
リハビリはゲーム感覚で!19:ストレッチャー《脳梗塞(脳卒中)の“前向き”闘病記 小説風》
第一話はこちらからご覧ください
はじめに
ある朝、突然倒れた和泉大輝(45歳・会社員)。
診断は、脳幹部の梗塞。
体は動かず、声も出ず、世界は一変した。
時は刻一刻と進み、容赦なく迫るタイムリミット。
動かない体に問いかけ、挑み続ける日々が始まった。
「果たして、自分はどこまで取り戻せるのか」
家族の想いが、彼を支え続ける。
次々と立ちはだかる試練。
そして、その先に待ち受ける“新たな現実”。
希望と絶望が交錯する、その瞬間をご覧ください。
本作は、実際の経験をもとにしています。
※本編には、病気、身体の麻痺、生命への不安などセンシティブな描写が含まれます。
心身に負担を感じる可能性のある方は、無理のない範囲でお読みください。
🧠この話には、別記事で医学的見地からの解説があります。物語とあわせて読むことで、脳梗塞の理解がより深まります。ぜひご確認ください。
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脳卒中の経験や知識を分かち合う場を広げています
それでは、本編をどうぞ。
第三部 希望か終焉か ― 七日間の挑戦と門出の春
第19話 「ストレッチャー」
2025年3月12日
午前のリハビリ。
今日も立ち上がりと歩行に挑戦する予定だった。
けれど・・・
右膝を曲げられた瞬間、鋭い痛みが突き抜けた。
「うわああっ!」
思わず叫ぶ。
(なんやこれ・・・膝が爆発するみたいや)
痛みで立つことは断念し、やむなく、座る練習に切り替える。
両脇を支えられながら、なんとか10秒ほど座っていられた。
しかし、森田さんは痛みを心配してか、
「今日はここまでにしましょう」とその日のリハビリは終わってしまった。
(座れたんはよかったけど、ほんまに進んでるんやろか・・・
新しい痛みまで出てきてしもたやん)

落ち込む俺を励ますように、午後は初めての入浴がある。
入院してからはタオルで体を拭くだけ。
だから今朝「お風呂に入れますよ」と聞いてから、ずっと楽しみにしていた。
(でも、どうやって入るんや? 体が動かんのに、ほんまに風呂に入れるんか?)
浴室に着くと、看護師たちが慣れた手つきでベッドから専用のストレッチャーへと体を移す。
そしてなんと、
そのまま、ゆっくりお湯に沈められた。
(おおぅ!体が動かんでもホンマに風呂に入れたで!
これ最初に考えた人、天才やな・・・)
背中から広がる温かさに、思わず声が漏れる。
「ああ・・・最高や」
全身の緊張がふっとほどけ、発症以来、初めて病気のことを忘れられた。
思えば、発症してからの日々は“生き延びること”に必死だった。
常にヨダレで呼吸が苦しくても、
経管栄養で、食事の味も匂いも感じられなくても、
体が汚れていても、痒くても・・・
”命があるだけで十分”
そう思っていた。
けれど、湯に浸かったとき、
布団の上では消えていた体の感覚を、ひしひしと感じることができた。
(あぁ、俺の体は確かにここにある)
そう思えた。
ただ生き延びるだけの日々から抜け出し、“人間らしさ”を取り戻した気がした。
その幸せは、ただ風呂に浸かっただけのこととは思えないほど大きかった。
心の奥に、確かに光が差しこんだ。

「気持ちいいでしょう? お湯の中だと関節が柔らかくなって、動かしやすいんですよ」
(なんやて!?
それやったら、左手動かせるチャンスなんちゃうん?)
このチャンスをものにしようと、極楽気分から一気に現実に戻り、
左手に意識を集中し始める。
指、手首、腕に必死に力を込める。
・・・けれど、何度やっても、
左手はお湯に沈んだまま、ピクリとも動かなかった。
風呂上がり、看護師による体勢変えでも膝が痛んだため、検査を受けた。
医師が落ち着いた声で説明する。
「骨には問題ありません。おそらく偽痛風です。関節の中に結晶ができて炎症を起こす病気で、しばらく強い痛みが続くと思います」
(偽痛風て!タイムリミットに加えて、状態異常追加とか、ほんま、なんやねん・・・)
―― 状態異常(デバフ)追加 ――
【右膝の呪い(偽痛風)】
効果:膝が一定角度以上曲がると激痛(現時点ではそれ以上の詳細不明)
解消条件:
・一定時間の経過(努力では解除不可)
(残りターンは限られとる・・・
痛まん範囲でやっていくしかないで)

夜、花菜にLINEを送った。
『今日はお風呂入ったーー!すげー気持ちよかった!すっきり!』
返事はすぐに返ってきた。
『だろうね!浴槽にも浸かれた?』
『いいねえ、あたまもすっきり?』
そんなやりとりの後、恒例の電話タイム。
「先生に診てもらったら、偽痛風やってさ」
「そっか、ならリハビリも一旦中断?」
「別のことやったよー」
「そうなんだね」
「あとさ、左手がまだなかなか動かないんよな。
お風呂やと動かしやすいらしいからやってみたのに」
「そっかぁ、焦らなくてもいいからね
動くようになるからコツコツやっていこ」
花菜の優しい声に、静かに目を閉じた。
(残り6ターンもあるんや。まだ慌てる時間じゃないで)
昔読んだ漫画を思い出しつつ、その日は眠りについた。
【ステータス:2025年3月12日】
• 首:LV4(左右には動く/上下はまだ。安定感UP)
• 右手:LV3(指のグーパーが可能。肩の高さまで持ち上がる)
• 左手:LV0(反応なし)
• 右足:LV2(体重を少し支えられる)
• 左足:LV0(反応なし)
【スキル】
• 見る:LV7(LINEを苦も無く読めている。疲れやすい)
• 聞く:LV10(正常)
• 話す:LV5(会話がスムーズにできるようになった。疲れやすい)
• メール:LV3(スマホ固定時、短文なら1分で返信できる)
• 車いす:LV1(30分座れる)
【その他状態】
• ヨダレ:あり
その頃の花菜
今日もたくさん話したね
何も話してない時間があるけど……
90分以上がんばったね
聴き取りに集中するからわたしも疲れるけど
大輝はもっと疲れるんだろうなー
リハビリリハビリ!
痰をとってもらったら声が出るようになるから
辛さも減るね
ずっとつづけばいいのに
膝痛いの困ったね
せっかくリハビリがんばろってなってる時に……
次の病院は機械があるみたいだから
負担が少なくなるって
今日は初、お風呂に入って喜んでた日
14日、新しい靴届けに行くからね
📖 次回は本編を離れて休憩話。
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物語→理屈→実践で学ぶ、入浴×在宅リハの始め方
「お湯だと動かしやすい」の理由をやさしく解説し、安全第一の“10分お風呂リハ”を提案。家族の見守りポイントや嚥下障害の工夫、環境づくりまで丸ごとガイド。