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「AIより、私が直すほうが速い」──そう思っていた頃が、いちばん遅かった。

    「AIに書かせるより、自分で直したほうが速いんですよ」。この一年、経営者の方から何度も聞いた言葉です。私も、まったく同じことを言っていました。AIが出してきた七割の文章に赤ペンを入れて、十割にして世に出す。それが自分の仕事だと信じていました。ところが半年後に振り返ってみると、いちばん遅かったのは、私が一生懸命に直していたその期間だったのです。直すのをやめて、AIに直させるようにした日から、机の上の赤ペンが動かなくなりました。

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    「私が直すほうが速い」を、疑ったことがなかった

    私は株式会社コミクスという会社で、経営者の方に生成AIの使い方をマンツーマンで伴走する仕事をしています。社長ご本人の隣に座って、その会社の実際の業務を一緒に流しながら「これはこう渡すと速くなりますよ」と手を動かしてみせる。そういう地味な仕事です。おかげさまで、これまでに二百七十七社のお手伝いをしてきました。

    その私が、自分の仕事のやり方をいちばん長く間違えていました。

    私の一日には、文章がたくさん出てきます。提案書、面談後のお礼メール、社内向けの説明資料、note の記事。どれも先にAIに初稿を出させます。ここまでは、たぶん多くの方と同じです。問題はその次でした。

    戻ってきた初稿は、だいたい七割の出来です。方向は合っている。構成もそれなりに整っている。でも、そのまま出せるかというと出せない。相手の名前の呼び方が硬すぎる、事例が抽象的すぎる、いちばん言いたい一行が三段落目に埋もれている。だから私は、その七割に赤を入れます。

    赤を入れる場所は、夜でした。日中は面談が続くので、腰を据えて文章を直せるのは夜十一時を過ぎてからになります。画面の横にコーヒーを置いて、一行ずつ読んで、消して、書き直す。一本あたり四十分から一時間。それを何本か片づけて、日付が変わるころに保存する。

    その時間を、私は「効率化された時間」だと思っていました。ゼロから書けば二時間かかるものが、一時間で終わっている。半分になっているのだから、AIの導入は成功だと。

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    おかしいと気づいたのは、赤入れの時間がまったく減らないことに気づいたときです。

    三か月使い続けても、半年使い続けても、私が一本の文章に赤を入れる時間は四十分から一時間のまま動きませんでした。AIは毎回きれいな七割を出してきます。私は毎回、同じ種類の直しを入れます。「読み手が誰か分からない」「具体例がない」「結局どうしてほしいのかが書いてない」。先週も同じことを書き、今週も同じことを書いている。

    いや、正確に言うと、気づいてはいたのだと思います。気づいたうえで、それを自分の職人技だと思うことにしていました。私にしか分からない機微がある、だから私が直す。そう思っているあいだは、直す時間は減りません。

    同じことを、支援先の社長からも何度も言われました。「便利なんですけどね、結局、私が最後に直すんですよ」。皆さん少し誇らしげにおっしゃいます。私も、たぶん同じ顔をしていました。

    あるとき、自分がどれくらい赤を入れているのかを数えてみたことがあります。一週間ぶんの原稿を並べて、書き換えた箇所に印をつけていく。出てきたのは、四十七か所でした。そのうち三十か所ほどは、読み手の呼び方をそろえる、抽象的な言い回しを具体的な言い方に置き換える、結論を先に上げる、といった同じ種類の直しです。残りの十七か所が、その原稿ならではの判断でした。

    つまり私は、毎晩の一時間のうち六割ほどを、毎回同じことを書き直すために使っていたことになります。その六割を、私はずっと自分の付加価値だと思い込んでいました。

    なぜ「人が直す」と、いつまでも終わらないのか

    この構造を言葉にできたのは、ずいぶん後になってからでした。今は、こう説明しています。人が直しているかぎり終わらない理由は、三つあります。

    ひとつめ。直した知見が、AIに一文字も戻らない。

    私が赤を入れるのは、自分の画面の中です。書き換えた文章は保存され、送信され、それで完結します。「なぜそこを直したのか」という判断は、私の頭の中だけを通過して、どこにも残りません。AIの側から見れば、自分が出した七割の原稿がその後どう扱われたのか、まったく知らないまま次の依頼を受けていることになります。人間の新入社員なら、赤の入った原稿を返してもらって「なるほど、次はここを気をつけよう」と学習します。ところが多くの現場で、AIには赤の入った原稿が返っていません。

    新人であれば、三か月もすれば同じ指摘を受けなくなります。赤の入った原稿が本人の手元に戻っているからです。戻さなければ、その新人は一年後も同じ原稿を持ってきます。私たちはAIに対して、ずっとその状態を続けていました。しかもAIは何度指摘されても嫌な顔をしないので、こちらも「まあいいか」で済ませてしまいます。

    ふたつめ。人が最終工程に固定されて、そこで詰まる。

    AIの生産能力は、正直こちらの想像を超えています。提案文なら十本でも二十本でも、待たずに出してきます。でも、直せる人は一人です。だから会社全体の処理量は、AIの速さではなく、赤を入れる人の手の速さで決まってしまう。しかもその人はたいてい社長です。社長が最終工程に立ったまま動けない状態で、上流だけがどんどん速くなっていく。詰まるのは当たり前でした。

    みっつめ。翌週、また同じ七割が出てくる。

    これがいちばん効きます。依頼文が先週と同じなら、出てくるものも先週と同じです。学習していないのはAIではなく、こちらの仕組みでした。同じ入り口から入れて、出てきたものを毎回自分で削って形にする。それを半年続ければ、半年ぶんの赤ペンが残ります。手元に残るのは、疲れだけです。

    そして、この三つの奥にもうひとつ、厄介なものがあります。直しが属人化することです。

    赤を入れられる人は、その会社にたいてい一人か二人しかいません。社長と、古参の社員が一人。理由は単純で、判断の基準がその人の頭の中にしかないからです。頭の中にあるかぎり、基準は渡せません。渡せないものは、AIにも社員にも任せられない。だから業務量が増えるほど、社長は最終工程に深く縛りつけられていきます。会社が伸びれば伸びるほど社長の夜が長くなるという、あの妙な現象は、ここから生まれています。

    ここまで書いて、では何を変えればいいのか。答えは拍子抜けするほど単純でした。

    直すのをやめて、直させる。

    AIが出したものを、出した直後に、AI自身に批評させる。批評させたら、その批評を踏まえた改善版まで出させる。人間がやるのは、どういう目で批評すべきかという観点を渡すことと、最後に「これでいい」と決めることだけになります。赤ペンを握る手を離して、基準を渡す側に回るということです。

    言われてみれば当たり前のことです。私はそれに半年かかりました。

    保険代理店の社長が、赤ペンを置いた日

    ここからは、実際の現場の話を書きます。個社が特定されないよう、複数の支援先で見た光景を、一社のモデルケースとして再構成しています。出てくる数字も一例としてお読みください。

    法人向けを中心に扱っている保険代理店です。社員三十名ほど、二代目の社長は五十代。損保も生保も扱い、地元の中小企業を長く担当してきた会社です。

    保険の仕事には、点検の文化があります。出した書面が、そのままお客様との約束になるからです。言い回しひとつで「聞いていた話と違う」が起きる。だから、お客様に渡すものは出る前に必ず誰かがもう一度読む。この会社もそうでした。そして、その最後の目は、いつも社長でした。

    余談ですが、この会社では社長の赤入れの時間が、予定表に「社長チェック」という名前で毎日入っていました。会議でもないのに枠が取られているのを見て、私は最初、何かの定例だと思っていたくらいです。

    社長の一日は、夕方から本番でした。日中はお客様を回り、夕方に事務所へ戻ると、机の上に紙の束が積まれています。法人向けの提案書、保障内容の説明資料、更新のご案内、事故対応の連絡文。社員が「社長、これ見てもらえますか」と置いていったものです。社長はそれを一枚ずつ読み、赤を入れ、翌朝返す。終わるのは夜九時、十時。

    AIを導入したのは、その負担を減らすためでした。

    最初にやったのは、営業担当が自分の案件で使えるようにすることです。提案書のたたき台、更新案内の文面、事故のあとのお客様への説明文。それまで「書けないので社長にお願いします」と言って持ってきていたものを、まず自分で形にしてから持ってくる。研修は一回、一時間半で終わりました。

    狙いどおり、社員は自分で初稿を作れるようになりました。ところが二か月目の面談で、社長からこう言われました。

    「先生、うち、私の残業が増えたんですけど」

    紙の束が、三倍になっていたのです。

    これまでは、原稿を書くこと自体が大変だったので、社員が持ってくる枚数はおのずと絞られていました。AIが入って、書くことのハードルが消えた。だから皆どんどん作って、どんどん社長の机に置いていく。一枚あたりの質は上がっているのに、社長のチェック時間は倍以上になっていました。上流を速くしただけで、出口を変えなかったらこうなる、という見本のような状態でした。

    その日、私は社長にお願いして、赤の入った紙を十枚ほど見せていただきました。営業担当ごとに筆跡は違いますが、社長のコメントを書き出してみると、驚くほど同じでした。

    「誰に向けて書いているのか分からない」

    「他社でも同じことが言えてしまう」

    「この保障をなぜ勧めるのか、理由が書いていない」

    「読んだ人に何をしてほしいのかが最後に書いていない」

    十枚のうち九枚が、この四つのどれかでした。三十年かけて社長の中に積み上がった判断基準が、たった四行で書けてしまった。

    そこで、やり方を二つ変えました。ひとつは、この四つを社員の依頼文の中に先に入れてしまうこと。もうひとつが本題で、原稿が出てきた直後に、社員が自分でAIに批評をさせ、改善版まで出させてから社長に持っていくことにしました。社長のところに届くのは、初稿ではなく「AIが二回自分で直したあとの版」になります。

    最初の一週間は、うまくいきませんでした。社員は言われたとおりAIに批評をさせていたのですが、返ってきた指摘を今度は自分で直しはじめていたのです。これでは、社長がやっていた赤入れが社員に引っ越しただけで、会社全体の時間は一分も減りません。実際、その週は残業が増えました。

    足りなかったのは、たった一行でした。「指摘したうえで、直した版まで出して」。この一行を依頼文の最後に足した翌日から、社員の手が止まる時間が消えました。批評で終わらせない。ここが、この型のいちばん大事なところです。

    変化は、その次の週のうちに出ました。

    社長が一枚にかける時間が、十五分から二、三分に落ちたのです。読んで、二か所ほど直して、「これでいこう」と返す。一か月ほど経ったころ、面談に行くと社長が笑ってこう言いました。

    「赤ペン、置きました」

    正確には、置いたのは赤ペンではなく、赤ペンを握っていた役割でした。社長がやることは、最後に「これでいい」と決めることだけになった。夜九時までかかっていた社長チェックが、夕方の三十分ほどで片づくようになったそうです。もちろん、これは一例です。それでも、社長の口から出た「置きました」という一言は、私にとってこの一年でいちばん嬉しい報告でした。

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    「出させて、直させる」の型──3ステップ

    やることは三つです。順番に書きます。

    ステップ1:出させる。七割で構いません。

    最初の一発で十割を狙わないことです。十割を狙った長大な依頼文を書くより、七割を早く出させて、その七割を材料に直させたほうが、結果的に速く着地します。初稿は完成品ではなく、これから磨くための素材だと思ってください。ここで「もっといい書き方があるはずだ」と依頼文を練り直しはじめると、また人間の作業に戻ってしまいます。

    完璧な依頼文を書こうとする人ほど、AIの前で長く止まります。私も一時期、頼み方の研究に熱心になりすぎて、書き上げた依頼文が原稿より長くなったことがありました。あれは、形を変えた自分の作業でした。

    ステップ2:観点を渡して、批評させる。

    出てきた直後に、同じ画面でそのまま批評を依頼します。ここでいちばん多い失敗は「厳しくチェックして」とだけ書くことです。この頼み方だと、たいてい当たり障りのない感想が返ってきます。AIは、誰の目で読めばいいのか分からないからです。

    だから、目を指定します。「初めて取引する製造業の社長の目で」「値上げに反対している古参の担当者の目で」「予算を握っている経理部長の目で」。目を一つ決めるだけで、返ってくる指摘の鋭さがまるで変わります。

    並べてみると、はっきりします。「厳しくチェックして」と頼んで返ってきたのは、「全体的によくまとまっていますが、もう少し具体性があるとより良くなります」でした。同じ文章に「初めて当社と取引する製造業の社長の目で」と頼んだときは、「この会社が自分の業界を分かっているという証拠が一つも書かれていないので、二段落目で読むのをやめます」と返ってきました。後者は、痛いところを突いています。痛い指摘が出てきた時点で、その頼み方は成功です。

    ステップ3:改善版まで出させて、人は最終OKだけ。

    批評で止めないことです。指摘をもらって、それを人間が直しはじめたら、結局これまでと同じ夜に戻ります。批評と改善版を、必ずひとつの依頼の中でつなげてください。「指摘を三つ挙げて、それを全部直した版を出して」。この一文があるかないかで、その日の帰宅時間が変わります。

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    差し戻しの指示に必要なものは、三つだけです。①誰の目で批評させるか(批評者を一人に決める)②何を満たせば合格か(合格の線を先に見せる)③どんな形で出させるか(指摘のあとに改善版、という並びを指定する)。依頼文の書き方の話ではなく、出てきたあとの差し戻し方の話です。この三つが入っていれば、文面は多少荒くても動きます。

    では、いちばん最初の一歩を書きます。これは経営者ご本人に、今日そのまま使っていただきたいものです。商工会の会報に載せる挨拶文でも、取引先へのお詫びメールでも構いません。AIが何かを出してきた画面を閉じる前に、続けてこれを打ち込んでみてください。短いので、音声入力でも通ります。

    いま出してくれた文章を、そのまま送る前に一度チェックしてください。
    
    【この文章の読み手】= 【ここに読み手を貼る(例:初めて当社と取引する製造業の社長)】
    
    その読み手の目で読んで、
    1. 伝わりにくい箇所を3つ、理由をつけて指摘してください
    2. 指摘を全部直した改善版を、そのまま使える形で出してください
    
    出力は「指摘3点」→「改善版」の順で、前置きなしでお願いします。

    たったこれだけです。それでも、返ってくる改善版は、私が夜中に赤を入れていたものにかなり近いところまで来ます。少なくとも、私が入れていた赤の半分以上は、この一往復で消えました。

    直しの基準を、会社の資産に変える

    ここまでで、その場の直しはAIに渡せます。次は、もう一段先の話です。

    保険代理店の社長の赤ペンが、四つの言葉に書き出せたことを思い出してください。あの四行は、その日の指摘メモではなく、三十年ぶんの判断基準そのものでした。ところが、あの四行はそれまで社長の頭の中にしかなかった。だから社長しか直せず、社長が最終工程から離れられなかったのです。

    直しの基準は、言葉にした瞬間から会社の資産になります。しかも、貯めるほど効きます。基準を先に渡してから書かせれば、最初に出てくる初稿の質そのものが上がるからです。差し戻しの回数が減り、社長が見る回数も減っていく。

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    貯める場所は、二か所あります。ひとつは、AIの側に置いておく知識ファイルです。多くのサービスには、案件やテーマごとに小部屋を作り、そこに前提資料や指示書を置いておける機能があります。そこに「当社の原稿の合格基準」というファイルを一枚作って置いておけば、その部屋で書かせるものすべてに基準が効きます。もうひとつは、依頼文に毎回貼り付ける定型ブロックです。小部屋の機能を使っていない会社でも、これなら今日からできます。

    やることは、週に一度、五分です。その週に自分が入れた赤を見返して、「これは今後も言い続けることだ」と思ったものを一行だけ足す。増えるスピードは、それで十分です。半年も続ければ、二十行ほどの、その会社にしか書けない基準表ができあがります。

    この基準表には、思わぬ副産物があります。新しく入った社員に「うちの書きものはこうです」と最初に渡せるものになる、ということです。これまで社員は、社長の赤を何度ももらいながら、基準を少しずつ推測して覚えるしかありませんでした。二十行の基準表は、その推測の期間をまるごと縮めます。AIのために書いたものが、そのまま人の教育に効いてしまう。この副産物は、私が入った会社のほとんどで起きました。

    保険代理店の社長にやってもらったのは、これでした。夕方、赤を入れ終わった紙を一枚だけ選んで、その赤をそのままAIに打ち込んでもらう。手書きの走り書きのままで構いません。

    あなたは、当社の原稿の品質基準をまとめる編集担当です。
    
    【今回の原稿】
    【ここに直す前の原稿を貼る】
    
    【私が入れた指摘】
    【ここに赤入れのコメントをそのまま貼る(箇条書き・話し言葉のままで可)】
    
    この指摘を、今回かぎりの修正ではなく「今後すべての原稿に適用する恒久ルール」として言語化してください。
    
    出力形式:
    1. ルール文(命令形・1行に1ルール・最大5行)
    2. 各ルールの合格例と不合格例(それぞれ1行)
    3. 次回からの依頼文にそのまま貼れる「品質基準ブロック」
    
    すでに社内で当たり前になっていそうな内容は、省かずに明文化してください。

    出てきた基準ブロックを、次の依頼から貼るだけです。社長の赤が、社員の依頼文の中に引っ越していく。この引っ越しが起きた会社は、そこから先の伸びが本当に速くなります。

    実践プロンプト集──「直させる」4つの型

    「直させる」の型は四つあります。ひとつめは、さきほどお渡しした〈最初の一歩〉です。ここでは残りの三つを書きます。どれも、そのまま貼って使える形にしてあります。

    型②:反対者テスト

    値上げのお知らせ、新サービスの案内、社内の稟議書。出したあとに反対されると厄介なものは、出す前に反対されておくのが安全です。いちばん厳しい人の反論を、机の上で先に浴びておく。営業部長や経営者ご本人が、送信ボタンを押す前の三分で使う型です。

    あなたは、この文章を読む人の中で、いちばん反対しそうな立場の人です。
    
    【文章】
    【ここに完成間近の文章を貼る】
    
    【いちばん厳しい読み手】= 【ここに立場を貼る(例:値上げに反対している古参の取引先担当者)】
    
    その人になりきって、次の順で出してください。
    
    1. 出てきそうな反論を、強い順に5つ(建前ではなく本音の言い方で)
    2. その反論を、文章を直せば消せるものと、直しても消えないものに分ける
    3. 消せるものを全部つぶした改訂版
    
    消えない反論については、直そうとせず「これは会って話すべき論点です」と一行で指摘してください。

    この型を使った直後は、あまり気分がよくありません。自分が書いたものを、五つも否定されるからです。それでも、否定されるのが机の上かお客様の前かを選べるなら、机の上のほうが圧倒的に安く済みます。

    型③:自己採点表

    こちらは、社員が作ったものを自分でチェックしてから上に出す、という運用に向いています。人が見る前に、点数の低いところだけ自分で直させる。提案書でも、報告書でも、採用の募集原稿でも使えます。

    あなたは、この文章を評価する審査員です。甘い点はつけません。
    
    【この文章の目的】= 【ここにゴールを貼る(例:来週の面談の約束を取ること)】
    
    【文章】
    【ここに文章を貼る】
    
    次の5項目を10点満点で採点し、表にしてください。
    ・目的への到達度 ・読み手の具体性 ・根拠の強さ ・読みやすさ ・次の行動の明確さ
    
    そのあと、7点以下だった項目だけを直した改訂版を出してください。8点以上の項目は触らないでください。
    
    出力形式:採点表 → 低い項目の直し方(1行ずつ) → 改訂版

    八点以上を触らせない、という一行が地味に効きます。これを書かないと、直さなくていい部分まで書き換えて、元のほうが良かった、ということが起こります。

    型④:合格基準を先に渡す

    最後は、そもそも差し戻しを減らす型です。依頼の入り口で合格基準を渡し、その基準を満たすまで自分でレビューと修正を繰り返させてから出させます。前の章で作った品質基準ブロックが、ここで効いてきます。

    これから作ってもらう成果物の合格基準を、先に渡します。
    
    【依頼】
    【ここに作ってほしいものを貼る(例:来月の展示会の案内メール/A4一枚)】
    
    【合格基準】
    【ここに満たすべき条件を貼る(例:宛先が特定できる/申し込み方法が1つだけ書いてある/専門用語は3つ以内 …)】
    
    進め方:
    1. まず案を作る
    2. 自分で合格基準の各項目に○×をつける
    3. ×がある間は、自分で直してもう一度採点する(最大3回)
    4. 全項目が○になった版だけを出す
    
    出力は、最終版と、最後の採点結果(○×の一覧)だけで結構です。途中の版は出さないでください。

    この型を使いはじめると、初稿が届いた時点でこちらの直す場所がほとんど残っていない、という状態が普通になります。人が見るのは、基準に書けなかった部分だけになる。そこが本来、経営者が見るべきところでした。

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    経営者の仕事は、直すことではなく、決めること

    赤ペンを握っているあいだ、社長はずっと最終工程に立っています。そこは会社でいちばん狭い場所です。上流をいくら速くしても、そこを通らないと外に出られないなら、会社の速さはその一人の手の速さで決まってしまう。

    直すことは、渡せます。AIにも渡せるし、基準を書き出せば社員にも渡せます。渡せないのは、最後に「これでいく」と決めることだけです。この値段でいくのか、この相手に出すのか、この表現で会社の看板を背負えるのか。それは社長にしか判断できません。

    実際、この一年でお会いした社長のうち、AIを入れて本当に時間が空いた方は例外なく最後の一手だけを残して他を全部手放していて、逆に「まだ自分がやったほうが速い」とおっしゃる方の机の上には、決まって赤ペンが置いてありました。

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    私が半年かけて学んだのは、赤ペンを持っていると仕事をした気になれる、ということでした。直せば目に見えて良くなるので、達成感があるのです。決めるだけの夕方は、最初はどこか手持ち無沙汰で落ち着かない。あの居心地の悪さを越えられるかどうかが、たぶん本当の分かれ目です。

    明日、AIが何かを出してきたら、赤を入れる前に一度だけ試してみてください。「この文章を、◯◯さんの目で批評して、直した版を出して」。それだけの一行です。返ってきたものを見て、自分が入れるつもりだった赤がどれくらい残っているかを数えてみてください。

    もし思ったより多く赤が残っていたら、それは観点の渡し方がまだ粗いという合図です。誰の目で読ませるのかを、もう一段だけ具体的にして、同じ文章をもう一度出させてみてください。二回目で、たいてい半分になります。

    渡す順番も、難しく考えなくて大丈夫です。まずご自身の文章から試してください。社長が自分の手で赤が減る感覚をつかんでから社員に広げたほうが、結局は速く根づきます。人は、上の人がやっていないやり方を続けられませんから。

    数えた結果があなたの想像より少なかったら、その夜から、赤ペンは置いていいということです。

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    鈴木章裕

    株式会社コミクス 代表取締役

     
     
    AI活用のご相談→ https://www.comix.co.jp/contact/ 株式会社コミクス代表取締役。生成AI活用支援実績304社(2026年9月末現在)。営業・資料作成の効率化、AIエージェント導入を支援。何から始めるか迷っている段階でもご相談ください。

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