メインコンテンツへスキップ
見出し画像

団地綺譚 葬送と再生の境界 第15話 豪雨の行方と真っ赤なセブン

    #創作大賞2026
    #ファンタジー小説部門

    ◇小説の紹介
     昭和40年代、子供の頃に過ごした団地とその周辺を舞台に、猫や車、時代のガジェットたちの記憶を織り交ぜながら、ファンタジー小説として紡いでいきます。どうぞお付き合いください。

    あらすじ、目次、登場人物紹介はこちら

    真っ赤なセブンは真っ黒な改造車に追われていた。
    一体どういうことだ。

    深海先輩は団地にまだいたのか。

    豪雨の中、銀狼は複数のテールランプを追いかける。

    改造車は初代プリウスのようだ。燃費の良い大衆車をよりによって改造するのか。中古のタマも多いからパーツにも困らんか。えーいそんなことどうでもいい。

    深海先輩のものと思われる真っ赤なセブンは団地の外周道路を突っ走っていく。追う5台の改造プリウス。対向車線にはみ出しつつセブンを追い詰める。まるで野犬の群れだ。

    幸い豪雨で、他の一般車には出くわさない。

    団地の外周道路を突っ切るところで改造車の横に銀狼を潜り込ませる、なんとかセブンを運転している人影と助手席の黒猫が見えた。

    トムなのか?
    なぜ深海先輩の車に?

    再度、事務所の角の交差点。そう思った瞬間にテールが流れて、セブンと改造プリウスの一群に引き離されてしまった。

    く!

    銀狼にダメージがないか、ドアを開けて歩道側のホールを見る。大丈夫かと思ったときにグラウンドの草むらから黒い影が運転席に飛び込んできた。

    トム!

    それは間違いないトムだった。
    豪雨にズブ濡れだが、まっすぐこちらを見上げてくる。

    え、じゃあ、あの黒猫は・・・

    にゃ-ッ

    トムがそんなことどうでもいいよとばかりに高い声で鳴いた。

    分かった!
    立て直して、一緒にセブンと改造プリウス軍団を追うぞ。

    トムを助手席に座らせて、シートベルトを締めてやる。
    銀狼を急発進させると、豪雨にかすむテールランプ群が見えた。
    セブンは外周道路を左折する。

    左折すると、さらに事態は悪化。車線は数台のダンプに詰まってる。無理に対向車線を追い越すしかない。

    先輩、このまま逃げ切ってくれ!

    しかし、ダンプがいきなりノーウィンカーで対抗車線へ!たまらずセブンは右折し、団地の外回りの一般道へ走り込む。

    改造プリウスは度々セブンを追い込む。それをかわす様は、華麗と言えるほど。

    さすが、深海先輩!ウデは鈍ってない。

    さらに加速し続けるセブンとプリウス。銀狼も負けじと追いかける。

    いつしか戌渡川まで来た。
    ものすごい増水だ。

    土手の道路ぎりぎりまで濁流が上がってきている。
    団地橋の手前で左折し、濁流すれすれの土手の道路にセブンが突っ込む。

    改造プリウスもためらいもなく左折し、土手の道路を一列になって、セブンを追いかける。それを銀狼が負けじと追走する。

    川下の戌渡橋まで一瞬で駆け抜けて来た。
    木造の戌渡橋は車は渡れない。しかも濁流に流されかけてる!?
    となると左折して川を離れるか、まっすぐ進むか。

    だがその先は川が決壊?豪雨と濁流が渦巻いて、陸地が見えないではないか!

    画像
    溢れんばかりの戌渡川

    下流は土地が低い、確かに良く決壊していた記憶がある。
    川の両側の田んぼは海のようにもなるし、確か下流にある養鶏場も度々被害を受けていた。

    そこへ突っ込んでは、どうにもなるまい。
    しかし、チキンレースなのか!セブンとプリウスの一団はスロットルを緩めない!

    先輩!止まるんだ!

    追いついたつもりだったが、複数のテールランプは豪雨にかき消された。

    戌渡橋まで来て、とっさにブレーキを踏む。
    決壊した濁流に寸前で飲み込まれぬように。

    濁流の中、いくつかの赤い光がよぎった。
    セブンのサンルーフが開くのが見えた。

    「深海先輩ーっ!」

    豪雨の中、濡れるのも構わず運転席から顔を出して叫んだ。
    濁流に揺らぐルーフから黒猫が飛び出して、改造プリウスの方へ飛ぶのが見えた。

    そして、意を決して銀狼を濁流に進めようとしたとき、白い波が押し寄せてきた。

    まずい!沈む!

    このままでは沈むとルーフを開けた、その瞬間、白い波の正体がわかった。それは無数の白色レグホン、鶏の群れだった。

    銀狼は、なんと白い鶏の波に押しとどめられてしまった。
    そして濁流の中、セブンが沈むと思われた瞬間。
    それまでレースの行方をじっとみていた助手席のトムが、信じられないような高い悲鳴のような声を上げた。

    ニャーーーーッ!

    その声に茫然としつつ、冷たい豪雨を浴びて、体が冷えたか、極限の緊張の糸が切れたか、座席を埋め尽くした鶏の暖かさに包まれて、不覚にも、意識を失った。

    翌朝、台風一過のように快晴の中、目が覚めた。戌渡橋の欄干に引っかかるように銀狼は押しとどめられていた。あれだけいた鶏はどこかへ去った。

    その日の午後、土砂にまみれた銀狼は事務所の駐車場にレッカーされてきた。直すには少し時間がかかる。

    あれは夢だ。

    深海先輩は数年前に、事務所から居なくなったと、富江から聞いた。課長は何も言わなかった。

    あのセブンが深海先輩のわけがない。

    ならば、あの改造車に追われたセブンに乗っていたのは誰なんだ。

    俺は夢でも見ていたのか・・・

    茫然と歩いて戌渡橋までやってきた。

    戌渡川が決壊し、土手が崩れていた。流れ出した濁流が田を削り、運ばれてきた土砂があたりを埋め尽くしていた。結果として田んぼと川の境が消失していた。

    まさかこんなことが。

    一晩の豪雨で、地形が一変してしまった。

    土砂の中に歩を進めてみる。さらさらと砂が流れるような清流が幾重にも流れている。現実離れした風景の中、想いが去来する。

    もしかして、深海先輩が俺を呼んだのか・・・

    堆積した河原の大きな水たまりがみえた。そこに屹立する黒い塊。泥にまみれていても、紅七の文字だけが読めた。

    ひび割れた黒いガラス・・・深海先輩のセブンのリアウインドーだった。

    目次はこちら

    ▶16話予告「瞳の中の記憶はつづく。深海先輩のプランに近づくことができるのか?プランBとは何か。」 7/10金曜日に投稿します。


    あなたへのおすすめ