
恋 (11話/全13話)
『今日の全校集会での挨拶と報告、あとなんだっけ? かっこよかった。「氷の生徒会長」。わたしといる時とは全然違うの。煌の声を聞きながらうっとりしちゃった』
とおこは心底嬉しそうに笑った。とおこの言葉に煌は顔が赤くなった。
『……お、おい。そんな風に言われたら困る……。お前の前じゃあんなの続けられねぇし』
『どうして?』
『……言ったろ? お前の前だと、力抜けんだよ。あの“氷の仮面”が勝手に溶ける。なんかさ、頑張って冷たくしても、お前に見透かされてる気がするんだ』
煌は困ったように笑って続けた。
『お前って時々、核心を突くときがあるからな。誤魔化しがきかねぇんだよ……』
煌はそっと、とおこの手を握った。
とおこの手がピクリと震え、その煌の手を握り返した。とおこは顔が赤くなるのを感じながら嬉しそうに俯いた。
『お前が恥ずかしそうにすると、どうしても目が離せなくなる。俺、普段はこんなに誰かに心奪われることなんてないのにさ……お前だけは、別だ。お前が幸せそうだと、俺まで嬉しくなるんだよ』
『わたしもよ』
『お前の笑顔見るたびに、心の奥が柔らかくなる』
そう言うと煌はとおこの肩をそっと抱き寄せた。とおこは、遠慮がちに煌に凭れた。世界が、ゆるりと揺らめいた。
『……わたし……このまま風になってもいい……』
『……風になんてなるなよ』煌はとおこの肩に置いた手に力を込めた。『お前がいなくなったら俺、誰に気持ちを伝えたらいいんだよ。ここにいろよ、ちゃんと俺の隣に』
『うん』とおこは、肩に回された煌の腕を遠慮がちに抱きしめた。
『……ああ、そんなふうに優しくされたら、息がつまりそうだ。……そんなふうにされると……離したくなくなる……』
『……離さないで……』
とおこは、想いが溢れることをどうすることもできなかった。
煌はとおこの目から零れ落ちる雫を拭った。
とおこは声を上げすに肩を震わせていた。煌はとおこの頭を撫でて言った。
『こんな時間、ずっと続けばいいのにな』
すでに夕闇がふたりを包んでいた。十二月も半ば、通学路から外れた河原の公園にはもうだれも、ふたり以外には人影はなかった。
誠一がテレビのチャンネルを時代劇に変えた。冬子も好きなシリーズである。二人ともシリーズの全部、五十話ほどあるがほとんど知っている。結婚してからも何度も二人で見ていたからだ。それでも、見る。冬子も見る。が、冬子はスマホをチェックしだした。
誠一は、時代劇が始まると少し見てから、チャンネルを変えた。
「あれ? 誠ちゃん、見やへんの?」
「ああ、見たやつやから今日はええわ」
冬子は笑いがこみ上げた。
「いやいや、見たやつって、全話何回も見て、解説もできるよね? 見たやつやからって」
軽やかに笑っている。
「うん、そやけど」誠一もつられて笑う。「ちゃうんねん」
「なにがちゃうねん?」
「この前、つい最近他の局で見たから」
「あ、そういうこと」
二人はまだ笑っている。
結局誠一は何かのドキュメンタリーを見ることにしたようだった。
煌は昇降口で待っていてくれた。
『待った?』
とおこは走り寄った。
『待った』
煌は、はにかんだように、イジワルを言うように小さく笑った。
『ごめん』
『謝んなよ。来ることはわかってたから。ほら、手出せよ』
煌は少し照れながらとおこから目を外した。
とおこが言われたように手を差し出すと、煌はその手を握った。
『……冷てぇ……寒かったんだな……』
煌はとおこの手を両手で包んだ。
とおこは胸まで温かくなった。
『煌……』
呟いたとたんにとおこは、こみ上げてくるものを感じた。
『ん? どうした?』
『ううん……大好きって言いたいだけなのに……なんで涙が出るんだろう……』
煌はとおこの言葉が胸に沁みて、全ての音が遠のいた。
『とおこ……泣くほど思ってくれるなんて、嬉しくて苦しいくらいだ……』
『……煌……』
とおこは涙目で煌を見つめて微笑んだ。
「うえっくしょん!」
(うるさいなあ……)
とおこは煌を、うっとりと見つめていた。
『とおこ……そんな顔されたら……』
煌はそっと、とおこの頬に触れて続けた。
『……誰にも渡さない……』
とおこは、頬に触れる煌の手を包み込むように自分の手を重ねた。
『うん……』
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