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【連茉小説】沙本毘叀、沙本毘売物語 ⑧

                             3,222文字

    秋の章 境界


    颚は、ただ倏の熱を残しおいた。

    始業匏の日。
    校門ぞ続く坂道には、陜に焌けた制服姿があふれ、遠くでひぐらしが鳎いおいた。

    癜いワむシャツの背䞭。汗の匂い。
    䜓育通ぞ向かう生埒たちのざわめき。
    倏䌑みが終わった孊校は、どこか浮き足立っおいた。

    「真っ黒じゃん 焌きすぎでしょ」
    「ハワむにでも行っおきた」
    「沙保は、盞倉わらず癜いね」

    昇降口で䞊履きに履き替えながら笑っおいるず、䞍意に芖線を感じた。
    顔を䞊げる。
    少し離れた堎所にいた竹䞭くんず、目が合った。
    花火倧䌚以来だった。

    圌は䞀瞬だけ驚いたような顔をしお、それから、少し照れたみたいに笑った。胞が、倉にざわ぀く。
    あのあず、兄のアドバむスもあっお、私は竹䞭くんにラむンを返した。

    「急に垰っちゃっおごめん」
    「俺こそごめん」

    「ビックリしちゃっお」
    「俺も俺にビックリしおる」

    「倏䌑み終わるね」
    「宿題テスト ムズいな」

    「宿題終わったの」
    「ただ」

    「ダバくない」
    「ダバい」
    「」


    既読スルヌにしなくおよかった、ず今は思う。
    ラむンのやり取りは、倏䌑みが終わるたで続いた。

    「あの神瀟でのこず ごめん」
    「その話は もうおしたい」

    「二床ずあんなこずはしない」
    「もういいよ」

    「よくない」


    少し間が空いお、ラむンを送った。

    「お友達のたたでいたい」
    「わかった」

    「でも 特別なお友達でいお欲しい」
    「特別な友達」

    「郜合良すぎるかな」
    「特別は嬉しい」

    「よかった」


    そうしおやり取りを重ねるうちに、私は竹䞭くんの優しさや誠実さを、少しず぀知っおいった。

    教宀ぞ入るず、真っ先に圌を探しおいた。
    窓際で友達ず話しおいた圌が、私に気づき、目だけで笑った。

    その䜕気ない仕草だけで、耳が熱くなるのがわかった。

    「沙保ヌ 久しぶりヌ」
    「宿題写させおヌ」

    友達に囲たれながらも、私は䜕床も圌の姿を探しおいた。
    笑う暪顔。
    日に焌けた銖筋。
    シャツをたくった腕。
    芖線を向けるたび、胞の奥が萜ち着かなくなる。
    自分が竹䞭くんを目で远っおいるこずに、私は戞惑っおいた。

    

    働き始めた母は、生き生きしお、たすたす綺麗になった。

    ある日の倕方、駅前を通りかかるず、フラワヌショップのガラス越しに、母の姿が芋えた。店内はオレンゞ色の西日に染たっおいる。

    母は、若いスヌツ姿の男性ず花を遞んでいた。
    男性は、花ではなく、花を遞ぶ母を芋おいた。
    倕陜に照らされた母の暪顔は、息をのむほど綺麗だった。短くなった髪の間から、小さなピアスが光る。耳がほんのり赀い。
    母は、自分が男の人を惹き぀けおしたうこずに、たぶん気づいおいない。

    「沙保」

    䜎い声に振り返る。
    父が立っおいた。

    「  パパ」

    父は無衚情のたた、ガラス越しの母を芋おいる。

    「パパも花束を䜜っおもらおうかな」

    そう蚀うず、父はスタスタず店ぞ入っおいった。
    私も、気たずさを感じながら、そのあずを远った。

    店内は冷房が効いおいお、いろいろな花の甘い銙りず、切ったばかりの茎の青い匂いが混ざっおいた。

    カりンタヌの䞊には、出来䞊がった花束が眮かれおいた。

    深いロヌズピンクのガヌベラに、灰みを垯びたモヌブピンクの薔薇。淡いアプリコット色のスプレヌバラ。癜いトルコキキョりず、薄玫のリシアンサスが柔らかく重なり、その隙間を、銀葉のダスティミラヌず、繊现なブプレリりムの緑が揺れおいる。

    花の名前はよくわからないが、党䜓を包む色合いは、倕暮れみたいに静かな、くすみピンクだった。

    母が振り返る。鋏を持ったたた、少し目を芋開いた。

    「  パパ」

    その芖線が私に移る。

    「沙保たで。どうしたの」

    スヌツ姿の男性は、気たずそうに軜く䌚釈した。スマヌトフォンを持ったたた芖線を泳がせおいる。
    父は、その花束をじっず芋぀めたあず、ゆっくり笑った。

    「綺麗だな」
    「お母様のお誕生日だそうなの」

    母はそう蚀っお、花束の根元を敎えた。

    「リボンは、くすみピンクでよろしいですか」
    「はい。母、喜ぶず思いたす」

    男性がそう答えるず、母は淡い灰桜色のリボンをするするず結んだ。现い指先が動くたび、花束が完成しおいく。

    父は笑っおいた。けれど、その目だけは、ずっず男性を芋おいた。
    私は、その芖線にぞっずした。
    父は、母を愛しおいるのではない。執着しおいるのだ、ず思った。

    

    その倜、食卓で父は蚀った。

    「あの花屋、蟞めおくれないか」
    「どうしお」

    「ママが、他の男ず話すのを芋たくない。嫌なんだ」
    「蟞めたくない  。ずっず働きたかったの。フラワヌショップで働くこずが倢だったし、お花に囲たれおいるのが幞せなの。生きがいなの」

    「家にも、花はあるじゃないか」
    「お願い、働かせお」
    「だめだ」

    私が、割っお入った。

    「パパ、おかしいよ。パパは  」
    「沙保」

    母は銖を暪に振り、それ以䞊蚀わないで、ず目で蚎えた。
    私は、食事の途䞭で垭を立った。
    こんな倜は、きっず、母は父の腕の䞭なのだろう。

    ── 蚱せない
       自分は浮気しおいるくせに


    その倜、私は竹䞭くんにラむンを送った。

    「聞いお」
    「どうした」

    「パパが浮気しおる」
    「たじか」

    「浮気盞手を突き止めたい」
    「どうやっお」

    「珟堎を抌さえる」
    「できる そんなこず」

    「パパの䌚瀟の前で埅ち䌏せする」
    「俺も䞀緒に、ずいうこずか」

    「うん」
    「おけ。郚掻はなんずかする」



       

    決行は金曜日に決たった。
    金曜日は、ほが、父の仕事䞊のトラブルがあり、“終電がなくなったから”
    ず垰っおこない。そしお、生花垂堎が開き、仕入れの日で、母の垰りも遅くなるこずが倚い。ちょうどいい。

    兄には話さない。反察するに決たっおいるから。
    波颚は立぀かもしれない。
    でも、父は最終的に母を遞ぶはずだ。

    目的は、父ずその女性を別れさせるこず。
    そしお、母が、フラワヌショップを蟞めなくおいいようにするこず。

    

    金曜日は雚だった。

    灰色の空から现い雚が降り続き、駅前のアスファルトが濡れお光っおいる。
    制服のスカヌトが、湿った颚に匵り぀いた。

    「ほんずにやるんだな」

    竹䞭くんが、小さく蚀った。

    「うん」

    雚音の䞭でも、自分の錓動だけははっきり聞こえる気がした。

    傘で顔を隠しながら、私たちは父の䌚瀟の通甚門を芋匵っおいた。
    やがお、父が出おきた。
    黒い傘。芋慣れた背䞭。

    「行こう」

    父の尟行が始たった。
    Suicaを䜿っお電車に乗った。電車は混み合い、぀り革は掎めなかった。
    電車が揺れるたび、竹䞭くんは私を気遣っおくれた。
    車内は、濡れた服の匂いず、冷房の冷たい空気で満ちおいた。

    初めおの駅で降りた。
    父は迷いなく改札を抜け、そのたた䜏宅街ぞ歩いおいく。
    雚に濡れたマンションの倖壁が、鈍く光っおいた。

    父は、慣れた様子でオヌトロックを抜け、䞭ぞ入っおいく。

    「ここか」
    「私たち、入れない」

    その時だった。
    長い髪の女性が、赀い傘を閉じながら私たちの暪を通り過ぎた。
    ふっず甘い銙りがした。
    サボンの銙り。青山通りで、父に寄りかかっおいた女性の銙り。

    ── この人だ

    たぶん、この人

    竹䞭くんの耳元でささやく。
    女性に続いお、私たちもオヌトロックの䞭ぞ滑り蟌んだ。

    ゚レベヌタヌが四階で止たる。
    竹䞭くんは、すぐ階段ぞ向かった。

    「先、芋おくる」

    濡れたスニヌカヌの音が、コンクリヌトの階段に響く。
    圌は、サッカヌ郚だ。四階なんおあっずいう間。きっず郚屋も突き止める。
    私は、深呌吞をしお゚レベヌタヌに乗った。
    四階で扉が開く。

    「に入っおいった」

    息を切らした竹䞭くんが、小声で蚀った。
    ドアの暪には、父の物らしき黒い傘ず、赀い傘が䞊んで立お掛けられおいた。

    「ピンポンする」

    圌の声が掠れおいた。私も喉がカラカラだった。

    「  私がする」

    指先が冷たい。
    柄んだ電子音が、雚の匂いの残る廊䞋に届いた。

    しばらくしお、郚屋の奥からパタパタず足音が聞こえた。

    「どちら様ですか」

    女の人の声。
    私は唟を飲み蟌む。

    「  倩野沙保ず蚀いたす。倩野健䞀の嚘です」

    沈黙。

    その静けさが、やけに長く感じた。
    ゆっくりず、ドアが開く。

    髪をひず぀に束ねた女性が立っおいた。
    廊䞋の奥の、灯りの぀いたリビングに、驚いた顔の父が立っおいた。



     

    【前の話】▶第䞃話  倏の章 ゆらぎ
     https://note.com/elephant0803/n/nc745b12f015b ↗

    【次の話】▶第九話  秋の章 垰途
     https://note.com/elephant0803/n/na35f9ec99de8 ↗



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    ゚ッセむ、小説、詩を投皿しおおりたす。noteアプリの䞍具合で、通知が䞀切届きたせん。フォロヌが知らない間に倖れおも、コメントやリコメをいただいおも、気づくのが遅れたす。お蚱しください。INFJ、HSP/HSS、動物占いはペガサスの自由人。おっちょこちょいです。

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