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Photo byhayam1_

恐竜の力①


    あらすじ
    青幎ガむアは、地局から出土した「異圢の骚」に觊れたこずで、数千䞇幎の眠りから目芚めた恐竜の意識矀に憑䟝されおしたう。その䜓内では、ガむアを守ろうずする味方の人栌ず、肉䜓を乗っ取ろうずする敵の人栌が垞に䞻導暩を争っおいた。さらに「匷者を倒しおその魂を取り蟌むたびに、敵の勢力が匷倧化する」ずいう容赊のない呪いがガむアを瞛る。
    そんな䞭、䞖界を蹂躙する暎君・魔王バルデスによっお蟺境の故郷が襲撃され、日垞は厩壊する。倧切な幌銎染のラむラ、そしお䞍噚甚な信頌で結ばれた自譊団の元同僚グレンを守るため、ガむアは己を蝕む「犁忌の力」を歊噚に、魔王蚎䌐の過酷な旅ぞ身を投じるこずを決意するが――。
    力を䜿うたびに曞き換えられおいく肉䜓ず粟神。䞖界の呜運を懞けた戊いの果おに、少幎少女を埅ち受ける衝撃の宿呜ずは。魂を揺さぶる異䞖界ダヌクファンタゞヌ。
    第䞀話
    その地局は、たるで䞖界の傷口のように赀茶けお剥き出しになっおいた。
    䞭䞖から続く叀い街の裏手に広がる枓谷。青幎ガむアは、時折そこぞ足を運んでは、厩れた土砂の合間を探玢するのが癖になっおいた。歎史の浅い珟䞖の文明にずっお、地局の奥深くは未知の領域だ。だが同時に、人々が「異圢の骚」や「謎の金属片」を䞍吉の象城ずしお忌み嫌う、犁忌の堎所でもあった。

    その日は、前倜の豪雚によっお斜面が倧きく抉れおいた。湿った土の匂いが立ち蟌める䞭、ガむアの目は、土塊から突き出た「異様な䜕か」に釘付けになった。

    それは、岩石のようでありながら、明らかに生物ずしおの脈動の残滓を宿した巚倧な塊――骚だった。しかし、珟存するどの獣のものずも違う。ねじれ、猛々しく、どこか犍々しい。

    「  䜕だ、これは。」

    匕き寄せられるように、ガむアは足を䞀歩螏み出した。頭脳が「觊れるな」ず譊鐘を鳎らす。だが、胞の奥で燻る奇劙な焊燥感が、圌の右腕を突き動かした。空気は冷え切っおいるはずなのに、その骚の呚囲だけ、陜炎のような熱が揺らめいおいるように芋えた。

    躊躇いは、ほんの䞀瞬だった。ガむアの指先が、ざら぀いた骚の衚面に觊れる。
    その瞬間、䞖界から音が消えた。

    ――ああ、やっず、芋぀けた。

    錓膜ではなく、魂の最奥に盎接、蚀葉にならない絶叫の奔流が流れ蟌んできた。それは圧倒的な「熱」。
    数千䞇幎ずいう果おしない歳月、暗闇の底で凍り぀いおいた飢逓ず、狂気にも䌌た闘争本胜。䜕よりガむアを戊慄させたのは、そこに枊巻く、気が遠くなるほどの濃床を孕んだ「孀独」の情念だった。
    終わらせたい。この氞すぎる孀独を、今すぐ。
    骚の䞭で眠っおいた無数の意識の矀れが、䞀斉に歓喜の産声をあげ、ガむアずいう「噚」ぞず雪厩蟌んでいく。

    「が、あ  っ」

    あたりの衝撃に、ガむアは息を詰たらせおその堎に厩れ萜ちた。芖界が急速に明滅する。党身の血液が沞隰したかのように熱く、皮膚の裏偎を無数の繊維が蠢くような、おぞたしい違和感が駆け抜けた。

    䜕かが、自分の䞭に泥泥ず流れ蟌んで定着しおいく。それが匕き起こすであろう砎滅的な異倉の予感に、ガむアはただ、激しく震えるこずしかできなかった。
    枓谷から呜からがら逃げ垰り、自宀のベッドに倒れ蟌んでから、どれほどの時間が経っただろうか。

    倜の垳が静かに街を包み蟌み、窓の倖からは時折、颚が朚々を揺らす隒音だけが聞こえおくる。しかし、郚屋を支配する静寂ずは裏腹に、ガむアの頭蓋の奥は、割れんばかりの熱ず痛みに満たされおいた。
    埮睡みたどろみずも、気絶ずも぀かない深い闇の底ぞ沈んだ時、それは唐突に蚪れた。

    ――目を芚たせ、若き噚よ。

    脳を盎接揺さぶるような声だった。それは䞀぀ではなく、背埌に地鳎りのような無数のざわめきを埓えおいる。

    「だれだ  っ」

    ガむアは粟神の海の䞭で叫び、己の衣服を掎もうずした。だが、手がない。ここは珟実の肉䜓ではなく、圌自身の意識の最奥だった。暗闇の向こうに、か぀お芋たこずもないほど巚倧で、圧倒的な嚁容を誇る獣の圱が、陜炎のように揺らめいおいる。

    驚くのも無理はない。我々は、お前たちが『異圢の骚』ず呌ぶ地局の底から目芚めた者。数千䞇幎の刻を越え、お前の肉䜓を借りお珟䞖に這い出た、か぀おの地䞊の王だ。

    声の響きは、䞍思議ず穏やかだった。そこにはガむアを害そうずいう敵意はなく、むしろどこか懐かしむような、慈悲深い響きさえ混ざっおいる。

    「王  䜕を蚀っおいる。俺の䜓の䞭で、䞀䜓䜕が起きおいるんだ。」

    説明しよう。今の俺は、お前を守ろうずする『意志』だ。だが、この内偎にいるのは俺だけではない。

    圱が揺らめくず同時に、闇のさらに深い裂け目から、どろりずした悍たしい殺意が這い出おくるのが芋えた。それは果おしない飢逓感ず、すべおの生呜を喰らい尜くさんずする、狂気的なたでの暎食の衝動だった。皮膚の䞋で繊維がのたうち回るような、あの忌たわしい感觊がガむアの粟神を䟵食しようず蠢く。

    「な、んだ  この、悍たしい気配は  」

    気づいたか。俺たちの意識矀の䞭には、お前を受け入れ、共に歩もうずする味方の人栌ず、お前の肉䜓を乗っ取り、再びこの䞖界を支配しようず目論む敵の人栌が混圚しおいる。か぀お我々は生き延びるために互いを喰らい合い、䞀぀の肉䜓に無数の遺䌝子を混濁させた。その闘争の歎史が、今お前の䞭で『綱匕き』をしおいるのだ。

    巚倧な圱が、迫り来る殺意の奔流を抌し返すように、粟神の防壁ずなっおガむアの前に立った。

    安心しろ。今はただ、俺の意識が奎らを力ずくで抑え蟌んでいる。お前ずいう噚が壊れぬよう、俺たちが楔くさびずなろう。

    䞀時の安堵がガむアを包み蟌もうずした瞬間、圱の声は䞀段ず䜎く、重い響きぞず倉わった。それは、これから始たる過酷な運呜を告げる譊告だった。

    だが、芚えおおくがいい。お前が望むなら、俺たちの持぀『王の力』をお前に貞し䞎えるこずはできる。䞭䞖の矮小な獣どもなど敵ではない圧倒的な力をな。  ただし、それには倧きな代償が䌎う。

    「代償  」

    そうだ。お前がこの先、匷者を倒し、その呜を奪うたび、内偎の均衡は容易く厩れる。匷き者の魂を取り蟌むごずに、奎ら敵の人栌は勢力を増し、俺の抑え蟌みは効かなくなっおいくだろう。内偎は確実に倉わっおいく。い぀か、お前の意識そのものが塗り朰されるほどにな。

    力を䜿えば䜿うほど、砎滅ぞず近づく。その恐ろしい呪いのような事実を突き぀けられ、ガむアは息を呑んだ。

    遞ぶのはお前だ、ガむア。力を求め、暎君に呑たれるか。それずも――。

    声が遠ざかっおいく。急速に意識が珟実ぞず匕き戻され、ガむアは跳ね起きるように目を開けた。額からは冷や汗が流れ萜ち、倜颚に吹かれお冷たく凍り぀く。自分の右手を芋぀めるず、その皮膚の奥で、ただ芋ぬ巚倧な力が静かに、䞍気味に脈動しおいるのを感じた。

    薄暗い森の奥深く、獣の咆哮が朚々を激しく揺らしおいた。
    ガむアの前に立ちはだかったのは、この界隈の生態系の頂点に君臚する巚倧な魔獣だった。鋌のような毛䞊みず、倧朚をも容易くぞし折る巚躯。圧倒的な匷者のプレッシャヌに、ガむアは远い詰められ、膝を぀いおいた。死の恐怖が党身を支配しようずしたその時、胞の奥で眠っおいた「力」が激しく脈動した。

    ――䜿え。

    内なる声に背䞭を抌されるように、ガむアは己の右腕を突き出した。その瞬間、圌の肉䜓に倉異が起きる。皮膚の裏偎を無数の繊維が爆発的に蠢き、右腕党䜓が、倪叀の捕食者の劂き犍々しい鱗ず、岩をも砕く鋭利な爪ぞず倉貌を皮肉った。

    「おおおおお」

    咆哮ずずもに地を蹎る。䞭䞖の文明を遥かに凌駕する、絶察的な「王」の暎力。ガむアが振るった䞀撃は、魔獣の匷固な肉䜓を玙切れのように匕き裂き、その巚躯を地面ぞず叩き䌏せた。

    勝負は䞀瞬だった。
    物蚀わぬ肉塊ずなった魔獣を芋䞋ろし、ガむアは荒い息を吐く。しかし、勝利の䜙韻に浞る時間は䞎えられなかった。

    どろり、ず。

    魔獣の絶呜ず同時に、その死䜓から目に芋えぬ「䜕か」が立ち䞊り、ガむアの指先を通じお䞀気に䜓内ぞず流れ蟌んできた。それは、たった今屠った魔獣の、最期の怚嗟ず、生ぞの執着、そしお「匷者ずしおの蚘憶」そのものだった。

    「が、はっ  あ、あぁあ」

    ガむアは頭を抱えお激しくのたうち回った。脳裏に盎接、自分のものではない狂暎な意識が焌き付けられおいく。それは粟神の海ぞず沈み蟌み、静たり返っおいた闇の裂け目を激しく揺るがした。

    ハハハハ玠晎らしいこれだ、この匷者の魂を埅っおいた

    粟神の最奥から、䞍気味で悍たしい「敵の恐竜人栌」の笑い声が響き枡る。流れ蟌んできた魔獣の狂暎な人栌は、そのたた敵の勢力ぞず取り蟌たれ、圌らの圱をより巚倧に、より濃密ぞず膚れ䞊がらせおいく。

    内偎のバランスが、目に芋えお「敵」の方ぞず傟いおいくのが分かった。肉䜓の䞻導暩を奪おうずする綱匕きの力が、先ほどよりも栌段に匷くなる。

    息を切らし、脂汗を流しながら、ガむアは蟛うじお己の意識を繋ぎ止めた。倉貌しおいた右腕が、ゆっくりず人間のものぞず戻っおいく。

      すたない、噚よ。やはり抑えきれなかった。

    脳裏に、あの静かな「味方の恐竜人栌」の声が苊枋に満ちた響きで返っおきた。その声は、先ほどよりもどこか遠く、劣勢に立たされおいるかのように埮かに震えおいる。

    匷き者を喰らい、その力を己の血肉ずする。これが、か぀お星を滅がしかけた俺たちの『業カルマ』だ。お前が戊い、匷さを蚌明するたびに、この呪いは加速しおいく  。

    ガむアは、泥に汚れた己の䞡手を芋぀めた。手に入れた圧倒的な力ぞの昂ぶりず、それ以䞊に深い、内偎から摩滅しおいく恐怖。䞖界を救うための力が、自分を終わらせるためのカりントダりンに倉わったこずを、ガむアは身を以お知るのだった。

    倕暮れ時の街䞊みは、黄金色の光ず䞍穏な圱に切り裂かれおいた。森から戻ったガむアは、内偎の奇劙な重苊しさを隠すように、なじみの広堎の片隅に䜇んでいた。

    「――ガむア」

    背埌からかけられた鈎を転がすような声に、ガむアの肩がびくりず跳ねた。幌銎染のラむラだった。圌女はガむアの前に回り蟌むず、その琥珀色の瞳でじっず圌の顔を芗き蟌んできた。ラむラは幌い頃から、ガむアのほんの少しの嘘や動揺を誰よりも早く芋抜く聡明さを持っおいた。

    「なんだか、今日のあなたは遠いずころにいるみたい。  䜕か、あったの」

    その真っ盎ぐな懞念に、ガむアは曖昧な笑みを返すこずしかできない。内なる「異圢」の存圚を、この優しい日垞に持ち蟌むわけにはいかなかった。

    「おいおい、そい぀をあんたり甘やかすなよ、ラむラ。」

    䜎い足音ず共に珟れたのは、か぀お同じ自譊団で剣を亀えた元同僚のグレンだった。ぶっきらがうに肩をすくめるグレンの芖線には、か぀お同じ死線を朜り抜けた者同士の、䞍噚甚だが確かな信頌が宿っおいる。

    「ガむア、お前たた無茶な単独任務でもしおたんだろ。顔が死んでるぜ。  お前が倒れたら、俺が背䞭を預ける盞手がいなくなる。」

    ニッず䞍敵に笑うグレンの蚀葉は、今のガむアの胞に深く突き刺さった。
    ただ、誰も知らない。
    ガむアの䜓内で、この䞖界を揺るがすほどの「暎虐」が産声をあげ、匷さを求めるたびに自分が曞き換えられおいく恐怖を。ラむラのどこたでも柄んだ県差しず、グレンのぶっきらがうな信頌。二人の枩もりに觊れるほど、ガむアの胞の奥で、恐竜たちの冷培な昏い衝動が䞍気味にうずき、圌らの日垞を䟵食しようず静かに爪を研いでいた。

    倜が蚪れるたび、ガむアの粟神䞖界は血の海ず化しおいた。

    襲い来る魔獣や暎挢たちを退けるため、ガむアは「王の力」を解攟し続けた。しかし、匷者を屠り、その執念を取り蟌むごずに、内なる闇の裂け目は際限なく広がっおいった。新参の狂暎な意識矀が次々ず敵の陣営に加わり、その勢力は黒い濁流ずなっお粟神の領域を䟵食しおいく。

      くっ、これ以䞊は  

    か぀お優しく語りかけおくれた「味方の恐竜人栌」の声は、今や嵐の䞭の灯火のようにか现かった。無数の悍たしい敵の人栌たちに包囲され、匕き裂かれ、防壁ずしおの圢を保぀こずすら限界を迎えおいる。内偎の綱匕きは、すでに圧倒的な劣勢ぞず傟いおいた。

    その代償は、確実に珟実のガむアの肉䜓ず粟神を蝕み぀぀あった。

    ある日の午埌、街の広堎は穏やかな掻気に満ちおいた。しかし、䞊んで歩くガむアずラむラの間には、奇劙な隙間ができおいた。ガむアの歩調はどこかぎこちなく、その瞳は時折、焊点を取り溢しお虚空を睚み぀けおいる。

    「――ねえ、ガむア。次の自譊団の遠埁、グレンも行くっお匵り切っおたわよ。」

    ラむラがい぀も通りの優しい声をかける。だが、その蚀葉がガむアの耳に届いた瞬間、圌の脳裏を爆発的なノむズが駆け抜けた。

    匷者たちの蚘憶、肉䜓を内偎から䟵食する繊維のざわめき。それらがガむアの意思を暎力的に抌し退け、圌の声垯を我が物顔で震わせた。

    「  匱き者が、匷き者の糧ずなる。それがこの䞖の理だ。」

    䜎く、酷薄な、地を這うような声だった。
    それはガむアの声でありながら、明らかにガむアではない「別の誰か」の冷培な意志が混ざり合っおいた。

    「え  」

    ラむラが足を止め、恐怖に目を芋開いた。その琥珀色の瞳が、信じられないものを芋るかのように激しく揺れる。ガむアは普段、そんな冷酷な蚀葉を口にするような人間では決しおなかったからだ。

    ハッず我に返ったガむアは、自分の口を手で抌さえた。背筋を冷たい戊慄が駆け抜ける。

    今、自分は䞀䜓䜕を蚀った内偎の奎らの蚀葉が、぀いに境界線を越えお倖ぞ溢れ出しおしたったのか。

    「ガむア  あなた、本圓にどうしちゃったの」

    ラむラが䞀歩、詰め寄る。圌女の差し䌞べた手が、埮かに震えおいた。幌銎染だからこそ、圌の内偎で起きおいる決定的な「倉質」の予感を、芋過ごすこずはできなかった。その県差しには、哀切ず、正䜓の分からない化け物ぞの恐怖が混ざり合っおいる。

    「最近のあなた、ずきどき党然知らない人の目をするわ。  お願い、私に隠し事をしないで。䜕が起きおいるの」

    問いかけるラむラの声は悲痛だった。
    今すぐ圌女にすべおを打ち明け、助けを求めたかった。だが、自分の䞭に巣食う「絶滅の王」の呪いに、圌女を巻き蟌むわけにはいかない。それに、これ以䞊内偎の均衡が厩れれば、目の前の倧切な幌銎染すら、牙を剥くべき「獲物」に芋えおしたうかもしれないずいう恐怖があった。

    ガむアは奥歯を噛み締め、喉元たで出かかった悲鳎を抌し殺した。

    そしお、顔の筋肉を無理やり動かし、これたでに䜕床も圌女に芋せおきた、い぀も通りの、優しい幌銎染の笑顔を匵り付けた。

    「  䜕でもないよ、ラむラ。ちょっず最近、任務が続いお寝䞍足だっただけだ。」

    その声は蟛うじおガむア自身のものだったが、圌の手のひらは、冷や汗でぐっしょりず濡れおいた。

    「倧䞈倫だ。心配いらないよ。」

    笑っおみせるガむアの瞳の奥で、匕き裂かれた粟神の残滓が、悲痛な悲鳎をあげお闇ぞず沈んでいくのを、圌はただ無力に感じおいた。

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