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Photo bysora2020

『金と筋——令和の毘沙門天 外伝』第十四話 説明会

    第1話から読みたい場合はこちらから。

    説明会の会場は満席だった。

    ホテルの会議室。

    百人以上はいた。

    みんな少し緊張していた。

    だが。

    怒っている人はいない。

    まだその段階ではなかった。


    黒い男は後ろの席に座った。

    前には東大時代の友人がいる。

    軽く会釈をする。

    友人も少し疲れて見えた。


    開始時間。

    社長が入ってくる。


    会場が静かになる。


    黒い男は社長を見る。


    痩せていた。


    前回より。

    明らかに。


    だが。

    背筋は伸びていた。


    社長は頭を下げる。


    「本日はお集まりいただきありがとうございます」


    説明が始まる。


    資料が映る。


    市場環境。

    海外情勢。

    物流問題。

    為替。

    資金調達。


    話は整理されていた。


    数字も出てくる。


    質問にも答える。


    曖昧さは少ない。


    むしろ。

    かなり優秀だった。


    途中から。

    会場の空気が変わる。


    安心していく。


    そうだよな。


    色々あるよな。


    成長企業だしな。


    そんな空気だった。


    質問時間になる。


    数人が質問する。


    社長は答える。


    拍手も起きる。


    会場は少し明るくなった。


    友人が振り返る。


    小さく親指を立てる。


    黒い男も頷く。


    だが。

    何かがおかしかった。


    説明ではない。


    数字でもない。


    もっと別のことだった。


    黒い男は必死に考える。


    何だ。


    何がおかしい。


    そして。

    突然気付いた。


    社長が一度も未来の話をしていない。


    その瞬間だった。


    背筋が冷たくなった。


    今までの社長は違った。


    会うたびに未来を語った。


    世界。

    輸出。

    地方。

    挑戦。


    夢を語った。


    それが人を惹きつけていた。


    だが今日は違う。


    全部。

    説明だった。


    全部。

    言い訳だった。


    過去の説明。

    現在の説明。

    問題の説明。


    未来がない。


    黒い男は役員時代を思い出した。


    業績が悪化した時。


    問題が起きた時。


    幹部は二種類に分かれる。


    未来を語る人。


    説明を始める人。


    説明を始めた組織は。

    大抵まずい。


    説明会が終わる。


    拍手が起きる。


    多くの人が安心していた。


    「良かった」


    「ちゃんと説明してくれた」


    「安心した」


    そんな声が聞こえる。


    黒い男は立ち上がれなかった。


    胸の奥が冷たかった。


    友人が来る。


    「どう思う?」


    黒い男は答えない。


    答えられない。


    友人が続ける。


    「俺は少し安心した」


    黒い男は頷く。


    「そうだな」


    嘘だった。


    全然安心していなかった。


    会場を出る。


    エレベーターに乗る。


    鏡を見る。


    自分の顔が映る。


    嫌な顔だった。


    昔。

    何度も見た顔だった。


    大型案件が失敗した時。


    事業撤退を決めた時。


    買収案件が崩れた時。


    何かが終わる前の顔だった。


    外へ出る。


    夕方だった。


    風が冷たい。


    スマホが鳴る。


    妻だった。


    「どうだった?」


    黒い男は空を見上げた。


    答えるまで少し時間がかかった。


    「分からない」


    妻は黙って聞いている。


    黒い男は続けた。


    「でも」


    さらに沈黙。


    そして。

    初めて口にした。


    「たぶん」


    「まずい」


    それが。

    黒い男が初めて認めた本音だった。

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    金と筋の本編はこちら。


     
     
    大学教授。ビジネスアスリートOS創始者。投資アスリート育成寺子屋塾の塾長。 外資系IT企業にて、戦略コンサル・データサイエンスに25年以上従事。 問いの設定・構造化・伝達によって、人と組織が成果を出し続ける思考OSを体系化。 連絡先:info@finfhi.com

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