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アーケードの女神像│エピローグ「白い廊下を出て」

    アーケードの女神像|第5話「沈まぬ記憶」

    アーケードの女神像│プロローグ「水の音」







    東京に戻ったのは、それから二日後だった。

    海辺の町を発つ朝、
    駅のベンチに座っていた老人に
    「いい顔してるな」と言われた。

    自分では分からなかったけれど──
    何かが変わったのだと思う。


    家に戻ると
    日常は相変わらず同じ音で流れていた。

    電車の音、ビルの影、
    スーパーのレジの音、コンビニのBGM。

    すべてが以前と同じなのに
    耳に入ってくる響きが違って聞こえる。


    まるでレイヤーが一枚、剥がれたように。


    それから数日間、俺は机に向かっていた。

    あの出来事を忘れないように
    手元のノートにすべてを書き綴っていった。


    Kとの過去。

    クレーンゲームの記憶。

    夢に出てきた廊下と女神像。

    崖の上での出来事。

    そして、あのキーホルダー。


    「自分のために書く」

    そんな感覚が、思ったよりもしっくりきた。


    夜になると、
    ときどきあの“白い廊下”の夢を見る。


    だが、それはもう恐怖ではなかった。

    廊下の奥には確かにKがいた。

    以前のように
    黙って、笑って、肩をすくめていた。


    もう何も言わない。
    けれど、その笑みだけで十分だった。


    狭く白く、続く廊下。

    それはきっと
    真実とまっすぐ「向き合う勇気」の
    象徴だったのだろう。


    恐怖をつくっていたのは、いつも自分自身だ。


    Kの死を知ってから
    ずっと俺の中にあった罪悪感と後悔は、
    もう一つの形をしていた。

    あの女神像。水に沈む景品。回転音。

    全ては
    “気づいてほしい”という心の奥の声だった。


    そして──今はもう声はしない。


    ある日、俺は近所のゲーセンに立ち寄った。

    学生たちがワイワイと騒ぎネオンが瞬く中、
    ふと目に入ったクレーンゲームの一台。


    中には白磁風の小さなフィギュア。

    どこかで見たような──
    いや、似ているだけだった。


    俺は100円玉を一枚、ゆっくりと投入した。


    アームが降りる。

    回転する。

    景品は──取れなかった。


    けれど、肩の力が抜けた。

    「それでいい」と思えた。


    取り戻せないものもある。

    でも、それと一緒に生きていくことはできる。


    帰り道ポケットの中で
    あのキーホルダーが小さく揺れた。


    俺はもう、白い廊下を出たのだ。

    ---

    〈終〉

    アーケードの女神像│プロローグ「水の音」


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