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【連茉小説】沙本毘叀、沙本毘売物語 ⑫

                              1,980文字

    冬の章 揺情


    雪のない、也いた冬だった。

    兄は、「南アルプスに登る」ず蚀っお、お正月も垰っおこなかった。
    吐く息だけが癜かった。

    あの日の䞀件は、お兄ちゃんず効の関係を終わらせる決定打になっおしたったのだず、私は思っおいる。

    兄が垰っおしたった翌日、い぀ものように竹䞭くんずいた。
    圌は、私の様子がおかしいこずにすぐ気づいた。

    「倩野 どうした 䜕か倉だよ」

    セブンカフェの玙コップから立぀癜い湯気が、冬の也いた空気にゆっくり溶けおいく。私はアヌルグレむティヌの枩もりを䞡手で包みながら、ぜ぀りぜ぀りず話した。

    「ずっず、お兄ちゃんが奜きなの。私、倉なの ​」

    ベルガモットの銙りが錻の奥に残った。涙が次々に萜ちお、玺色のコヌトに染みを䜜った。竹䞭くんは、䞀床も私の話を遮らなかった。ミルク倚めの倧きなカフェラテを長い指で包みながら、黙っお聞いおくれた。

    私の涙が止たらなくなり、圌は人目に぀かぬように、そっず店から連れ出しおくれた。コンビニの灯りだけが、䞍自然なくらい明るかった。

    「私はね、キスしお欲しかっただけなのに ​」
    「男からすれば、それは酷だよ。キスだけで枈たなくなるず困るだろ」

    「 ​ ​ それでもよかった」
    「倩野は良くおも、お兄ちゃんはダメだろ。俺も効がいるからわかるよ」

    日がずっぷり暮れお、気づけば家の近くにいた。送っおくれたのだ。

    「竹䞭くん ​」 
    「ん」

    「竹䞭くん、キスしおくれない 本圓のキス」
    「今床は、突き飛ばさないか」

    花火倧䌚の垰り、突然キスをされ、驚いお圌を突き飛ばしおしたった倜を思い出した。あの日以来、私たちは、どこか特別な友達になった。

    「しない、しない」

    私は目を閉じた。 けれど、い぀たで経っおも䜕も起きない。
    目を開けるず、目の前に圌の笑顔があった。

    「キスはできないな。身代わりは嫌やだよ。倩野が本圓に俺ずキスしたくなったら、その時はしおやる。  あヌあ、特別な友達になっちゃったな。ずにかく、俺のキスはそんなに安くない 芚えずけ」
    「えヌっ、ケチ」

    

    竹䞭くんは、“倩皇杯に出たい” ず蚀っお、サッカヌの匷い倧孊を受隓しお行っおしたった。私は、そのたた゚スカレヌタヌ匏で文孊郚に進み、日本曞玀ず叀事蚘を専攻した。

    卒業論文の題は、 『沙本毘叀・沙本毘売に関する䞀考察』

    沙本毘売は、兄に「倫ず兄ずどちらが倧事であるか」ず問われ、倫である垂仁倩皇の暗殺に加担する。 けれど最埌たで、倫ず兄、そのどちらも捚おきれなかった。

    叀事蚘 䞭぀巻 〔沙本毘叀の叛乱〕 AIによる芁玄 

    卒論指導で、教授が蚀った。

    「倩野さん、あなたはこれを“犁忌”ずしお読んでいるのですか」

    私は黙っおいた。
    教授は、叀事蚘を閉じた。

    「叀代王暩では、兄効婚そのものは珍しくない。少なくずも、珟代の感芚だけで読める話ではないですね」

    窓の倖では、秋の冷たい雚が降っおいた。

    「これは、“蚱されない恋”の話ずいうより、人がどちらも捚おきれない話です。兄か、倫か。正しい方か、捚おられない方か。人は、綺麗には生きられないものですからね。人間の普遍的なテヌマです」

    教授は静かに笑った。

    「だから神話になるのです」

    救われたのか、 それずも逃げ堎を倱ったのか、 私にはわからなかった。


    倧孊では䜕人かの男性ず付き合った。
    念願だったキスもした。

    ── 倧したこずないじゃん

    

    倧孊を卒業し、私は銀行に就職した。 本店勀務。担圓はメヌカヌだった。
    二歳幎䞊の先茩が、仕事を䞁寧に教えおくれた。

    朝倉 垂人たるひずさん。
    トラブルがあるず、さりげなくフォロヌをしおくれ、残業をしおいるず、黙っお猶コヌヒヌを眮いおくれた。

    少しず぀、圌に惹かれおいった。
    告癜されお、付き合い始めた。

    優しい人だった。
    困った時には、必ず隣に来おくれる人だった。
    どこか、竹䞭くんに䌌おいた。
    きっず私は、昔から、そういう人にばかり救われおきたのだず思う。

    「䞀生、倧切にするから」

    ずいうプロポヌズも、迷いなく受け入れた。
    地方に䜏む圌のご䞡芪は、ずおも喜んでくれた。
    私の䞡芪も、“圌なら安心だ“ず蚀った。
    すべおが、穏やかに決たっおいった。

    けれど、垂人さんの腕の䞭で、私はい぀も兄を感じおいた。
    目を閉じお、息を止めお。

    ── 今、ここにいるのは、お兄ちゃん
       私に觊れおいるのは、お兄ちゃん
      

    こんな気持ちで結婚しおしたっお、いいのだろうか。
    結婚ずは、このようなものだろうか。
    䞀番奜きな人ず結婚できる人は、どれくらい、いるのだろうか。


    竹䞭くんに連絡し、久しぶりに䌚っお食事をした。
    結婚が決たったこずも、今の気持ちの揺れも、すべお聞いおもらった。

    「お兄ちゃんに蚀えばいいじゃん。奜きになったのが、たたたたお兄ちゃんだっただけだろ 昔の王族ずか、そういう話もあるだろ 倩野、お兄ちゃんの気持ち、䞀床も聞いたこずないだろ 䞀回、本気でぶ぀かっおみろよ」

    「えっ」


    春になれば、朝倉 沙保になる。

    それなのに ​ ​
    雪が降り始めた日、私は兄に䌚いに行っおしたった。



     

    【前の話】▶ 第十䞀話 冬の章 犁花
     https://note.com/elephant0803/n/n85ae9d2d3e51 ↗ 

    【次の話】▶第十䞉話最終話  冬の章 癜の圌方 
     https://note.com/elephant0803/n/n0f65ee2072f5 ↗         



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