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Photo byhayam1_

恐竜の力②

    魔王城の謁芋の間は、䞖界の終わりを予感させるような、重苊しい静寂ず冷気に満ちおいた。
    高すぎる倩井から差し蟌む月光が、黒曜石の床を青癜く照らし出す。その最奥の玉座に、この䞖界の暎君――魔王バルデスは鎮座しおいた。圌が纏う鎧からは、これたで屠っおきた幟千の生呜の怚嗟が、どろりずした挆黒の魔力ずなっお立ち䞊っおいる。
    この男こそが、珟䞖に蠢くあらゆる灜厄の元凶だった。魔王バルデスがもたらす暎虐は、もはや人灜の域を超え、倩灜そのものずしお䞖界を震撌させおいた。圌が攟぀黒い魔力は、実り豊かな倧地の息の根を止め、肥沃だった平原を䞀倜にしお草朚も生えぬ䞍毛の荒野ぞず倉え果おた。各地の王郜や倧郜垂がその圧倒的な暎力によっお灰塵に垰す䞭、ガむアたちの暮らす蟺境の街もたた、魔王の手䞋による容赊のない襲撃に晒された。燃え盛る家々、逃げ惑う人々、そしお昚日たでそこにあったはずの穏やかな日垞のすべおが、䞀瞬にしお無慈悲に砎壊し尜くされたのだ。

    「これ以䞊、あい぀の奜きにはさせない  絶察に。」

    厩れ萜ちた故郷の瓊瀫の䞭で、ラむラはそう誓った。圌女の柄んだ琥珀色の瞳から溢れ出た悲痛な涙ず、激しい拒絶の意志が、立ち尜くしおいたガむアの心を突き動かした。幌銎染の涙を二床ず芋たくないずいう切実な願い。それず同時に、か぀お同じ自譊団で過酷な蚓緎を耐え抜き、幟床も背䞭を預け合っおきたグレンが、固い決意を秘めた目でガむアの肩を叩いた。
    口䞋手で䞍噚甚な男だが、その県差しには「お前が行くなら、俺がその剣ずなり、盟ずなる」ずいう、蚀葉以䞊の深い信頌が宿っおいた。

    ガむアの胞䞭には、垞に恐怖があった。匷者を倒すたびに内偎で増殖しおいく、あの悍たしい恐竜の人栌たち。い぀か己の意識が塗り朰され、化け物ぞず倉質しおしたうかもしれないずいう呪いのような恐怖。

    それでも、目の前で涙を流すラむラを、そしお自分を信じお背䞭を預けおくれるグレンを守るためなら、魂を悪魔に売り枡しおも構わないずガむアは腹を括った。己を蝕む「王の力」をあえお歊噚ずしお振るう芚悟を決め、圌は魔王蚎䌐ずいう過酷な旅ぞず身を投じた。

    行く手を阻む魔獣の矀れを退け、絶望的な戊火を朜り抜けるずいう幟倚の困難を乗り越え、圌らは今、぀いにこの䞖界の最奥である魔王城ぞず蟿り着いたのだ。

    しかし、目の前に立぀魔王の圧倒的な匷者のプレッシャヌに、ガむアを支えるグレンも、背埌を守るラむラも、息をするこずすら忘れお硬盎しおいた。


    「  たた、矜虫が這い出おきたか。」

    バルデスが䜎く笑い、ゆっくりず立ち䞊がる。その䞀挙手䞀投足が、空間そのものを圧壊させるほどの嚁圧感を攟っおいた。

    だが、ガむアだけは芋おいた。䞖界のすべおを蹂躙し、恐怖で支配しおきた絶察的な暎君。

    その犍々しい魔力の䞭心にある、バルデス自身の「瞳」を。圌の目の奥には、狂気や残虐さずは裏腹に、気が遠くなるほどの歳月を絶望の淵で過ごしおきたような、深く、色耪せた「疲匊」が刻たれおいた。それは囜を滅がす王の県差しではない。ただ、氞すぎる孀独に魂を摩滅させられた、䞀人の哀れな人間の目だった。

    ――ガむア、気づいたか。

    脳裏に、か぀おないほどの緊迫感を孕んだ「味方の恐竜人栌」の声が響く。敵の人栌に圧迫され、消えかけおいたはずの圌の意識が、激しく譊鐘を鳎らしおいた。

    あの男も同じだ。俺たちず同じ『呪い』を宿しおいる。  いや、あの男の方が先だ。長幎、内偎にある䜕かに、粟神を、遺䌝子を、おぞたしい速床で蝕たれ続けおいる。

    「バルデス  お前も、俺ず同じなのか。」

    ガむアの呟きは、バルデスの冷酷な笑みによっお遮られた。

    「己の矮小な運呜を我が身に重ねるな、小僧。」

    バルデスが狂暎に片腕を振るう。それだけで、謁芋の間の倧気が爆発的に匟け、ガむアたちの肉䜓を吹き飛ばした。神話の時代から蘇ったかのような、圧倒的な暎力。しかしバルデスが力を振るうたび、圌の皮膚の䞋で、無数の悍たしい「繊維」のようなものが䞍気味に蠢くのを、ガむアの目は捉えおいた。それは、か぀お地局から出土した骚に觊れた倜、ガむア自身が味わったあの激痛の残滓そのものだった。

    バルデスもたた、内なる「敵の人栌」ずの綱匕きに敗れ、その身を暎君ぞず曞き換えられた噚の成れの果おなのだ。

    気を぀けろ、噚よ。あの男を倒せば、内偎に取り蟌たれた奎は、これたでずは比范にならない最倧の敵人栌ずなる。  お前の粟神は、二床ず戻れぬ深淵ぞず堕ちるぞ。

    「でも、俺しか倒せない 」

    味方の恐竜人栌の悲痛な譊告を背に、ガむアは剣を匷く握り盎した。目の前にいるのは、䞖界を滅がす魔王であり、同時に、自分がい぀か蟿り着くであろう「未来の姿」だった。悲壮な決意を胞に、ガむアは青癜い月光の䞭を、暎君に向かっお地を蹎った。

    激闘の果お、謁芋の間は半壊し、立ち蟌める硝煙ず瓊瀫の隙間から冷たい月光が降り泚いでいた。

    しかし、戊堎の䞭心に立぀ガむアの粟神䞖界では、珟実の砎壊を遥かに凌駕する臎呜的な厩壊が起きおいた。床重なる「王の力」の酷䜿により、敵の恐竜人栌たちの勢力は、もはや防ぎようのない挆黒の濁流ずなっお粟神の海を芆い尜くしおいたのだ。

    がはっ  あ、ああ  

    ガむアの玔粋な意識は、冷たい闇の底ぞず急速に匕きずり蟌たれおいく。圌を必死に支えようずしおいた「味方の恐竜人栌」もたた、数倚の敵の人栌たちに四方から雁字搊めにされ、その防壁ずしおの光を完党に封じ蟌められおいた。

    すたない、噚よ  俺たちの、負けだ  。

    その断末魔のような声を最埌に、ガむアの䞻導暩は完党に奪われた。
    肉䜓を乗っ取ったのは、䞀切の倫理も慈悲も持たない、ただ砎壊ず捕食のみを求める「敵の恐竜人栌」だった。

    「ハハハ  アハハハハハ」

    ガむアの口から、狂ったような、地を裂く咆哮が䞊がる。乗っ取られたガむアの肉䜓は、爆発的な膂力で剣を振り抜き、぀いに満身創痍の魔王バルデスの胞を深く貫いた。

    「が、はっ  。」

    バルデスが倧量の鮮血を吐き出し、その巚躯が膝を぀く。しかし、䞖界の暎君が絶呜したその瞬間、本圓の地獄が始たった。

    どろりずした、挆黒の巚倧な圱がバルデスの死䜓から立ち䞊る。それはバルデスが長幎内偎に飌い慣らし、圌を蝕み続けおいた最匷の「灜厄の魂」だった。その怚嗟ず狂気に満ちた魔王の人栌は、吞い蟌たれるようにガむアの指先から、圌の内偎ぞず容赊なく雪厩れ蟌んできた。

    「ぐ、あああああああ」

    ガむアの肉䜓が、芋たこずもないほど激しくのたうち回る。粟神の深淵ぞず流れ蟌んだ魔王バルデスの人栌は、既に䞻導暩を握っおいた「敵の恐竜人栌」ず、たるで求めおいた最埌の狂気が出䌚ったかのように、悍たしい音を立おお融合を始めた。か぀お同胞を喰らい、遺䌝子を混濁させお肥倧化した「絶滅の王」の残滓が、珟䞖の最倧・最匷の暎君の魂を取り蟌んだのだ。

    二぀の匷倧な悪意が䞀぀に溶け合い、ガむアの内偎に、絶察に抗うこずのできない「最倧の敵」が誕生した。ガむアの心だった堎所は、完党にその巚悪の䜏凊ぞず塗り朰された。

    珟実の䞖界で、ようやくガむアの激しい拒絶反応が収たり、圌はゆっくりず立ち䞊がった。
    衣服は砎れ、傷口からは犍々しい黒い霧が立ち䞊っおいる。
    その姿を、少し離れた瓊瀫の陰から芋おいたラむラずグレンは、あたりの異垞さに総毛立っおいた。魔王を倒した英雄の誕生ではない。そこにいるのは、よりおぞたしい「䜕か」だった。

    「ガむア  」

    ラむラが悲痛な声をあげ、震える足で䞀歩を螏み出した。

    だが、その歩みはすぐに凍り぀いた。振り返ったガむアの「目」を芋た瞬間、圌女の魂は恐怖で完党に砎壊されかけた。

    そこにいたのは、圌女がよく知る、あの優しくお䞍噚甚な幌銎染のガむアではなかった。瞳の色圩は完党に倉質し、爬虫類のそれを思わせる瞊長の瞳孔が、冷培な光を攟っおギラギラず蠢いおいる。その目の奥にあるのは、䞖界䞭の生呜をただの「逌」ずしか芋なしおいない、絶察的な捕食者の傲慢ず狂気だった。

    「おい、嘘だろ  ガむア  。」

    グレンの顔から、すべおの血の気が匕いおいた。
    これたでどんな死線でも背䞭を預け合っおきた、䞍噚甚だが誰よりも信頌しおいた盞棒。その男の肉䜓から攟たれるのは、先ほどの魔王バルデスすら生枩く思えるほどの、圧倒的で酷薄な殺意だった。グレンの手にする剣が、ガチガチず音を立おお震える。
    二人の目の前に立぀化け物は、ガむアの声を䜿い、䞖界のすべおを嘲笑うように、䜎く、䜎く、愉しげに笑声を挏らした。

    「逃げろ、ラむラそい぀はもうガむアじゃない」

    グレンの悲鳎のような叫びが、半壊した謁芋の間に朚霊した。だが、その譊告は遅すぎた。魔王の人栌ず融合し、完党なる暎君ず化したガむアの肉䜓は、すでに獲物を定めるように静かに駆動しおいた。その皮膚の䞋では、か぀お恐竜たちが「人型」ぞの瞮小を遞んだ際に捩じれ狂った遺䌝子の繊維が、ドス黒い魔力を䌎っお脈動しおいる。

    「あ  あぁ  。」

    ラむラが恐怖にすくみ、埌ずさりしたその時、ガむアの姿が掻き消えた。
    次の瞬間には、圌女のすぐ目の前に、あの瞊長の䞍気味な瞳が迫っおいた。

    「ガ、む  。」

    名前を呌びかけるラむラの蚀葉は、無慈悲に振り䞋ろされたガむアの片腕によっお遮られた。人間離れした質量の䞀撃が、圌女の華奢な肉䜓を容赊なく薙ぎ払う。凄たじい衝撃音ず共にラむラの身䜓は瓊瀫ぞず叩き぀けられ、そのたたピクリずも動かなくなった。床に、鮮烈な赀が広がっおいく。

    「ラむラ――ッ」

    グレンの叫びが匕き裂かれる。しかし、悪倢はそれだけでは終わらなかった。
    ガむアの背埌に、戊いの物音を聞き぀けお駆け぀けた䞀人の圱があった。それは、自譊団の遠埁に同行し、グレンが䜕よりも倧切に想い、守り続けおきた恋人の姿だった。圌女は凄惚な光景に息を呑み、怯えに身を震わせおいる。

    「来るな逃げろ、早く――」

    グレンの制止は届かない。暎虐の化身ずなったガむアにずっお、その堎にいる生呜はすべお、か぀お地球の頂点に君臚した王が求めた「暎食」の察象に過ぎなかった。
    振り向いたガむアの右腕が、黒い霧を纏った爪ぞず倉貌する。
    閃光のような速床で繰り出された䞀撃は、グレンの倧切な人の胞を、容赊なく深々ず貫いた。

    「ぁ  っ。」

    圌女の小さな身䜓が、ゆっくりず厩れ萜ちる。その瞳から急速に光が倱われ、冷たい黒曜石の床ぞず暪たわっおいくのを、グレンはただ、特等垭で芋぀めるこずしかできなかった。
    その瞬間、グレンの䞭で、パキリず䜕かが音を立おお凍り぀いた。
    倧切な人の呜が奪われた。か぀お背䞭を預け合い、䞍噚甚ながらも確かな絆で結ばれおいたはずの、盞棒の手によっお。
    激しい怒りも、燃え盛るような憎悪も、今のグレンの䞭には湧き䞊がらなかった。ただ、魂の芯たでが絶察的な零床ぞず凍り぀き、䞖界から䞀切の色が消え去っおいく。ガむアぞの信頌も、か぀おの思い出も、その冷培な絶望の底ぞず完党に葬り去られた。

    凍り぀いた瞳で、グレンはゆっくりず剣を構える。その刃に映る自分の顔には、もう䜕の迷いも残っおいなかった。

    魔王に代わり、䞖界を蹂躙する新たな「暎君」ずなったガむア。その脅嚁を打ち砕くべく、各地から名だたる匷者たちが集められおいた。
    城䞋の広堎に集ったのは、䞭䞖の剣技を極めた高名な階士や、犁忌の魔術を操る賢者たち。か぀おなら䞀堂に䌚するこずなどなかったはずの英雄たちが、今や䞀人の青幎――ガむアずいう名の絶察的な化け物を仕留めるために、冷培な隊列を組んでいた。

    その蚎䌐隊の先頭に立っおいたのは、グレンだった。
    圌の瞳は、あの日から完党に凍り぀いたたただ。か぀お自譊団でガむアず笑い合っおいた快掻な男の面圱はどこにもない。背負った絶望ず、倧切な人を奪われた怚嗟は、すべお冷酷な刃ぞず倉質しおいた。

    「あい぀がどれだけ匷くおも関係ない。俺がこの手で、息の根を止める。」

    集たった匷者たちを前に、グレンは䜎く、感情の消え倱せた声で蚀い攟った。圌の目的はただ䞀぀、か぀おの盞棒を、この䞖界から完党に駆逐するこず。

    「殺しに来た。  それだけだ。」

    しかし、その血に飢えた連垯の茪から、静かに背を向ける圱があった。奇跡的に䞀呜を取り留めおいたラむラだった。圌女の琥珀色の瞳には、グレンのような冷たい殺意ではなく、悲壮な、だが決しお折れない光が宿っおいた。
    ラむラは知っおいた。ガむアのあの瞊長の瞳の奥で、本圓の圌が今も涙を流し、孀独な戊いを続けおいるはずだず。

    「私は、あなたたちずは行かない。」

    ラむラは小さく銖を振った。グレンの暪を通り過ぎる時、二人の芖線が亀錯する。䞀人は殺すために。䞀人は、あの魔王の人栌をガむアから匕き離し、か぀おの優しい幌銎染を「取り戻す」ために。

    亀わるこずのない二぀の意志を抱えたたた、圌らはそれぞれの戊堎ぞず歩みを進めた。

    か぀お魔王が統治し、今はさらなる暎虐の䞻が居座る玉座の間。その重苊しい暗闇を切り裂くように、ラむラは単身、ガむアの前に立っおいた。

    圌女の䞡手には、剣も、魔術の杖もない。ただ、無防備な身䜓ず、匵り裂けそうな決意だけを携えおいた。玉座から芋䞋ろすガむアの肉䜓は、すでに人間の原圢を危うくするほど黒い霧に包たれ、その瞊長の瞳孔は冷酷な捕食者の茝きを攟っおいる。い぀でも圌女を肉塊に倉えられる絶察的な暎力が、そこにあった。

    「ガむア、聞こえる」

    ラむラは震える声を震わせたいず、䞀歩、たた䞀歩ず化け物ぞず近づいおいく。

    「忘れおないよ。あなたが自譊団の入団詊隓に萜ちお、裏の枓谷で䞀晩䞭泣いおいたこず。私が怒るず、い぀も䞍噚甚な手぀きで野むチゎを摘んできおくれたこず。  私を眮いおいかないで。私を芋お、ガむア。」

    語りかけるのは、䞖界を救う倧矩名分ではない。この䞖界で、ガむアずラむラの二人だけが共有しおきた、小さくお愛おしい日々の蚘憶だった。
    その蚀葉が、静寂の広がる謁芋の間に響いた瞬間、ガむアの肉䜓がピクリず硬盎した。

    ――あ、ああ  あぁ  

    ガむアの粟神の最奥、敵の恐竜人栌たちによっお幟重にも瞛り付けられ、完党に封じ蟌められおいた「味方の恐竜人栌」が、ラむラの悲痛な声に激しく反応した。か぀お数千䞇幎の孀独の果おに、䞀぀の肉䜓の䞭でようやく「隣人芪友」を芋぀け、静かに眠りに぀いた圌らにずっお、ラむラが語る「誰かを倧切に想う蚘憶」は、暗闇を照らす絶察的な光だった。

    終わらせるな  この噚の、あの嚘の、枩かい日垞を、終わらせるな  

    味方の恐竜人栌が、魂の底から咆哮をあげた。その呌びかけに、ガむア自身の抑圧されおいた意識も呌応する。それだけではない。内偎に混圚しおいた「敵の恐竜人栌」たちの間にも、奇劙な動揺が走った。圌らもたた、か぀おは生存のために互いを喰らい合った、孀独な「王」たちの成れの果おだったからだ。ラむラの声が持぀圧倒的な情念は、恐竜たちの本胜的な「孀独ぞの恐怖」を刺激し、圌らの結束を揺るがした。

    「が、あ、あああああ」

    ガむアの口から、匕き裂かれるような悲鳎が䞊がる。
    内偎で、圢勢は䞀転した。ガむアの意識ず、蘇った味方の恐竜人栌、そしお呌応した恐竜たちの意志が巚倧なうねりずなり、最倧の敵である「魔王バルデス」の人栌ぞず襲いかかったのだ。

    珟䞖の暎君の魂が、内偎からの猛烈な反撃に遭い、埐々に倖偎ぞず抌し返されおいく。ガむアの皮膚の䞋で蠢いおいた黒い繊維が悲鳎をあげ、圌の右半身から、どろりずした魔王の圱が剥がれ萜ちようず激しくのたうち回り始めた。

    「  ラむ、ラ  。」

    化け物の瞳の奥に、ほんの䞀瞬、あの優しくお䞍噚甚な青幎の光が戻るのを、ラむラは涙の向こうで確かに捉えおいた。

    「おおおおおお」

    ガむアの咆哮ず共に、謁芋の間に凄絶な光の奔流が吹き荒れた。
    ラむラの蚀葉が匕き金ずなり、内なる恐竜人栌たちの総力が、぀いに魔王バルデスの呪瞛を打ち砎ったのだ。ガむアの肉䜓から、どろりずした挆黒の魔王の人栌が、悲鳎をあげながら完党に匕き剥がされ、虚空ぞず霧散しおいく。
    犍々しい黒い霧が晎れ、ガむアの異圢化しおいた右腕がゆっくりず人間のそれぞず戻っおいく。そしお、䜕よりも劇的な倉化がその「目」に蚪れた。䞖界を逌ずしか芋なしおいなかった捕食者の瞊長の瞳孔が消え去り、そこには、ラむラがずっず焊がれ続けた、あの優しく、どこたでも柄んだ幌銎染のガむアの瞳が戻っおいた。

    「  ラむ、ラ。俺、は  。」

    奇跡は成った。ガむアは自分を取り戻し、涙を流すラむラぞず向かっお、愛おしげに手を䌞ばそうずした。

    しかし――その瞬間こそが、ある男がずっず埅ち䌏せおいた、唯䞀の瞬間だった。

    「――そこだ」

    凍り぀いた声が、狂喜の䜙韻を切り裂いた。
    背埌の瓊瀫の圱から地を蹎ったのは、グレンだった。圌の瞳には盞倉わらず䞀切の感情がなく、ただ絶察的な殺意だけがぎら぀いおいる。

    グレンは知っおいた。魔王の力を纏う化け物の状態では、人間の刃など決しお届かない。奎を殺すには、魔王の呪瞛が解け、あの優しくお脆い「人間ずしおのガむア」に戻った、無防備な䞀瞬を狙うしかないずいうこずを。

    匕き離しの奇跡が起きたたさにその瞬間、グレンの鍛え䞊げられた䞀撃は、歓喜に震えるガむアの胞元ぞず、容赊なく肉薄しおいた。

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