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獅子の仔 Ⅰ 004 クレストル Ⅰ

    GOMM

    クレストル Ⅰ


    1 垳簿

     ラニスポヌトの䞭倮枯から北東ぞ䌞びる倧通りを行くず、円圢の広堎に行き着く。この広堎から蜘蛛の巣状に路地が分岐し、倧小の酒堎や宿屋、食堂がひしめき合うように軒を連ねおいた。
     蟺りには、朮や汗の染み付いた荷揚げの人倫や船乗りたちが、その日の憂さを晎らすべく安酒を求めお集たり始めおいた。

     クレストルは、その人波をかき分けながら、目圓おの店を探した。数ある酒堎の䞭から芋芚えのある「けむくじゃらの牛」の看板を芋぀け、その店の分厚い扉を抌し開けた。
     昌食時の混雑をようやく終えた店は、䌑む間もなく、倜に向けた準備に取り掛かっおいた。店内は、焊げた豚の脂や揚げた倧蒜ニンニクず玉葱、そしお、安い葡萄酒の酞っぱい匂いが充満しおいた。
     煀けたような色をしおいる倩井の梁からは、よく燻補された豚肉や魚肉、矜根を毟られた鶏が所狭しず吊り䞋げられ、客の頭䞊でゆっくりず僅かに揺れおいた。
     知った店ではあったが、名物だった北郚牛の赀肉は品曞きから消え、今は、倚様な燻補肉を炙り、黒パンや豆の緎り物ペヌスト、炒めた玉葱や倧蒜を添えるのが定番になっおいた。
     店内の奥は薄暗く、早くも客が増え始めおいた。既に出来䞊がっお、食卓に突っ䌏しおいる男も芋かける。
     クレストルは狭い店内を芋枡し、その曎に奥、ひっそりずした独り呑みの長卓台カりンタヌの隅に目を留めた。
     呚囲の煀けた壁に溶け蟌むようにしお、くたびれた草色の倖套を矜織った小柄な男が座っおいる。生真面目な颚貌の官吏が、ただ明るい時間垯に安酒堎にいるのは酷く堎違いだったが、圌をこの堎所に指定しお呌び出したのはクレストルだった。
     人波をすり抜けお長卓台に歩み寄り、店員に黒麊酒を泚文するず、その男の隣に腰を䞋ろした。
     クレストルは、この目立たない茜重官、ダグりェルが、倱螪したずされるノルりィンず旧知の仲であるこずを掎み、この数日、圌の䞊叞であるベリアンを通じお、出立前のノルりィンの蚀動を探らせおいた。

     ダグりェルは、重たい暫の酒杯で口元を隠しながら、隣のクレストルにしか聞こえない声量で蚀った。
    「  『芋぀けた』ず蚀っおいたした」

    「  垳簿か」
     クレストルが䜎い声で確認するず、ダグりェルは重々しく頷き、手元の酒杯の朚目を芋぀めた。

    「はい。融通の利かない男でしたが、垳簿を読む目は確かでした。出立の前々日、圌は青ざめた顔で家族に挏らしおいたした。『玍皎蚘録ず、兵圹台垳の数字がどうしおも䞀臎しない』ず」

    「それを、ボロスに報告したのか」

    「  報告したはずです。圌は職務に忠実でしたから。ですが、確蚌は掎めおいたせん」
     小柄な茜重官は「これ以䞊の深入りは避けたした」ず付け加えた。的確な刀断だ。

     珟地調査の指瀺が出された以䞊、報告をしたず考えるのが順圓だった。だが、タむトス公や家什たちの耳には「垳簿の矛盟」に぀いおの報告は䞊がっおきおいない。

    「なぜ、珟地調査を圌のような文官に任せたのか。それも、たった䞀人の護衛で」
     ダグりェルは呟くように蚀った。

     クレストルは苊みのある黒麊酒を䞀口飲み蟌み、抌し黙った。
     答えは明らかだった。ボロスには、ノルりィンが戻っおきおほしくなかったのだ。

     隻県のボロス。あの傭兵䞊がりは、垞に自らの出䞖を優先する。だが、今回、タむトス公から盎々の呜什ずいう奜機を、䜕故か郚䞋に譲った。そしお、わざわざ、倚忙な時期の融通の利かない城皎官を指名したが、その城皎官が他の仕事を埌回しにしお、熱心に調べ始めたのは蚈算倖だったのかも知れない。

    「感謝する。この話は墓堎たで持っおいっおくれ」
     クレストルは、月の銀貚を数枚、長卓の䞋で握らせた。

    「ボりマ卿の呜什で、今から南のクレむクホヌル領ぞ向かいたす。叀い歊具の払い䞋げの決枈ずいう名目ですが、二か月以䞊滞圚する長期出匵です」
     小柄な茜重官は、意味ありげに埮笑した。

    「すたんな、危ない橋を枡らせた」
     ダグりェルは軜く䌚釈をするず、倖套の❘包頭《フヌド》を目深に被り、足早に酒堎を立ち去った。

     ベリアンは、圹割を終えた郚䞋を、遠方ぞ隔離する手配を既に敎えおいた。あの歊骚な倧男は、情報を嗅ぎ回る存圚が盞手から狙われやすいずいうこずをよくわかっおいた。

    ボロスは郚䞋を死地に远いやった。これは隠蔜であり、背任だ。しかし、状況蚌拠だけで、その意図が未だ掎めおいない

     ボロスオロりンド卿は、公劃の仇敵、゚リンタヌベック倫人が、暩勢をふるっおいた時代の残滓だ。゚リンの抜擢で宮廷内に入り蟌んだ「レむン掟」の䜕人かは、ゞェロルド公の埩暩により排陀されたが、ボロスのようにうたく立ち回り、未だ芁職にある者もいる。そしお、枊䞭のりォルモンスタックスピア公は旗幟鮮明な公劃掟である。

    䜕を隠そうずしたのか。ボロスがスタックスピア領の物資を暪領でもしおいたのか

     クレストルは黒麊酒を飲み干しお、卓䞊に銅貚ペニヌを眮き、「けむくじゃらの牛」の看板の酒堎を出た。あたりは、ただ明るい。人混みに玛れ、そのたた䞭倮枯の北にある商通の䞊ぶ区画ぞず向かった。

    2 調査

     甚心のために、人混みを抜けた埌も、路地をいく぀か曲がり、埌方を確認しおから、呑み屋の䞊ぶ区画を抜けた。䞭倮枯の北の区画に出るず、喧隒は遠のき、䞭小芏暡の商䌚の商通が䞊ぶ敎然ずした街䞊みになった。この䞀角に、朚材や炭、毛皮など、森林資源を扱う商䌚の商通が倚く集たっおいた。

     クレストルにずっおこの蟺りは、任務で頻繁に足を運ぶ銎染みのある区画だった。䌐採や怍林の管理、密猟者の摘発ずいった珟地での業務だけでなく、郜垂郚においおは、朚材や毛皮を扱う商人たちに目を光らせるのも、森林官の重芁な仕事だった。
     だが、今日、圌が材朚商の扉を叩いたのは、平時の退屈な流通監芖のためではない。スタックスピア領からラニスポヌトぞ流れ蟌む朚材の「䞍自然な動き」の裏を探るためだった。

     「燃える森」商䌚の石造りの商通に足を運ぶ。この商䌚は、マヌブランド家の旗䞻の分家がラニスポヌトで立ち䞊げた商䌚であり、若き商䌚長ペむルシャヌりッドは蟣腕の材朚商ずしお知られおいた。
     商通の暫の扉を抌し開けお、䞭に足を螏み入れるず、明るい宀内に、朚の銙りが挂っおきた。商談䞭の初老の番頭は、クレストルの来蚪に気づくず商談を䞭断しお、察応しおくれた。番頭ずは顔なじみのため、すぐ奥の執務宀ぞず通された。

    「これは、森林官殿、ようこそ、お越しくださいたした」
     執務宀の扉を開けお入るず、郚屋の奥の机で曞類に筆を走らせおいる男は立ち䞊がっお、出迎えた。
     䞭肉䞭背に黒灰色の髪、短衣の䞊に焊茶色の革胎着を纏い、腰には短剣ず鉈刀を差しおいる。商人ずいうよりは狩人のようないで立ちのこの男が、ペむルシャヌりッドだった。

     圌は机の䞊の曞類を脇にどけお、机の䞊に空きを䜜るず、察面の怅子を勧めおきた。
     執務宀内には、芋本ずしお眮かれた杉や暫の切断面からの銙りに加えお、積み䞊げられた朚炭の銙りが挂っおいた。本棚には十数冊の本が䞊べられ、壁には䜕凊かの森林地図が貌られお、䌐採区画ごずに真鍮の暙鋲が打たれおいた。

    「立ち話でいい」
     座垭の勧めを断るず、クレストルは立ったたた、郚屋を芋回した。

    「景気はどうだラニスタヌ艊隊は老朜船の曎新を芋送ったず聞いおいるが」

    「良質な暫オヌクの材朚は、垞に需芁がありたすので、さほど困っおはおりたせん。それよりも安䟡な朚材の䟛絊䞍足で困っおおりたす 」

    ペむルは肩をすくめ、地図の䞀点を指差した。
    「楡材゚ルムや抛材アルダヌの泚文が急に増えおいたすが、あおにしおいた生産地からの出荷が完党に止たっおいたす」

    「  スタックスピア領だな」
     地図を芋ながら本題に入った。

     クレストルの䞀蚀にペむルの目が现められ、声を朜めお聞いおきた。
    「りォルモン老公の件ず関わりがあるず」

     ペむルは、少し思案するず、䜕枚かの曞状を机に䞊べお、指で叩いた。
    「こちらは玍期遅れで、軍の茜重郚に違玄金を支払う矜目になりたした。珟地の仲買人からも連絡が無く、䞞倪䞀本、筏いかだ䞀艘たりずも川を䞋っおきたせん」

     ペむルの報告に、ベリアンの厳぀い顔が目に浮かんだ。あの埡仁は、公劃の生家に瞁のある商家だろうが容赊がない。
    「  それは灜難だったな」

    ペむルは肩をすくめる。

    「その件で少し調べ物をしおいる」
     クレストルは声を朜め、切り出そうずした。

    「ノルりィン様のこずですね」
     機先を制するようにペむルが蚀った。今床はクレストルが目を现める番だった。

    「几垳面な方で、私どもの商䌚が扱っおいる材朚の入荷量を垳簿で確認されたしお、そのうちのスタックスピア領からの入荷量を気にされおいたした」

    「垳簿ず䞍䞀臎があるず」

    「いえ、具䜓的には䜕も仰っおいたせんでした」

    垳簿調査で掎んだ「垳簿の矛盟」の裏どりだな

    「朚材が出荷されおいないのに皎収が適正ずの蚘茉なら、虚停。朚材が出荷されおいるのに垂堎に出おいないのなら、暪流しだ。だが、肝心の垳簿が無くおはな」
     今床はクレストルが肩をすくめた。

    「ずころで、ノルりィンは護衛を雇っおいたか」

     ペむルは顔をしかめた。
    「ろくに人員も予算も぀かなかったようです。ギャレスずかいう、傭兵を䞀人だけ連れおいたした」

    「その男が最近、ラニスポヌトに戻っおきたずいう噂は」

    「実は気になっお、うちに出入りする傭兵に調べさせたしたが、珟地調査に出発しお以降、芋おいないずのこずです」
     ペむルはそこで蚀葉を切るず、意味ありげに芖線を地図に戻した。

    「  ただ、ありたす。あくたで䞍確かな噂ですが、耇数の筋から流れおきたした。䟋の皎の取り立おを行っおいるのは異囜の傭兵だず蚀う話ですが  、虎の兜を被っおいたそうです」

     クレストルの背筋に、冷たいものが走った。
    「ノォランティスか」

    「あくたで噂ですが  虎の兜を芋間違えるずは思えたせん」
     東方の゚ッ゜ス倧陞の商人がこのラニスポヌトを蚪れるこずは珍しくない。ただし、ノォランティス人の兵士ずなるず話は別だ。かの囜は、奎隷制囜家であり兵士は党お奎隷だ。この地で傭兵をしおいるずいうこずは、脱走兵を意味する。異囜の脱走兵が領内に朜んでいるずいうのは「西郚の守護者」の暩嚁に係る問題だ。

    「朚材以倖にもスタックスピア領からの物流で䜕か異倉はないか」

    「以前からの話ですが、銀鉱石の出荷量が枛少しおいたした。最近、いよいよ滞っおきたずの噂を聞いおいたす。毛皮や皮革は入っおきおいるようですが、穀物類は取り扱う商䌚を倉えたようですね。掎めおいたせん」

     スタックスピア領は蟲業、牧畜業、林業など倚岐にわたり安定した産業基盀を持ち、手堅い領地経営がされおきた。その経営の芁ずなっおきたのが、小芏暡ながら採掘量が安定しおいた銀山だった。だが、この数幎、採掘が思わしく無いずの話はクレストルも耳にしおいた。

    「キャスタリヌロックには䌝わっおいない。閉山ずもなれば倧事だ」
     クレストルは思わずペむルに念を抌すように蚀った。

    「未だ噂の範囲です。しかし、私は商人ですから、物流の流れから噂の真停を刀断したすが」
     ペむルは銀鉱脈の枯枇に確信を持っおいるようだった。

    これは、利暩どころの話ではないな。公劃に早急に報告せねばならない

    「話は倉わるが、ペむル、早急に動かせる、盎雇いの兵士はいるか」

    「残念ながら、治安も悪いため、荷銬車の護衛ずしお党お出払っおいたす。私どものような新興商家では信頌できる兵員も限られおおりたすので」
     ペむルは「商䌚長は暇ですが」ず付け加えた。

    「たた、远っお連絡する」

     クレストルは、「燃える森」商䌚の番頭に軜く挚拶をしお商通を出た。西の空が赀色に染たり始めおいた。
     ただ、森林官ずしおの業務が残っおいた。毛皮を扱う商䌚の商通を䞉軒蚪ねた。こちらは短時間で犁猟区の確認ず狩猟の解犁時期を確認しお、解犁前埌の皮革ず毛皮の入荷に釘を刺しおおいた。珟地での密猟者の取り締たりはもちろん、それを仕入れる商家の動きに目を光らせるのは森林官の重芁な任務だ。
     愛想のよい商䌚長の葡萄酒の薊めを断り、商通を出た。そのうち䞀軒の番頭からも「虎の兜」の異囜の傭兵の噂を確認した。赀革の鞄から台垳を出しお簡単に蚘垳した。

     陜は既に西の皜線に掛かり始めおいた。クレストルは銬を預けおいる森林局の分局ぞず足を速めた。北郚枯の北偎の旧垂街地にある朚造の分局は、キャスタリヌロックにある本庁ず異なり、官吏だけでなく、暵や猟垫、材朚商や毛皮商たちも蚪れる、行政の拠点になっおいた。
     その分局の軒先に小柄な少幎が立っおいる。埓士のノィルドンだ。草色の矊毛の包頭倖套に身を包んでいるが、腰に吊るした父芪譲りの長剣は圌の䜓栌にはただ倧きく、歩くたびに鞘尻が石畳を叩きそうだ。胞には分厚い垳簿を抱え、背䞭には膚らんだ垆垃の背負い袋を担いでいる。
     この少幎を埓士ずしお預かるこずになり、二幎になるが、読み曞きを芚えおからは、官吏助手ずしおも重宝しおいる。今日は単独での調査行動のため、分局にお垳簿蚘茉の手䌝いず指導を受けさせおいた。

    「クレストル様 お疲れ様です」
     䞻人の姿を芋぀けるず、安堵したように駆け寄っおきた。

    「埅たせたな、ノィル。垳簿の勉匷は進んだか」

    「はい。出金ず入金の関係が随分ず理解できたように思いたす」

     ノィルドンは呚囲を気にするように声を朜めた。
    「お留守の間、朚炭の玍入に来た炭焌き垫たちが、劙な噂話をしおいるのを耳にしたした。スタックスピア領の銀山で出氎事故があったらしい、ず」

     クレストルは内心の驚きを隠し、埓士の頭を軜く撫でた。銀鉱石の流通が滞ったのは事実だろう。キャスタリヌロックが知らないでは枈たされない。
    「すぐキャスタリヌロックに戻る。行けるか」

    「はい 只今」
     少幎は匟かれたように分局の脇にある厩舎ぞ駆け出し、たもなく二頭の銬を曳いおきた。二頭ずも薄角毛うすすみげの高原銬ガロンで、クレストルが乗るのはやや䞭型の牡銬、少幎にあおがっおいるのは老いた小型の牡銬だ。二人は鞍に跚り、倕闇が迫る街道ぞず銬銖を向けた。
     ラニスポヌトの北門を抜けるず、キャスタリヌロックぞず続く石畳の街道が䌞びおいる。わずか䞀マむルの距離だ。芋䞊げれば、倕陜を背に黒々ずした圱ずなった「獅子の岩山」が、二人を芋䞋ろしおいた。䞊足で銬を進めれば数分でキャスタリヌロックに着く。

     公務の途䞭で城皎官が倱螪した以䞊、必ず捜玢隊を掟遣するこずになるだろう。だが、我々がその捜玢隊に加わるず身動きがずれなくなる。捜玢隊の隒々しい調査に、奎らは息を朜めお隠れるだろう。

    捜玢隊には囮になっおもらう 

     クレストルは別途、その隒動に乗じお、りォルモン公を芋舞う「特䜿」ずしお珟地に入るのが埗策だず思案した。りォルモン公ずの面談ず珟地調査、できれば銀山の実態を把握したい。クレストルが公劃の偎近であるこずは知られおいない。「城通の階士」であり、森林官でもあるクレストルが任呜されるのは劥圓な人遞だ。

    3 報告

     キャスタリヌロックの最䞊階たで䞊がるのは時間がかかる。あたり行きたい堎所ではなかったが、公劃に報告するためにはやむを埗ない。銬をノィルドンに任せお、キャスタリヌロック郊倖の厩舎ぞ向かわせた。先に䞭局階の自宅ぞ垰っおおくように蚀い぀けた。

     クレストルは䞀人でキャスタリヌロックの正門「獅子の口」の倧階段を䞊り始めた。海蝕掞から響く波の蜟音ず、湿った空気が䜓にたずわり぀いた。「ロバの倧広間」に着くず、ここからロバに乗っお䞊がる他の階士たちを埌目に、速足で凡そ䞀千の石の階段を䞀定の速床で䞊がり続けた。クレストルの鍛えた足腰であれば、息切れもせず、数十分で䞭局の「䞭倮ホヌル」に到着する。
     普段であれば、このホヌルから倖壁の階段で二階局䞊がれば、自宅のある階士の居䜏区画だが、今日は、さらに䞊ぞ行かねばならなかった。

     クレストルは䞭倮倧広間から巚倧な「巻き䞊げ機」りむンチに乗り蟌み、鎖が巻き䞊げられる蜟音を数十分の間、聞かされた。金属の擊過音は気持ちの良いものではない。鉄の籠が軋みながら䞊昇する暗闇の䞭で、クレストルは目を閉じ、報告すべき事案を敎理した。
     最䞊階たでは行かず、䞊局階䞭局で降りる。この階局は、展望台や軍の䌚議宀などがあり、クレストルが軍の任務で出入りしおも䞍自然ではない階局だった。そこから、人気のない倖階段ぞず出お、手すりもなく、断厖にぞばり぀くように削り蟌たれた二癟段の石段を䞊った。朮颚が容赊なく吹き぀け、足を螏み倖せば海面たで真っ逆さただが、芋晎らしは良い。䜕より、この階段を䜿えば、正芏の怜問を受けずに最䞊階に到達できる。

     最䞊局に出るず、叀代の環状芁塞が月明かりを济びお、癜く浮かび䞊がっおいた。昇降機の乗降口を芋匵る衛兵隊の詰所が芋えたが、この時間垯の圓番は、「痩せっぜっちの獅子」スキニヌ ラむオンこず、リロむヒルのはずだ。護衛階士のなかでは最も油断のない男で、芋぀かれば誰䜕され、通行蚌の確認だ䜕だず、芁らぬ時間を䜿うこずになるだろう。

     クレストルは圱のように移動し、哚戒䞭の衛兵の巡回をくぐり抜けお、ラニスタヌ家の邞宅区ぞず向かった。公劃ず公子たちの家族の時間に配慮したかったが、報告を急がねばならなかった。公劃邞宅の門番である石造りの衛兵隊詰所にお、面䌚を芁請した。

    「このような時間に、䜕甚か。立ち止たっお、名乗りをされよ」
     銅色の鎖垷子を着こんだ倧柄な黒髪の兵士が、詰所の壁越しに適切な距離をずりながら誰䜕しおきた。埌ろには黒い硬化皮革の鎧を着た、目぀きの鋭い䞭背の兵士が控えおいた。どちらも胞には青銅の獅子の胞章を぀けおいる。公劃盎属の衛兵たちだった。

    「城通の階士、クレストルナヌだ。公劃様に緊急に報告すべき事柄がある。お取次ぎを願いたい」
     クレストルは通行蚌の青銅板を瀺しお名乗った。

    「  しばらくお埅ちください」
     倧柄な黒髪の兵士が奥ぞ䞋がった。黒い革鎧の男は、こちらず距離を取りながら、剣の柄に手をかけ、芖線を離さない。

     やがお、束明の明かりの䞋、黒色の鎖垷子を着こんだ長身の䞭幎の階士が姿を珟した。公劃の「宣誓の盟」ゞェむ゜ンバヌク卿だ。マヌブランド家の旗䞻バヌク家の出身で、熟緎した二察の長剣の䜿い手ずしお知られおいた。

     圌はクレストルの顔を確認するず、短く頷いた。
    「ご苊劎。ゞェむン様はすぐに謁芋される。来られよ」

     公劃邞宅の庭園から、埓者甚の通甚口を通り、私宀ぞ䞊がった。通された郚屋には、独特の薬草の匂いが立ち蟌めおいた。痛み止めのケシず、消毒甚の酢の匂い。ゞェむンラニスタヌは長怅子に座っおいた。数日前の出産盎埌よりは血色が戻っおいるが、その瞳には疲劎の色が濃かった。

    「ご苊劎様。報告を」
     短く発せられた蚀葉に応じ、クレストルも短く、事実だけを䞊べた。
     ノルりィンが発芋したず思われる垳簿の矛盟。ボロスの報告違反ず口封じの珟地掟遣。スタックスピア領からの朚材などの物流の状況。そしお、虎の兜の傭兵の噂。

     公劃は静かに聞いおいたが、「虎の兜」ずいう蚀葉に、ピクリず眉を動かした。
    「  ノォランティス」
     異囜の傭兵が領内をうろ぀く屈蟱に口元が匕き結ばれる。

     クレストルが最埌に尋ねた。
    「ゞェむン様。この半幎、りォルモン公からキャスタリヌロックに、融資の芁請が出されたこずはありたすか」

    「  䜓調が思わしくないずの報告しかありたせん。なぜ、そのようなこずを」
     公劃はすぐ質問の意図を尋ねた。

    「銀山が出氎したずの噂を耳にしたした」

    「  根拠を蚀いなさい」
     公劃の顔が青ざめる。

    「この数幎、採掘量が枛っおきたのは呚知の事実です。それが最近、滞ったずのこずです」

     公劃は掚し黙った。しばらくしお口を開く。
    「やはり、貎方に珟地に行っおもらわねばなりたせん」

    「もずより、その぀もりでおりたす」
     クレストルは顔を䌏せたたた応えた。

    「実は、先ほど、倫はラニスポヌト垂譊備衛兵士隊シティ りォッチのクレむクホヌル卿に捜玢什を出しおしたいたした。クレむクホヌル卿は近日䞭に、五十階を率いおスタックスピア領ぞ向かう手筈です」
     ゞェむンはやや困惑したように蚀った。

    「倧隒ぎになりたすな。あの埡仁が五十階を率いれば、銅鑌を鳎らしお歩くようなものです。敵は逃げるか、隠れるでしょう」

    公劃は頷きながら提案した。
    「貎方は、別途、珟地に入るほうが良さそうですね。捜玢隊には別の者を加えおおきたす」

    「その件ですが、りォルモン公を芋舞う『特䜿』ずしお、スタックスピア領に入るのが埗策ず思われたす。぀きたしおは公から印状を賜りたい」

     ゞェむンは溜息亀じりに頷いた。
    「あの方は今日も宎で忙しいですが、今倜䞭に特䜿の件を承認させたす。二、䞉日かかりたすが、正匏な手続きを経たほうが、目立たなくお良いでしょう」

    「ありがずうございたす。取り急ぎ、特䜿の小隊を線成臎したす」

    「軍を動かすず目立ちたすね。私の衛兵隊から五人ほど出したしょう」

    「恐れながら、狩猟兵など二人ほど確保できる芋通しです。野倖での掻動を想定しおおりたすので、衛兵隊からは䞉名ほど掟遣頂けたしたら十分です」

    「わかりたした。線成は任せたす。既に衛兵長は準備しおいたす」

     ゞェむンは僅かに口元を緩めたが、すぐに真剣な衚情に戻った。

    「クレストル、珟地は䜕があるかわかりたせん。深远いは犁物です。必ず生きお戻りなさい」

    004 クレストル Ⅰ 完


    煀けた石 第䞀郚 獅子の仔 第䞀線 ゆりかごの宣誓
    クレストルⅠ004 悪意の茪郭
    248 AC・倏末期 / 西郚・ラニスポヌト 〜 キャスタリヌロック
    POVクレストルナヌ (Crestel Yew)


    【本䜜は「氷ず炎の歌」のファンフィクションです】
     原䜜者のゞョヌゞ・R・R・マヌティン氏、および関連する出版瀟・映像補䜜䌚瀟等の暩利者様ずは䞀切関係がありたせん。
     本䜜は「氷ず炎の歌A Song of Ice and Fire」の䞖界芳をベヌスにした非公匏のスピンオフ䜜品であり、原䜜の五十幎前の時代埁服暊248幎以降の䞃王囜西郚りェスタヌランズを独自の解釈で描いおいたす。


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    ▢ 前の話 003 ハヌりッド Ⅰ 003 ゆりかごの宣誓

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    GOMM

     
     
    「氷ず炎の歌」の䞖界のファンフィクションを曞いおいたす。 最近は疲れお、戊囜時代ものを少し曞いおたす。 ※連茉「獅子の仔」は原䜜の 五十幎前の西郚が舞台です。 ※原皿の䞍備は随時修正しおいたす。 ※原䜜が執筆の動機なので シリアルナンバヌの削陀に螏み切れず。

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