メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【連作短編】騒ぐな踊るな先を見ろ 第五話 3つのモード

    〜独断と偏見のエンジニア・キャリア論〜

    インタールード 〜 3つのモード

    キャリアというものを、誠一は後になって三つに分けて考えるようになった。

    1. 打ち込む時期

    目の前の仕事に没頭する。技術を習得する。経験を積む。この時期に手を抜くと、後が続かない。誠一の最初の数年間はこれだった。ネットワークの設定を覚え、端末管理の手順を体に叩き込み、トラブルシューティングを無数に繰り返した。地味な蓄積だったが、それが土台になった。

    2. 探求する時期

    目の前から視線を外し、構造を見る。今何が起きているか、その先に何があるか。柴田の問いを抱えたシンガポールの夜は、誠一の探求期だった。業界の動向を読み、仮説を立て、自分のポジションを再定義する。この時期は、傍から見ると働いていないように見える。評価されにくい。しかし不可欠だ。

    3. 政治とパフォーマンスの時期

    これを認めるのに、誠一は長い時間がかかった。組織の中で動くためには、可視化が必要だ。実力があるだけでは動かない。関係を作り、信頼を蓄積し、適切なタイミングで成果を示す。それは偽りではなく、組織という生き物と共存するための術だ。


    この3つは、順番ではない。繰り返す。
    打ち込んで、探求して、政治して、また打ち込む。螺旋を描くように、同じテーマが違う高さで戻ってくる。

    誠一は、それを意識してやっていたわけではなかった。後から振り返って、そうだったとわかった。キャリアの設計というより、生き残りの本能に近かったかもしれない。


    次の話(つづき)


    目次 連作短編小説 「騒ぐな 踊るな 先を見ろ」

    この記事が参加している募集

     
     
    仕事とAIと人生のバグを、エッセイと小説にしています。 旧アカ名 DP6。 Xでは時事ネタ深掘りやってます。

    あなたへのおすすめ