
リハビリはゲーム感覚で!14:感触《脳梗塞(脳卒中)の“前向き”闘病記 小説風》
第一話はこちらからご覧ください
はじめに
ある朝、突然倒れた和泉大輝(45歳・会社員)。
診断は、脳幹部の梗塞。
体は動かず、声も出ず、世界は一変した。
不安と絶望のなか、支えてくれたのは、
最愛の妻・花菜と3人の娘たちだった。
「家族のために、絶対に立ち上がる」
そう誓った男が始めたのは、“ゲーム感覚”のリハビリ生活だった。
本作は、実際の経験をもとにしています。
※本編には、病気、身体の麻痺、生命への不安などセンシティブな描写が含まれます。
心身に負担を感じる可能性のある方は、無理のない範囲でお読みください。
🧠この話には、別記事で医学的見地からの解説があります。物語とあわせて読むことで、脳梗塞の理解がより深まります。ぜひご確認ください。
それでは、本編をどうぞ。
第二部 声か鼓動か ― 言葉を超えて、届いたぬくもり
第14話 感触
2025年3月7日
ようやく熱が下がった。
これでやっと、自主トレもリハビリも再開できる。
最初に取りかかったのは、“緊急ミッション”「20分間座る」ための下準備。
ベッドのリクライニングを、いつもよりぐっと立ててみた。
不安はあった。
けれど、思っていたよりも、首がしっかりと持ちこたえてくれた。
ほんの数分だけだったけれど、
自分の意思で支えている手応えがあった。
「・・・おお」
小さな声が漏れる。
忘れかけていた感触が、静かに戻ってきたようだった。
(筋肉、まだどっかに残ってたんやな・・・)
作業療法士の益岡さんに報告すると、
「それはすごい前進ですよ」と、目を丸くして言ってくれた。
専門家のその反応に、ようやく自分の変化が“本物”だったんだと実感できて、
(これはレベル上がったやろ)と、
心の中で密かにガッツポーズをした。
“もっとやってみよう“
そんな気持ちが、込み上げてくる。
もちろん、すべてが思い通りに進むわけではない。
今日も、左手はまったく動かなかった。
ティッシュを取ろうと、左手に意識を集中させてみる。
でも、手は、ぴくりとも動かなかった。
こんな当たり前のことすら、このままずっと出来ないのかもしれない・・・
不安は、胸の奥に静かに張りついたままだった。

午後のリハビリ。
いつものように森田さんが声をかけてきた。
「じゃあ、今日はちょっと、自分の力も使って立ってみましょうか」
(・・・立つ?)
(無理やろ・・・ティッシュすら取られへんかったのに)
そう思いながらも、森田さんと笹木さんが両側からしっかりと支えてくれる。
右足に体重が乗った。
膝が震える。
でも・・・
ふと気づいた。
右足は、
自分の力で床を踏みしめていた。
(立てた・・・!!!)

ひとつできるようになると、
なぜか他の動きにも波が伝わる。
右腕が、いつもより軽く感じた。
昨日は肘までしか上がらなかったのに、
今日は肩の高さまで、
ゆっくりと持ち上げられた。
グーとパーの動きも、滑らかになっていて、
命令が筋肉に届いている。
そんな感覚が、確かにあった。
(・・・動いとる)
指先からじんわりと伝わってきた手応えが、
うれしさと一緒に胸に広がっていった。
練習後、『今の俺、汗だくやねん』と自撮りをして花菜に送った。
返信は、
『汗だくの顔、写真撮って送れる?』
(・・・まったく伝わってへんやん)
あまりのズレに心の中でツッコんで、笑ってしまった。
夜は、花菜とテレビ電話。
気づけば、70分以上もたっていた。
声はまだかすれるし、ヨダレも止まらない。
何度も言い直しながらも、
伝えたいことが届いたときには、ほっとした。
(“魔王:発信障害”、口の撃破条件はクリアできた・・・かもしれへんな。)

余韻に浸りながら、
右手を開いて、また握る。
焦らず、このペースでいい・・・
そう思えた。
“緊急ミッション”まで、あと2日。
明日は車椅子に座れるかどうかの確認があるらしい。
今の調子ならきっと大丈夫。
俺は自分を信じることができた。
けれど・・・
翌日、その予定は、
あっけなく崩れることになる。
【ステータス:2025年3月7日】
• 首:LV1→LV3(左右には動く/上下はまだ。数分なら支えられる)
• 右手:LV2→LV3(指のグーパーが可能。肩の高さまで持ち上がる)
• 左手:LV0(反応なし)
• 右足:LV1→LV2(体重を少し支えられる)
• 左足:LV0(反応なし)
【スキル】
• 見る:LV1(片目のみ焦点が合う)
• 聞く:LV10(正常)
• 話す:LV2(何度もいい直せば、伝わる)
• メール:LV1(スマホ固定時、短文入力に10分以上)
【その他状態】
• ヨダレ:あり
• 発熱:高熱→回復
その頃の花菜
今日は70分以上もテレビ電話したね
頑張ったね!!
たくさん話したいことがあるんだね
大輝と会話が出来て嬉しいよ
夢の中での楽しいこと
希望にあふれてること
幸せにするために存在してると言われ
そーだそーだ!と盛り上がったこと……
素敵な夢だね
楽しいね
一つ一つの動作や言葉の発し方
考えて動かして
それが楽しいって
そんな大輝の側にいられることが幸せだよ
風邪ひかないようにねと言ってくれたけど
今は頭がいたいよ
わたしも集中して
大輝の言葉を聴いていたからかな
諦めないで
頑張ろうね
はやくあいたいよ
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