
捨てられないパンフレットを作りたかった VALUES BOOK|活きる空き書籍化への道㊷
大抵の冊子・パンフレットは「ゴミ」になる。
何かの記念にもらっても、数日たったらちょっとした罪悪感も感じつつゴミ箱へ向かう。情報媒体としてはそれでいいのかもしれない。一度サラッと情報を見てもらえたらOKなのかもしれないし、施設や地域内のガイドという役割を果たせばOKなのかもしれない。
でも、印刷費すらも出し渋るような学生チームの活動ではなかなか割り切れない。いっそのこと、「捨てられないパンフレット」を考えてみると面白いんじゃないか?
そう思った。
この記事では、そんな「捨てられないパンフレット」の発想に出会ったときから、作成の顛末、パンフレットの内容について書いていく。
こんな人の参考になったら私は嬉しい。
引退に備えて考え方を見える形で残していきたい。
良いなと思った人に自分たちの軸を伝えるパンフレットをつくりたい。
お金はないけど、面白い広報物をつくってみたい。
例のごとく、学生が見よう見まねで作ったものだ。プロが作るようなクオリティとか、技みたいなものは期待しないでほしい。
ただ、そんな学生が作ったものでも面白いものができた。
だからこそ色んな人が参考にして自分でやってみることもできるんじゃないかと思う。
冊子を作りたくなったのは
「活きる空きプロジェクト」は学生団体のプロジェクトとして動いている。
空き家・空き地・実際にはそうでなくてもそういう印象を持たせる場所。そんな場所を通りかかりの人目線でもプラス印象に塗り替えていく活動だ。
2026年3月。立ち上げた自分が学生でなくなるタイミング。ここが、ひとつの区切りになることは最初から分かっていた。
大学院の卒業が近づくにつれて考えていたのは、コミュニティとしての活きる空きと、学生団体としての活きる空きの棲み分けだった。学生プロジェクトの中に自分がいなくなっても、活動がちゃんと続いていくためには、面白く活動し続けられるようにするには、自分は何を残せるだろうか?
仕組みや人脈もそうだけれど、もっと手に取れる形で「活きる空きらしさ」を伝えられるものはないだろうか。具体的な活動方針とか、どんなものをどこに作るかとか、そういうことは現役学生の試行錯誤のチャンスを奪わないようにしたい。でも…、立上げ人として残しておきたいものは確実にあった。
そんなことを考えていたとき、ある本の一節が目に留まった。人集めに関する書籍を大学院での研究のため読んでいたときのことだ。「パンフレットがゴミにならないように、手元に持っておきたい宝物を目指すといい」という趣旨のことが書かれていて、その事例としてUZABASEという会社の「31の約束(31 Promises)」という冊子が紹介されていた。
「捨てられないパンフレット」
意味の再解釈だ。活きる空きの発想にも近しいものがあり、一気に読み進めた。

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webサイトを訪れてみると、UZABASEは社員数が200人を超えた頃、共通の価値観を言葉だけで共有することの限界を感じて、7つのバリューをさらに具体的な31の行動指針に落とし込んだ冊子を作ったそうだ。ひとつひとつの価値観に対して「DO’s(すべきこと)」と「DON’Ts(すべきでないこと)」を具体的に示し、さらにイラストレーターが各ページに絵を描いている。読み物としても面白いし、デスクに置いておきたくなるクオリティだった。
*今は34の約束になっているらしい。
これだ、と思った。
活きる空きバージョンを作ろう。
タイミングもかみ合っていた
立ち上げから2年間の活動の中で、こういう考え方を持つといい、こういうアイデアの出し方をするといい、こういうアクションを取ると活動がより充実する——そういう実感が積み重なっていた。
それは僕やベテランメンバーの頭の中にはあったもの。活動を一緒にする中で口頭で伝えていったもの。でもその伝えていく機会さえも、形になるものとして言語化して渡さなければ、卒業と同時に消えてしまう。まさに残したいものだった。
だったら、30個の価値観として整理して、冊子にまとめよう。
2025年12月のミーティング
「VALUE BOOK、作るね。」
と突然プロジェクトメンバーにお知らせした。私の突飛なアイデアは日常茶飯事だったので、どんなものをなぜ作りたいのかを簡単に説明すると、普通にOKOKという感じで受け入れられた。さすが活きる空きチームである。

そこから2か月が経ち、「活きる空き 30の価値観 Values Book」が完成したのだ。
B5サイズ。中綴じ。縦向き印刷。40ページ。モノクロページ多め。光沢紙。標準の厚み。15部作って、ラクスルで1冊800円くらいした。
本当は、A5サイズ、横向きにして持ち歩きやすくて、UZABASEの冊子のように見開きでDoとDontが対比されるものにしたかったし、もっと厚い高級感ある紙で作りたかった。もっとお金に余裕があったらできたなぁ…と思うけれど、できる条件の中で、じゃあどう作れば面白くなるかな?を作ることにした。
ここで、完成したものをまるまる公開しようと思う。
ある人が読むと、
絵本みたいで面白いと言った。
ある人が読むと、
アントレプレナーシップの心得だと言った。
ある人が読むと、
活きる空きの活動を思い出せると言った。
あなたにも面白そうだと思ってもらえたら、ぜひ読んでみてほしい。
中身をちょっとずつ解説しようかな。
大きな区分として、MIND・ACTION・IDEAの3つのカテゴリーに10個ずつの価値観を分けて作成した。

MINDは、活きる空きに関わる人として持っておきたい考え方を10個まとめたパート。たとえば「活きる空きに共感してる!」は一番最初に置いた価値観。なんとなく誘われたから来ました、ではなく、自分が本当にいいと思える活動かどうかを確かめるところから始めようというメッセージを込めた。

「私もエンジン」は、誰かが用意した場にただ乗りするのではなく、自分もチームを動かすエンジンのひとつなんだという意識を持とう、ということ。

ACTIONは、活動をうまく進めるための具体的な行動を10個まとめている。「リアクションはコミュニケーション」は、SlackでもLINEでも対面でも、スタンプひとつでいいから反応を返すこと自体が大事な意思表示なんだよ、という話。

「決める!爆上がるミーティング」は、目的が曖昧なまま集まってモチベーションが下がる会議ではなく、何かを決めて活力を持ち帰る場にしようという行動指針だ。

IDEAは、活きる空きとして企画やアイデアを考えるときに軸にしておきたい思考のポイントを10個まとめたパート。
「どんなマイナスが、どうプラスになる?」は活きる空きの企画の出発点そのもので、変化の前後を意図して描くことが企画の芯になるという話。

「ちょっとだけでも日常が変わり続く」は、一瞬だけ盛り上がって元通りではなく、日常の見え方がほんの少しでも上向きにズレ続けるアイデアを大事にしようということ。

UZABASEの31の約束と同じように、ひとつひとつの価値観にDO’s(すべきこと)とDON’Ts(すべきでないこと)を対にして書いた。抽象的な理念だけだと「で、具体的にどうすればいいの?」となるし、具体的な行動だけだと「なぜそれが大事なの?」が見えにくい。両面を書くことで、迷ったときの道しるべとして使えるものになったと思う。
この冊子の作成には、いろんな人を巻き込んだ。
1年目・2年目・3年目それぞれのプロジェクトリーダーたちと一緒にコンテンツを考えた。自分ひとりの経験だけでまとめるのではなく、世代の違う視点を入れることで、特定の誰かの主観ではなくプロジェクトとしての共通認識に近づけたかったのだ。
30×2枚の60枚ものイラストは、僕ひとりで描いたのではなく、仲間の学生と分担して作った。MIND・ACTION・IDEAのそれぞれで異なるタッチのイラストが入っているのは、そのためだ。

このイラストがあるからこそ、「活きる空き 30の価値観 Values Book」は読んでいて面白いもの、OBのお説教みたいな冊子ではないものに出来たかと思う。
印象的だったのは、完成したこの冊子をみんなで読んでいる中で生まれた会話だ。
「何番が好き?」
「わたしは9番の私はエンジンかなぁ」
「それいいよね。」
…これってスゴイことですよ。
わかりますか?
ルールブック的にも受け取れるこの冊子。卒業生の押しつけとも受け取れるこの冊子。大丈夫かなと思って様子を見ていたのに、読んでいる中で「どれが好きか?」が自然に出てくるなんて。
まさにこのvalues bookというシステムの強さだと思う。
捨てられないパンフレットに、できたんじゃないかな。
さて、こう書いている中で、以前記事で紹介した「空きブック」とは意図が対になっていることに気が付いた。
空きブックは、学生団体ISARIBI with のピッチ大会で「活きる空きプロジェクト」が採択された直後に作り始めたものだ。前例もなく、「活きる空き」とは何か?をわかりやすく説明することに苦戦していた時期だ。
協力者を見つけて、具体的な制作活動が始められるよりも前の段階では、「デザインに興味がある」「地域の方と一緒に何かしたい」と言って参加してくれた学生メンバーが動ける余地が少なくなり、つまらなく感じて離れてしまうことを危惧していた。
であれば、と、チームの活動進捗を見える形で作るために作成を始めたものが空きブックだった。とにかくインプットの量、記録の量を積み重ねることに意味があって、ページ数の増加がいざ動かんとする時の自分たちの武器を増やすこと、確実にチームとしての活動が進んでいることを示すことになっていた。
結果として1年で200ページを超える分量になった。分厚くなっていくこと自体が前に進んでいる実感だった。
― Values Bookは、その逆だ。
2年間の活動があったからこそ書けたもので、本質的な価値観だけをぎゅっと絞り込んだ内容になっている。外からのインプットをまとめるのではなく、内側にたまって磨かれたものをアウトプットする内容になっている。
今や300ページをゆうに超える空きブックに対して、「活きる空き 30の価値観 Values Book」はわずか(?)40ページほど。量を増やすのではなく、量を減らすことに時間をかけた。あれもこれもではなく、「これだけは」を選び抜く作業だった。
増やすより、絞る方が難しかったなあ。
空きブックが活動の入口に置かれた"広げるための本"だとしたら、Values Bookは活動の節目に置く"凝縮するための本"だった。
どちらも活きる空きにとって大事なもの。
ただし役割がそれぞれ違うだけだ。
冊子の冒頭にはこう書いた。

「活きる空きプロジェクトが大事にしている価値観。
出身も、強み弱みも、興味もバラバラな人たちが一緒に進める活動だからこそ。共通の軸にもっておきたい「30の価値観」にまとめました。MIND、ACTION、IDEAの3つに区分した価値観をもとにして、活きる空きプロジェクトらしい思考・行動は何か?を示します。
ー(中略)ー
べつに、まだ出来ていなくてもいいんです。でも、これを"目指したい"人たちと一緒に活動できたら最高に楽しくなるだろうなって。」
30の価値観は、守らなければならないルールではない。そういう風に意図してテキストも、イラストも、導入文も意識して書いた。後輩にそう受け取ってもらいたくなかったし、自分自身が現役への押しつけではなく、あくまでも活動の軸を置いておけるようにという目的で作ったものだったから。
活きる空きプロジェクトでは、こういう方向を目指したいよねという共感の軸だ。出身も強みも興味もバラバラな人たちが一緒に動く活動だからこそ、共通の言葉を持っておくことに意味がある。
パンフレットはたいてい、一度読んだら棚の奥にしまわれるか、捨てられる。でも、読み物として面白くて、迷ったときに開きたくなって、イラストもかわいくて——そういう冊子なら、手元に残る。
手元に残れば、ふとしたときに開いてもらえる。
そのたびに、活きる空きらしさが少しずつ染み込んでいく。
捨てられないパンフレットを作りたかった。
それが、Values Bookだ。