
【短編小説】『黒い羊と無菌狂』5
⇒【第4話:紅い人狼狩り】からの続き

【第5話:異分子の逃走劇】
<公園>
『アイツダケ ワ〇チン 未接種…ダト…?!』
『空気ガ 読メナイ…和ヲ 乱ス…異分子メ…!』
『アイツ ハ 汚染サレテイルニ 違イナイ!消セ!』
ミオネ
「あ…あ…(ガクガク…)。」
周囲にたちこめる紫のスモークが急に重くなった。
強力な同調圧力が「みんなと違う私」を押し潰しにきた。
チカッ、チカッ、
紅いレーザーポインターは、私にまとわりついて離れない。
未検査、未接種のニンゲンを検知して…。
ダダッ!!
リーリヤ
『追え!人狼を逃がすな!』
『ウォォォォォ!!』
ミオネ
「逃げなきゃ…逃げなきゃ…!」
プシュー!!
村人たちは、手にしたハンドドライヤーから紫のスモークを放ってきた。
これを浴びすぎたら、おそらくマユたちのように狂気に堕ちる。

ミオネ
「身を低くして…ハンカチで口を…ゴホゴホ!」
私はステージで吸った量が少なかったのが幸いし、かろうじて正気を保っていられた。
ミオネ
「ハァ…ハァ…!ダメ…追いつかれ…ない…?」
紫のスモークを吸うと、知能の他に運動能力も低下するの?
追ってくる村人たちと、ケガした私の距離はどんどん遠くなっていった。
ミオネ
「この場は逃げ切れそうだけど…入口のゲート…どうやって突破しよう…?」
チカッ、チカッ、
ミオネ
「まぶしい…!…新しいレーザーポインター…?!」
最初の追手からは逃げ切ったのに…いったいどこから…?
チカッ、チカッ、
ザシュッ!
ミオネ
「危ない!」
私の右側から、ふいに紅い斬撃が飛んできた。
この辺のお客さんは、まだ誰も狂気に堕ちていないように見えるのに。
ミオネ
(いったい誰が…?)
?
(ニヤリ…。)
ステージではぐれた幼馴染の1人が、右側の岩陰からハンドドライヤーを構えていた。
ミオネ
(あの子まで…ウソでしょ…?幼馴染でも容赦なし…?)
助けたいが、ああなったらもう連れて逃げるわけにはいかない。
今の彼女は”正常な”村人。
狩られるべき異分子は人狼=私だから…。
ダダダッ!
ミオネ
(私以外、全員が狙ってくると思わないとダメね…!)
さっきまで全身が痛かったのに、今は何も感じない。
火事場のなんとやらか、紫の狂気がじわじわ染み込んで麻痺してきたの…?
リーリヤ
『村人の皆さーん!また1人、人狼が見つかりましたよー!!』
ミオネ
「スピーカーから…リーリヤさんの声?!」
リーリヤ
『人狼の皆さん!がんばって逃げ切ってくださいねー!』
会場中のスピーカーからリーリヤさんの声が響いた。
それを聞くと、まだ穏やかだった人たちが豹変した。
『ウォォォォ!!』
『アイツ ハ バイ菌ダ!消セ!!』
ミオネ
(なぜここまで狂って…?リーリヤさんのタレント性?スモークと紅い光の効果?)
いいえ…それはあくまで補助。
本質は、ニンゲンの「群れの異分子をいじめたい本能」だ。
『私たちは仲間なのに、アイツだけワクチ〇未接種?』
『じゃあバイ菌だから何をしてもいい』
ニンゲンの凶暴性に火をつけるには、そんな些細な違いで十分なんだ…。
『ウォォォォ!!』
『アイツ ハ 人狼ダ!排除シロ!』
『アイツ ハ バイ菌ダ!消セ!!』
村人の大群からの狂ったメッセージが、私の背中に突き刺さった。
ミオネ
「きっと正面入口はもう封鎖されてる…なら、裏口しかない!」
地元民だけがわかる、広い公園の秘密の裏口。
これだけ周到に準備してきた運営が見逃すはずがないけど…一か八か行ってみよう!
黙って消されるよりマシ!
◇◇
<公園、裏口近く>
ミオネ
「ハァ…ハァ…もう少し…!お願い、通して…!」
私の全身に酸素不足のアラートが鳴り響いた。
『居タゾ!人狼 ノ 生キ残リ ダ!』
プシュー!
裏口のゲート付近にいた村人たちが、紫のスモークで私を迎撃した。
ミオネ
「やっぱり裏口もダメか…私、ゲームオーバーかも…。」
張りつめていた気が緩み、傷の痛みが再び襲ってきた。
チカッ、チカッ、
もうすぐ紅い斬撃が飛んでくる…あれを受けたら、私はどうなるの?
存在ごと消えるの…?…”バイ菌”…だから…?
チカッ、チカッ、
私の意識が遠のいていった。
ザシュッ!
マユ
『ミオネ!しっかりして!ここから逃げるよ!!』
マユの叫び声で、私は現実に引き戻された。
ミオネ
「マ…ユ…生きてた…の…?」
マユ
『当たり前でしょ?!こんな狂ったヤツらに、私の人生の邪魔はさせない!』
紅い斬撃で消されたのは、私ではなかった。

ミオネ
「マユ…あのステージを…どうやって抜け出して…?」
マユ
『演技よ演技!そうでもしないと人狼扱いされると思って!それでミオネを突き飛ばしちゃって…ほんとごめん!』
ミオネ
「…よかった…マユだけでも…無事で…。」
マユ
『私だけって、どういうこと?!』
幼馴染たちも、MCのリーリヤさんも、紫の狂気に堕ちたことを話した。
マユ
『…かわいそうだけど…私たちだけでも逃げ切らなきゃ!』
ミオネ
「そう…だよね…正気に戻す方法が…ある…かも…。」
マユ
『そう!まず私たちが生き残らないと、その方法も探せないでしょ?!』
ミオネ
「マユ…ありがと…。」
私はマユに支えられ、無人になった裏口のゲートをくぐった。
裏口から市街地までは山道になっていて、高い木に身を隠すことができた。
マユ
『まさか運営が裏口まで固めてるとはね…ほんと危なかった。』
ミオネ
「マユはどうして私が裏口に向かうってわかったの…?」
マユ
『私たち、この山を駆け回って育った幼馴染でしょ?お見通しよ!』
ミオネ
「マユ…!」
マユ
(ソウ…オ見通シ…。)
ミオネ
「え?何か言った?」
マユ
『な…何も!さ、早くスモークが届かないところまで逃げましょ?!』
ミオネ
「う…うん…。」
私はマユに支えられながら山道を抜けた。
村人たちの雄叫びが遠ざかり、ついに聞こえなくなった。
いつも昼寝していた丘が見えると、私の意識はシャットダウンしていった。
⇒【第6話:母に語った夢のため】に続く