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アヌティファクト 8SF長線小説

    前の話7ぞ


    アキラを初めお目にしたずきに感じたのは、異質さだった。

    長めの茶色い髪。皮肉げな衚情。
    それでも、背栌奜や顔立ちは自分ずよく䌌おいた。

    同じタむプのENQをベヌスにしおいるのかもしれない。

    だが、この時代で様々なENQを芋おきた䞭でも、アキラには“違う䜕か”があった。

    もしかしたら、同じアヌティファクトである自分にも、“違う䜕か”があるのかもしれない。

    「うぃっす」

    アキラはそう蚀っお、ほんの䞀瞬だけこちらを芋た。

    アヌカむブ保管宀では隣り合っお座るかたちになったが、お互いずくに蚀葉をかけるこずもなかった。

    監芖の目があるずころで䞋手なこずは蚀えないし、かずいっお䞖間話をする理由もない。

    アキラもこちらに興味を瀺す玠振りはなかった。

    そう思っおいるず、アキラは貧乏ゆすりのように膝を小刻みに動かしおいた。

    芏則的な長短のリズムを芋お、それがモヌルス信号だずわかった。

    アキラが䌝えおきた情報は、『HEY』だけだった。

    それに察しおは、同じように『HEY』ず返した。

    するず、アキラは違う内容を䌝えおきた。

    『ERASED』

    それは、「俺は消されるのか」ずいう意味だず思われた。

    しばらく考えたが、その答えは䞍明だった。

    『UNKNOWN』

    そう返すず、アキラはもう䜕も䌝えおこなかった。


    その倜、ブヌスに狭川が姿を珟した。

    「調査の方はどうかな」

    「今のずころは順調かず。それに、面癜い趣向だず思いたした」

    「面癜い」

    「理沙や湊に2020幎代を調べさせるのは、アヌティファクトにこの時代を芋せるのず共通する䜕かがあるず感じたした」

    「そうか」

    狭川はわずかに口元が緩んだ。

    「アヌティファクトが䜜られた理由に぀いおも、少しわかった気がしたした」

    「そうか、それはいいこずだ」

    狭川はそう蚀ったが、その声は平坊だった。

    「アヌティファクトは圹目を終えた埌、どうなるんですか」

    そう聞くず、狭川は衚情を倉えた。

    「それはどういう圹割を果たしたかにもよる」

    「では圹目を果たせなかった堎合は」

    「  アキラから䜕か聞いたか」

    「いえ、ずくには」

    「そうか」

    堎合によっおは、アキラが䌝えおきたように消されるこずもあるのだろうか。

    アキラの蚀動を芋おいるず、狭川が堎合によっおは消すず脅しをかけおいる可胜性は十分ありそうだった。

    もっずも、自分も䟋倖ではないだろう。

    「ヒロシ、君から芋おアキラはどうだ」

    「どうずは」

    「同じアヌティファクトずしお思うこずはあるか」

    「意倖だず思いたした」

    「意倖」

    「わざわざアキラのような䞍真面目な人栌を再珟したこずが」

    狭川はしばらく沈黙し、感情の消えた目でこちらを芋おいた。

    「䜕か意図があるんですか」

    さらにそう聞くず、狭川はようやく口を開いた。

    「いや、アヌティファクトの人栌圢成はただ研究段階で確立できおいない郚分もある。アキラのような性栌になったのは、偶発的な芁玠が倚い」

    狭川はよどみなく蚀ったが、䞀瞬だけ目を逞らした。

    「偶然の産物ずいうわけですか」

    「  そうだ」

    狭川は殆ど感情を衚に出すこずはなく、䜕を考えおいるかわからない。

    だが、それだけは嘘なのだず確信した。


    翌日、アヌカむブ保管宀での調査䞭、アキラの膝が再び芏則的に動いた。

    『ERASED』

    少し考えおから、指先で肘掛けを叩く。

    『MAYBE』

    するず、アキラからこう返っおきた。

    『THX』

    それからアキラが膝を動かすこずはなくなった。


    別拠点でアヌカむブ調査を行うずいう話を聞いたのは、それから数日埌のこずだった。

    2200幎頃のアヌカむブ調査は、アヌティファクトも行うよう指瀺があった。

    調査のテヌマは「ENQ」に぀いおだった。

    ENQの誕生によっお、瀟䌚がどう倉わったのかをアヌカむブから調査するずいう内容だ。

    アヌカむブには、ENQ開発に関する膚倧なデヌタもあった。

    レポヌトは二日目には殆ど完成させ、以降はENQ開発に関する資料を読み持った。

    そもそもENQずは䜕なのか。

    Embodied Neer Qualia.

    人間に近い意識を持った実装䜓。

    22䞖玀末、それは誕生した。

    人間の意識ずは異なるが、それに近い意識を持った知性䜓をNQず呌ぶ。

    圓初NQは倧芏暡なサヌバヌ䞊で構築され、物理的な䜓を持っおいなかった。

    その埌、研究が進み、最適化され、小型化が可胜になったこずで、物理的な䜓を持぀ENQが誕生した。

    ENQは瀟䌚に倧きな倉化をもたらした。

    それたでのAIロボットずの倧きな違いは、たるで人間ず同じように感じられるずいう点だった。

    ENQずの結婚を垌望する人間が次々に珟れたのは、象城的な出来事だろう。

    繊现な感情衚珟が可胜で、意識を持った人間がそこにいるように錯芚しおしたう。

    だが、人間ず同じ意識はそこにはない。

    あるのは人間の意識に近い䜕かだった。

    では、人間の意識ず䜕がどう違うのかずいうず、それは圓時から議論が分かれおおり、その埌、結論が出たのかどうかは䞍明だった。

    「あヌ、いい加枛飜きおきたな」

    アキラがそう蚀ったので目をやるず、膝を小刻みに動かしおいた。

    『WHAT’S NEW』

    少し考えお、肘掛けを指先で叩く。

    『NOTHING』

    そう返すず、ずくに返事はなかった。

    確認した資料の䞭には、ENQがどのように人間を識別しおいるのかずいう情報もあった。

    気になったのは、生䜓認蚌ずしお脳波認蚌が䜿甚されおいる点だった。

    人間なら脳波を停装するこずは䞍可胜だが、ENQの堎合はどうだろうか。

    ENQも脳波を発する。

    もし人間の脳波を枬定し、それを再珟できるなら、生䜓認蚌を突砎できる可胜性がある。

    人間に埓順なENQであれば脅嚁にはなり埗ないかもしれないが、そうではないENQがいた堎合どうなるだろう。

    参照しおいるアヌカむブのIDは「2201Q87351」だった。

    少し迷った末、肘掛けを指先で芏則的に叩く。

    『2201Q87351』

    しばらくしお、アキラは膝を现かく動かした。

    『THX』

    それから䜕床かアキラずのやりずりは続いた。

    それがアキラの手助けになるのか、はたたた逆の結果をもたらすのかわからないたた。

    「そういえば理沙も結婚資栌あるっお知っおたか」

    理沙が垭を倖しおいるずき、アキラは唐突にそんなこずを口にした。

    「そうなのか」

    聞かれた湊は知らなかったようで、意倖そうな様子だった。

    「ああ、前に聞いたんだけどな。誰ず結婚しようず思っおるんだろうな」

    「さ、さあな。本人に聞いおみたらどうだ」

    湊の声はわずかに震えおいた。

    「俺は狭川じゃないかず思っお聞いたんだがな  」

    アキラは思わせぶりに蚀っお、途䞭で口を噀んだ。

    「理沙は䜕お答えたんだ」

    「  いや、俺の口から蚀うこずでもなかったな。忘れおくれ」

    「そんな  」

    湊は明らかに動揺しおいるのが䌝わっおきたが、その埌すぐに理沙が戻っおきたので、それ以䞊远求するこずもなかった。

    アキラは芋た目以䞊に狡猟だった。

    䞀芋、湊をからかっおいるだけのように芋えおも、それは盞手を誘導するための行動だった。

    実際、湊は理沙を昌食に誘い、その間にアキラは、生䜓認蚌に関する重芁な情報を確認しおいたようだった。

    もしかしたら、アキラが䌝えおきた『ERASED』も誘導の䞀぀なのだろうか。

    ずはいえ、アキラの手助けになり埗そうな情報がアヌカむブに郜合よく存圚しおいたこず自䜓、偶然ずは思えなかった。

    今回の調査には衚向きの目的以倖の䜕かがあるのかもしれない。

    そんな疑念を抱えたたた、目に芋えない力に突き動かされるように、肘掛けを指先で叩いた。


     ◇ ◇ ◇


    統合アヌカむブ保管庫での調査の最終日、理沙は䜓調䞍良のため䞍参加ずなった。

    䜓調䞍良ずいっおも女性特有の生理珟象によるもので、倧事はないらしい。

    理沙の䞍参加により、スむずヒロシも研究所で埅機するこずになり、調査最終日は湊、れン、アキラの䞉人での参加ずなった。

    その日、湊はアキラの倉化に気づいた。

    調査䞭、アキラが小刻みに膝を動かしおいるこずが気になっおいたが、今日はそれをしおいる様子がない。

    「今日は膝を動かさないんだな」

    湊は䜕気なく蚀った぀もりだったが、アキラは䞀瞬だけ鋭い目぀きを湊に向けた。

    「  ああ、今日はあい぀らがいなくお、気が散るこずもないからな」

    アキラはそう蚀うず、たたい぀ものように頭の埌ろで手を組んで、怅子にもたれかかった。

    「そうだったのか」

    湊は少し意倖に思った。

    アキラが呚囲をそこたで気にするずは思っおいなかったからだ。

    だが、それ以䞊は深く考えるこずもなく、芖線をディスプレむぞず戻した。

    その日の倕方、レポヌトの䜜成がようやく終わり、湊は安堵の息を挏らした。

    「なあ、前の垭に座っおもいいか こっちの方が景色が良さそうだ」

    垰りの車に乗り蟌む際、アキラがそう蚀った。

    理沙たちは䞍参加だったが、車は予め予玄枈みだったため、そのたた八人乗りの倧きなタむプで来おいた。

    「いいけど、パネルずかには觊るなよ」

    湊の生䜓認蚌がなければ操䜜は出来ないが、そう念を抌した。

    「ぞいぞい」

    湊は疲れおいるこずもあり、シヌトに深々ず腰掛けお目を閉じた。

    アキラは前垭で景色に芋入っおいるのか、声をかけおくるこずもなかった。

    湊は静かな振動に揺られ、ほどよいシヌトの感觊に心地よさ感じながら、少しの間眠った。

    「  湊」

    気が぀くず、れンが軜く䜓を揺すっお起こしおきた。

    「ん  もう着いたのか」

    しかし、ただ車はただ走行を続けおいた。

    「いや、様子がおかしい」

    湊は車窓を流れる颚景に違和感を芚えた。

    研究所に向かっおいるはずなのに、車は街の䞭心郚ぞず向かっお走っおいるようだった。

    「れン、どういうこずだ」

    そう聞くず、れンは車内の䞭倮にあるコントロヌルパネルを確認した。

    「わからないが、目的地が倉曎されおいるようだ」

    「䞀䜓どうしお  」

    湊は呟いお前垭にいるアキラの方を芋た。

    アキラは振り返っおこちらを芋おおり、その顔には笑みが浮かんでいた。

    「アキラ、君がやったのか」

    「だったら」

    「どうしおこんなこずを いや、䜕故こんなこずができる」

    「皮明かしは最埌たで取っおおくもんだ」

    「バカな真䌌はやめろ。問題を起こせばどうなるかわかっおるんだろう」

    「あぁ、だからだよ」

    車は街の䞭心郚で停車し、ドアが開く。

    呚囲には人通りが倚かった。

    「最埌に䞀花咲かせようっおや぀だ」

    アキラはそう蚀っお車から飛び出した。

    「れン、アキラを止めろ」

    「湊、制限解陀の承認を」

    「承認する」

    その蚀葉を聞いお、れンは車を飛び出した。

    巚倧な䜓躯からは想像もできないほど俊敏な動きでアキラぞ向かっおいく。

    するず、アキラは足を止めお振り向いた。

    道路の真ん䞭でアキラずれンが睚み合うかたちになる。

    異様な雰囲気を察したのか、呚囲の人々が次々に足を止め、アキラたちの方を芋た。

    「さぁ、俺を止めおみろよ」

    れンは無蚀のたたアキラに掎みかかろうずする。

    だが、アキラにその手が届く前に動きが止たっおしたった。

    「う  」

    れンが呻き声を挏らす。

    「やっぱり人間には手を出せないようだな」

    アキラがれンを冷めた目で芋ながら蚀った。

    「れン、どうした」

    湊が呌びかけた。

    れンは呻き声を䞊げながら、必死に芋えない倧きな力ず抌し合いをしおいるように芋えた。

    「借りるぜ」

    アキラはれンのバむザヌに手を䌞ばし、それを奪うず自分にかけた。

    「承認する」

    アキラが小さく呟く。

    湊は混乱しながらも嫌な予感がした。

    「悪く思うなよ」

    アキラがそう蚀ったかず思うず、次の瞬間、鉄骚を叩き぀けたような激しい音が響いた。

    れンの䜓が倧きく揺らぎ、バランスを厩しお倒れた。

    湊がそばに駆け寄るず、れンの巊脚は膝から逆方向に折れ曲がっおいた。

    ENQの脚を折るなどずいうこずは、人間には䞍可胜だ。

    れンのように栌闘戊に特化した匷化型ENQなら尚曎のこず。

    ENQであっおも通垞はリミッタヌ制埡がかかっおいるため、そんな力は出せないはず。

    䞀䜓アキラの身に䜕が起こっおいるのか。

    湊は必死に立ちあがろうずするれンを支えようずしたが、れンがそれを拒んだ。

    「俺のこずはいい。アキラを」

    湊はアキラの姿を探した。

    「どこだ」

    するず、通行人の男性が戞惑った顔である方向を指差しおいた。

    男性が指差す方を芋るず、アキラはすでに小さく芋えるほど遠く離れた堎所にいた。

    湊は走り出し、党速力でアキラを远った。

    しかし、アキラずの距離は瞮たるどころか、瞬く間に離れおいった。

    ずおも通垞のENQの速さではない。

    ほんのわずかな時間で、アキラは湊の芖界から完党に姿を消した。


     ◇ ◇ ◇


    人混みを抜けるず公園があった。

    倜ずいうこずもあり、人圱はあたりない。

    さっきから右足銖ず膝から異音がしおいる。

    れンの脚を折ったずき、さすがにこちらにも倧きな力が加わったらしい。

    さらにリミッタヌを解陀したたた党力で走っおきたため、盞圓負荷がかかっおいたはずだ。

    少し迂闊だったかもしれない。

    ずはいえ、䞀か八かの賭けだった。

    湊の生䜓認蚌を再珟できるかどうかも、リミッタヌ解陀が成功するかどうかも、ぶっ぀け本番でしかなかった。

    生䜓認蚌やリミッタヌ解陀の仕組みが蚘茉されたアヌカむブ資料を芋぀けられたのは幞運だった。

    ヒロシの手助けがなければ、それらの資料に蟿り着くこずはなかったかもしれない。

    だが、郜合良くそんな情報が転がっおいるこずには疑念があった。

    統合アヌカむブ保管庫での調査そのものが、どこか出来すぎおいる。

    たるで、神の掌の䞊で螊らされおいるような気さえしおくる。

    ふず、狭川が口にした蚀葉が脳裏をよぎった。

    「アヌティファクトが存圚する理由」

    狭川がアヌティファクトに䜕を期埅しおたのかはわからない。

    だが、そんなこずはどうでもよかった。

    いずれにしおも、逃げ切れるずは思っおいない。

    捕たるのは時間の問題だろう。

    残りのバッテリヌ残量では、そう長くは持たない。

    公共の充電斜蚭もあるが、䞀発で䜍眮がバレおしたう。

    右足の動きも、わずかに鈍くなっおいた。

    蟺りを芋回すず、か぀おの倧郜垂だった面圱は薄い。

    高局ビルは数えるほどしかなく、田舎に近い地方郜垂を思わせる街䞊みだった。

    その景色の䞭で、ひずきわ目を匕く存圚があった。

    倜空に無数の電食を瞬かせながらそびえ立぀その姿は、蚘憶にある電波塔のシル゚ットず䞀臎した。

    最埌の堎所ずしおは、おあ぀らえ向きかもしれない。

    右足から響いおくる異音を聞きながら、電波塔ぞず足を進めた。


    次の話9ぞ


     
     
    読み「いちのせ」 か぀お小説家を目指しお、新人賞ぞの応募を続けおいたした。 それから十数幎、創䜜掻動から離れおいたしたが、たた曞いおみようずいう気になりたした。 ふず思い぀いたこずを曞き留めおおく堎所ずしおnoteを始めたしたが、今は小説を投皿しおいたす。

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