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AIの答えが薄いのは、頼み方が薄いからでした。──「例を3つ」足すだけで、初稿はそのまま使える

    顧問先を回っていると、同じ光景に何度も出くわします。同じAIを、同じ料金で、同じ画面から使っている。なのに、返ってくる答えの質が人によってまるで違う。片方の社長は「これ、ほぼこのまま送れますね」と言い、もう片方の社長は「やっぱり、うちの仕事には合いませんでした」と言う。

    道具は同じです。違っていたのは、頼み方だけでした。

    かく言う私も、昔は「いい感じにまとめて」と頼んでいました。返ってきた文章を眺めて、なんとなく物足りなくて、結局は自分で書き直す。あの時間を全部足したら、何十時間かにはなっているはずです。

    なお以下に出てくる会社は、複数の支援先で見てきた光景を1つのモデルケ
    ースとして再構成しています。

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    「いい感じにまとめて」が返してくる、いい感じではない答え

    まず、うまくいかない側の依頼文を見てみます。だいたい、こういう形をしています。

    「取引先向けの案内文をいい感じにまとめて」

    「この資料をわかりやすく要約して」

    「来期の方針について、何かアイデアをください」

    短くて、ていねいで、悪いところが見当たりません。ただ、この依頼文には、答えを絞り込むための情報がひとつも入っていない。誰に向けた案内文なのか。何を「わかりやすい」と呼ぶのか。来期の方針が、いま何に引っかかっているのか。

    書いていないことは、伝わりません。当たり前の話ですが、相手が機械になると、この当たり前が急に見えなくなります。

    人間の部下に同じ頼み方をしたら、何が起きるか。優秀な部下なら「どの取引先向けですか」「A4一枚ですか」と聞き返してくれます。長く一緒に働いていれば、聞き返さずに察してくれることもある。社長の口癖も、去年の失敗も、あの取引先が何を嫌がるかも、全部知っているからです。

    AIは、そこを知りません。読心術師でもない。前提を共有していない相手に「いい感じに」と言えば、当たり障りのない一般論が返ってくる。毒にも薬にもならない、どこの会社でも通用する文章。読んで、少し困って、閉じる。

    このとき私たちの頭の中で何が起きているかというと、「AIに聞いた」という手続きだけが済んで、仕事は一ミリも進んでいない状態です。しかも厄介なことに、返ってきた文章はそれなりに整っています。整っているから、悪くはないと感じる。悪くはないけれど使えない、という中途半端な結果が積み上がると、人は静かにその道具を使わなくなります。

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    もうひとつ、依頼文が薄くなる典型的な原因があります。気をつかいすぎることです。「お忙しいところ恐れ入りますが」から始まる依頼文を、私は何度も見ました。相手は機械なので、気づかいの言葉は情報として何も足しません。むしろ、本当に伝えるべき条件を書くスペースを食っている。丁寧さは人に取っておいて、AIには条件を渡す。この切り替えができるだけで、返ってくるものが変わります。

    「AIは使えない」と結論づける前に、見直す余地が一箇所だけあります。依頼文です。ここを直すのに、費用も、研修も、ツールの乗り換えも要りません。

    例を3つ足しただけで、初稿が変わった

    ここからが本題です。

    食品の包装資材を扱う卸売会社があります。社員は二十数名、社長は二代目。AIは早くから触っていて、月額の費用も払っている。それでも「文章を書かせると、どうも他人行儀なものが出てくる」と困っていました。

    この会社は年に数回、取引先へ案内文を出します。価格改定のお知らせ、展示会のご案内、担当変更のご挨拶。どれも短い文書ですが、長い付き合いのある相手ばかりなので、言い方をひとつ間違えると空気が変わる。だから社長は、毎回自分で書いていました。一通に一時間から二時間。

    最初にAIへ頼んだときの依頼文は、こうでした。「取引先向けに、価格改定のお知らせ文を作ってください」。

    返ってきたのは、教科書のような文面でした。拝啓から始まり、時候の挨拶があり、原材料価格の高騰に触れ、何卒ご理解を賜りますようと結ぶ。間違ってはいない。ただ、この会社が二十年出し続けてきた案内文とは、別の会社が書いた文章に見えました。社長は「これを直すくらいなら、最初から自分で書いたほうが早い」と言って、その日は閉じたそうです。

    そのあと社長は、二回ほど粘っています。二回目は「もっと簡潔に」と足した。三回目は「堅すぎるので、親しみのある感じで」と足した。返ってきたのは、簡潔だけれど中身のない文章と、親しみがありすぎて取引先には出せない文章でした。形容詞をいくら足しても、方向は定まらなかったわけです。

    転機は、ある日の何気ない一手でした。社長が過去のフォルダから、評判の良かった案内文を3通引っぱり出して、依頼文の下にそのまま貼り付けたのです。特別な工夫はしていません。「以下の3通と同じ調子で書いてください」と一行足しただけ。

    出てきた初稿を見て、社長は少し黙りました。

    いや、正確に言うと、黙ったあとで「なんで今まで貼らなかったんだろう」と言ったそうです。

    出てきた文面は前置きが短く、用件が先に来て、事情はそのあとに二行だけ添えられていて、結びにはこの会社がいつも使う「ご不明な点は担当の◯◯までお申し付けください」の一文が、そのまま入っていました。

    社長が二十年かけて手で覚えてきた書き癖が、貼った3通からそっくり写し取られていたわけです。「何卒ご理解を賜りますよう」という硬い言い回しは、どこにも出てきませんでした。3通の例のどれにも、その言い回しが入っていなかったからです。手直しが必要だったのは、日付と品目と、一箇所の言い回しだけ。二時間かかっていた仕事が、十五分で終わりました。

    その後この会社では、展示会の案内も、担当変更の挨拶も、同じやり方に切り替えています。文書の種類ごとに、過去のうまくいった実物を3通ずつ用意しておく。それだけの準備で、年に十数回ある案内文の作成が、まとめて短くなりました。

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    ここで起きたことは、実はかなり大きい話だと私は思っています。

    会社には、明文化されていない基準がたくさんあります。案内文の前置きは短く。数字は必ず表にする。お詫びのときは電話が先で文書は後。誰も文書にしていないけれど、全員がなんとなく守っている。この暗黙の基準こそが、その会社らしさの正体です。

    そして、暗黙の基準は言葉で説明しづらい。「うちらしい文章とは何か」を説明しようとすると、たいてい途中で詰まります。ところが、過去の実物を3通見せれば、説明しなくても伝わる。

    例を渡すというのは、説明できない基準をまるごと運ぶための手段です。会社の暗黙知をAIに渡す、いちばん短い道でした。

    依頼の3点セット──「役割」で「タスク」を「形式」に沿って

    例の話をもう少し深める前に、その手前の土台を押さえます。依頼文に必ず入れておく3つの要素です。

    役割。「あなたは◯◯です」と、誰として答えるかを指定します。マーケティングの専門家として。財務のアドバイザーとして。十五年目の営業部長として。初めてこの業界に来た新人として。ここを空けたまま頼むと、AIは立場を持たないまま答えます。誰の目線でもない答えは、当然ながら誰にも刺さりません。

    役割の指定は、答えが引いてくる知識の範囲を切り替えるスイッチだと考えてください。同じ「来期の予算案を見てください」でも、「経理担当として」と頼めば数字の整合と根拠を突いてきますし、「営業部長として」と頼めば現場が達成できる数字かどうかを突いてきます。どちらが正しいという話ではなく、いま欲しい視点を先に指定しておく、という話です。

    慣れてきたら、同じ依頼文を役割だけ入れ替えて二回投げるやり方も有効です。財務のアドバイザーとして一回、現場のシニアな実務者としてもう一回。二枚の答えを並べると、社内会議で出てくる意見の両側が先に手に入ります。

    タスク。何をしてほしいかです。ここで多くの人がつまずくのは、「考えて」「まとめて」「検討して」といった、終わりの見えない動詞を使ってしまうことです。「3つ挙げて」「A4一枚に収めて」「優先順位をつけて」。終わりが見える言葉に置き換えると、返ってくるものの輪郭が急にはっきりします。

    形式。どういう形で欲しいかです。表なのか、箇条書きなのか、そのまま送れるメール本文なのか。見出し付きの文書なのか、順を追ったステップ形式なのか。ここを指定しないと、たいていは長い散文が返ってきて、そこから自分で整形する手間が発生します。私の経験では、この整形の手間がいちばん見えにくい浪費です。

    この3つを並べると、「マーケティングの専門家として(役割)/展示会の案内文を書いて(タスク)/400字以内・件名つきのメール本文で(形式)」となります。挨拶も、会社紹介も、気づかいの一文も要りません。

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    3つのうち、経営者がいちばん省きがちなのは形式です。頭の中では完成形が見えているので、書き落とす。そして返ってきた散文を、自分でスライドや表に組み直している。もったいない話です。

    聞き方の型は7つある──目的から逆算して選ぶ

    3点セットが揃ったら、次は「どう聞くか」です。聞き方には型があり、代表的なものは7つに整理できます。

    自由回答。「◯◯について考えられることを挙げてください」。幅を広く取りたいとき、まだ論点が定まっていないときに使います。多くの人が、無意識にこの型だけを使い続けています。

    選択式。「次の3つのうち、どれが適切か理由とともに選んでください」。出力の範囲をこちらで限定する型です。会議の前に論点を絞るときに効きます。

    穴埋め。あらかじめ雛形を渡して、空欄を埋めさせる型です。報告書、稟議、日報のように形が決まっている書類は、この型がいちばん速い。

    比較。XとYを並べて評価させます。判断の材料が欲しいときの主力です。

    シナリオ。「こういう状況になったとして」と前提を置き、その中で考えさせます。まだ起きていないことへの備えに使います。

    指示。「◯◯のやり方を、順を追って説明してください」。手順を引き出す型です。

    フィードバック。すでにあるものをレビューさせ、改善させます。ゼロから書かせるより速く、精度も上がります。

    この7つを眺めて気づくのは、多くの人が最初の「自由回答」だけを使い続けているということです。「何かいい案ありますか」「どう思いますか」。これは幅を広げる型なので、幅の広い一般論が返ってくる。返ってきたものが薄いと感じるとき、原因の半分は型の選び間違いにあります。

    型を選ぶときの判断は、ひとつの問いに集約できます。自分はいま、答えが欲しいのか、選択肢が欲しいのか、改善が欲しいのか。目的から逆算すれば、7つのうちどれを取るかは自然に決まります。答えが欲しいなら指示か穴埋め。選択肢が欲しいなら自由回答か比較。改善が欲しいならフィードバック。

    経営者の一日を思い浮かべると、実はこの3つはきれいに分かれています。稟議書や報告書の下書きは「答えが欲しい」ので穴埋め。設備投資や外注先の検討は「選択肢が欲しい」ので比較。自分が書いた挨拶文や、社員が上げてきた企画書は「改善が欲しい」のでフィードバック。朝の予定表を見ながら、その日の仕事に型を割り当てていくだけで、依頼文の当たりが変わります。

    経営者の日常でいちばん使い出があるのは、比較の型だと思っています。設備を入れるか外注に出すか。今の取引先と条件を詰め直すか、別を当たるか。決めるのは社長ですが、決める前の材料を揃える作業は渡せます。

    あなたは【業種】の実務に詳しいアドバイザーです。
    私はいま、次の2つのどちらを選ぶか決めかねています。
    
    【比較したい選択肢A】
    (例:現在の運送会社と単価を再交渉する)
    
    【選択肢B】
    (例:一部の配送を自社便に切り替える)
    
    【会社の状況】
    ・業種/社員数:
    ・この判断に使える予算と、いつまでに決めたいか:
    ・すでに分かっている制約(人・設備・取引先との関係など):
    
    【出力形式】
    1. まず比較表だけを出してください。列は次の4つ。
       | 観点 | A | B | 自社にとっての意味 |
       ※観点には「初期費用」「毎月の手間」「失敗したときの損失」
         「取引先への影響」「元に戻せるか」の5行を必ず含めること
    
    2. 表のあとに「判断する前に確認すべきこと」を3つ挙げてください。
       それぞれ「誰に、何を聞くか」まで書くこと。
    
    どちらが正解かという結論は書かないでください。決めるのは私です。

    最後の一行は、意図して入れています。AIに結論を書かせると、その結論に引きずられます。材料だけを出してもらい、決めるのは自分に残す。この線だけは動かさないほうがうまくいきます。

    例は3つで足りる──効くのは国語力より、選ぶ目

    さて、例の話に戻ります。

    例をひとつも渡さない状態、ひとつ渡した状態、3つ渡した状態、5つ渡した状態。この順番で、出力の質は段階的に上がっていきます。ゼロショット・ワンショット・少数ショットという用語が当てられていますが、社内で口に出す言葉ではないので、頭の片隅に置く程度で足ります。

    覚えていただきたいのは、変化の大きさに偏りがあることです。ゼロから1に増やしたときの変化がいちばん大きく、1から3で書き癖まで拾われるようになり、3から5では細部の安定感が上がる。裏を返せば、5つ以上を無理に集める必要はありません。

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    なぜ例がこれほど効くのか。理由は、前の章で触れた暗黙の基準にあります。文章のトーン、社内の言い回し、お客様との距離感。これらは数値でも箇条書きでも指定しきれません。「丁寧に」と書いても、どの程度の丁寧さかは伝わらない。実物を見せれば、一発で伝わる。

    ここに、ひとつ逆転があります。

    私たちはつい、「うまい依頼文を書ける人」がAIを使いこなす、と考えがちです。文章力の勝負だと思ってしまう。ところが実際に差がついているのは、良い例を選べるかどうかでした。過去のフォルダから「これは評判が良かった」と3通を選び出せる目利き。これは国語力ではなく、自分の仕事を見てきた年数がそのまま効く力です。

    つまり、経営者ほど有利ということになります。何が良くて何が滑ったか、いちばんよく知っているのは社長だからです。

    選ぶときのコツを3つだけ。ひとつめ、実際に相手に出したものを選ぶ。社内で止まった草案ではなく、外に出て、反応が良かった実物を使います。ふたつめ、似すぎている3通を選ばない。同じ取引先へ同じ月に出した3通だと、幅が出ません。相手も場面も少し違う3通のほうが、共通する骨格が浮き上がります。みっつめ、長すぎるものは刈り込む。全文を貼る必要はなく、書き出しと結び、要点の段落だけで十分に伝わります。

    準備の作業も、一度きりで終わります。よく作る文書を3種類ほど決めて、それぞれ3通ずつ。合わせて9通をひとつのファイルにまとめておけば、以後はそこから貼るだけです。

    【作ってほしいもの】
    (例:既存のお取引先に出す、価格改定のご案内文)
    
    以下の例の書きぶり・トーン・構成を踏襲して書いてください。
    一文の長さ、敬語の濃さ、用件の切り出し方、結びの型まで合わせること。
    
    【例1】
    (過去にうまくいった文面を、そのまま貼る)
    
    【例2】
    (同上)
    
    【例3】
    (同上)
    
    【今回の条件】
    ・宛先(どんな相手か):
    ・伝えたい要点(3つまで):
    ・今回は避けたい表現:
    
    【出力形式】
    1. 先に、3つの例に共通している書き方の特徴を5つ挙げてください。
       (用件の切り出し方/一文の長さ/敬語の濃さ/お願いの置き場所/結びの型)
    2. そのあとに本文を出してください。本文はそのまま送れる状態で。
    
    1を飛ばして本文から書き始めないでください。

    1を先に書かせるのには、理由があります。共通点を言葉にさせると、AIが例から何を読み取ったかが見えます。読み取りがずれていれば、本文を読む前に気づける。それに、この5行はそのまま社内で共有できる文書になります。

    8つの技法と、最適な組み合わせ

    依頼文の技法は、世の中に数えきれないほど紹介されています。よく挙がるものを8つ、ひとことずつ並べておきます。

    役割設定は、すでに触れた「あなたは◯◯です」。連鎖は、前の答えを次の依頼の材料にして数珠つなぎに進めるやり方で、長い仕事を分解するときに使います。温度は答えの振れ幅の調整で、契約書のような文書は振れ幅を小さく、企画出しは大きくします。リンクは参照先の資料やURLを渡し、そこに書いてあることだけで答えさせる方法。例を追加は前章の話。思考の木は複数の道筋を同時に検討させ、有望なものだけ深掘りさせる進め方。文体は語尾や一文の長さの指定。段階的には、手順を踏んで考えさせる、あるいは仕事そのものを刻んで渡すやり方です。

    全部を覚える必要は、まったくありません。

    私が顧問先でお伝えしているのは、3つだけです。役割+例+段階的に。誰として答えるかを与え、実物の例を添え、一度に全部やらせずに刻む。この3つが重なったとき、返ってくるものの厚みが変わります。残りの5つは、必要になったときに調べれば足ります。

    なぜこの3つなのか。役割は答えの視点を決め、例は答えの質感を決め、段階的には答えの方向を途中で直せるようにする。決める・寄せる・直す、と守備範囲が重なっていないからです。技法をたくさん覚えている人より、この3つを毎回きちんと入れる人のほうが、結果として速く仕事を終えています。

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    そして、いちばん見落とされている運用のコツをひとつ。うまくいった依頼文は、必ず保存してください。

    メモ帳でも、スマートフォンのメモアプリでも構いません。良い初稿が返ってきたら、そのとき使った依頼文をまるごとコピーして貼っておく。次に同じ種類の仕事が来たら、開いて、貼って、中身の【 】だけを差し替える。それだけで、その仕事は毎回同じ品質で立ち上がります。

    私自身、手元に十数本の依頼文を置いています。書き直すことはほとんどなく、たいてい貼って使っています。

    さらに一歩進めるなら、その依頼文を社員に配ってください。同じ依頼文を使えば、誰が頼んでも似た品質の初稿が返ってきます。「AIが使えるのは社長だけ」という状態は、たいてい依頼文が社長の頭の中にしかないことから起きています。文章にして渡せば、それは社内の共通言語になります。

    実践プロンプト集──明日の1通目から使える3つ

    ここまでの型を、そのまま使える形にしておきます。3つとも、【 】の中を埋めるだけで動きます。

    ひとつめは、シナリオの型です。取引先の集中度が高い会社ほど効きます。「もし主要取引先から値下げを言われたら」という話は、社内で口に出しにくい。だからこそ、AIとの間で先に一度通しておく価値があります。月初の三十分、静かな時間に使ってください。

    次の状況を想定して、答えてください。
    
    【起きてほしくない状況】
    (例:主力商品の値下げを、売上上位の取引先から要請される)
    
    【自社の前提】
    ・業種/社員数:
    ・その取引先が売上に占めるおおよその割合:
    ・いま手元にある打ち手(在庫・代替品・別の取引先候補など):
    ・絶対に譲れない条件:
    
    【出力形式】
    想定される展開を3パターン出し、表にしてください。列は次の4つ。
    | 展開 | それが起きたと分かる合図 | 最初の3日でやること | やってはいけないこと |
    
    表のあとに、3パターンに共通して「今日のうちに用意しておける材料」を
    2つだけ挙げてください。
    
    起こる確率の予想は不要です。準備の話だけをしてください。

    出てきた表は、そのまま幹部に配れます。私の知る限り、この手の想定を口頭で共有しようとすると角が立ちますが、一枚の表として置いておくと「そうなったらこうする」という前提の共有だけが残ります。

    ふたつめは、フィードバックの型です。使う場面は、自分で書いた文章が手元にあるとき。初めての相手へのメール、朝礼の挨拶文、思いつきで書いた企画メモ。送る前の三分で通します。ゼロから書かせるより速く、しかも自分の言葉が残ります。

    以下は私が書いた文章です。読み手に届くかどうかを見てください。
    
    【読み手】
    (例:初めて訪問する会社の、決裁者ではない担当者)
    
    【この文章で相手にしてほしいこと】
    (例:日程の候補を返信してもらう)
    
    【ここに自分が書いた文章を貼る】
    (メール・挨拶文・企画メモなど、そのまま貼る)
    
    【出力形式】
    1. 良い点を3つ。原文から該当箇所を引用して示すこと。
    2. 伝わりにくい点を3つ。どこが、なぜ伝わりにくいかを1行ずつ。
    3. そのうえで、改善版を1本。
    
    改善版は、元の文章のトーンと語尾の癖をそのまま保ってください。
    きれいな文章に整えるのではなく、私が書いたと分かる文章のまま直すこと。
    1と2を飛ばして改善版から書き始めないでください。

    良い点を先に3つ挙げさせるのは、自分の文章の効いている部分を消さないためです。改善版だけを出させると、たいてい全体が平らに整えられて、こちらの癖が抜けます。

    みっつめは、段階的にの型です。使いどころは、大きな仕事を頼むとき。方針説明の資料、社内マニュアル、稟議書。最初から「作って」と丸ごと投げると、返ってきたものが方向違いで、直すより書き直したほうが早い状態になります。刻めば、方向のずれは最初の一手で分かります。

    これから【最終的に作りたいもの】を作ります。
    ただし、一度に全部は作らないでください。下のステップを1つずつ進めます。
    各ステップの終わりで必ず止まり、私が「次へ」と言うまで先に進まないこと。
    
    【最終的に作りたいもの】
    (例:来期の営業方針を社内に説明する、A4で3枚の資料)
    【読み手】
    (例:営業部の全員。うち半分は数字の資料を読み慣れていない)
    【使える材料】
    (すでにある資料・数字・過去の類似物があれば、ここに貼る)
    
    ステップ1:構成案を3案出す。各案は見出しの並びだけ。本文は書かない。
     → ここで止まる。私がどれかを選びます。
    
    ステップ2:選ばれた案の見出しを確定させる。
          各見出しに、そこで言いたいことを1行だけ添える。
     → ここで止まる。私が加筆・削除します。
    
    ステップ3:確定した見出しに沿って本文を書く。1見出しずつ書き、都度止まる。
    
    いま出すのは、ステップ1だけです。

    3つとも共通しているのは、「止まれ」と書いてあることです。AIは放っておくと最後まで走ります。走らせたまま気づいたら、丸ごとやり直しになる。途中で一度こちらに戻す設計にしておくと、直しは一箇所で済みます。

    聞き方を変えるのに、費用は1円もかからない

    冒頭の光景に戻ります。同じAIを使っていて、片方は「そのまま送れる」と言い、片方は「合わなかった」と言う。あいだにあったのは、依頼文の厚みだけでした。

    私が使っているAIも、顧問先が使っているAIも、性能に大きな差はありません。差がついているのは、渡している材料の量です。役割を渡したか。例を渡したか。刻んで渡したか。渡した分だけ、返ってくるものが具体的になる。

    余談ですが、この構造は人に仕事を頼むときとまったく同じで、私は依頼文を書く練習をしてから、社員への頼み方まで変わりました。

    高い研修も、ツールの乗り換えも要りません。契約を変える必要もない。変えるのは、今日の1通目の依頼文だけです。

    最後に、明日からの一歩を1つだけ。次にAIへ何かを頼むとき、過去にうまくいったものを1つだけ添えてみてください。過去のメール、過去の案内文、過去の企画書。フォルダを開いて、コピーして、依頼文の下に貼るだけ。かかる時間は一分です。

    その一分が、二時間の書き直しを十五分に変えることがあります。あの卸売会社の社長が「なんで今まで貼らなかったんだろう」とつぶやいた午後を、私はときどき思い出します。

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    薄い答えが返ってきたら、AIを疑う前に、自分の頼み方を一度だけ見てください。たいていの場合、直せるのはこちら側です。

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    鈴木章裕

    株式会社コミクス 代表取締役

     
     
    AI活用のご相談→ https://www.comix.co.jp/contact/ 株式会社コミクス代表取締役。生成AI活用支援実績304社(2026年9月末現在)。営業・資料作成の効率化、AIエージェント導入を支援。何から始めるか迷っている段階でもご相談ください。

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