
誰も読んでいない資料を、AIで速く作れるようにするところでした。──仕分けは「残す・渡す」に「やめる」を足して3択にする
「この資料、毎週2時間かかっているのでAIで速くできませんか」。ご相談としては、いちばん多い入口です。ところが調べてみると、その資料を読んでいる人が社内にいなかった、ということが起こります。私はあやうく、誰も読んでいない資料を、AIで速く作れるようにするところでした。仕事の仕分けは「残す・渡す」の2択ではありません。「残す・渡す・やめる」の3択です。AIに渡す前に、やめる仕事を先に決める。順番が逆だと、速いムダができあがります。

「速くしたい」の相談で、私が最初に確かめること
生成AIの活用についてご相談をいただくとき、最初の一言はだいたい決まっています。「この作業に時間がかかっているので、速くしたい」。月次の報告書、週次の集計、取引先向けの資料。どれも実在する困りごとです。
私はその場で「では、この手順をAIに渡しましょう」とは言わないようにしています。先に確かめることがあるからです。その仕事は、そもそも続ける価値のある仕事なのか。
多くの会社で、仕事の仕分けは2択で考えられています。自分で残すか、誰かに渡すか。AIが入ってきても構図は変わりません。人に渡すか、AIに渡すかが増えるだけです。きれいに見える2択ですが、大事な選択肢がひとつ抜けています。やめる、という選択肢です。
回覧板の話をさせてください。町内会の回覧板が、隣の家から回ってきます。中を開いて、ハンコを押して、次の家へ回す。正直なところ、ほとんどの人は中身を読んでいません。それでも止まりません。誰も読んでいないことに気づいていないからではなく、止める役の人がいないからです。始めた人はもう町内にいない。回ってくるから、回す。それだけの理由で、何年も回り続けます。
会社の中にも、回覧板になった仕事があります。始まったときには理由がありました。数字を共有したかった、認識をそろえたかった、取引先に求められた。ところが理由のほうが先に消えて、作業だけが残る。読む人がいなくなったことに誰も気づかないまま、毎週きちんと回り続けます。
ここにAIが入ると、何が起きるか。速く回るようになります。それだけです。作る手間は減りますが、読まれない資料が読まれるようになるわけではありません。むしろ「速く作れるようになった」という達成感が、その仕事を続ける新しい理由を足してしまいます。私はこれを、AI導入でいちばんもったいない失敗だと思っています。
ムダをAIで速くしても、速いムダになるだけです。
だから私は、渡す仕事を選ぶ前に、やめる仕事を先に決めることをおすすめしています。順番の問題です。やめるものを外してから残りを渡せば、渡す候補が減り、選ぶのも楽になります。逆にすると、やめるべきだったものまで丁寧に自動化してしまいます。
念のため申し上げると、これは道具の話ではありません。契約しているAIツールを整理する話ではなく、会社の中で回っている仕事そのものを減らす話です。ここを混同すると、ツールの棚卸しで満足したあと、肝心の仕事はそのまま回り続けます。
そしてもうひとつ、見落とされがちな事実があります。やめる判断には、AIの導入を待つ必要がありません。今週決めれば、来週から時間が返ってきます。AI導入の最初の成果は、実はAIを使う前に出るのです。
週報をAIで速くしたい、というご依頼でした
ここからは、支援先で実際にあった出来事をお話しします。なお、複数の支援先での出来事を、1社のモデルケースとして再構成しています。数字もすべて一例としてお読みください。
業務用食材を扱う卸売の会社です。社員は48名。仮にT社長とお呼びします。飲食店を主な取引先にされていて、朝が早く、動きの速い商売です。T社長ご自身も現場に出られる方で、社内にいる時間はけっして長くありません。
最初のご相談は、はっきりしていました。「営業の週報を、AIで速く作れるようにしたい」。
仕組みを聞かせていただきました。営業10名が金曜の夕方に所定のフォームへ入力する。内勤の方が月曜の朝にそれを集計し、体裁を整えて1本の報告書にまとめる。A4で6枚ほど。できあがったものを全社にメールで配り、月曜午後の幹部会でも紙で配布する。内勤の方の月曜午前は、この作業でほぼ埋まっていました。
たしかにAIの得意な形をしています。決まった項目を集めて、決まった型にまとめる。渡せば速くなるでしょう。
ただ、ひとつだけ先に確認させてくださいとお願いしました。「この週報を読んでいるのは、どなたですか」。
T社長は少し考えて、こうおっしゃいました。「私は……正直、最近ちゃんと読めてないですね」。

その場で幹部の方々にも聞いていただきました。5人のうち、直近3回を開いた記憶があるのは1人だけ。しかもその1人は「開いたけれど、冒頭だけ見て閉じた」とのことでした。営業のみなさんにも聞きました。「書いています」「読まれているかどうかは、考えたことがなかったです」。
最後に、私はいちばん効く質問をしました。「直近3回の週報の中身を根拠にして、何かが決まったことはありますか」。
沈黙がありました。誰も思い当たらない。数字は日報のシステムに毎日入っていて、必要なときはそちらを見ている。週報は、その数字を別の形にまとめ直したものでした。
誰かが手を抜いていたわけではありません。読む理由のほうが、静かに消えていただけです。
つまりこの週報は、回覧板になっていました。始めた当時は理由があったはずです。実際、8年前に取引先の増加に対応するために始めた、という記録が残っていました。当時の営業は4名。全員の動きを社長が把握するには、ちょうどいい仕組みだったのでしょう。営業が10名になり、日報のシステムが入り、朝礼の運用も変わった。理由のほうは、とっくに消えていたわけです。
私はご提案しました。「速くするのではなく、いったん止めてみませんか」。
T社長の顔が、はっきり曇りました。無理もありません。返ってきたのは、こんな言葉でした。「やめて何かあったら困る」「営業の活動が見えなくなるのが怖い」「8年続けているものを、私の一存で止めていいのか」。
このためらいは、経営者として真っ当なものだと思います。止めた瞬間に何かが崩れるかもしれない。その責任は社長が負う。だから止められない。多くの会社で読まれない仕事が回り続けている理由は、たぶんここにあります。
そこで、廃止ではなく「2週間だけ止めてみる」という形をご提案しました。期間を区切る。困った人が出たら即座に戻す。戻すことを恥ずかしいと思わない。この3つを先に決めてしまえば、止めるのはただの試しになります。
T社長は少しだけ迷って、「2週間なら」とおっしゃいました。
この一言が出るまでに、20分ほどかかりました。そして決めたあとにおっしゃった言葉が、私には強く残っています。「止めていいかどうか、誰かに聞きたかったんだと思います」。止める判断は、社長にしかできません。だからこそ、ひとりで抱えると重くなる。期間を区切って「試し」にしてしまえば、その重さは半分になります。

翌週の月曜、朝礼でご本人が話されました。「週報を2週間だけ止めます。私が読めていないのに、みなさんに書かせているのはおかしいと思ったからです。困ったら私に直接言ってください。すぐ戻します」。
2週間後、何が起きたか。
何も起きませんでした。「週報はどこですか」と聞いてきた人は、社内に1人もいませんでした。取引先からの問い合わせもありません。営業の動きが見えなくなったという声も、幹部からは出ませんでした。
内勤の方からは、あとになってこんな言葉があったそうです。「毎週、これ誰か読んでるのかなと思いながら作っていました」。読まれていないと薄々わかっていた。それでも自分からは言い出せなかった。作っている側がいちばん先に気づいていて、いちばん言えない。この構図は、どの会社でもよく見かけます。
唯一あったのが、経理からの「訪問件数だけは月末に知りたい」という声です。調べてみると、その数字は日報のシステムにすでに入っていました。週報でなくても取れる数字だったわけです。経理の方には、月末に画面から出力する手順をお渡しして終わりました。所要は5分ほどです。
こうして、内勤の方の月曜の朝から、2時間が返ってきました。8年間続いていた仕事は、2週間の試しで消えました。AIは、まだ1行も使っていません。
残す・渡す・やめる。仕分けを3択にする
T社長の会社で起きたことは、特別ではありません。順番を変えただけです。ここからは、同じことを自社でやる進め方をまとめます。
まず、仕分けを3択にします。
残すは、人が判断する仕事です。値決め、人の評価、取引先との関係づくり、事業の向きを変える決断。社長や幹部が持ち続ける仕事で、渡してはいけません。
渡すは、AIや仕組みに任せる仕事です。毎週決まって発生し、判断がほとんど要らず、出来上がりの形がはっきりしているもの。この3つがそろえば、渡すとよく効きます。
やめるは、そもそも作らない仕事です。ここが今回の主役で、多くの会社でいちばん手つかずのまま残っています。
そして順番があります。やめる → 渡す → 残す。先にやめる仕事を外すと、渡す候補が減って、判断が一気に軽くなります。
やめる候補の典型は、だいたい4つ
これまで支援先で見てきた「やめてよかった仕事」は、おおむね次の4つのどれかに当てはまります。
ひとつめは、読まれない資料です。定例の報告書、月次のまとめ、社内向けの共有資料。作る担当が決まっていて、締切もある。配った先で開かれているかは、誰も確認していません。
ふたつめは、意味の薄い定例報告です。数字を読み上げるだけの朝礼、内容が毎回ほぼ同じ日報、上司への口頭報告。報告した側も、された側も、何かが変わった記憶がない。
みっつめは、惰性の会議です。参加者が多く、議題が「各部署からの報告」で埋まっている会議。誰かの発言を待って、うなずいて、終わる。
よっつめは、成果に直結しない集計です。誰も使わない切り口の集計表、比較のためだけに作られた資料、去年と同じ形式だから作っている一覧。
思い当たるものが、いくつかありませんか。ひとつも浮かばない会社は、まずありません。
やめる候補を見つける3つの問い
候補が挙がったら、ひとつずつ次の問いを当てます。この3つで、ほとんどの仕事は仕分けられます。
問い1:それを誰が読む(使う)のか。 答えが「全社」「関係者」「みんな」だったら要注意です。役職や名前で具体的に言えないものは、たいてい誰も読んでいません。
問い2:読まれた・使われた証拠は、直近3回であるか。 感想ではなく証拠を探します。返信が来た、質問が出た、会議で引用された、それを根拠に何かが決まった。この4つのどれかがあれば、その仕事は生きています。3回さかのぼって何も出ないなら、もう役目を終えています。
問い3:やめたら翌週、具体的に何が起きるか。 ここは想像で構いません。ただし「困る気がする」ではなく、「誰が」「何に」困るかを1文で言えるかを見ます。言えないなら、困りません。

この3つの問いを、社長ご自身の口から出してもらうプロンプトを作りました。移動中に音声入力で使えます。社員に聞き取りをする前に、まず自分の1週間を棚卸しするのに向いています。
あなたは中小企業の業務整理を支援するコンサルタントです。
私は【業種】の会社を経営しており、社員数は【人数】名です。
これから、私が先週やった仕事を思い出しながら話します。
音声入力で話すので、文章が整っていなくても意図をくみ取ってください。
進め方:
1.「先週作った資料」「先週出た会議」「先週出した報告」を、
1つずつ私に質問して聞き出してください。1回の質問は1つだけにしてください。
2. 出てきた仕事それぞれに、次の3つの問いを当ててください。
①それを誰が読む(使う)のか
②読まれた・使われた証拠は直近3回であるか
③やめたら翌週、具体的に何が起きるか
3. 私の答えがあいまいなときは、決めつけずに追加で1つだけ質問してください。
すべて聞き終えたら、次の表にまとめて出力してください。
| 仕事名 | 誰が読む(使う) | 読まれた証拠 | やめたら起きること | 候補度(高・中・低) |
最後に、候補度が「高」のものを上位3件だけ挙げ、
それぞれ「今週やめてみる場合の言い方」を1文ずつ添えてください。出てきた表は、そのまま幹部との相談材料になります。ひとりで抱えて悩むより、表の形で見せたほうが話が早く進みます。
次は、社内の定例資料をまとめて見直すプロンプトです。総務や経営企画の担当者がいる会社なら、その方に一覧を作ってもらってから使います。一覧がなければ、共有フォルダのファイル名を並べるだけでも始められます。
あなたは社内資料の棚卸しを支援するアシスタントです。
以下は、当社で定期的に作成している資料の一覧です。
【ここに資料名・作成頻度・作成担当・所要時間を貼る】
各資料について、次の3点を整理してください。
- 宛先(誰に届いているか。「全社」ではなく具体的な役割で書く)
- 最後に反応(返信・質問・引用・意思決定)があった時期
※不明な場合は「不明」と書き、確認相手を1名指定してください
- 代替手段(この資料をやめた場合、同じ情報をどこで得られるか)
整理したうえで、すべての資料を次の4案のどれかに振り分けてください。
A. 継続(このまま残す)
B. 隔週化(頻度を半分にする)
C. 1枚に圧縮(項目を削って1ページにする)
D. 試行停止(2週間止めて様子を見る)
出力は表形式で、振り分けた理由を各1行で添えてください。
判断に必要な情報が足りない資料は、無理に振り分けず「要確認」とし、
私が誰に何を聞けばよいかを1行で示してください。いきなり全廃を狙わないのが、この4案のいいところです。隔週化や1枚への圧縮という中間があると、現場の抵抗がぐっと小さくなります。
会議も同じように見直せます。次のプロンプトは、定例会議が5本以上ある会社の社長に使っていただきたいものです。会議は人数分の時間が消えるので、効き目が大きく出ます。
あなたは会議体の見直しを支援するアシスタントです。
以下は、当社で開いている定例会議の一覧です。
【会議名・頻度・参加人数・所要時間・主な議題を貼る】
判定の軸は1つだけです。
「直近3回で、その会議の場で決まったことがあるか」
各会議について次を出力してください。
- 直近3回で決まったこと(私が答えられない場合は「確認が必要」と書く)
- 1回あたりの人件費の目安(参加人数×所要時間×【時間単価】円で概算)
- 判定(存続/他会議へ統合/試行停止)
統合を提案する場合は、統合後の会議について次も作ってください。
- 新しい会議名と開催頻度
- 30分で終わるアジェンダ案(項目3つ・各項目の持ち時間つき)
- 統合によって出席が不要になる人
最後に、今月中に手をつけるなら1本だけ、どれからかを理由つきで挙げてください。人件費の概算を出させるのがポイントです。10人が1時間集まる会議は、それだけで数万円を使っています。金額が見えると、話の温度が変わります。
ここで、順番の話に戻らせてください。
これらの見直しを、AI導入のあとにやると効き目が落ちます。すでに自動化した仕事は、やめる対象から静かに外れるからです。「せっかく仕組みを作ったのに」という気持ちが働く。手間をかけたものほど、人は手放せません。
だから、やめる仕事を先に決めます。AIに渡す前なら、その仕事はまだ「ただの手間」です。手間なら手放せます。
繰り返しになりますが、回覧板は、速く回したところで読まれるようにはなりません。速いムダができるだけです。

「やめてみる2週間」という止め方
やめると決めても、いきなり廃止すると社内が身構えます。廃止は取り消しにくく、決めた人が責任を背負うからです。だから私は、必ず「2週間だけ止めてみる」という形にします。
試しに止めるだけなら、決断の重さが変わります。うまくいかなければ戻せばいい。それを最初から織り込んでおけば、社長も現場も肩の力が抜けます。
アナウンスで押さえる4点
告知で伝えるのは4つだけです。止める期間(2週間と明言する)、止める理由(作っている人を責めない書き方で1文)、困ったときの連絡先(社長本人がいちばん効きます)、再開条件(何が起きたら戻すのかを先に言う)。
再開条件は「業務が滞るという声が1件でも出たら、その場で戻します」くらい緩くて構いません。緩くしておくほど、止めやすくなります。実際に戻すことになっても失敗ではありません。その仕事が生きていたと確認できただけで、収穫です。
この告知文をゼロから書くのは、意外に気を使う作業です。書き方ひとつで「上が現場の仕事を軽く見た」と受け取られます。そこで下書きを作らせます。朝礼で読み上げる社長ご本人が、その日の朝に使うイメージです。
あなたは社内広報の文章を書くアシスタントです。
次の仕事を、2週間だけ試しに止めます。
止める仕事:【週次の営業報告書 など】
止める期間:【○月○日〜○月○日の2週間】
困った時の連絡先:【氏名・連絡方法】
社内向けの告知文を作ってください。条件は次のとおりです。
- 400字以内。朝礼で読み上げても不自然でない、話し言葉に近い文体
- 「廃止」ではなく「2週間だけ止めて様子を見る」と伝わる書き方にする
- 止める理由を1文で書く(作っている人を責める書き方にしない)
- 困った場合の連絡先と、その場ですぐ戻せることを明記する
- 再開条件を1行で書く(例:「業務が滞る、という声が1件でも出たら即再開します」)
- 期間終了後に、続けるか正式にやめるかを決めることを添える
文面は3案ください。丁寧め・普通・簡潔の3種類でお願いします。3案出させるのは、社内の空気に合うものを選ぶためです。私の経験では、いちばん簡潔な案が現場にはよく届きます。
困った人が出たときの向き合い方
期間中に「やっぱり困ります」という声が出たら、即座に戻します。ここで粘ると、次に何かを止めようとしたときに誰も協力してくれなくなります。
ただし、戻す前に一度だけ確認します。その困り事は、本当に元の仕事でしか解けないのか。T社長の会社の「訪問件数を知りたい」がそうでした。困り事は本物でしたが、解き方は別にありました。
困り事と、それを解いていた仕事は、別物です。困り事だけを取り出して、いちばん軽い方法で解く。これができると、止めたものの多くはそのまま消えます。
2週間後に判定する
期間が終わったら、続けるか正式にやめるかを決めます。口頭で済ませるとうやむやになって元に戻るので、1枚の形にして残します。
そして、この見直しを月1回の習慣にします。1回きりで終わらせず、毎月ひとつずつ止めていく。次のプロンプトは、月末に10分で使う雛形です。
あなたは経営者の月次レビューを補助するアシスタントです。
以下の空欄を私が埋めますので、質問を1つずつ出してください。
【今月止めた仕事】(名称と止めた日)
【浮いた時間の概算】(1週あたり何時間・誰の時間か)
【困り事の有無】(誰から・どんな声が・何件)
【判定】(正式にやめる/条件つきで再開/元に戻す)
すべて埋まったら、次の手順で判定を整理してください。
1. 困り事が0件なら「正式にやめる」を推奨し、その旨の社内告知文を1文で作る
2. 困り事が出ている場合、その困り事は元の仕事でしか解けないのかを問い直し、
代わりの手段(既存の仕組み・短い連絡・月1回への変更)を2案出す
3. 元に戻す場合は、次に見直す時期を1つ提案する
最後に、A4半ページに収まる報告形式でまとめ直してください。
来月の同じ日に、同じ形式で記入できるようにしてください。同じ形式で毎月書き足していくと、半年後には「この会社が何をやめてきたか」の記録になります。
浮いた時間は、渡す仕事の準備に回す
止めて時間が空くと、ほかの仕事が自然に入り込んできます。放っておくと元の忙しさに戻るので、使い道を先に決めます。
いちばんいいのは、渡す仕事の準備に充てることです。AIに渡してよく効くのは、毎週決まって発生し、判断がほとんど要らず、出来上がりの形がはっきりしている仕事でした。この3つがそろうものを1つ選んで、手順を書き出す。そこに時間を使います。
半年後、月曜の朝に起きたこと
T社長の会社のその後を、少しだけお話しします。
週報は、2週間の試行のあと正式に廃止されました。返ってきたのは内勤の方の月曜午前2時間と、営業10名が金曜の夕方に使っていた時間です。営業ひとり20分としても、週に3時間半ほど。合わせて週5時間を超えます(あくまで一例です)。

次に手をつけたのが会議でした。営業会議と幹部会が別々に開かれていて、参加者が半分以上重なっていました。「直近3回で決まったこと」を挙げられたのは幹部会だけ。2本を1本に統合し、30分のアジェンダを作り直しました。
そして、いちばん大きかったのは、作らずに済んだもののほうかもしれません。
最初のご相談のまま週報の自動化を進めていたら、どうなっていたか。おそらく数十時間をかけて仕組みを作り、月曜の朝の作業は30分ほどに縮んでいたでしょう。数字の上では改善です。ただし、誰も読まない報告書が、毎週きれいに配られ続けます。そして一度作った仕組みは、簡単には止められません。
速いムダを1つ作らずに済んだ。私はこれを、この会社でいちばん大きな成果だと思っています。
もうひとつ、思わぬ副産物がありました。仕事を止める経験をしたあと、T社長がAIに渡す仕事を選ぶのが、目に見えて速くなったのです。
理由ははっきりしています。3つの問いを一度使うと、「この仕事は何のためにあるのか」を考える癖がつきます。すると、渡す候補を前にしたときにも同じ問いが働きます。この3つを通った仕事だけが残るので、渡す先が絞られます。
やめる練習は、渡す練習にもなっていました。
半年で、T社長の会社から3つの仕事が消えました。週報、統合された会議1本、そして四半期ごとに作っていた比較資料です。回覧板が3枚、止まりました。
止める人が、いなかっただけなんです
ここまでお読みいただいて、社内で思い浮かんだ資料や会議が、ひとつやふたつあったのではないかと思います。
その仕事が続いている理由は、たぶん「必要だから」ではありません。「止める人がいないから」です。
作っている担当者は止められません。自分の仕事を減らしてくださいとは言いにくいからです。読んでいない幹部も止められません。読んでいないと言うことになるからです。誰も悪くない。ただ、止める役の人がいない。だから回覧板は回り続けます。
それを止められるのは、社長だけです。
やめると決めることは、手抜きではありません。会社の時間をどこに使うかを決める、れっきとした経営判断です。むしろ、増やす判断より難しい。増やすのは誰も反対しませんが、減らすのは必ず誰かが不安がるからです。その不安を引き受けられるのは、責任を持っている人だけです。
だからこそ、今週ひとつだけ、選んでみていただきたいのです。
社内で回っている資料か会議を、ひとつ思い浮かべる。3つの問いを当ててみる。誰が読むのか。直近3回で読まれた証拠はあるか。やめたら翌週、誰が何に困るか。
答えに詰まったら、それが最初の1つです。
そして、こう言ってみてください。「これ、2週間だけ止めてみます。困ったらすぐ戻すので、遠慮なく言ってください」。
たったこれだけです。稟議も、システムも、予算も要りません。今週の朝礼で言えます。
2週間後に何も起きなければ、その仕事はもう要らなかったということです。何か起きたら、戻せばいい。戻したとしても、その仕事が生きていると確認できた分だけ、会社は前に進んでいます。

一枚、下ろしてみませんか
AIの導入は、たいてい「増やす話」として始まります。新しいツールを入れて、できることを増やして、速くする。もちろん、そこに大きな価値があります。
ただ、その前に一度だけ、減らす側を見ていただきたいのです。読まれない資料、決まらない会議、使われない集計。誰にも止められないまま、回り続けている仕事。
そこに手を入れるのに、AIは要りません。必要なのは、止めると言う人がひとりいることだけです。
月曜の朝が2時間軽くなるのは、AIを入れた3か月後ではなく、来週かもしれません。
一枚、下ろしてみませんか。
あわせて読みたい
いちばん重い仕事から、AIに任せて失敗しました。──選ぶ基準は「週3回」と「手順を語れるか」
https://note.com/comix_ceo162230/n/neb35f13881c2
「ちょっといいですか」が、私の一日を消していた。──決断を三つのレーンに仕分けたら、時間が戻ってきた
https://note.com/comix_ceo162230/n/ne4dd755b6d5f
「人を増やせないから、売上も増やせない」と思っていました。──粗利は、4つの掛け算に分解できます。
https://note.com/comix_ceo162230/n/neb2f0b543d24
鈴木章裕
株式会社コミクス 代表取締役