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『マンダリン オリエンタル』 と 『糖朝』 と 『鼎泰豊』

    「香港返還前に行かなくちゃ!」
    と、友人に誘われ、駆け足で訪れた1996年。どうせ行くのであればと、24歳の私が前もって行きかったのは、『糖朝』と『マンダリン オリエンタル』だった。

    1991年に香港で誕生した、香港スイーツを始めとする、粥、点心の名店である『糖朝』の朝粥から一日を始めたかったのに、あまりにも長蛇の列をなしていたことから、その後の予定もあり、後ろ髪をひかれるまま、泣く泣く断念した。

    それならせめて、
    「『マンダリン オリエンタル』だけは外せない!」
    と、時間より早めに待機して、人生初のアフタヌーン・ティーを堪能した。

    1963年に香港でオープンした、ラグジュアリーホテルのサンドウィッチやスイーツ、紅茶がどんなだったか、もう思い出せないけれど、
    「これが、クロテッドクリームなのか!」
    と、ほろほろのスコーンと共に、初めての味わいを噛み締めた。塩味のある濃厚クリームが、ほのかに温かいスコーンの熱でじんわりと溶け出し、舌の上で転がった。甘酸っぱいストロベリージャムも載せて、それまで味わったことのない、塩気と甘さのバランスの良さを感じた。

    現在、ありがたいことに『マンダリン オリエンタル』は2005年、『糖朝』は2002年に日本へ上陸し、東京・日本橋などに出店してくれている。その上、香港の次に行こうとしていた台湾で、一番行きたかった『鼎泰豊ディンタイフォン』まである始末。

    それを知って最初に向かった『鼎泰豊ディンタイフォン』は、1958年に台湾で創業し、1972年から小籠包、点心、麺の店へと転換した名店だ。1996年に、日本(東京・新宿)へ上陸した。

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    火傷に注意!①『鼎泰豊』小籠包
    (写真:筆者)

    湯気漂う小籠包を蓮華の上で小さく開き、熱々の肉汁を啜り、黒酢に浸したきざみ生姜を載せてと、数種類を食べ比べ、大ぶりの海老がごろごろ入った麺を啜り、チャーハンを頬張り、大根餅まで堪能して、仕上げには『マンゴプリン』までいただくのが、いつものコースだ。台湾まで行かずに、この味を堪能できる幸せに、心から感謝だ。

    同様に『糖朝』についても、本店で食せなかった後悔を引きずり続け、再挑戦を果たした今では、すっかりリピーターだ。

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    火傷に注意!②『糖朝五目粥』
    (写真:筆者)

    大きな海老と枸杞の実など、白い粥の上に飾られた見た目の『糖朝五目粥』は、蓮華でひと掬いするたびに、驚きが生まれる。きのこや魚など、沈んで見えていなかった具材たちが、惜しげもなく使われていたことを知る。帆立の貝柱や乾燥桜エビなどの出汁で炊いたであろう優しい味わいが、胃にじんわりと温かく染み渡っていく。粥に満足したら、お待ちかねの『特製マンゴプリン』に舌を冷やしてもらう。娘はマンゴープリンよりも、温かくてさっぱりした、豆腐花の方が好みのようだけれど、私はここの『特製マンゴプリン』に、格別を覚える。バブルの頃の名残りのままに、ごろっとした濃いマンゴーの味わいが、たまらない。

    最後に、『マンダリン オリエンタル』のアフタヌーン・ティーだが、見た目は豪華でとても美しく、何より美味しい。中でもお茶が格別で、私のお気に入りは、『マンダリンオリエンタルブレンド』だ。『オリエンタルラウンジ』以外の店でもオーダーするほど、気に入っている。ほかのお茶も、どれも味わったことのない至福のフレイバーを堪能できる。

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    『マンダリン オリエンタル』アフタヌーン・ティー
    (写真:筆者)

    娘とは大学の卒業試験の後、一年の労いになればと連れ立って行った。春から進学する大学院生活に向け、目紛しく埋め尽くされた1年を思うと、ここで一度、整える時間を作ってあげたいと思ったからだった。

    冬の昏れなずむ空の色と、西陽が当たるティースタンド、高層階から眼下に見下ろす道路や、日銀の円マークに身を竦め、八重洲の高層ビル群の向こうがマジックアワーに色づくのを待っていた。日常の中では考えられないほど、とても贅沢な、ゆったりとした時間だった。

    思い返すと、急ぐように、慌てるように、娘を急かして、育ててしまった。保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校・大学・大学院と、毎年繰り返される学校行事のたびに面倒臭がって、自分の都合に合わせて、自分が楽になりたくて、
    「早く、早く」
    と、何度言ってしまったことだろう。

    親が連れ添える学校行事が、大学院の卒業式のみとなって、過ぎ去った時間を、
    (今だったら、こんなふうにしてあげられたのに)
    と、園服に身を包んでいたころや、ランドセルを背負っていた、幼かったころの娘にもう一度会いたくて、抱きしめたくて、そんなことを思うたび、悲しくもないのに、無性に涙が出てくる。母親とは、なんて勝手な生き物だろう。

    『マンダリン オリエンタル』は、私たち母娘にとって、女同士の会話をする、居心地の良いソファーのような場所になった。これからも、ラグジュアリーが何かを、私たちに教えてくれる、空間であり続けてほしい。そして、お気に入りの『マンダリンオリエンタルブレンド』で、幸せの溜息を漏らす時間を、与えて続けてほしい。

    過ぎ去った時間は、決して戻ってはこない。だからこそ、そのときのベストを尽くすことで、人生を謳歌する悦びを、あなた自身に、与え続けてほしい。

    前章(Songs & Movies)と付録は、エッセイ部門に投稿。
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