
幼稚園児の秘密のボタン
息子には、秘密のボタンがある。
眠るときに、
お母さんのパジャマのボタンを触るのだ。
眠くなると、
お母さんのボタンを探す息子。
なんともかわいらしい。
そして、わかりやすい。
いわゆる「ライナスの毛布」と同じである。
心理学的には、「移行対象」という正式な名前もあるという。
私の妹の場合は、耳たぶだった。
何回も耳たぶを触らせて、眠らせたことがある。
姪っ子は、二の腕の柔らかい部分だった。
対象は、人それぞれなのだ。
しかし、困った話もある。
お母さんが間違って、ボタンのないパジャマを着ると、
息子は怒るのだ。
頭にきたお母さんが、どうしたか……。

なんと、息子にボタンを与えたのだ!
息子のパジャマのど真ん中に、
ボタンを縫い付けた。
「自分のボタン触っときなさい!」
さっさと寝てしまう母親。
涙ながらに、自分のボタンを握りしめる息子。
困った父親は自分のボタンを差し出すが、
父親のボタンは気に入らないらしい。
少し前の話である。
幼稚園の入園式のこと。
初めて親から離れて、一人で並んでいる。
外から見ても、緊張しているのがわかる。
「頑張れー!」
親は心の中で思った。
その時、父親は見た。
息子の手は、ひしっと制服のボタンを握っていた。
「そうか!不安になった時にも、
このボタンは有効なのだ!」
息子は、自分でも気づかないうちに、
ボタンを触って気持ちを落ち着かせているようなのだ。
眠るときも。
不安なときも。
息子には、秘密のボタンがある。
(おわり)
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