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数字に強い社長は、数字をあまり見ない。──見る数字を三つに絞ると、判断は深くなる

    数字に強い社長ほど、見ている数字は少ない。生成AI活用顧問として多くの経営者と向き合ってきて、私がいちばん意外に思ったのがこれでした。毎朝たくさんの数字に目を通している社長より、三つしか見ていない社長のほうが、商売の急所を正確に言い当てるのです。差がついていたのは、数字の量ではありませんでした。一つの数字に、どれだけ「なぜ」を重ねられるか。その一点です。今日はその話をさせてください。

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    数字が増えるほど、社長は見えなくなります

    この数年で、数字を出すことは本当に簡単になりました。

    会計ソフトが日次で数字を吐き出します。POSが商品ごとの動きを勝手に集計します。生成AIに表を貼れば、十秒で内訳も比率も出てきます。かつて経理担当者が三日かけていた集計が、いまは朝のコーヒーを飲む間に終わります。

    これは、間違いなく良いことです。私自身、支援先にその仕組みを入れる側の人間です。

    ただ、現場でお会いする社長の顔を見ていると、妙なことが起きていました。数字が増えたのに、判断が速くなっていないのです。むしろ、遅くなっている方が多い。

    理由は、考えてみれば当たり前でした。数字を出す力だけが増えて、数字を読む力は増えていないからです。出す側は機械が担ってくれる。けれど読む側は、相変わらず社長ひとりの頭です。供給だけが十倍になって、処理する側が一人のまま。詰まるに決まっています。

    しかも厄介なことに、数字は見ているだけで仕事をした気持ちになります。朝、届いた数字の表を上から下まで目で追う。時間は三十分ほど使う。ところが夕方に「今日、何を決めましたか」と伺うと、何も決まっていない。眺めていただけなのです。

    私はこの状態を、心のなかで「全部見て、何も見ていない」と呼んでいます。

    自分を責める必要はまったくありません。人の頭は、そういうふうにできています。目の前に二十の数字が並ぶと、一つひとつを深く見る代わりに、全体を「だいたい大丈夫そうか」で処理してしまう。危険を素早く避けるための、ありがたい仕組みです。ただ、経営で必要なのは素早い安心ではなく、遅くても正確な違和感のほうでした。

    ここで、いつも思い出す話があります。昔の商家の番頭です。

    商家には大福帳がありました。売掛、買掛、日々の出入り、貸し借り。すべてが筆で書かれた分厚い帳面です。当時の番頭は、あの帳面の全部を毎日見ていたわけではありません。見ていたのは、決まった数か所だけです。掛けの残り、蔵の中身、そして得意先ごとの支払いの遅れ。その数字が前と違う動きをした日に、番頭は帳場を立ち、確かめに現場へ行きました。

    情報が少なかったから、そうしていたのではないと私は思っています。逆です。帳面に書かれた情報は膨大でした。だからこそ、見る場所を絞らなければ商売の急所を掴めないと知っていた。

    いまの社長のほうが、当時の番頭より遥かに多くの数字を手にしています。それなのに、急所を掴めていない。順番が入れ替わってしまっているのです。

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    毎朝、七通のメールを開いていたN社長

    ここからは、実際にあったお話をさせてください。なお、これから書く内容は、複数の支援先で起きた出来事を、一社のモデルケースとして再構成しています。似た場面を、私は本当に何度も見てきました。

    食品スーパーを三店舗、従業員は四十二名。二代目のN社長です。

    N社長の朝は、メールを開くところから始まります。届くのは七通。店別の日次売上、部門別の粗利、客数と客単価、廃棄率、値引き率、レジ待ち時間、それから前日の勤怠。すべて自動で送られてくる仕組みが、数年前に入っていました。

    初めてお会いしたとき、N社長はこうおっしゃいました。

    「数字は毎日ぜんぶ見てます。それだけは欠かさずやってるんです」

    立派なことだと思いました。実際、この会社の数字管理は同規模の会社より進んでいました。

    そこで私は、少し意地の悪い質問をしてしまいました。

    「昨日の数字を見て、何か気になったところはありましたか」

    N社長はしばらく黙って、それから正直におっしゃいました。

    「……二号店の粗利が落ちてたのは覚えてます。でも、なんでかは分からないです」

    「その粗利が落ちた理由を、確かめに行かれましたか」

    「行ってないです。次のメールを開いちゃったので」

    これが、いちばん怖い状態だと私は思っています。気になった数字が、次の数字に上書きされて消えていく。七通ぶんの気づきが、七通目を読み終える頃には全部消えている。三十分かけて、何も残らない。

    私がお願いしたのは、たった一つでした。

    「明日から、七通のうち一通だけを開いてください。あとの六通は、フォルダに落ちるようにしておきましょう」

    N社長は本気で嫌そうな顔をされました。当然です。「見ない」というのは、経営者にとって怠慢に感じられます。

    そこで、番頭の話をしました。大福帳の全部を毎日は見なかった番頭の話です。見る場所を三つに絞り、その三つが動いた日に帳場を立って現場へ確かめに行った。数字を捨てたのではなく、深さを取ったのだ、と。

    N社長は少し考えて、こうおっしゃいました。

    「うちの番頭は、何を見ればいいんでしょうね」

    そこから二時間、私たちは三つを選ぶ話をしました。候補は二十以上あります。ホワイトボードに全部書き出して、一つずつ消していきました。

    これが、想像以上にきつい作業でした。どれも消せないのです。廃棄率を消そうとすると「いや、これは大事です」とおっしゃる。勤怠を消そうとすると「人が辞めたら終わりですから」とおっしゃる。おっしゃることは、どれも正しいのです。

    途中でN社長が、ふっと笑ってこう言われました。

    「これ、全部大事だって言ってるうちは、何も大事じゃないってことですね」

    最後に残ったのは、部門別の粗利率、一日あたりの客数、そして値引き額の三つでした。理由は単純です。この三つが動いたときだけ、N社長が翌日に手を打てるからでした。

    翌週から、N社長の朝は変わりました。開くのは一通。見るのは三つの数字だけ。所要時間は三分です。浮いた二十七分を、私は「なぜを掘る時間」に使っていただくことにしました。

    最初の一週間は、落ち着かなかったそうです。「見ていない数字のなかに、大事なものがあるんじゃないか」と何度も思われた。三日目には、こっそりフォルダを開いて全部見てしまったとも伺いました。私はそれでいいと思っています。四十年ぶんの習慣が、一週間で消えるはずがありません。

    二週間後、N社長から電話がありました。

    「鈴木さん、二号店の粗利率が、三日続けて低いままなんです」

    「なぜだと思われますか」

    「分からないです。廃棄が増えてるのかな、と」

    そこで、生成AIに壁打ちをしていただきました。画面を共有しながら、N社長が音声でこう吹き込みます。「二号店の部門別粗利率が、三日続けて三十一パーセント前後で止まっている。ふだんは三十四パーセントくらい」。

    AIは答えを返しませんでした。私がそう設計していたからです。返ってきたのは質問でした。

    「その三十一パーセントは、どの部門が押し下げていますか」

    N社長が調べると、精肉でした。そこで二回目の質問が返ります。

    「精肉のなかで、下がっているのは売価ですか、原価ですか、廃棄ですか」

    調べると、原価でした。仕入単価が上がっていたのです。そして三回目。

    「その仕入単価は、いつから、どの品目で上がりましたか」

    ここで、N社長は電話口で声を上げられました。上がっていたのは一品目、それも三週間前からでした。取引先から値上げの連絡は来ていた。事務所で受け取り、承認もしていた。ただ、それが粗利率という数字になって現れることを、誰も結びつけていなかったのです。

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    「一つの数字から、こんなに出てくるんですね」

    そのときのN社長の言葉です。私は、番頭が帳場でただ一つの数字を指した場面を思い浮かべていました。

    売価の見直しを決めたのは、その週のうちでした。仕入先を変えるかどうかまでは、この時点では決めていません。まず売価だけを動かして、翌週の粗利率がどう反応するかを見る。三つしか見ていないので、反応はすぐに読み取れました。

    判断は速くなりました。見る数字を減らしたからです。

    見る数字を三つに絞る、その前に

    ここからは、具体的な進め方をお話しします。

    その前に一つだけ。数字の置き場所づくり、いわゆるダッシュボードの整え方や、資金繰りの読み方については、別の機会に書きました。今日はその手前の話です。目の前にある一枚の数字を、どう読むか。読み方だけの話をさせてください。

    まず、絞り方です。難しく考える必要はありません。基準は一つだけで足ります。

    その数字が動いたとき、あなたは明日、何かを変えられますか。

    変えられるなら残す。変えられないなら外す。それだけです。

    N社長の例で言えば、レジ待ち時間は外れました。動いても、翌日の人員配置は契約の都合ですぐ変えられなかったからです。逆に値引き額は残りました。これは翌日から現場に指示を出せる数字です。

    多くの会社では、この基準で二十以上の数字が三つか四つに落ちます。落ちた数字は捨てるのではなく、月に一度だけ見る場所に移します。毎日見るのをやめる、というだけの話です。

    絞る作業を一人でやると、たいてい捨てきれません。どれも大事に見えるからです。そこで、AIに手伝ってもらいます。

    社長ご自身が絞る前の段階で、「この表から何が読めるか」ではなく「この表について何を聞かれるべきか」を出させると、頭の整理が驚くほど進みます。月次の試算表を受け取った日や、店別の集計が出た日に使ってみてください。

    あなたは、経営者に質問することだけを仕事にしている聞き手です。
    これから、私の会社の数字表を貼ります。
    
    【あなたがやること】
    貼られた数字を読み、私に投げかける「質問」を10個つくってください。
    
    【あなたがやらないこと】
    ・答えを書かない
    ・原因を推測して断定しない
    ・改善案、施策、打ち手を書かない
    ・「良い」「悪い」の評価を書かない
    
    【質問のつくり方】
    ・10個のうち3個は「この数字の中身は、何と何に分かれますか」という内訳を聞く質問
    ・3個は「この中で、平均から大きく外れているものはどれですか」という例外を聞く質問
    ・3個は「この数字は、前に見たときとどこが違いますか」という変化を聞く質問
    ・残り1個は「この表に載っていないが、あなたが知っているはずのこと」を聞く質問
    
    【出力形式】
    1〜10の番号付き。1問1行。前置きと解説は不要です。
    
    【ここに試算表・売上表・店別集計などを貼る】

    十個の質問のうち、社長がその場で答えられないものが、たいてい二つか三つあります。それが、絞るべき三つの候補です。

    数字の裏を見る、三つのレンズ

    三つに絞ったら、次はその三つの裏を徹底的に見ます。使うレンズは三枚です。

    一枚目は、内訳です。 合計を分ける。全体の数字は、必ず何かの足し算です。売上なら店別、部門別、曜日別、客層別。分けた瞬間に、平均のなかに隠れていた動きが顔を出します。N社長の粗利率も、精肉に分けた瞬間に正体が見えました。

    このレンズで最も裏切られやすいのが、平均値です。平均は、いちばん親切な顔をして、いちばん多くを隠します。客単価の平均が横ばいでも、その中身が「よく買う人が減り、少しだけ買う人が増えた」に入れ替わっていることがあります。合計は同じ、中身は別物。この入れ替わりは、平均を見ている限り一生見えません。

    平均が出てきたら、必ず分けさせてください。月次資料に「平均」の文字を見つけた日が、使いどきです。

    あなたは、数字を整理する担当者です。判断や評価はしません。
    これから、平均値が書かれた資料を貼ります。
    
    【依頼】
    この資料に出てくる平均値を、平均のままにせず、次の形で出し直してください。
    
    1. 平均の対象になっている件数(何件の平均か)
    2. 上位3分の1・真ん中3分の1・下位3分の1の3グループに分け、各グループの平均値
    3. いちばん高い1件と、いちばん低い1件の実数
    4. この3グループの差を見て、私が確かめるべき「問い」を3つ
    
    【禁止事項】
    ・原因の推測を書かない
    ・改善案を書かない
    ・「この数字は健全です」等の評価をしない
    ・元の資料にない数字を補わない。不足している場合は「この資料からは出せません」と書く
    
    【出力形式】
    表1枚(グループ/件数/平均/最大/最小)+問い3つの箇条書き。
    
    【ここに平均値の入った資料を貼る】

    二枚目は、例外です。 平均から外れたものを探す。いちばん売れた日、いちばん売れなかった店、いちばん粗利の高い商品。この端っこにこそ、商売の答えが落ちています。

    なぜなら、平均は「すでに知っていること」しか教えてくれないからです。外れているものだけが、まだ知らない何かを持っています。N社長の会社では、三店舗のうち一店舗だけ木曜の客数が伸びていました。調べたら、近所の病院の診察日でした。誰も知らなかった。それが分かってから、木曜の惣菜の量を変えました。あくまで一例ですが、こういうものは平均を眺めていても絶対に出てきません。

    三枚目は、変化です。 前とどう違うかを見る。数字そのものより、動いたかどうかのほうが情報量が多い。粗利率が三十四パーセントであること自体には、意味はありません。ずっと三十四だったものが三十一になった、この差にだけ意味があります。

    そして、変化のレンズで最も見落とされるのが、増えた数字のほうです。減った数字には誰でも反応します。増えた数字は、みんな安心して通り過ぎる。ところが増加の裏に、値引きのしすぎや、一過性の特需や、来月の反動が隠れていることがあります。

    増えた数字を見つけたときこそ、いったん立ち止まってください。

    あなたは、数字を多方向から読み直す点検役です。
    私の会社で、先月より増えた数字があります。
    
    【依頼】
    この「増えた」という事実に対して、素直に喜べない可能性のある読み方を3つ挙げてください。
    それぞれについて、その読み方が当たっているかを確かめる方法を1つずつ添えてください。
    
    【必ず守ること】
    ・どれが正解かを断定しない。「〜の可能性があります」の形で書く
    ・悪い方向に決めつけない。3つのうち1つは「単純に良い結果である可能性」を残す
    ・私の会社の内情を知らない前提で書く。知っている前提の推測は書かない
    ・財務・与信・投資の判断はしない
    
    【出力形式】
    可能性1〜3。各3行以内(読み方/なぜそう読めるか/確かめる方法)。
    
    【ここに、増えた数字を書く。例:「7月の粗利額が前月比で90万円増えた」】
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    念のために申し添えます。AIが返すのはあくまで読み方の候補で、正解ではありません。数字の正誤や、税務・融資に関わる具体的な判断は、必ず顧問税理士や会計士など専門家にご確認ください。AIに任せるのは、問いを増やすところまでです。

    一つの数字に、「なぜ」を三回

    三つのレンズで裏を見たら、最後は掘ります。掘り方は、「なぜ」を三回だけです。

    一回目の「なぜ」は、たいてい表面で止まります。「粗利率が落ちた」「廃棄が増えたからでは」。ここで止まると、出てくる打ち手は「廃棄を減らそう」になります。誰でも思いつく答えで、誰も動きません。

    二回目の「なぜ」で、場所が特定されます。「どの部門か」。三回目で、原因の入口に届きます。「いつから、何が変わったか」。

    N社長の場合、三回目でようやく「三週間前の一品目の値上げ」に辿り着きました。ここまで来ると、打ち手が具体になります。「廃棄を減らそう」ではなく、「この品目の売価を見直す」になる。決められる粒度まで降りてきたのです。

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    なぜ三回か。一回では浅く、五回では現場から離れて哲学になるからです。三回は、社長が現場へ確かめに行ける距離で止まります。番頭が帳場を立って蔵まで歩く、あの距離だと思ってください。

    一人でこれをやると、二回目で必ず自分の仮説に飛びつきます。だから、掘るところだけをAIに手伝ってもらいます。月末や、気になる数字を見つけた朝に、五分だけ使ってみてください。音声入力でも構いません。

    あなたは、経営者の話を聞く聞き手です。私は会社の社長です。
    これから私が、今月いちばん気になっている数字を1つ話します。
    
    あなたの役割は、答えを出すことではありません。私に問いを返すことです。
    
    【ルール】
    ・改善案、分析結果、原因の断定を書かないでください
    ・1回につき、質問は1つだけにしてください
    ・私が答えたら、その答えの中の言葉をつかんで、さらに1つ深い質問を返してください
    ・これを3回くり返してください
    ・4回目に、私が3回で話した内容を箇条書きで並べ直し、最後に「確かめに行く場所」を1つだけ提案してください
    ・数字の正しさや良し悪しの判断はしないでください。整理と質問までにとどめてください
    
    では、最初の質問をどうぞ。
    【ここに、今月気になっている数字を1つ話す。例:「7月の客単価が1,180円から1,090円に下がった」】

    最後に、掘る前の下ごしらえの話をさせてください。

    そもそも数字の出どころが曖昧だと、何回掘っても掘り当たりません。同じ「売上」でも、税抜きか税込みか、締め日がいつか、返品を含むか。ここがずれたまま議論すると、会議室で全員が別々の数字の話をすることになります。

    数字には、必ず出どころがあります。その札が付いていない数字は、掘っても手応えのない場所を掘ることになります。会議資料をお持ちの方は、会議の前日に一度これを通してみてください。三分で終わります。

    あなたは、会議資料を点検する係です。内容の良し悪しは評価しません。
    
    【依頼】
    これから貼る会議資料に出てくる数字を1つずつ拾い、各数字に次の3点札が付いているかを点検してください。
    
    ・出どころ(どのシステム・誰の集計から来た数字か)
    ・定義(何を数えた数字か。含むもの・含まないものは何か)
    ・期間(いつからいつまでの数字か。締め日はいつか)
    
    【出力形式】
    表にしてください。列は「数字/出どころ/定義/期間/不足している札」。
    資料から読み取れない項目は、推測で埋めず「記載なし」と書いてください。
    最後に、「記載なし」が2つ以上ある数字だけを抜き出し、会議前に確認すべきものとして並べてください。
    
    【禁止事項】
    ・数字が正しいかどうかの判定はしない
    ・不足を補う推測値を書かない
    
    【ここに会議資料の数字部分を貼る】

    会議が、眺める場から問う場に変わりました

    半年ほど経った頃、N社長の会社の会議を見せていただきました。

    以前の会議は、資料が十二ページありました。全店の全部門の数字が並び、店長が順番に読み上げていく。九十分かけて、決まることは一つか二つです。しかも決まるのは、たいてい会議の最後の十分でした。

    見せていただいた会議は、資料が二ページになっていました。載っているのは三つの数字と、その内訳だけです。

    進め方も変わっていました。読み上げがありません。冒頭でN社長が言うのは、いつも同じ一言だそうです。

    「今日いちばん気になる数字を、一人ひとつ挙げてください」

    そこから先は、質問の応酬になります。「その数字、どこが押し下げてる」「先週と何が違う」「一店だけ外れてるのはなぜ」。誰も資料を読み上げていないのに、会社のことがどんどん見えていく光景でした。

    会議は五十分に短くなり、決まる件数は増えたそうです。あくまで一例で、業種や会議の性質によって結果は変わると思います。ただ、変わった理由ははっきりしていました。数字が減ったからです。

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    N社長ご自身の変化も、伺ってみました。

    「数字を見る時間は、たぶん三分の一以下になりました。でも、数字のことを考えてる時間は増えてます」

    これが、私がいちばん申し上げたいことです。見る時間と、考える時間は別物です。眺めている三十分は、考えている時間ではありません。

    もう一つ、N社長がおっしゃった言葉があります。

    「前は、数字を見て安心してたんですね。異常がなければ、それでよかった。いまは、数字を見ると質問が浮かびます」

    数字が答えから、問いの入口に変わった瞬間だと思いました。

    変わったのは、社長だけではありませんでした。店長のお一人が、こんなことをおっしゃっていたそうです。

    「前の会議は、悪い数字を説明する場でした。いまは、分からないことを持ち寄る場になりました」

    これは、私にとって嬉しい言葉でした。数字が多い会議は、たいてい犯人探しになります。数字が三つしかない会議は、犯人を探しようがありません。全員で一つの数字の裏を覗き込むしかなくなる。減らしたことの効果は、社長の時間より、この空気のほうが大きかったのかもしれません。

    数字は答えではなく、問いの入口です

    数字は、答えを教えてくれません。

    粗利率が三十一パーセントという数字は、何も教えてくれていないのです。それは「なぜ三十一なのか」という問いが立った瞬間に、初めて情報になります。数字そのものには意味がなく、問いを立てたときに意味が生まれる。私はそう考えています。

    だとすれば、数字の量を増やしても意味は増えません。増えるのは、問いを立てないまま通り過ぎる数字の数だけです。

    そして、これは能力の話ではありません。私がお会いする社長で、数字が苦手だとおっしゃる方はたくさんいます。けれど、その方たちが判断できないわけではないのです。判断できないのは、数字を読むのが苦手だからではなく、見る数字が多すぎて一つも掘れていないからでした。

    三つに絞れば、数字が苦手な方でも掘れます。掘れば、必ず現場に行き着きます。現場に行き着けば、社長は誰よりも強い。四十年その商売をやってきた方が、現場で分からないことはほとんどありません。

    だから私は、数字の勉強より先に、数字を捨てる話をします。

    捨てると言うと、抵抗を感じる方が多いのもよく分かります。見ていなかった数字のせいで何かを見落としたら、と考えると怖い。その気持ちは、私自身にもあります。

    ただ、実際に見落としが起きるのは、たいてい逆のほうでした。二十の数字を毎朝眺めていた会社で、大事な変化が三か月気づかれなかった例を、私は何度も見ています。全部を見ているつもりの目には、何も引っかからないのです。二十を薄く見る目より、三つを深く見る目のほうが、遠くの動きに先に気づきます。

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    昔の番頭は、いまの社長より遥かに少ない情報で、商売の急所を掴んでいました。手元にあったのは筆で書かれた帳面一冊です。それでも、蔵の中身と得意先の支払いの遅れだけを毎日見て、動いた日に現場へ歩いた。

    少ない数字のほうが、遠くまで見えることがあります。

    明日の朝、どの三つを選びますか

    明日の朝、いつもどおり数字が届いたら、一つだけ試してみてください。

    全部を眺めるのをやめて、一つだけ選ぶ。そして、その一つに「なぜ」を三回だけ重ねる。三回目で出てきた場所へ、その日のうちに歩いていってみてください。

    たぶん、思っていたのとは違うものが待っています。私はこれまで、その現場で驚かなかった社長を見たことがありません。

    三つを選ぶのは、今日でなくても構いません。まずは一つでいい。一つの数字に三回だけ「なぜ」を重ねる。それだけで、明日の朝は今朝と違う朝になります。

    数字は、見るものではなく、問うものです。今日はその一回目を、どうぞ。

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    鈴木章裕

    株式会社コミクス 代表取締役

     
     
     
    AI活用のご相談→ https://www.comix.co.jp/contact/ 株式会社コミクス代表取締役。生成AI活用支援実績304社(2026年9月末現在)。営業・資料作成の効率化、AIエージェント導入を支援。何から始めるか迷っている段階でもご相談ください。

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