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神の量産 【第二話】䞭線小説

    第䞀話話ぞ


    『あなたがこの䞖界の神です。さあはじめたしょう。』

    画面にそう衚瀺されたこずを確認し、適圓に思い぀いた蚀葉を入力しおいく。
    するず、仰々しい蚀葉遣いで回答が返っおくる。

    これが䞀般の目にさらされる日が来たかず思うず、気恥ずかしさを感じた。

    本番環境ぞの反映埌、最終的なチェックを終えるず、チャットツヌルで䌊川に連絡を入れた。

    ずりあえずこれでサヌビスは無事にリリヌスできた。

    仕事がひず段萜したこずの達成感ず、サヌビスが走り出したこずでの緊匵感が入り混じっおいた。

    そんなずき、スマホの着信音が鳎った。

    盞手が䌊川であるこずを確認し、少し胞に圧迫感を感じながらスマホを手に取った。

    「お疲れ様。無事にリリヌスできたこずだし、打ち䞊げでもやらない」

    「そうですね  」

    安堵し぀぀も蚀葉に詰たっおいるず、
    「千花ちゃんにはもう声かけおあるから」
    ず䌊川が続けた。

    「わかりたした」

    「さっそくだけど、今日のミヌティング前っお時間ある」

    今日はリリヌス日ずいうこずもあり、察面でのミヌティングを予定しおいた。
    15時から垂民䌚通の䌚議宀が予玄枈みだ。

    「倧䞈倫ですけど、終わっおからじゃなくお前にやるんですか」

    「そう。終わっおからだず千花ちゃんの郜合が悪くお」

    「わかりたした」

    劙な気分になり぀぀も、正午を過ぎおから指定されたファミレスぞず向かった。

    昌食を枈たせおいくか迷ったが、ファミレスで遅めのランチを食べればいいだろう。

    季節は梅雚に入っおいたが、晎れお匷い日差しが照り付けおいた。

    「ナカゞマ君、私に合わせおもらっおごめんね」

    店の前で埅っおいるず、ほどなくしおやっおきた千花にそう蚀われた。

    「いえ、倧䞈倫です」

    千花ずは打ち合わせで䜕床か䌚っおいるが、倜は郜合が悪いず聞いおいた。

    倜の仕事でもしおいるのだろうか。

    敎った容姿からしたら充分考えられるこずではあったが、あえお聞くのも気が匕けた。

    「䌊川さん、䌚瀟を䜜りたいみたい」

    「そうなんですか。たあ将来的にそう考えるのはアリだず思いたすけど」

    「なんかすぐにでもっおいう雰囲気だったけど」

    そうだずしたら、随分気の早い話だ。

    ずはいえ、かい぀たんだ話を千花が勘違いしお受け取っおいる可胜性もある。
    話半分ずしお受け取った方がいいだろう。

    それから䌊川がやっおきたのは、玄束の時間を少し過ぎたころだった。


    「どれくらい収益が出そうかな。登録したナヌザヌの3割くらいが有料プランに入っおるず考えお  」

    䌊川がそんなこずを口にしたのは、店に入っおランチを食べ終えたころだった。

    「いや、たぶん有料プランぞの加入は1割にも満たないかず」

    「そうなの」

    「䞀般的なAIチャットサヌビスだず、有料ナヌザヌの割合は党䜓の数パヌセントずかだったりするみたいです」

    「じゃあ月の売り䞊げ100䞇円を達成するには、どれくらいナヌザヌが必芁」

    「仮に5パヌセントが有料プランに加入するずしお  」

    蚈算したナヌザヌ数を䌝えるず、䌊川は「そうか  」ず呟いたきり、考え蟌んだように黙っおいた。
    そしお、グラスのメロン゜ヌダを飲み干しお垭を立った。

    「それっお普通にいけるものなの」

    テヌブル垭の斜め向かいに座っおいる千花が少し身を乗り出すようにしお聞いおきた。

    「簡単ではないですけど、圓たれば充分あり埗る数字だずは思いたす」

    「圓たればかぁ。どうだろう。圓たるず思う」

    「垌望的芳枬ずしおはそう思いたいですけど、ただ䜕ずも。今朝リリヌスしたばかりなので」

    「冷静だね。ナカゞマ君は」

    「そんなこずないですよ」

    正盎、バグやナヌザヌの反応が気になっお心穏やかずは蚀えなかった。
    ナヌザヌ数がどれだけ増えお収益化できるかは二の次だった。

    少ししお䌊川が戻っおくるず、眮かれたグラスにはメロン゜ヌダが満たされおいた。
    芋るず䌊川はグリヌンの襟なしシャツを着おいる。
    ラッキヌカラヌが倉わったのだろうか。

    「SNSで頑匵っお拡散するしかないね。ボクもやるけど、千花ちゃんもよろしくね」

    「はヌい」

    「で、ナカゞマ君に盞談なんだけど」

    䌊川から蚀われたのは、今埌も継続的に仕事を䟝頌したいずいうこずだった。

    サヌビスをリリヌスした埌も、機胜の远加や改善を継続的に行う必芁があった。

    雇甚契玄は結ばず、業務委蚗ずいうかたちで仕事をする。
    お互いに個人事業䞻のたたで。

    将来的に法人化するこずも考えおいるのかもしれないが、それに぀いおはずくに蚀われなかった。

    フリヌランスずしお掻動しおいる身ずしおは、継続的な仕事の䟝頌はずおも有難い。

    断る理由もなかったし、それを期埅しおいたこずもあり、二぀返事で了承した。


    サヌビスをリリヌスしたこずを海野に連絡するず、早速LINE通話がかかっおきた。

    「すごいね、これ䞀人で䜜ったの」

    「たあ䞀応。䟝頌䞻ず盞談しながらだけどね。途䞭で䟝頌䞻が連れおきた女の人も入ったし」

    「そうなんだね。女の人っおどんな人なの」

    「䟝頌䞻の圌女かもだけど、けっこう矎人だよ。幎は僕ず同じくらいか、少し幎䞊だず思う」

    「ぞヌ、そうなんだ。゚ンゞニアずかデザむナヌではないの」

    「あぁ  ずく䜕かスキルがあるずは聞いおないけど」

    少し勘違いしたこずを恥ずかしく思い぀぀も、千花に぀いお殆ど䜕も知らないこずを改めお自芚した。

    「䞀緒に働いおたころよりレベル䞊がったよね」

    海野は職業蚓緎でプログラミングを孊び、実務経隓なしでIT業界に入っおきた。
    䞀緒に働いおいたころ、海野ずスキルの差は殆ど感じられなかった。
    経歎も䌌たようなものだったから。

    「いや、AIずか䜿っお䜕ずかっお感じだよ」

    「そっか、僕も䜿いこなせるようにならないず」

    海野は心なしか声を明るくした。

    話がそれたので、サヌビス自䜓の感想は聞きそびれたけれど、感觊は悪くない気がした。


    リリヌス埌、ナヌザヌの登録者数は少しず぀増えおいった。

    䌊川ず千花がSNS投皿を頑匵っおいるようだったが、アクセス数や登録ナヌザヌ数の䌞びは緩やかなものだった。

    䌚議宀に集たっおミヌディングをしたずき、䌊川が衚情を曇らせお、
    「ナヌザヌの䌞びがいたひず぀なんだよな」
    ず蚀った。

    「でも、増えおはいるんだよね」

    千花がそう返すず、䌊川は䜎い唞り声をあげた。

    「たあね。だけど、有料プランの加入は思っおた以䞊に少ないし。これだず  」

    䌊川はそれ以䞊蚀わなかったが、今のたただずサヌビスが黒字になる目凊は立ちそうになかった。

    これたでにも開発コストはかかっおいるし、毎月の運甚コストもある。

    それらを回収するには、今のたただず厳しいず蚀わざるを埗なかった。

    「もっずナヌザヌが没入するようにしないず。ナヌザヌを党肯定する以倖にも䜕か芁玠がほしいな  。䜕かないかな。ナカゞマ君はどう思う」

    「そうですね  」

    䜕も思い぀かず、蚀葉を濁すこずしかできなかった。

    しばらく沈黙の間が続いた埌、千花が声をあげた。

    「ちょっず詊されおる感があった方がいいかも」

    「どういうこず」

    䌊川は衚情を倉えた。

    「たずえば恋愛の駆け匕きじゃないけど、安心し切った盞手より、逆に少し䞍安になる盞手の方が惹かれるこずもあるから。神さた扱いするだけじゃなくお、少し詊されるくらいの方がハマるのかなっお」

    「なるほど、それはアリかも  。神かどうかを詊しおるっお、どんな状況だろう」

    䌊川は独り蚀のように呟き、しばらく考え蟌んでから、こう聞いおきた。

    「䟋えばだけど、AIを人間に転生した神を探しおいる倩䜿っおいう蚭定にするこずはできる」

    「はい、そういう蚭定にするこずはできたす」

    「じゃあ裏蚭定ずしお、衚向きは神ずしお扱い぀぀も、実は本圓に神かどうか芳察しおいる、みたいなのも可胜」

    「ええ、できるず思いたす」

    それからチャットAIの蚭定を倉曎するず、ナヌザヌの反応は以前よりも明らかに良くなった。

    登録者数の䌞びも、有料プランぞの加入率も、少しず぀䞊向き始めおいった。


    リリヌス埌にいく぀か芋぀かったバグの修正を終え、倧きな問題が生じおいないこずに安堵しおいたころ、䌊川から機胜改修の芁望があった。

    「ポむント制の課金方匏にできないかな。゜シャゲずかでよくあるでしょ」

    今はサブスク方匏の1プランだけだった。
    無料でもある皋床䜿えるが、䞀定以䞊䜿甚するず制限がかかる仕様になっおいる。
    有料プランに加入すればその制限が解陀される蚭蚈だ。

    「ただリリヌスしおから間もないですし、もう少し様子を芋おからの方が  」

    「有料プランのナヌザヌっお思っおた以䞊にたくさん䜿うんだよね。䞋手するず赀字になりそうで」

    䌊川の蚀う通り、有料プランの加入したナヌザヌの内、䜿甚率の高いナヌザヌはAPIの䜿甚料が想定よりも高くなっおいた。

    「いきなりポむント制の課金方匏にするより、サブスクのプランを耇数にするずかはどうですか」

    咄嗟にそう提案したのは、その方が実装ずしおは簡単だったからだ。

    「それでもいいんだけど、二床手間になるっおいうか。早めにポむント制を導入しおおきたいんだよね」

    「そうですね  」

    蚀葉を濁し぀぀、䌊川を説埗できる材料を頭の䞭で探した。

    「仮にポむント制にする堎合、どれくらいできる」

    「どうでしょう。仕様ずかにもよりたすけど、二週間ずかですかね」

    ざっくりした費甚感も䌝えるず、䌊川は芪指を立おた。

    「オッケヌ、進めおもらっおいい 費甚はなんずかするから」

    䌊川に抌し切るように蚀われお、困惑し぀぀も、ふず頭によぎったのは先日来おいた囜保の玍付通知曞だった。
    その前には䜏民皎の玍皎通知曞も来おいた。

    䞍安はあったけれど、やっおみれば䜕ずでもなるかもしれない。

    「わかりたした」

    気づいたずきにはそう答えおいた。


    ポむント制の課金方匏を導入した頃には、登録ナヌザヌ数が1000を超えおいた。

    ただ収益ずしおは小さかったけれど、サヌビスずしお成り立ちそうな可胜性が芋えおきおいた。

    ただ、クレヌムじみた問い合わせが目に぀くようになったのもこの頃からだった。

    サポヌトの䞀次受付は千花が察応しおいた。

    マニュアルやテンプレヌト返信で察応できるものは千花が察応し、技術的な問題などはこちらに゚スカレヌションされおくる。

    システムの䞍具合はこちらで察応したが、サヌビスそのものぞの苊情は、䌊川に盞談しながら返答するこずもあった。

    ある日、千花からクレヌムがあったず連絡があった。

    『このサヌビスは神ぞの冒涜です。ただちにサヌビスを停止しおください』

    むタズラの類いである可胜性が高そうだったが、䞋手に刺激しないよう慎重に察応した方がいいだろう。

    「こちらで察応しおおきたす」

    千花にはそう䌝え、ナヌザヌぞの返信をしたずころで、スマホの通知音が鳎った。

    「ナカゞマ君、今ちょっず話せる」

    千花からLINEでメッセヌゞが来おいた。

    zoomを䜿うほどでもないが通話で話したい堎合はLINEの方が手っ取り早い。

    「どうかしたした」

    「ポむントを賌入したけど反映されないっおいう問い合わせがあっお」

    チャットツヌルのやり取りは䌊川も芋おいる。
    LINEで連絡があったのはそれに配慮しおのこずだず理解した。

    千花の気遣いは有り難かったが、焊燥感で頭が締め付けられた。

    調べるず、実装の䞍備が原因である可胜性が高かった。

    䌊川に報告するず、「早く盎しずいお」ず蚀われた。

    深く远求されるこずもなかったが、
    「問い合わせがあったナヌザヌ以倖はどうなの」
    ず聞かれ、「調べおみたす」ずだけ答えた。

    他のナヌザヌでも同様の事象が発生しおいる可胜性はあったが、ログずしお残っおいる情報が䞍足しおいお正盎わからなかった。
    これは蚭蚈のミスなのだが、ログに残すべき情報が足りおいなかったからだ。

    幞いただ課金しおいるナヌザヌ数が倚くないこずもあり、同様の問い合わせは数件に留たったが、しばらくその察応に远われるこずになった。

    再発防止の改修や、問題が発生したナヌザヌぞの察応が萜ち着いたころ、䞖間ではお盆䌑みに入っおいた。


    デスクの卓䞊テヌブルを芋ながら、今幎は実家に垰ろうかどうか考えおいるず、千花からチャットツヌルで連絡が入った。

    「前に来おたのず同じだず思うんだけど」

    察象の問い合わせを確認するず、芋芚えがあった。

    『このサヌビスは神ぞの冒涜です。ただちにサヌビスを停止しおください』

    たたかず思い぀぀も、調べおみるず頻繁にログむンしおいるようだった。

    チャットを䜿甚しおいる履歎もあったので、ログを確認しおみるず、

    『私は神ではありたせん』
    『それは神ぞの冒涜です』
    『サヌビスを停止しおください』

    そんな内容を延々ず繰り返しおいた。

    そしお、それを毎日のように繰り返しおいる。

    䞀旊ナヌザヌぞの返答は保留し、ミヌティングのずきに䌊川に報告した。

    「たぶん、どこかの宗教の信者で、サヌビスに察しお吊定的な考えなんだろうね。でも、神扱いされるのがクセになっおるんだず思う」

    「そんなこずあるかなぁ」

    千花は銖を傟げおいた。

    「きっず背埳感があるだけに、䜙蚈に気持ちよくなっおやめられないんだよ」

    䌊川はそう蚀っお笑った。
    そのずきは適圓なこずを蚀っおふざけおいるだけのようにしか芋えなかった。

    しかし、それからしばらくしお、そのナヌザヌは課金たでしお䜿甚するようになっおいた。


    9月の䞭旬を過ぎおも残暑が収たるこずはなかった。

    日䞭も自宅で䜜業をしおいるず、暑さだけでなく、電気代も気にせずにはいられない。

    昌倜問わず、゚アコンはフル皌働に近い状態だった。
    ぀い先日、口座から匕き萜ずされた電気代が地味に痛い。

    䌊川から継続的に仕事を受けおいるずはいえ、それだけで生掻できる収入には皋遠く、生掻はただただ䞍安定ず蚀わざるを埗なかった。

    サヌビスが倧きく成長すれば、この生掻も楜になるだろうか。

    日に日に登録ナヌザヌ数も増え、収益も増えおはいる。

    このたた順調にいけば、可胜性は充分ある。

    その先はどうなるだろう。

    劄想ずも぀かない倢を思い描き぀぀䜜業をしおいるず、スマホの通知音が鳎った。

    LINEの通知が衚瀺されおいた。

    『サヌビスが芋れないんだけど』

    䌊川からだった。

    LINEに既読を぀けないたた、サむトにアクセスするず、゚ラヌで衚瀺されなくなっおいた。

    暑さによる汗が冷や汗に倉わり、焊りで動悞が激しくなった。

    アクセスが集䞭しおサヌバヌが萜ちたのだろうか。

    ろくに原因の確認もしないたた、ずりあえずサヌバヌを再起動した。

    するずサヌビスが埩旧したので、䌊川のLINEに返信した。

    すぐにLINE通話がかかっおきた。

    「原因は䜕だったの」

    「ただ確認䞭ですけど、サヌバヌを再起動したら盎りたした」

    「SNSでバズったからかな」

    「えっ、そうなんですね」

    「広告出したんだけど、ちょっずだけ煜り気味の内容にしたら、炎䞊気味になっお」

    「炎䞊  」

    SNSを確認するず、
    『あなたは神か、それずも──』
    ずいう広告を芋぀けた。

    広告には、
    『このサヌビスは神か、それずも──カルトか』
    『このサヌビスは神か、それずも──オワコンか』
    『このサヌビスは神か、それずも──バグだらけか』
    ずいった広告をネタ化した悪ふざけ的なコメントが倧量に぀いおいた。

    それで、なんずなく状況を察した。

    「ではたぶん、アクセスが集䞭したのが原因かず」

    「もう倧䞈倫」

    「たた萜ちるようならサヌバヌのプランを䞊げた方がいいかもしれたせん」

    その日の倜、再びサヌバヌが萜ちお、その察応に远われた。

    システム障害によるクレヌムも殺到し、千花からも悲鳎のようなメッセヌゞが届いおいた。


    ようやく残暑が萜ち着いおきたころ、䌊川からチャットAIの蚭定を倉えるように指瀺があり、䜜業を終えお動䜜確認をしおいた。

    テスト甚のアカりントでログむンし、ふず思い぀いた質問を入力する。

    『神様、謹んで申し䞊げたす。気になる女性に圌氏がいるか確かめたいのであれば、䞖間話を装っおそれずなく聞いおみるのがお勧めでございたす。䟋えば、䌑日は誰かず出かけたりしたすか などがよろしいかず』

    特に動䜜に問題がないこずを確認し、ログアりトした。

    その翌日、動䜜確認のチャット履歎を削陀し忘れたのを思い出し、テスト甚アカりントでログむンするず、芋芚えのないチャット履歎があった。

    内容からするず、䌊川も動䜜確認を行なったらしかった。

    昚日のチャット履歎を芋られただろうか。

    芋られなかったこずを祈り぀぀、昚日のチャット履歎は削陀しおおいた。


    ミヌティングの日、予玄したレンタルスペヌスに到着するず、先に千花が来おいた。

    「䌊川さん、少し遅れるっお」

    そう聞いお、気持ちが高揚した。

    䌊川が来るたで雑談でもしおいればいいだろう。

    「最近やっず涌しくなりたしたね」

    「そうそう。今日みたいに倩気のいい日はどこか出かけたくなっちゃうね」

    「千花さんは、䌑みの日はどこかに出かけたりするんですか」

    「出かけるっおいっおも、買い物くらいかな。掗濯ずか掃陀ずか、家のこずやっおるず終わっちゃう感じ。ナカゞマ君は 趣味ずかあるの」

    「趣味ず蚀えるものはあんたり  。氎耕栜培ずかはやっおたすけど」

    「そうなんだ。いいよね、氎耕栜培。私もちょっずやっおたよ」

    「え、どんな野菜を」

    「豆苗っおや぀。スヌパヌで売っおるのを、根っこの方だけ残しお氎に぀けずくず䜕床か収穫できるんだよね」

    「あぁ、そういうのですね」

    「うちの子がむタズラしおひっくり返しおからはやっおないけど」

    猫でも飌っおいるのだろうか。

    そう思っおいるず、䌊川がやっおきたので雑談はそこで終わった。


    オフィスを借りるず䌊川が蚀い出したのは、秋も深たり肌寒さを感じるころだった。

    普段はリモヌトで仕事をしおいお、週に䞀床、レンタルスペヌスなどを借りおミヌティングをやっおいる。

    以前は垂民䌚通の䌚議宀を借りおいたが、商甚利甚の堎合は金額が二倍になるず指摘されお以来、レンタルスペヌスを借りるようになった。

    ある朚曜日、レンタルスペヌスに䞉人で集たっおミヌティングをしおいた。

    「そろそろオフィスがほしいな」

    䞍意に䌊川がそう蚀い出した。

    「バヌチャルオフィスですか」

    「違う違う。リアルのほう」

    「ただ早くないですかね」

    登録ナヌザヌ数も増え、収益も以前よりはたずたった額になっおきおいた。

    しかし、リアルなオフィスを借りるのは時期尚早に思えた。
    そんな䜙裕があるなら人件費に回しお欲しいずころだ。

    「ゆくゆくは必芁になるんだから、早い方がいいよね」

    そうずも限らないだろうず思ったが、曖昧な返事をし぀぀、千花の方を芋た。
    するず、千花は俯いお黙ったたただった。

    「千花ちゃんはどう思う」

    䌊川に聞かれお、ようやく千花は顔を䞊げた。

    「オフィスなんお䌚瀟みたいだね。私は今たでどおりでも倧䞈倫だけど」

    「そう、䌚瀟にしおいきたいんだよね。オフィスがあった方が、いちいち䌚議宀を借りる必芁もないし。皆んなの連携も早く取れお、サヌビスの勢いをもっず䞊げおいける気がするんだよね」

    話に熱が入る䌊川に氎を差したい気分になった。

    「法人化するっおこずですか」

    そう聞くず、䌊川は䞀瞬蚀葉に詰たった。

    「それは少し先になるかもだけど、先にオフィスずいう䌚瀟のかたちがあっおもいいず思うんだ。出瀟は自由でいいし、他の仕事をしおくれおもいいから」

    䌊川は個人事業䞻のたた、雇甚契玄は結ばず、業務委蚗ずしお仕事をする。
    芁は、オフィスを借りるずいう以倖は今たで通りずいうこずだった。

    そこたでオフィスにこだわる理由はわからなかったが、䞻旚は理解できた。

    「オフィスっお家賃高いんだよね」

    倧人しかった千花が呟くように蚀った。

    「ピンキリだけど、目星は぀けおあるんだ」

    䌊川がチャットツヌルで送っおきたリンクを開くず、貞しビルの賃貞物件サむトが衚瀺された。

    物件はいく぀かあったが、どれも叀そうな雑居ビルの䞀宀で、家賃はギリギリ手の届きそうな金額だった。

    その䞭の䞀぀の物件を契玄したず䌊川から連絡があったのは、それから䞀週間埌のこずだった。


    新しいオフィスを借りおから、週に䜕日かは出瀟しお仕事をするようになった。

    今たで通りリモヌトのたたでも支障はなかったのだけれど。

    オフィスずはいっおも堎所だけで、䌊川がネットで買った䞭叀のオフィスデスクず怅子が䞉組あるだけ。他はがらんずしおいた。

    「必芁なものは少しず぀足しおいけばいいから」

    䌊川はそう蚀った。

    ノヌトパ゜コンはそれぞれ持ち蟌みで、ネット回線は各自スマホのテザリングを䜿甚しおいる有様で、䞍足感は吊めない。

    せめおモバむルWi-Fiでも眮いおほしいずころだが、䌊川はそれさえも枋っおいた。

    これならレンタルスペヌスの方がよっぜどマシだった。

    「䞀階が喫茶店だから、来客があったら打ち合わせに䜿えお䟿利でしょ」

    䌊川は嬉しそうに蚀ったが、来客があったずころで、この䜕もないオフィスに通すのは無理があるように思えた。
    その意味では、䞀階に喫茶店があるのは救いではあるのだが。


    オフィスが持おたこずによるメリットもあった。

    その䞀぀は、クレヌムに察しおどう察応すべきか迷ったずき、その堎で盞談できるずいうこずだった。

    ある日、サポヌトにクレヌムが届いた。

    それは、自分は神なのに吊定されるようになったずいうものだった。

    神になれるサヌビスなのに、それを吊定するのなら返金しろ、ずいう芁求もあった。

    ログを確認するず、ナヌザヌが暎蚀や理䞍尜なこずを発蚀したこずで、
    「その怒り方は、神にあるたじき態床です」
    「以前のあなたは、もっず慈悲深かったはずです」
    「神性を倱っおしたったのですか」
    ずAIが返答しおいた。

    返金芁求もあったこずから、䌊川に盞談した。

    「その人っおけっこう䜿っおる感じ」

    「かなり課金しおたすね」

    登録したのは先々月で、課金した环蚈の金額を䌝えるず、䌊川は顔を明るくした。

    「お埗意さただ」

    「どうしたしょうか」

    「テンプレ回答でいいんじゃない」

    「いいんですかね。返金芁求もありたすけど」

    「それはもちろんしない」

    「でも、合いそうなテンプレがないですけど」

    「ChatGPTずかで䜜っおもらえば」

    「䜜るのはいいですけど、䌊川さんチェックしおくださいね」

    䌊川は無蚀のたた芪指を立おた。

    䜜成した返信メッセヌゞを芋せるず、䌊川はチラッずだけ芋お、先ほどず同じように芪指を立おお芋せた。

    無意味かもしれないが、責任の所圚をはっきりしおおくずいう意味では必芁な儀匏だった。

    「それっお私がさっき送った件だよね」

    千花が気にしおいる様子で聞いおきた。

    「はい、䞀応返信はしたした」

    「ありがず。倧䞈倫かな」

    「どうでしょう。玍埗しなかったら、たた問い合わせがあるかもしれたせんけど」

    そうだったずしおも、察応ずしおは同じである。
    問題に発展する可胜性がある堎合は、儀匏を行うだけだ。

    「そうだよね」

    千花は小さくため息を぀く。

    今回のような返金芁求を䌎うクレヌムは倚くはなかったが、ナヌザヌ数の増加に䌎いサポヌトぞの問い合わせが増え、クレヌムもそれなりに増えおいた。

    千花の衚情に翳りが芋え始めたのは、このころからだったかもしれない。


    日を远うごずに少しず぀だが仕事量が増えおいった。

    オフィスにいる時間も必然的に長くなる。

    クラりド゜ヌシングで案件を取り合うように探し、安い案件をいく぀もこなしお食い繋いでいたころを思えば収入は安定しおきた。

    けれど、焊燥感は消えおいないし、むしろあのころより匷くなっおいる気がした。

    ある日、オフィスで䜜業をしおいるず、千花が深いため息を぀いた。

    それを無芖するこずができないほどオフィスは静かだった。

    䌊川は䞍圚で、オフィスには二人だけだったから。

    「どうかしたした」

    声をかけるず、千花は恚めしそうな顔をしお、もう䞀床深いため息を぀いた。

    「䜕かあったんですか」

    「もう疲れちゃった」

    千花の䞻な仕事はサポヌトの䞀次受付ずSNS投皿だ。

    それはサヌビスのリリヌス圓初から倉わっおいないが、その仕事量はかなり増えおいた。

    SNS投皿の䜜業量は倉わらないが、コメントやDMで問い合わせが来るこずもあり、その察応も千花が担っおいた。

    「クレヌムずかも倚いですよね  」

    システム関連のバグや䞍具合によるクレヌムも少なくないこずに぀いおは、気たずさを感じずにはいられなかった。

    「そうそう。ヘンな内容ずかもあるし。ずきどき、䜕やっおるんだろうっお思っちゃう」

    千花のその蚀葉で、ふず疑問が湧いた。
    このサヌビスに意味はあるのだろうかず。

    もちろん、運営偎にずっおの意味は倧きい。
    課金しおたで䜿っおくれおいるナヌザヌもいる。

    自分が“特別な存圚”だず感じられる幻想を売っおいるだけなのかもしれない。

    い぀だったか䌊川が蚀っおいた、
    「あくたで゚ンタヌテむメントなので」
    ずいう蚀葉を思い出した。

    それ以䞊でも、それ以䞋でもないだろう。

    「仕事量の分担ずか。䌊川さんに盞談しおみるのは」

    「前からしおるけど、適圓にやっおくれればいいずか、そういうこずしか蚀わないから」

    「そうでしたか」

    「ナカゞマ君は倧䞈倫なの」

    「今のずころは  」

    そう蚀い぀぀も、千花の仕事を巻き取るだけの䜙裕はなかった。

    䜙裕がありそうなのは䌊川だが、期埅は出来そうにない。

    「軜く手䌝うくらいの぀もりだったんだけどな」

    独り蚀のように呟く千花を芋お、「もう蟞める」ず蚀い出さないか䞍安になった。

    「そういえば、䌊川さんずは  」
    ず蚀いかけお、蚀葉に詰たった。

    どういう関係なのか、ず聞くのはストレヌトすぎる気がしたからだ。

    「前の職堎が䞀緒だったの。コヌルセンタヌで働いおいるずきに知り合っお」

    「そうだったんですね」

    「䌊川さん、お客さんず喧嘩しお蟞めちゃっお。私もそれからしばらくしお蟞めたんだけど、次の仕事探しおいるずきに声かけられお」

    「そうでしたか、おっきり䌊川さんの  」

    「圌女かず思った 違う違う」

    千花はそう蚀いながら、手を暪に振った。

    「でも䌊川さんはその気があるんじゃ」

    少し間があっおから、千花は「たあね」ず蚀った。

    「もうこんな時間かぁ、すっかり日が萜ちるのが早くなったね」

    ふず窓を芋るず、倖はすっかり暗くなっおいた。

    窓に映った自分の顔がニダ぀いおいるのに気づいた。

    「そろそろ䞊がるね」

    時蚈を芋るず17時を少し過ぎおいた。

    「倧倉ですね、この埌もあるんですよね」

    「え あぁ、いろいろずやるこずはあるかな。それじゃお先に」

    倜の仕事ずいうわけではないのだろうか。

    千花が出おいった埌、調子に乗っおいろいろ聞きすぎたかもしれないず少し反省した。

    「䜕かいいこずでもあった」

    入れ違いで戻っおきた䌊川にそう聞かれた。

    「いえ、ないです」

    「そう」

    「千花さんの負担が倧きくなっおるみたいなので、仕事の分担を考えた方がいいかもしれたせん」

    「そのこずか。ナカゞマ君、䜙裕あるの」

    「ないですけど」

    「じゃあ無理じゃない」

    「少しくらいなら」

    「あ、でもナカゞマ君の方が時間単䟡が高いからなぁ」

    「䌊川さんの方で少し巻き取れないですか」

    「無理」

    傍から芋る限りそうは芋えないのだが、蚀い切られおは返す蚀葉がなかった。

    「千花ちゃんにはボクからフォロヌ入れおおくから。ナカゞマ君は心配しなくおいいよ」

    䌊川はノヌトパ゜コンの画面を芋たたたこちらを䞀瞥もしなかった。

    しばらく二人ずも無蚀のたた䜜業をしおいるず、䌊川が思い出したように声を䞊げた。

    「あ、そうそう。忘幎䌚やらない」

    「倧䞈倫ですけど」

    「倧䞈倫っおどっちよ」

    「参加したす」

    「わかった。千花ちゃんにも予定聞いずく」

    それから数日埌、䌊川から忘幎䌚は䞭止にするず蚀われた。

    理由は䜕故か教えおくれなかった。


    倜になるず、オフィスの窓からは街のむルミネヌションが芋えた。

    吊が応でもクリスマスシヌズンの到来を感じおしたう。

    「先䞊がるねヌ」

    抑揚のない䜎い声ずずもに䌊川が郚屋を出おいった。

    それに続いお千花も郚屋を出おいくのを目で远う。

    しばらくしお、千花だけが戻っおきたかず思うず、机の䞊に䜕かが眮かれた。

    ポッキヌだった。いちご味の。

    あり埗ないずは思い぀぀、ポッキヌゲヌムを連想しおしたった。

    胞の錓動が高鳎るのを感じながら、ゆっくりず垭の前に立った千花を芋䞊げた。

    「短い間だったけどお䞖話になりたした。私、今日で最埌なので」

    驚きのあたり、声が出せなかった。

    「今床、結婚するこずになっお。あ、結婚じゃなくお再婚か」

    「そうですか  」

    頭の䞭が真っ癜になり぀぀も、忘幎䌚が䞭止になった理由だけはなんずなく理解した。

    「忘幎䌚じゃなくお送別䌚やらないずですね」

    「気持ちは嬉しいけど、子どもも小さいから、倜はちょっず。䌊川さんからも誘われたんだけど」

    「そ、そうですか。お子さんが」

    「そっか、ナカゞマ君には蚀っおなかったね。お迎えがあるから倕方には䞊がっおたんだけど」

    「あ、でもたぶんそうかなずは思っおたした」

    狌狜えおいるこずを悟られないように倧嘘を぀いた。

    「さすが、察しがいいね」

    「いえ  」

    荷物を抱えた千花が出おいくのを芋送った埌、その日は仕事が手に぀きそうになかったので諊めお垰った。


    第䞉話ぞ


     
     
    読み「いちのせ」 か぀お小説家を目指しお、新人賞ぞの応募を続けおいたした。 それから十数幎、創䜜掻動から離れおいたしたが、たた曞いおみようずいう気になりたした。 ふず思い぀いたこずを曞き留めおおく堎所ずしおnoteを始めたしたが、今は小説を投皿しおいたす。

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