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AIは「やっておいて」では動かない。人も同じだった。

    夜中に、私はAIに向かって「この資料、いい感じにやっておいて」と打ち込みました。返ってきたのは、私が頭に描いていたものとまるで違う代物でした。舌打ちをしかけて、手が止まりました。同じ言葉を、私はこの十数年、社員にも外注先にも言い続けてきたからです。今まで仕事が回っていたのは、私の指示が良かったからではありません。相手が察してくれていただけでした。仕事を任せるというのは、指示を出すことではなく、完了を定義することなのだと思い知った夜の話をします。


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    「やっておいて」と打ち込んだ、あの夜のこと

    その晩、私は翌朝の商談に持っていく資料を仕上げようとしていました。骨子はできている。あとは体裁を整えるだけです。手を離したくて、AIに「この資料、いい感じにやっておいて」と入力しました。

    戻ってきたものは、たしかに整っていました。フォントも揃っている。ただ、私が直してほしかった箇所は一つも直っていません。私が「いい感じ」と呼んでいたのは、実は「相手の社長が三分で読めて、最後のページで金額の話に入れる状態」でした。その中身を、私は一度も口に出していなかったのです。

    腹立ちまぎれに、私は入力欄に条件を書き直しました。読む人は誰か、何分で読み終わってほしいか、どのページで何が決まればいいのか。四行ほどでした。すると、返ってきたものが別物になりました。

    そこで、背筋が寒くなりました。

    私は同じ言い方を、社員にしてきました。「例の件、いい感じにまとめといて」「あそこ、そろそろ動いといて」。それで仕事が進んでいたのは、社員が優秀だったからです。彼らは指示を受け取っていたのではなく、私の機嫌と過去の癖から、私が何を欲しがっているのかを推測していた。推測が当たれば「気の利くやつ」と褒められ、外れれば「そうじゃないんだよ」と言われる。当たり外れの責任は、いつも受け手側にありました。

    AIは推測してくれません。正確に言えば、推測はするのですが、私の顔色を読む機能を持っていません。だから、私の指示の粗さが、そのまま成果物の粗さになって返ってきます。

    これは、なかなか手厳しい鏡でした。私が長年「部下の理解力の問題」だと思っていたものの、かなりの部分が、私の指示の設計の問題だったと分かってしまうからです。

    「やっておいて」に、会社はいくら払っているか

    曖昧な指示は、その場では無料に見えます。二秒で言えて、こちらの手も止まりません。代金は、あとから分割で請求されます。

    いちばん分かりやすいのが差し戻しです。頼んだものが出てくる。違う。直してもらう。まだ違う。三往復して、結局こちらが手を入れる。一往復あたり、依頼した側の確認と説明で三十分、受けた側の作り直しで二時間。三往復すれば、二人で七時間近くが消えます。最初に一行、完了条件を書いていれば要らなかった七時間です。

    そして、消えるのは時間だけではありません。

    受け手の側から見ると、差し戻しは「自分の仕事が否定された」体験として積み上がります。何が正解か分からないまま、出しては戻され、出しては戻される。そのうち、確実に安全な行動を選ぶようになります。自分で判断せず、細かく確認を取りにくる。私たちはそれを見て「主体性がない」と言ってしまう。順序が逆です。完了が定義されていない仕事で主体的に動くのは、暗闇で全力疾走しろと言われているのと同じことです。

    この代金は、社内だけで発生するものではありません。外注先に「うちの雰囲気に合う感じで」と頼んで、上がってきたものが違い、直してもらい、また違う。あるとき先方から追加費用の話が出て、気まずくなる。私はこの手のこじれを何度も見てきましたが、遡ると原因はほぼ同じです。腕の良し悪しでも、相性でもなく、どうなったら完了なのかを誰も書かないまま始めていた。相手が社外になると、曖昧さは請求書の形で戻ってきます。

    三つめの代金は、社長自身が払います。「思ってたのと違う」が続くと、社長は任せるのをやめます。自分でやったほうが早い、という結論に着地する。そうやって、社長の手元に仕事が戻ってきます。会社が大きくならない理由の相当な部分は、ここにあります。

    私は、丸投げと委任は別ものだと思っています。違いは態度でも信頼関係でもありません。完了条件があるかどうか、それだけです。完了条件のない依頼は、どれだけ丁寧な言葉づかいで、どれだけ相手を信頼していても、構造としては丸投げです。逆に、完了条件が渡されていれば、言い方がぶっきらぼうでも、それは立派な委任として機能します。

    厳しい言い方になりますが、「やっておいて」は指示ではありません。願望を声に出しただけです。


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    AIの世界が先に出した答え

    面白いのは、この問題に世界でいちばん真剣に取り組んでいるのが、実は経営の世界ではなく、AIを使う開発の現場だということです。

    Anthropic社のドキュメントによれば、同社のAIコーディングツールであるClaude Codeには「/goal」という機能があります。使い方は単純で、作業を始める前に完了条件を指定します。たとえば「テストが全部通ること」「エラーがゼロになること」。すると、AIはその条件を満たすまで自動で作業を続けます。しかも、達成したかどうかを判定するのは、作業をしている本人ではなく、別のAIです。

    私はこの仕組みの説明を読んだとき、思わず唸りました。

    まず、最先端のAIですら「やっておいて」では動けないということです。あれだけの能力があっても、どこで止まればいいのかが分からなければ、走り出せない。逆に、完了条件さえ渡されれば、人が寝ている間も朝まで自走します。動く力があるかどうかではなく、止まる場所が決まっているかどうかが、自走できるかどうかを分けている。

    もう一つは、合格の物差しが、作業を始める前に決まっている点です。走り終えてから「これでいいか」を相談するのではなく、走り出す前に、何をもって到達とするかが両者の手元にある。会社でいえば、依頼した側と受けた側が、同じ物差しを先に握っておくことにあたります。

    いま世界中の開発者が、AIに仕事を頼むために「完了とは何か」を書き出す練習をしています。それまでは頭の中で済ませていたものを、言葉にしないと相手が動いてくれない。不便に見えて、これはとても健全な訓練です。

    そして、その訓練の中身は、部下への依頼とまったく同じでした。AIのために編み出された新しい作法ではなく、人に仕事を頼むときの原則を、私たちが省略していただけだったのです。相手が人間だと、省略しても察してもらえてしまう。だから省略が癖になり、癖になったまま気づかずに来ました。AIは察してくれないので、省略が全部表に出る。それだけの話です。


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    ある食品卸の専務が、一行を書き足すまで

    ここからは、業務用食品卸の会社でのお話をします。なお、以下は複数の支援先の事例を1社のモデルケースとして再構成しています。業種や規模、時期、数字は個社が特定されないよう組み替えており、往復回数などはあくまで一例としてお読みください。

    従業員四十五名、飲食店と給食施設に食材を卸している会社です。二代目にあたるM専務が、営業と管理を見ていました。社長であるお父様は会長職に近い立場で、実質的な指揮官はM専務です。

    初めてお会いしたとき、M専務は疲れきっていました。

    「うちの若い連中は、言われたことしかやらんのですわ」

    よくうかがう言葉です。私はその日、一日だけ社内の様子を見せていただきました。そして、M専務が部下に何かを頼む場面を、数えられるだけ数えてみました。

    半日で十一回。そのうち、いつまでに、何がどうなっていれば終わりなのかが言葉になっていたのは、一回だけでした。

    残りの十回は、こうです。「あれ、いい感じにまとめといて」「B社さん、そろそろ提案しといて」「この件、進めといて」。

    夕方、その十一行をそのまま紙に書いて、M専務にお見せしました。ご自身が半日で発した言葉だけを、時刻と相手を添えて並べたものです。

    M専務は、しばらく黙って読んでいました。それから、こうおっしゃいました。

    「これ、私が言うたんですか」

    言った本人が、文字にすると意味が取れない。これが曖昧な指示の厄介なところです。声に出しているときは、頭の中に映像があります。誰に何を渡して、どんな顔をさせたいか。ところが口から出るのは、その映像の見出しだけです。見出しだけを渡された側は、本編を想像で埋めるしかありません。

    「言うてるつもりになってただけですな。これで動けたら、そらエスパーですわ」

    その日はそれ以上、何も申し上げませんでした。

    象徴的な出来事が二つありました。

    一つは、展示会に持っていく提案資料です。入社三年目の若手に「いい感じにまとめて」と頼んで、三往復しました。一度目は情報量が多すぎる、二度目は写真が地味、三度目でようやく形になったものの、締切前夜にM専務が自分で作り直しています。若手は最後まで、何が違うのか分からないままでした。あとで本人に聞くと「専務が出してくる修正が毎回違うところなので、次に何を直されるか読めなかった」と言っていました。

    もう一つは、量販店への売場提案です。中堅の営業に「そろそろ提案しといて」と頼んだところ、出てきたのは新商品カタログの寄せ集めでした。M専務は「これじゃない」と言いましたが、それ以上の説明はしていません。実は、その得意先のバイヤーが困っていたのは新商品の情報ではなく、棚あたりの回転が落ちていることでした。M専務はその話を、会食の席で本人から聞いて知っていた。知っていたけれど、依頼のときには言っていなかったのです。

    私はM専務に一つだけお願いをしました。指示の最後に、一行足してみませんかと。何をどうしろ、ではなく、どうなったら終わりなのかを一行だけ書く。それだけです。

    M専務は、はっきりと嫌がりました。

    「そこまで書かなあかんのやったら、自分でやったほうが早いですやん」

    正直な感想だと思います。私はこう申し上げました。

    「一行書くのに、二分かかりません。差し戻しが一回起きると、専務と部下で合わせて何時間ですか」

    M専務はしばらく黙って、「三時間か、四時間ですかね」と言いました。

    「では、二分の投資です」

    その週から、試していただきました。最初に書いたのは、展示会資料の依頼です。

    「完了は、当日ブースに来たお客さんが、この資料を三分めくって、うちに何を頼めるかを三つ言える状態。確認は、金曜の夕方に君が私に向かって声に出して説明してみて、私が三つ言い返せたら合格。締切は木曜十七時。素材が足りなかったら、水曜の昼までに質問を三つ持ってくること」

    四行です。書くのにかかったのは、三分だったそうです。

    結果は一往復でした。若手が資料を持ってきたとき、こう言ったといいます。

    「専務、初めて何を作ればいいのか分かりました」

    M専務はその言葉を聞いて、しばらく何も言えなかったそうです。あとで、私にこうおっしゃいました。

    「あいつの理解力の問題やと思てました。ずっと、渡してへんかっただけでしたわ」

    面白いのは、その先です。二か月ほどで、部下の側の行動が変わりはじめました。M専務が「あれ、頼むわ」と言うと、若手が「それ、どうなったら完了ですか」と聞き返すようになったのです。

    最初M専務は少しむっとしたそうです。生意気に聞こえたと。ただ、三度目に聞かれたとき、はっと気づいたと言っていました。あれは反抗ではなく、確認だと。しかも、確認された時点で差し戻しは起きない。

    いまでは、社内で「完了は?」が合言葉のようになっているそうです。朝礼でも、電話を切ったあとでも、誰かが自然に口にする。M専務が号令をかけたわけではありません。差し戻されずに済んだ経験をした人から、順に広がっていったそうです。


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    完了条件の三要素——状態・検証・期限と例外

    M専務が四行で書いたものを分解すると、三つの要素が入っていました。この三つが揃っていれば、たいていの依頼は一往復で終わります。

    一つめは、状態で書くことです。

    私たちはつい、動作を指示してしまいます。「資料をまとめて」「提案してきて」。これは作業の名前であって、終わりの姿ではありません。状態で書くというのは、その仕事が終わったとき、世界がどうなっているかを描くことです。「お客さんが三分めくって、頼めることを三つ言える」は状態です。誰がどうなっているかが入っている。

    コツは、主語を相手にすることです。資料を主語にすると「まとまっている」としか書けません。読む人を主語にすると「三分で三つ言える」まで降りてきます。仕事の終わりは、たいてい社外の誰かの頭の中にあります。

    いくつか、書き換えの例を挙げます。「市場を調べておいて」は動作です。状態にすると「来週の会議で、参入するかどうかを判断する材料が三つ揃っている」になります。「新人の教育をしといて」も動作です。状態にすると「三か月後、その子が一人で得意先を訪問して、注文を取って帰ってこられる」になります。「在庫を整理しといて」なら、「棚を見た人が、どれが動いていない品かを一分で指させる」。

    並べてみると分かりますが、状態で書いた瞬間に、その仕事の難しさと、必要な期間が見えてきます。動作のまま頼んでいたときは、こちらも難易度を分かっていなかったのです。無理な締切を平気で口にしていた理由も、だいたいここにあります。

    二つめは、検証方法があることです。

    状態を書いても、達成したかどうかを判定できなければ、結局は社長の気分が合否になります。それが差し戻しの正体です。だから、誰が何を見て判定するのかまで決めます。M専務の例では「金曜の夕方に、声に出して説明させて、私が三つ言い返せたら合格」でした。合否のタイミングと方法が、依頼の時点で共有されている。

    先ほど、合格の物差しが作業を始める前に決まっている、という話をしました。それと同じことです。出てきたものを見てから合否を考えるのをやめて、頼む瞬間に判定の仕方まで渡してしまう。

    三つめは、期限と例外があることです。

    期限は当たり前のようで、抜けがちです。「なるはや」は期限ではありません。相手の「なるはや」と自分の「なるはや」が一致していたことは、私の経験では一度もありません。

    そして、例外がいちばん抜けます。詰まったときにどうするかです。どこまでは自分で決めてよくて、どこからは相談に来てほしいのか。ここが決まっていないと、真面目な人ほど止まります。止まったまま報告もできず、締切当日に「できていません」が発覚する。M専務の例では「素材が足りなければ水曜昼までに質問を三つ」がこれにあたります。詰まったときの逃げ道を、先に作っておく。

    この三つを、頼むたびに考えるのは大変です。私は、思いついたことをそのまま話して、AIに整えてもらっています。移動中に音声で吹き込むだけで、依頼の形になって返ってきます。

    あなたは、経営者の曖昧な指示を「完了条件」に翻訳する編集者です。
    
    【入力】
    これから私が、人に頼みたい仕事を思いついたまま話します。話し言葉のまま、順序もばらばらです。
    【ここに頼みたい仕事を話す(音声入力可)】
    
    【あなたの仕事】
    私の話を、下の4行だけに整形して返してください。私が言っていない情報は補わず、足りない部分は「(要確認)」と書いてください。
    
    【出力形式】
    完了状態:この仕事が終わったとき、誰が何をできる状態になっているか(作業名ではなく状態で書く)
    検証方法:誰が、いつ、何を見れば合格と判定できるか
    期限:いつまでに。途中で見せる日があればその日も
    例外:詰まったとき、どこまで本人が決めてよく、どこから私に相談するか
    
    4行を返したあと、私の話の中でいちばん解釈が分かれそうな言葉を1つだけ指摘してください。


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    そのまま使える、依頼の書き換えプロンプト

    ここからは、場面ごとに使える四本を置いておきます。どれも、そのままコピーして使えます。

    一本目は、依頼メールの書き換えです。従業員三十名ほどの商社の部長さんが、朝いちばんに部下へ依頼を送る前、下書きを貼って三十秒だけ通すという使い方をされています。

    あなたは、社内の依頼文を「差し戻しが起きない依頼文」に直す校正者です。
    
    【入力】
    これから、私が部下に送ろうとしている依頼の下書きを貼ります。
    【ここに依頼メール・チャットの下書きを貼る】
    受け取る人の職種と経験年数:【ここに相手の職種・経験年数を貼る】
    
    【あなたの仕事】
    1. 下書きの中から、受け手によって解釈が変わる言葉をすべて抜き出す(例:「いい感じに」「ざっくり」「なるはや」)
    2. その言葉を、完了状態・検証方法・期限・例外のどれで置き換えるべきか判定する
    3. 書き換えた依頼文を丸ごと書き直す
    
    【出力形式】
    ■ 解釈が分かれる言葉:1行につき1語。なぜ分かれるかを一言添える
    ■ 書き換え後の依頼文:そのまま送れる本文(80〜200字)
    ■ 相手から聞き返されそうな質問:3つ

    送る前の三十秒で、往復が一回減ります。単価の高い三十秒です。

    二本目は、会議です。会議の不毛さは、終わってよい状態が決まっていないことから来ています。前日の夜に議題を貼って、この会議が何をもって終わるのかだけ先に決めておきます。

    あなたは、会議の設計を手伝う進行役です。私はこの会議の主催者です。
    
    【入力】
    議題:【ここに議題を貼る】
    出席者:【ここに出席者の役職を貼る】
    会議時間:【ここに時間を貼る】
    
    【あなたの仕事】
    この会議が「終わってよい状態」を先に決めます。次の3つに仕分けて返してください。
    
    【出力形式】
    ■ この会議で決めること:最大3つ。それぞれ「○○を△△にする」という形の一文で
    ■ 持ち帰ること:この場では決めず、誰がいつまでに何を調べてくるか
    ■ 決まらなかった場合の扱い:時間切れになったとき、次にどうつなぐか
    
    最後に、この3つを会議の冒頭1分で読み上げるための台本を4行で書いてください。

    冒頭で読み上げるところまでやると、効き方が変わります。全員が同じ終わり方を見て走り出せるからです。

    三本目は、外注です。ホームページでも、パンフレットでも、システムでも、揉めるときの原因はほぼ同じで、完了の姿と修正の範囲が決まっていないことです。移動中に思いついた内容を話して、仕様書の形にしてもらいます。

    あなたは、外注先に渡す仕様書をまとめる担当者です。
    
    【入力】
    これから、外注に頼みたい内容を思いついたまま話します。
    【ここに外注したい内容を話す(音声入力可)】
    外注先の業種:【ここに相手の業種を貼る】
    予算感:【ここに予算を貼る】
    
    【あなたの仕事】
    話の中身を、外注先がそのまま見積もれる仕様書にしてください。私が言っていない仕様は決めつけず、「(要確認)」として残してください。
    
    【出力形式】
    1. 目的:何のために作るのか(一文)
    2. 完了状態:納品されたとき、誰が何をできる状態になっていれば完了か
    3. 納品物:形式と数量まで書く
    4. 検証方法:こちらが何を見て合格と判断するか
    5. 修正回数の上限と、上限を超えた場合の追加費用の扱い
    6. 期限と、中間で確認する日
    7. 要確認事項:先方に聞くべき質問を5つ

    修正回数の上限は、相手を縛るためではありません。無制限のまま始めるから、双方が疲れて関係が壊れます。先に決めておくほうが、結果として長く付き合えます。

    四本目は、週の終わりに自分を点検するためのものです。金曜の夕方、その週に人へ頼んだことを思い出せるだけ書き出して、貼ります。

    あなたは、私の依頼の出し方を点検するコーチです。
    
    【入力】
    今週、私が人に頼んだ仕事の一覧です。1行1件、頼んだときの言葉のまま書いてあります。
    【ここに今週の依頼リストを貼る】
    
    【あなたの仕事】
    1件ずつ、完了条件が相手に伝わる形だったかを判定してください。判定は厳しめでお願いします。
    
    【出力形式】
    ■ 判定表:1行1件で「依頼内容/判定(明確・やや曖昧・完全に曖昧)/曖昧だと判断した語」
    ■ 特に危ないもの:上位3件。それぞれ「このままだと起きる差し戻し」を一文で
    ■ 書き換え例:上位3件のみ、そのまま送れる本文で
    ■ 今週の私の口ぐせ:繰り返し出てきた曖昧な言葉を3つ

    これを四週続けると、自分の口ぐせが見えてきます。私の場合は「ちょっと」でした。「ちょっと見といて」「ちょっとまとめといて」。ちょっとで済んだためしがありません。

    差し戻しの往復が消えた日

    M専務の会社で、半年ほどたって何が変わったかをお伝えします。

    まず、資料の差し戻しがほぼなくなりました。以前は三往復が当たり前だったものが、一往復で通るようになった。往復が減った分の時間は、M専務の場合、得意先回りに戻っています。数字の話をすると、訪問件数が月に十件ほど増えました。あくまで一例ですが、往復の消滅は、そのまま社長の時間の回復として現れます。

    次に、量販店への売場提案が変わりました。「そろそろ提案しといて」ではなく、「完了は、バイヤーさんが棚の回転を上げる案を二つ持ち帰れる状態。合格の判定は、先方が次回の商談日をその場で決めてくれるかどうか」と渡すようになった。営業は、カタログを集めるのをやめて、バイヤーに何が起きているかを聞きに行くようになりました。同じ人が、同じ得意先に、まったく違う準備をして向かうようになったわけです。

    三つめは、あの若手の変化です。展示会の資料を一往復で通したあと、彼は自分から次の仕事の完了条件を書いて持ってくるようになりました。「この件、こうなったら完了でいいですか」と紙一枚を差し出す。M専務は、そこに丸をつけるか、一か所だけ直す。それで依頼が終わります。かかる時間は一分ほどです。

    依頼の設計が、上から下へ渡すものから、二人で確かめ合うものに変わった。M専務は「あいつのほうが、俺より完了条件を書くのがうまなってきましたわ」と笑っていました。

    そして、いちばん大きかったのは、M専務が夜に会社にいなくなったことです。

    以前は、部下の出したものを自分で作り直すために、毎晩遅くまで残っていました。作り直しが消えれば、残る理由もなくなります。

    私が印象に残っているのは、M専務のこの言葉です。

    「任せるって、手放すことやと思てたんです。でも違いましたね。ゴールを先に渡すことでした。渡してへんのに手だけ離したら、そら落ちますわ」

    丸投げと委任の差は、握力ではなく、渡したものの中身にありました。


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    おわりに——完了を定義するのは、部下を信じる技術

    完了条件を書くというのは、細かく管理することではありません。むしろ逆です。

    終わりの姿を渡してしまえば、そこへ至る道は相手が選べます。途中で口を出す必要がなくなる。細かく指示を出す社長ほど、実は完了条件を渡していません。渡していないから不安で、経過を覗きに行ってしまう。覗かれた側は萎縮して、さらに判断しなくなる。この悪循環の入り口は、いつも同じところにあります。

    私はAIに仕事を頼むようになって、自分の指示の粗さを毎日突きつけられています。ありがたいことだと思っています。何十年も、相手の察する力に甘えてきたことが、はっきり見えるようになったからです。

    そして、この練習には終わりの日がありません。完了条件を書くのは、頼むたびに必要な作業です。ただ、慣れると二分で済みます。二分の投資で、三時間の差し戻しが消える。これほど割のいい投資は、そう多くありません。


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    明日、誰かに何かを頼むときのことを思い浮かべてみてください。

    言おうとしている言葉のあとに、一行だけ足してみる。「これは、どうなったら終わりです」と。それだけで構いません。全部の依頼を変える必要はなく、今週いちばん大事な一件だけで十分です。

    相手が「分かりました」と言って部屋を出ていくとき、その人の頭の中に、あなたと同じ絵が浮かんでいるかどうか。それが、任せられているかどうかの分かれ目です。

    AIですら、完了を渡されて初めて朝まで走ります。人が走らないのは、走る気がないからではありません。どこがゴールなのか、まだ聞かされていないだけかもしれません。

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    鈴木章裕

    株式会社コミクス 代表取締役

     
     
     
    AI活用のご相談→ https://www.comix.co.jp/contact/ 株式会社コミクス代表取締役。生成AI活用支援実績304社(2026年9月末現在)。営業・資料作成の効率化、AIエージェント導入を支援。何から始めるか迷っている段階でもご相談ください。

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