
【短編小説】『黒い羊と無菌狂』4
⇒【第3話:異変の始まり】からの続き

【第4話:紅い人狼狩り】
<公園>
今年のメインイベント「リアル人狼鬼ごっこ」が始まった。
ステージから離れると、会場の雰囲気はさっきまでと変わらない。
違いは、会場を漂う紫色のスモークが濃くなってきたことくらい。
ミオネ
「さっきまでの狂気がウソみたい…だけど…。」
見えない”異常”への不安は拭えなかった。
家族連れも、カップルも、老夫婦も、誰ひとりスモークを気に留めていない。
その無関心な和やかさが、逆に怖い。
ミオネ
「結局、私は村人?それとも人狼…?」
私は自分の配役さえわからないまま、マユたちを探して歩き回った。
公園のメインストリートも変わらず賑わっていた。
あの時、雄叫びをあげて散っていった人たちとは、まだ遭遇していない。
ミオネ
「なーんだ、これなら意外と大丈夫じゃ…。」
チカッ、チカッ、
安心しかけた私の視界の隅に、紅い光が入ってきた。
通りの外れ、大きな木と岩の陰から。
ミオネ
「あんな外れに…人が何人も…?」
シュン!シュン!
突然、紅い光が弧を描くと、私の目の1番まぶしいスポットに入ってしまった。
ミオネ
「わッ…!何も見えない…!」
まぶしさで閉じた目をゆっくり開けると、さっきまでいたはずの何人かが消えていた。
ミオネ
「…SFじゃあるまいし、人を急に消すなんてできない…よね…?」
この会場…やっぱりおかしい。
紅い閃光が走るたびに、人が次々に消えていく。
はぐれてしまったマユたちの安否がますます気になる。
?
『こんにちは、楽しんでますか?』
ポン、
ミオネ
「?!!」

ふいに肩を叩かれ、振り向くと、MCのリーリヤさんが笑顔で立っていた。
ミオネ
「はッ…はひ!おおおかげさまでッ!」
(わ…!近くで見ると…もっときれいな方…。)
リーリヤ
『驚かせてごめんなさい、MCのリーリヤです。そんなに緊張しなくても大丈夫よ。』
ミオネ
「あッ…ありがとうございますッ!ミオネと申します!」
リーリヤ
『ミオネさん、今日はお友達と来たの?』
ミオネ
「そ、そうです!幼馴染と一緒に…。」
リーリヤ
『あら?あなた1人だけど、別行動?』
ミオネ
「い、いえ…さっきステージではぐれてしまって…探してるんです。」
リーリヤ
『そう…もしかして、ステージの後ろの方で一緒にいた子?』
ミオネ
「そうです、最後列なのに見えてたんですか?」
リーリヤ
『うん、実は私、ミオネさんに逢うのは2回目だから覚えてたの。』
ミオネ
「え?!」
リーリヤ
『数ヶ月前、私がこの仕事をいただいた時に本社に行って…新人研修を見学させてもらった中でミオネさんを見かけたのよ。まさかここで再会するなんてね。』
ミオネ
「あの時、本社にいらっしゃったんですか?!ごめんなさい、私…全然気づかなくて。」
リーリヤ
『こちらこそ、お邪魔しました。お仕事はどう?』
ミオネ
「社会人は大変なことばかりです…。」
リーリヤ
「1年目は大変よね…あの会社はいい人たちばかりだから大丈夫。きっと慣れるから。』
ミオネ
「確かに、いい人が多いです。」
リーリヤ
『私もデビューして初めてMCを任されて、不安だったけど、いい人たちのおかげで無事にできてるの。』
ミオネ
「えぇ?!初めてなんですか?!あんなに堂々と、オーラがすごいのに…!」
リーリヤ
『そ、そう…?ありがと…。』
リーリヤさんは「別世界の住人のオーラ」とは裏腹に、とても気さくな人だった。
こんなにきれいなのに、謙虚で、弱さを見せる懐の深さもある。
初対面なのに、リーリヤさんの魅力にすっかり引き込まれた。
リーリヤ
『大丈夫?体調がすぐれないの?』
ミオネ
「え…?」
リーリヤさんは、私の額の冷や汗を見逃さなかった。
リーリヤ
『何か気になることがあった?』
ミオネ
「だ、大丈夫です!」
紫のスモークに、紅い閃光、消えていく人々…。
会場に入った時からおかしいだなんて、話してもいいんだろうか…?
まわりは誰ひとり気にしていなくて、私が異常なだけかもしれないし…。
リーリヤ
『大丈夫、話したらラクになるかもよ?』
ミオネ
「…公園の入口のゲートをくぐった時から…何か変なんです…。」
リーリヤ
『ああ、あのゲートね。』
ミオネ
「テスト中のヘルスケア製品だって聞いたんですが、スモークを浴びた時から気分がソワソワして、何となく不安なんです…。」
リーリヤ
『お友達はどうだったの?』
ミオネ
「幼馴染は全員、何ともなくて、かえって元気になってました。」
リーリヤ
『ゲートをくぐる時、何か変わったことがあった?』
ミオネ
「紅いレーザーポインターみたいな光が、私にまとわりついてきたような…。」
リーリヤ
『やっぱりね…。』
ミオネ
「やっぱり?」
リーリヤ
『私が本社であなたを覚えてた理由がわかったの。その紅い光が示した通り、あなたは…。』
リーリヤさんの目つきが急に鋭くなり、腰に忍ばせたハンドドライヤーを私に向けた。

ミオネ
「な…何ですか…これ…?」
リーリヤ
『本社のデータ通りね…新入社員のワク〇ン接種率99%、P〇R検査率99%…。』
ミオネ
「…?」
リーリヤ
『安心して、新製品は正常よ。ただ1人の未接種・未検査を検知できたんだから。』
ギクリ…!
ミオネ
「…ワ〇チン未接種…PC〇未検査…?」
リーリヤ
『そうでしょ…?…人狼さん…?』
(PC〇検査は強制ではありませんよね?!受けたくないです!)
私は、喉元まで出てきたその言葉を、慌てて押さえつけた。
少し前の流行り病で、急いで開発されたワクチ〇やP〇R検査。
人々はまるで義務のように、こぞって接種した。
私は、まだよくわからないものを、周囲の勢いに流されて体内に入れることをためらった。
流行中、未接種とわかった人には、リアルSNS問わず激しい「私刑」が執行された。
それを知っていた私は、流行りがおさまっても決して未接種を他言しなかった…のに…。
ミオネ
(まさか…マユが言ってた”人狼をあぶり出す”って…?強硬手段ってこと…?!)
周囲の空気が平穏から狂気に変わった。
穏やかだった人たちの目が血走り、視線を一斉に私に刺してきた。
私以外、全員が村人だ。
紅い「人狼狩り」の狂気に堕ちた、村人…。
⇒【第5話:異分子の逃走劇】に続く