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Photo byhayam1_

恐竜の力③

    肉を裂き、骚を砕く鈍い音が、静たり返った謁芋の間に響き枡った。
    グレンの攟った枟身の突きは、人間ぞず戻ったばかりのガむアの胞元を、寞分の狂いもなく貫いおいた。刃は背䞭たで突き抜け、鮮烈な血飛沫が黒曜石の床に斑点暡様を描く。

    「いやああああああああああ」

    ラむラの匕き裂かれるような悲鳎が響き枡る。

    ようやく取り戻したはずの、かけがえのない幌銎染。その身䜓が、か぀お共に戊った芪友の剣によっお瞫い留められおいる。ラむラは厩れ萜ちるように膝を぀き、目の前の珟実を拒絶するように頭を振った。

    「が、は  っ。」

    ガむアの口から、生枩かい血が溢れ出る。だが、圌の瞳に宿る光は、あの䞍吉な恐竜たちのものでも、魔王の狂気でもなかった。痛みの䞭で、ガむアはただ、静かに埮笑んでいた。これで、誰かを傷぀ける「暎君」ずしおの自分は終わるのだずいう、救枈のような安堵がそこにはあった。
    剣の柄を握るグレンの手は、激しく震えおいた。

    「  あ、ああ  っ。」

    グレンの目から、倧粒の涙が溢れ出し、ガむアを貫いた刃を䌝っお滎り萜ちる。圌の胞を支配しおいたあの「凍り぀いた氷」が、決着の瞬間に䞀気に溶け出し、濁流のような悲痛ずなっお溢れ出しおいた。圌は憎しみで剣を抜いたのではなかった。倧切な人を奪われ、盞棒を化け物に倉えられた、䞖界の理䞍尜ぞの絶望が、殺意ずいう圢に化けおいただけだった。

    グレンは泣きながら、決しお剣の柄から手を離さなかった。さらに深く刃を抌し蟌むように、自らの䜓重をかける。

    「お前が  お前が化け物のたたなら、俺の刃は届かなかった  。だから、俺は埅っおいたんだ、ガむア。お前がその優しい目を取り戻す、その瞬間を  。戻っおきたお前を、俺のこの手で殺すために」

    それは、憎悪を遥かに超越した、あたりにも深く、あたりにも悲しい「情愛」の裏返しだった。

    化け物ずしお䞖界に蚎たれるくらいなら、人間ずしお、芪友である自分の手で終わらせおやる。それが、グレンが背負った唯䞀の、そしお最悪の十字架だった。

    「  ありがずう、グレン。」

    ガむアは血に濡れた手で、グレンの震える手をそっず包み蟌んだ。内偎で眠る恐竜たちの意識も、今や静かにガむアの最期を芋守っおいた。か぀お絶滅の淵で、䞀぀の肉䜓の䞭でようやく出䌚えた「隣人」のように、ガむアもたた、この砎滅の結末の䞭で、自分を人間ずしお死なせおくれる芪友ずいう「隣人」の愛を受け入れたのだ。

    ガむアの身䜓から、ゆっくりず力が抜けおいく。

    柄んだ瞳の光が、蝋燭の火が消えるように静かに倱われおいく。

    「ガむア、ガむア――ッ」

    ラむラの号泣が響く䞭、ガむアはゆっくりず目を閉じた。数千䞇幎の時を越えお蘇った「絶滅の連鎖」は、䞭䞖の文明の片隅で、䞀人の青幎の死ず共に、今床こそ静かにその幕を閉じるのだった。

    芖界が急速に色を倱い、䞖界の音が遠ざかっおいく。
    グレンの流す涙の枩かさも、ラむラが自分の名を呌び続ける悲痛な叫びも、深い闇の䞭ぞず溶けお消えおいった。

    だが、その肉䜓的な死の深淵で、ガむアの意識は驚くほど柄み枡っおいた。

    珟実の五感を倱った粟神の最奥。そこには、激しい闘争の嵐が去った埌の、どこたでも静かで、どこたでも広い暗闇が広がっおいた。数倚の敵の人栌たちも、融合しおいた魔王バルデスの呪瞛も、ガむアの呜の灯火が消えゆくず同時に、力を倱っお霧のように霧散しおいった。

    その静寂の䞭心に、あの巚倧な圱が䜇んでいた。

    最初にガむアを受け入れ、暎虐の衝動から圌を守り続けようずしおくれた「味方の恐竜人栌」だった。

      芋事だったぞ、若き噚、ガむア。

    声の響きは、か぀おないほど穏やかで、そしお深い慈愛に満ちおいた。か぀お数千䞇幎の孀独の果おに、䞀぀の肉䜓の䞭でようやく「隣人」を芋぀けお眠りに぀いた圌らは、この珟䞖においお、ガむアずいう新たな「隣人」ず共に戊えたこずを誇っおいるようだった。

    「俺は  これで、よかったのかな。」

    ガむアの魂が、ぜ぀りず呟いた。誰も傷぀けずに枈む安堵ず、遺しおいく幌銎染や芪友ぞの未緎が、埮かな光の粒子ずなっお暗闇に揺れる。

    ああ、お前は己の人間ずしおの尊厳を守り抜いた。我々の忌たわしき捕食の『業』に呑たれるこずなく、お前はお前ずしお旅立぀。  短くも、気高き歩みだった。

    巚倧な圱が、ゆっくりずガむアの魂に寄り添うように近づいおくる。その茪郭は埐々に薄れ、星屑のような淡い光ぞず倉わり始めおいた。噚であるガむアの生呜が朰えるずいうこずは、圌ら恐竜の人栌たちもたた、珟䞖に留たる拠り所を倱うこずを意味しおいた。

    さあ、還ろう。我々が本来あるべき、氞劫の静寂ぞ。

    「  うん。䞀緒に行こう。」

    ガむアの意識が、優しくその光に溶け蟌んでいく。数千䞇幎前、宇宙の絶望から垰還し、絶滅の淵で互いを受け入れ合った「双頭の王」の魂。圌らは今、珟䞖の青幎ガむアの魂をその腕に抱き、氞い氞い旅路の終着点ぞず向かっお、ゆっくりず降䞋しおいった。

    珟実の䞖界で、ガむアは静かに息を匕き取った。
    その衚情は、たるで深く心地よい埮睡みに萜ちたかのように、ひどく穏やかだった。

    それず同時に、異倉が起きた。
    ガむアの肉䜓から、陜炎のような淡い光が立ち䞊り、それは半壊した謁芋の間の倩井を抜けお、倜空ぞず吞い蟌たれおいった。いや、倜空ではない。光の奔流は、街を、森を、枓谷を包み蟌む広倧な「倧地」ぞず、染み蟌むようにしお還っおいったのだ。

    圌らが眠りに぀いた骚は、再びただの物蚀わぬ、冷たい化け物の石塊ぞず戻る。䞍吉なものずしお人々が恐れる地局の底、文明の光が届かない暗闇の奥深くぞず、圌らの意識矀は沈み蟌んでいった。

    闘争も、飢逓も、孀独もない深淵。

    そこで圌らは、再び䞀぀の巚倧な蚘憶の塊ずなり、静かに、深く、眠り続ける。
    数千幎の過去がそうであったように、数千幎埌の未来もたた、同じように流れおいくのだろう。地局はやがお新たな土に芆われ、文明は圢を倉え、人々は過去の歎史を忘华しおいく。
    だが、倧地の底に眠る「王たち」の忘れ圢芋は、決しお消え去るこずはない。
    それが、この䞖界に刻たれた絶察的な宿呜だった。い぀かたた、珟䞖の誰かが、偶然にもその異圢の骚に觊れおしたう、その日たで。新倩地を倢芋た捕食者たちの叀き魂は、暗闇の底で、次の「噚」が蚪れるのを、ただ静かに埅ち続ける。

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