
伊予の国ふしぎめぐり 4.てんにょ(後編)⑧
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それにしても見れば見るほど、目元やふんいきが木梨さんににている。
紬は思い切って声をかけた。
「あの、なんで泣いているんですか?」
天女はおどろいた顔で、初めて紬と咲良を見た。
「外が騒がしく目覚めたら、兄君様がおられぬ」
そういうと、たまっていた涙をぽろぽろとこぼした。
最初はただ泣いている天女に同情していた紬だった。
しかし、五分たっても十分たっても、いつまでたってもただ泣いているだけの天女に、咲良と違ってせっかちな紬は、少しいらいらしてきた。
それでついずばりと、
「『おられぬ』ってどういうこと?
いなくなったってこと?
お兄さんが?
それならこんな所で泣いてばっかりいないで、自分から探しにいけばいいじゃない!」
天女が紬の声にびくりと肩を震わせた。
それを見て
(くわしいことも分からないのに、ちょっといい方きつかったかも)
少しこうかいしていると、怒られた天女はますます涙を流し、
「まろもそうしたい。
なれど、羽衣がくちはて、空をまえなくなった」
ついには、地面にくずれるように、わっと泣き出してしまった。
紬はいいすぎた気がして、
「もう、それならこれをあげるよ。
羽衣みたいでしょ?」
そういうなり、今年買ってもらったばかりの白いお気に入りのマフラーをほどき、ぐいと天女につき出した。
天女はずけずけとものをいう紬のことをおそるおそる見つめながらも、差し出されたマフラーをそっと受け取った。
「そなたは困りはせぬのか?
それにしてもなんとも初めて見る布じゃ」
そういいながら、ふわりとマフラーを本物の羽衣のようにまとう。
そして、空へゆっくりとまい上がった。
(幽霊じゃない。本物の天女だ!)
紬は心の中でさけんでいた。
天女は紬と咲良のまわりをゆるりとまうと、
「まろが名はカルノオオイラツメ。
兄の名はキナシノカルノミコ。
幼き巫女たち、礼を申す。
ああ、うれし」
涙をぬぐって初めて見せた天女の笑顔は、やわらかい中にもりんとした気高いものがあった。
天女は、ただ何もせず泣いているだけではなかった。
二人は、この天女の本当の顔を見られたように思えた。
いつの間にか立ちこめていた雪雲から、この冬初めての雪が降り始めた。
ひらひらと降る雪が自由になった天女を乗せて、空の彼方へとつれ去っていった。
どれくらいたったのか、紬は大きくくしゃみをした。
この雪の降る中、マフラー無しでは寒すぎる。
咲良も紬のくしゃみで、夢から覚めたみたいな顔で、
「大丈夫?寒い?」
そういいながらも、咲良はめずらしくこうふんしていた。
「それにしても紬ちゃんすごいよ!
天女様をしかったり、さっとマフラーあげちゃうなんてかっこいい!!
それにあの天女様の本当の笑顔が見られて、私うれしかった」
首回りは寒いし、マフラーがなくなったことをお母さんにどういいわけしたらいいのか分からない。
けれど、紬はやっと良いことをしたような気分になってきた。
そして帰り道、二人は天女のことで夢中になり、木梨さんに明日にでも報告しようともり上がった。
そして道に迷うことなく家に帰り着いたのだった。
次の日、二人は学校帰りにお宮さんに寄った。
木梨さんはおらず、代わりに、のがまの時にもいたもう一人のおじいさんの神主さんだけがいた。
「あの、今日は木梨さんはお休みですか?」
たずねながら、そういえば木梨さんは、紬たちがいつ行っても必ずいたことに気づいた。
お休みとか家にかえったりしないのか、考えてみたこともなかった。
木梨さんからはそういう「ふつう」が感じられなかったせいだ。
おじいさんの神主さんは、少しおどろいたように、
「この社の神主はずっと私一人だよ」
そういうと、さっさと歩いて行ってしまった。
びっくりした二人は、顔を見合わせると。
「なんで、なんで?
木梨さん、いなくなっちゃったの?
どうして?」
しばらくあわてていたけれど、紬はいった。
「そうだ、佐々木君とお母さんも木梨さんに会ってるはずだよね。
二人に聞いてみよう」
その日の夜、お母さんが帰るなり紬は、必死の思いで聞いた。
「今日お宮さんのおじいさんの神主さんが、『神主はずっと私一人だよ』っていってたよ。
私がけがしてお礼に行ったときは、わかい神主さんもいたよね」
すると、お母さんはおどろいたように、
「何いってるの。お宮さんの神主さんはおじいさん一人だったでしょ。
もう、変なこといってないで、すぐご飯にするから手伝って」
といわれた。
お母さんの横で晩ごはんのお手伝いをしながら、紬は泣き出しそうになっていた。
(これで明日、佐々木君も知らないっていったらどうしよう。
それにもしかして、咲良ちゃんまで知らないっていったら……)
もう考えるだけで涙がこぼれ始めた。
おみそ汁をお玉でかきまわしながら泣いている紬に、お母さんは気がつくと、
「どうしたの。
もしかして学校で何かあったの?
お手伝いはもういいから、とりあえず部屋で休んでなさい」
お母さんにいわれるまま部屋にこもり、ふとんにくるまっていると、ふあんな気持ちだけがどんどん大きくなっていく。
次の日、緊張し暗い顔をした紬がとぼとぼと学校に行くと、咲良は先に来ていた。
めずらしく笑顔のない咲良を見て、紬も咲良もほっとした。
二人とも同じことをなやんでいたのが分かった。
お昼休み、佐々木君にさりげなく聞いてみた。
「お宮さんの神主さんって、おじいさん一人だったよね?」
「ああ、あの元気なじいさんな。それがどうかした?」
「ううん、何でもない」
紬と咲良はだまって教室を出ると、体育館のかげでだき合って泣きだした。
「木梨さん、本当にいなくなっちゃったよー。
どうしてー?」
咲良も泣きながら、
「きっと木梨さんが似ているから、天女様がお兄さんとまちがえて、つれて行っちゃったんだよ。
それでみんな木梨さんのこと忘れちゃったんだ」
学校の帰り道、お宮さんの宮山の前で、二人は言葉にならない思いで鳥居を見あげた。
木梨さんはあの日の淡い雪が溶けたように、消えていなくなってしまった。
二人はお宮さんに背を向け、それきりお宮さんに行くことはなくなった。
また春が来て、紬はとうとう六年生になった。
そんなある日の夜、仕事から帰ってくるなりお母さんが、
「お父さん、紬、テレビ、テレビ!」
と声をかけてきた。
お母さんがテレビを観るなんてめずらしいと思ったら、テレビにあのすすきの原が映っていた。
画面の上の方に「古代のロマン!奇跡の発見!!」と書いてあった。
テレビによると、すすきの原には大昔に書かれた歴史の本に出てくる、えらい人の大きなお墓がうまっていたらしい。
そしてよく調べてみると、木梨さんが話していたあの兄と妹のお墓だと分かったのだ。
町は大騒ぎになっていた。
この兄と妹を祭ったお宮さんとして、あのおじいさん神主さんもテレビに映っていた。
それをみながら、お母さんはほっとしたようにいった。
「大昔のお墓が見つかったのなら、ショッピングモール計画は中止ね。
商店街ではもう『古代ロマンの町』でまたがんばるって、張り切っているそうよ。
とりあえず町の人たちが仲直りしてくれそうで良かったわ」
お母さんの話を聞きながら、紬はこれでもう迷う人もいなくなるだろうと、ぼんやり思った。
庭に出ると、近所にある桜がいっせいに風に吹かれ花吹雪となって、紬の上にひらひらと、あの雪の日のようにまい落ちてくる。
そしてそこに、天女を迎える木梨さんの笑顔が重なってみえた気がした。
先に目覚めたお兄さんは記憶がはっきりしないまま、あのお宮さんで妹の天女を待っていたのだろう。
無意識に「キナシ」と名のり、紬と咲良の前だけにすがたを見せながら。
そして、そう思えるのが紬にはふしぎだった。(了)
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【あとがき】
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
本作は全8話にて、無事に完結を迎えました。
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皆様の心に、少しでも残る物語になっていれば幸いです。