
リハビリはゲーム感覚で!15.5:空間《脳梗塞(脳卒中)の“前向き”闘病記 小説風》
第一話はこちらからご覧ください
はじめに
ある朝、突然倒れた和泉大輝(45歳・会社員)。
診断は、脳幹部の梗塞。
体は動かず、声も出ず、世界は一変した。
不安と絶望のなか、支えてくれたのは、
最愛の妻・花菜と3人の娘たちだった。
「家族のために、絶対に立ち上がる」
そう誓った男が始めたのは、“ゲーム感覚”のリハビリ生活だった。
という本編はおいといて、
これは、そんな入院生活前の、かけがえない思い出のお話。
本作は、実際の経験をもとにしています。
※本編には、病気、身体の麻痺、生命への不安などセンシティブな描写が含まれます。
心身に負担を感じる可能性のある方は、無理のない範囲でお読みください。
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それではどうぞ。
第二部 声か鼓動か ― 言葉を超えて、届いたぬくもり
休憩話⑤ 空間
「運転免許の更新通知が届いてたよ」
ある日、花菜がそう言った。
(ああ・・・そうか、もうそんな時期やな)
自分ではポストを確認することもできない今、
その現実をふいに突きつけられたようで、少しだけ胸がざわついた。
(今の俺、更新なんか行けるわけあらへんよな・・・)
そう思いながらも、必死に指先を動かしスマホで調べる。
わかったのは、”やむを得ない理由があれば、更新期限を過ぎても1年以内であれば手続きできる”ということ。
ほっとしたのも束の間、さらに続きがあった。
”脳梗塞などで意識障害や高次脳機能障害の可能性がある場合は、専門医の診断書や検査が必要”
(・・・そりゃそうやんな)
安全のために当然のルールや。
だけど、胸の奥に小さな棘のような不安が刺さる。
(もしかして、もう一生、車に乗られへんかもしれへん・・・)
そんな考えが頭をよぎった。
でも、その不安と同時に、いくつもの“車の思い出”があふれてきた。
星がよく見える夜、花菜と二人で出かけたドライブ。
流星群が来るってニュースを聞いて、あわてて出かけた山の展望台。
着いた頃には風が冷たくて、
「寒っ!」って肩をすくめながら、自販機で買ったカフェオレ。
「え、冷たっ!」
「あれ、ホットのつもりやったんやけど・・・」
「あったかいのがいい・・・」
そう言いながらも、笑ってた花菜の顔を思い出す。
あの時の空、びっくりするぐらい星だらけでな。
俺ら、ただ黙って手ぇつないで、
ずっと見上げてた。
そして、家族5人での旅行。
後部座席で、娘たちがじゃれ合っていた。
最初は笑い声が響いていたのに、いつの間にか・・・
「それわたしの!」
「ちがうし!」
「もっと向こういって!」
「あんたが行って!」とヒートアップしていった。
「もう!やめなさいっ!」
助手席の花菜がぴしゃりと叱る。
その瞬間、車内が一気に静まりかえる。
ルームミラー越しに見えた、ふてくされた娘たちの顔。
ムッとした花菜の横顔。
あの賑やかさが、
あの喧騒が、幸せだった。
車は、俺にとってはただの移動手段じゃない。
家族と過ごす思い出、そのものだ。
もう一度、あのハンドルを握りたい。
もう一度、
家族を乗せてどこかへ行きたい。
焦りはせん。
まずは体をしっかり取り戻して、
医師の診断を受けて、
必要なテストにも合格して、
胸を張って「運転できます」と言える状態になる。
その日まで、リハビリを頑張る理由が、
またひとつ増えた。
病室の天井を見上げて、俺は静かに誓った。
(次は間違えへん。ちゃんとホット、買うたるな)
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