3 銀山

 蟺境の集萜を出た䞀行は、岩の倚い山間地を静かに䞊足で進む。先頭の狩猟兵のザルフェが集団が移動したず思われる痕跡を蟿る。

 しばらくしお東の方向に砂埃を䞊げおこちらに向かっおくる階圱が芋えた。五階だ。

「巊前方の厖に退避、䞋銬のうえ、盟を床に眮き、匓を構えろ」
 クレストルが指瀺を出す。ボルテックが檄を飛ばしお郚䞋を急がせる。各々が、円盟ラりンドシヌルドを、荷駄銬からおろした。
 クレストルは、むチむの倧匓の匊を匵り、腰の匓筒を手繰り寄せる。手頃な厖があるため、防壁になる。六人は玠早く防埡態勢を敎えた。
 だが、迫りくる階兵が掲げおいる旗を芋お、クレストルは舌打ちをした。「黄金の獅子」の旗。向こうもラニスタヌ家の家臣だ。

「  構えを解け。友軍だ」
 どうやらクレむクホヌル卿の捜玢隊の分隊に捕捉されたらしい。今は森に朜む「虎」よりも䌚いたくない盞手だった。

 分隊の隊長らしき男が、銬䞊から倧声で名乗りを䞊げた。
「圓方は、タむトス公の呜により捜玢の任を受けおいる 速やかに歊装解陀のうえ、尋問に応じられよ。私はデズモンド、沌の森フェン りッドの  」

「こちらもタむトス公の特䜿だ。その居䞈高な口䞊は控えお頂こうか」
 クレストルはうんざりしお口䞊を遮り、懐から印状を取り出しお掲げた。

「タむトス公が我々の他に捜玢の什状を䞋されたずは聞いおおりたせぬ。捚お眮けたせんな」
 髭面の黒い鎖垷子を着た「沌の森」の階士は、喧嘩腰に、銬䞊から嚁圧しおくる。

 クレストルは冷ややかな芖線を向けた。
「我々は『極秘』の任務を垯びおいる。クレむクホヌル卿ならば事情をご存じのはずだが。芁らぬ足止めを匷いたずなれば、卿の顔に泥を塗るこずになるぞ」

「  確認はさせおいただく」
 デズモンドは䞊官の名にひるみ、銬の手綱を匕いた。差し出された印状を確認しながら、䞀行の顔色を䌺っおいたが、䜕床か芋盎した埌に、返しおきた。

 その時、西の方向からも階兵隊が駆け぀けおくるのが芋えた。クレむクホヌル卿に付き合うず䞞䞀日は拘束されるこずになるだろう。

「急ぎの任務だ。確認は埌日、キャスタリヌロックにお」
 クレストルは䞀方的に告げるず、分隊を尻目に、郚䞋たちぞ出発の合図を送った。

「埅たれよ」
 デズモンドはなおも、止めようずしお進路に銬頭を入れおきた。

 クレストルは黒づくめの階士を灰色の県で凝芖しお䜎い声で蚀った。
「ここで我らを足止めするならば、埌日、盞たみえるのは、キャスタリヌロックの法廷ですな」

 気圧されたのか、デズモンドは枋々、進路を空けた。

「行くぞ もたもたするな」
 間髪入れず、ボルテックが号什をかける。䞀行は階兵たちの脇をすり抜け、東ぞず銬を走らせた。
 分隊の前をすり抜けお、駈足で行軍する。圌らの気が倉わらないうちに距離を取る。

「やれやれ、ですな」
 ボルテックがうんざりしたように呟く。

 捜玢隊から芋えない䜍眮に来るず、速床を䞋げ぀぀、進路を南東ぞ転じる。ザルフェが远跡しおいた集萜からの集団の足跡は途䞭で消えおいた。だが、歩幅からみお、歩いお集団で移動した痕跡が窺えたずいう。この方向ぞ集団移動を匷いられたずすれば、向かう先は限られる。

「これから浞氎が起きた銀山『小䜜蟲の窪地』コッタヌズ・ホロりに向かう」
 静かに小隊に行き先を告げる。

  銀山で浞氎事故が起きたこずは間違いない。だが、その埩旧は困難を極めるだろう。専門家では無いクレストルでも、氎を汲みだす排氎路の敎備が難題であるこずは分かる。その技術が、もず毛皮商の「鉛の牡鹿」レデゥン スタッグ商䌚にあるずは思えない。できるずすれば、倧人数を動員しお匷匕に掻き出すぐらいしかない。
 銀山で䜕が行われおいるのか、それを明らかにするこずは今回の隒動の党貌を明らかにするこずになるだろう。

 しばらく行くず、『小䜜蟲の窪地』コッタヌズ・ホロりぞの行皋は急峻な山道ずなり、道は狭くり、やがお深い森ぞ続いおいった。
 森の山道を䞀行は、黙々ず行軍した。晎倩ではあるが、この深い森の鬱々ずした暹々に遮られ、陜は圓たらない。土の山道は也いおはいたが、曎に狭くなり、けもの道のような幅になった。

 森が深くなるに぀れお、違和感が匷くなる。眉間に皎が寄り、耳に党神経を集䞭させ、呚蟺に目を配らせる。

    静かすぎる。
 本来、深い森は様々な音や気配で溢れおいる。しかし、鳥の声が消え、颚の音だけが䞍気味に響く。あるはずの獣の気配が無い。䜕かが通った埌だ。
 クレストルは、日ごろから森林官ずしお、広倧な森を巡回し、密猟者を取り締たり、暹朚の生長を芋守っおきた。
 森を荒らす「䟵入者」の気配を嗅ぐようにしお、森を巡るこずを生業ずする圌は、誰よりもその気配に敏感だった。圌の手足である狩猟兵のザルフェも同様に䜕かを感じたのか、銬を寄せお違和感を䌝えおくる。右手を䞊げおその動きを制する。
 ボルテックは、狭い芋通しの悪い道に圧迫感を感じ取ったのか、隊列を二列瞊隊に切り替え、右列の階手には右手に䞞盟を持぀ように指瀺をした。

 クレストルは腰に差した長剣の柄に手をやったあず、背負ったむチむの階兵匓キャバルリヌボりの匊を確認した。圌の生家は䞊叀の時代より、代々、匓の名手を茩出しおきたナヌ家の傍流だ。クレストルは長剣の腕前も確かであるが、ハヌりッドのような砎栌の存圚が身近にいるおかげで、過信するこずはなかった。

剣を振るうのはあい぀に任せればいい

 森の空気が倉わった。颚向きが倉わり、颚䞊から僅かに混じる「異物」の匂いが錻を衝く。獣ではない䜕かの匂いがする。

「  ボルテック、隊列を戻せ。䞀列瞊隊だ」
 クレストルは静かに、だが、匷い口調で指瀺を出した。

「 この地圢だぞ」
 ボルテックが抗議するが、クレストルは目で制した。

 ボルテックは瞬時に意図を察し、間の空いた、䞀列瞊隊に戻した。䞀行は速床を䞋げお緩慢な動きで進む。

 「芋匵られおる」
 ボルテックは自然な動䜜を厩さず、尋ねおくる。

「このたた進むず、囲たれるだろうな。おそらく、「ノルりィンの倱螪」を匕き起こした連䞭だ」
 クレストルは、ゆったり手綱を匕きながら蚀った。

「地圢は向こうが有利ですな、忌々しい」
 ボルテックは、さりげなく剣の柄に指をかけた。

「だが、颚䞊で埅ち構えるような、間抜けな「虎」だ」
 呚蟺の茂みぞ鋭く芖線を這わせたが、敵の姿は芋えない。だが、頬には颚が、そしお錻には、確かに朜䌏する䜕者かの臭いが届いおいた。
クレストルは薄く笑った。

銀山にはよほど芋られたく無いものがあるらしい

 クレストルは銬銖を返した。
「  ここで無理をする必芁はない」

残された課題はラニスポヌトで詰めるこずにしよう

 銀山の浞氎事故、その報告ず支揎芁請の行方、調査の劚害、「鉛の牡鹿」レデゥン スタッグ商䌚の暗躍、スタックスピア家の分裂、森に朜む異囜の「虎」、消えた村人たち。
 これらの個々の謎が明らかにできなくずも、党䜓を芋枡すずある皋床の図は芋えおくる。この図の裏取りをすれば、自ずず真の敵の姿が芋えよう。

いずれ必ず仕留めおやる

「ここたでだ。日が暮れる前に街道に出る」
 クレストルの号什ず共に、䞀行は、来た道を戻りはじめた。

007 クレストル Ⅱ 完


煀けた石 第䞀郚 獅子の仔 第䞀線 ゆりかごの宣誓
クレストルⅡ007 岩山の亀裂
248 AC・倏末期 / 西郚・ラニスポヌト 〜 スタックスピア領
POVクレストルナヌ (Crestel Yew)


【本䜜は「氷ず炎の歌」のファンフィクションです】
原䜜者のゞョヌゞ・R・R・マヌティン氏、および関連する出版瀟・映像補䜜䌚瀟等の暩利者様ずは䞀切関係がありたせん。
本䜜は「氷ず炎の歌A Song of Ice and Fire」の䞖界芳をベヌスにした非公匏のスピンオフ䜜品であり、原䜜の五十幎前の時代埁服暊248幎以降の䞃王囜西郚りェスタヌランズを独自の解釈で描いおいたす。


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いいなず思ったら応揎しよう