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イミツキ 第20話 男の怒号

    雲一つない晴れた日の午後。

    キタラは、小屋の屋根に寝そべり、透明な石を空に透かせた。
    空には、いつものように透明な丸いものが浮かび、その前を鳥たちが飛び回っていた。
    陽の光がキタラの体を温め、瞼が重くなっていく。

    突如、風を切る音がした。

    キタラは体を起こし、音のほうを向くと、男が大きな木に向けて、弓を引いていた。
    矢は、木に立てかけた的を外れ、森のほうへ飛んでいった。

    直後、森の方から叫び声がした。

    荷を背負った老人が、森の入り口で、尻もちをついていた。
    その足元には、矢が刺さり、男に向かって声を上げている。

    男は再び弓を構えた。

    「ちょっと待たんか!」

    老人が突き出た腹を揺らし、走ってきた。

    「お前、何をやっとるんだ?」

    「いや、狩りでもしようかと。」

    キタラは屋根から飛び降りて、老人に駆け寄った。
    老人は膝をつき、キタラの頭に手を乗せた。

    「おお、キタラ。元気でやってるか?」

    キタラは老人の手を払い、手を前に出した。
    老人は小さく笑い、懐から飴を取り出し、キタラの手の上に乗せた。
    口の中に入れると、甘い味が広がり、喉の奥から高い音が鳴った。

    男は再び弓を構え、矢を放った。
    矢は的の端をかすめ、また森の方へ飛んでいった。

    「軸がぶれとる。腕の力だけでやるな。」

    老人は男の腰を強く叩いた。
    男は頷き、再び矢を放つと、今度は的の中心に刺さった。

    矢が的に当たった瞬間、突如、頭の奥が疼き出した。
    どこからか、誰かの笑い声が聞こえてくる。

    次の瞬間、腕に鋭い痛みが走った。
    腕を抑え、膝をつく。
    そこには深い古傷があった。

    「おお、昔より素直になったな。」

    老人が声を上げて笑った。

    「もう一度やってみろ。」

    男が再び矢を構えた瞬間、突然、口の中で肉の味が広がった。
    キタラの足が前に動いた。

    気付くと、キタラは的の前に飛び出していた。
    矢の先端が、目の前に迫ってくる。

    体の奥に、鈍い音が響いた。
    直後、腹が焼けるように熱くなった。

    口の中で血の味が広がり、うまく呼吸ができない。
    喉の奥で、かすれた音が漏れ出した。

    「おい!」

    耳元で男の声が聞こえた。
    うっすらと男の顔が見え、キタラは自然と手を伸ばした。

    目の前が薄くなっていく。
    体の感覚が無くなり、体が沈んでいく。

    ........

    ........

    ........


    突如、目の前に、天井が現れた。

    起き上がると、すぐ側に男と老人が座っていた。
    二人は目を見開き、その場にぴたりと固まり動かない。
    血に塗れた二人の手が僅かに震えていた。

    キタラの腹には、血に塗れた布が押しあてられていた。

    「...あり得ん...」

    老人が震える手で、キタラの腹に触れた。
    いつもの腹だった。

    その時、男の手がこちらに伸びた。

    「何やってる!」

    男がキタラの襟を掴み、顔を近づけた。

    「死にたいのか、お前!」

    キタラの体が跳ね上がり、男の手を払おうと、激しく体を動かした。
    男の指がさらに食い込んだ。

    キタラは、着物を脱ぎ捨て、男の手からすり抜けた。
    そのまま小屋の隅に駆け出した。

    男が追ってくると、置いてある鍋を男に投げつけた。
    鍋は重く持ち上がらず、床を転がり、柱に当たった。
    天井からぱらぱらと、木のクズが降ってきた。

    「落ち着け、シンワ!」

    老人が男の肩を掴んだ。
    男は唇を嚙み、その場で立ち止まった。

    大きく息を吐き、天井を見上げた。

    「...倒れたとき、俺に手を出したでしょう。」

    男がかすれた声を出した。

    「あ、ああ。そうだな。」

    「飯をくれって合図なんです。」

    男はそう言って、そのまま小屋の外へと出ていった。
    小屋の扉が閉まり、部屋は急に静かになった。

    キタラは床に落ちた着物を羽織り、部屋の隅で寝ころんだ。
    老人はキタラの背中を見ながら、小さく何かを呟いた。


    * * *

    その日の夜。
    キタラは木の上で横になり、でんでん太鼓を鳴らしていた。
    小屋の扉が開き、男が出てきた。

    「キタラ、飯だ。」

    その手には、串に刺さった肉が握られていた。
    キタラの体が一瞬動いたが、すぐに背を向け、再びでんでん太鼓を鳴らした。

    「随分嫌われたな。」

    老人は笑いながら、扉から出てきた。

    「キタラや、食べるか?」

    老人の手には、団子があった。
    老人はキタラを見ながら、ゆっくりと団子を口に入れた。

    キタラは木の上から飛び降り、老人の背中に飛び乗った。
    老人の手から、団子を奪い、勢いよく齧りついた。

    「ほれ、ゆっくり食べろ。」

    老人はキタラを背負ったまま、小屋の中へ入って行った。

    小屋の中に入ると、鉄板の上で、肉と野菜が音を立てていた。
    白い湯気が立ち昇り、肉の焼ける匂いが鼻に入ってくる。

    「今日は米もあるぞ。」

    老人が、茶碗に米をよそい、キタラに渡した。
    キタラは白い米粒をじっと見つめ、立ち上がる湯気に息を吹きかけた。

    「これを使え。」

    男はキタラの手の上に、小さな匙を置いた。
    腕を掴み、匙を口元に運んだ。

    「やってみろ。」

    キタラは匙を握りしめ、米の中に突っ込んだ。
    匙の上に乗った米粒の塊を、口の中に放り込んだ。

    「おお、上手いぞ、キタラ。」

    老人が声を上げ、手を叩いた。

    「…最近、できる事が増えました。」

    男が肉を焼きながら、小さく呟いた。

    「そうか。そうか。」

    老人は何度も頷いた。

    「...今、時間だけはあるので。」

    「いい事だ。お前にとっても。」

    男は焼けた肉を皿に乗せ、キタラの前に置いた。
    キタラは肉に手を伸ばすと、男が皿を手前に引いた。

    「もうあんな事するな。」

    男はキタラの目を見つめた。
    その瞳には、小さな自分の姿が映っていた。

    キタラは皿を掴み、口の中に肉を流し込んだ。


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    普通に働きながら、休みの日に小説書いてます。 映像、舞台問わずエンタメ好き。 趣味で舞台に立ったり、脚本書いたり。

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