
イミツキ 第19話 青い目
「聞いたよ!子供を見つけたんだって?」
キタラが店に入ると、太った女が声を上げ、近づいてきた。
キタラは太った女の脇をすり抜け、いつもの窓際の席に座った。
採ったタケノコを机の上に置き、外側の汚れた皮を剥きだした。
少し遅れて、男が店に入ってきた。
「ありがとう、シンワ!
あの母親とは古い知り合いでさ。」
太った女は、男に駆け寄り手を握った。
「そうか。よかったな。」
「あんた、やっぱりいい男だよ!」
太った女は、笑いながら男の肩を叩いた。
男は視線を落とし、かすかに口元を上げた。
すると、他の客たちが男の周りに集まってきた。
客の一人が、男に酒の入ったグラスを差し出した。
「ありがとよ。子供を見つけてくれて」
男は差し出された酒を、一気に飲み干した。
客たちは歓声を上げ、すぐに空のグラスに酒を注いだ。
「あんたもお疲れさん、キタラ。」
太った女が、団子を持って席にやってきた。
白い湯気が立ち昇り、甘い匂いが広がった。
キタラは剥いだ皮を投げ捨て、すぐに団子を口に入れた。
「他の連中はどこに行った?」
男が席にやってきた。
「ああ、森のほうへ行ったよ。
ほんとあんたに頼んでよかった。」
太った女は顔をしかめ、窓の外を見た。
遠くのほうに、大きな森が広がっていた。
* * *
店を出た時には、すでに陽は傾き、空は赤く染まっていた。
キタラはタケノコを抱え、荷台の上に寝転んだ。
タケノコの上に頭を乗せ、透明な石を空へ透かせた。
赤い空には、いつものように透明で丸いものが浮いていた。
男は荷台を引き、街の外へ歩き出した。
街道には人の姿は無く、カラスの鳴き声だけが響いていた。
誰もいない街道を進み、やがて細い畦道に入った。
広大な田畑が現れ、土と草の匂いが鼻に入ってくる。
しばらくすると、緩やかな山道に入った。
荷台がガタガタと大きく揺れ始め、キタラは体を起こした。
直後、カラスの鳴き声が大きくなった。
顔を上げると、先の森で、カラスたちが飛び回っていた。
何かを見つけたように、激しい鳴き声を上げている。
キタラは荷台から飛び降り、森のほうを見つめた。
男も足を止め、キタラと同じ方向を見つめた。
その時、森の方から風が吹き、獣の臭いが流れてきた。
男は荷台をその場に置き、森の方へと走り出した。
キタラもすぐに男のあとに続いた。
奥に進むにつれ、臭いが強くなった。
獣の臭いに交じり、血の匂いも鼻に入ってくる。
周囲の木が根元から折られ、倒れた木には大きな爪痕があった。
突如、前を走る男の足が止まった。
そこには、大きな"何か"が立っていた。
小さな目に、大きな爪。
口元が前に突き出て、全身が毛に覆われていた。
足元には、血まみれの屈強な男たちが倒れていた。
大きな"何か"は唸り声を上げ、牙をむいた。
その先には、一つの小さな影が立っていた。
その人物は、外套を頭から深く被り、"何か"と向かい合っていた。
左右の手に、二本の剣を握り、その口元は、僅かに上がっているように見えた。
キタラは男に体を寄せ、外套の人物を見つめた。
見覚えのある丸い刺繍が、背中で揺れていた。
"何か"は雄たけびを上げながら、外套に太い腕を振り下ろした。
直後、外套の体が沈み、"何か"の体が大きく揺れた。
太い腕が、宙に飛ぶ。
次の瞬間、外套の剣が交差し、一瞬にして"何か"の首が飛んだ。
血飛沫が上がり、"何か"の体が地面に崩れ落ちた。
周囲が静まり返った。
外套は剣に付いた血を払い、ゆっくりとこちらを向いた。
頭に被った外套を下ろすと、中から青く光る目が現れた。
金色の長い髪が風に揺れた。
青い目が、こちらに近づいてきた。
「俺を殺しに来たのか?」
男が低い声を出すと、青い目の足が止まった。
口元を抑え、肩を揺らした。
「まさか。使徒様に用があったんですよ。
今、驚いているところです。」
青い目の剣先が、わずかに揺れた。
「でも、見つけた場合ー」
青い目が刃を返した。
すぐさま、男も腰の刀に手をかけた。
二人は視線を交わしたまま、動かない。
キタラは男の足にしがみ付いた。
しばらくすると、青い目は両手の剣を鞘に戻した。
「冗談ですよ。
用は済んだので、もう帰ります。」
青い目は軽く鼻を鳴らし、男に顔を近づけた。
「子供を連れた、大剣の男。
噂になってますよ。」
青い目がこちらを向き、キタラの体が一瞬震えた。
「では、いずれまた。」
青い目は地面に置いていた荷を背負い、森の奥へと歩き出した。
青い目の背中が見えなくなると、キタラは、倒れている"何か"に駆け寄った。
固くなった体を指でつつく。
すると、一羽のカラスが"何か"の体の上に下りてきた。
顔を上げると、無数のカラスが木の上に止まり、こちらを見つめていた。
キタラは"何か"の体から離れ、男のほうへ駆け寄った。
男は倒れている屈強な男たちの前で、両手を合わせていた。
目を瞑り、小さく何かを呟いている。
キタラは男から離れ、懐からでんでん太鼓を取り出した。
男が動くまでじっと座っていた。
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