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団地綺譚 葬送と再生の境界 第12話 消えた白球と二匹のトム

    #創作大賞2026  
    #ファンタジー小説部門

    ◇小説の紹介
     昭和40年代、子供の頃に過ごした団地とその周辺を舞台に、猫や車、時代のガジェットたちの記憶を織り交ぜながら、ファンタジー小説として紡いでいきます。どうぞお付き合いください。

    あらすじ、目次、登場人物紹介はこちら

    すっかり陽は落ちた。
    プレーはちょうど前半9ホールを終え、休憩に入った。

    休憩は大人の社工場である。
    課長は富江と生ビールを乾杯している。

    ハーフのスコアは課長はぴったり40。
    こちらは60。これでもかなり健闘の部類だ。

    なにしろ、団地の屋上という変態コースである。
    ボールこそトムが探しに行くものの、OB連発である。

    幸いに高低差はほぼないので、なんとかグリーンに寄せれば、3パット以内で沈められる。だが、階段を上ったり下りたり、まだ半分終わったところなのだ。体力が続くかどうか。

    「はーい。元気?」

    富江が生ビールを注いでくる。
    あれ、なんか汗かいてるな。

    息もきらして、めずらしいな。
    ああ、課長はぐいぐい行ってるけど、吞んで大丈夫か。

    いや、呑むしかないだろう!

    一気に空けて、課長の方へ向き直る。

    「後半は追いつきますよ!」

    「む、そうなのかのう?」

    「がんばって!」

    無邪気な富江。まったくもう、お前も参加してみろよ!
    酔っぱらってきたのかおかしな気分だ。
    団地の小学校わきの1号棟から始まり、グラウンドの周りを、もうぐるっと回ってきている。

    さすがに脚にきている。
    やはり各棟にエレベーターの設置は必須だ。

    とはいえ団地の屋上が芝生だったとはなあ、社宅からはみえなかったものな。
    子どものころ、あのタラップの上に何があるか、友達とあてっこしていたが、まさかゴルフ場があったとはなあ・・・

    まさか当時、そんなものがあるわけないのだが、酔いが回って屋上にあったものだと真面目に考え始めている。いったい、そんなところでプレーできるわけがないし、ボールが住戸に飛び込んだらどうなる・・・
    もはやそういうまともな考えすら浮かばない。

    状況の破天荒さにあてられてしまったのだろう。
    正直、ボールを追っている猫が2匹いるとは気づいていなかった。

    酔った課長が面白がってボールを転がすと、富江はきゃっきゃいいながら追いかける。まるで猫のようだ。

    あちこちボールを追いかけて、ようやく見つけた富江。生ビールを注ぎながらこちらを見つめられている。なんだかいつもの富江と違う気がした。さっと富江は視線をそらしたので、そのとき富江の目が少しうるんでいたことに気づかなかった。

    「さて、後半もよろしく~」

    課長のあいさつと共に、月夜の後半戦が始まった

    団地の明かりが落ちていたのか、暗闇にいくつもの長方形の芝生が光に照らされて浮かんでいる。課長もアルコールのせいかペースが落ちてきている。

    逆にこちらは、調子が上がってきた。

    周りの風景が見えなくなってきて、狙いが定まってきたからだろうか。次々と狙いの棟の屋根に打ち込む。猫が地上をボールを追いかけてかける必要はなくなったようだ。

    しかし好事魔多し。
    課長は腰に来たのか、態勢が乱れたまま打ち込んだ。

    カツーン!

    課長の痛恨の一打、ボールが暗闇にきえてはねる音だけ響く。トムが嬉しそうに駆けていく。

    これで並ぶか!

    気づけば最終ホール。
    ついにOBとなった課長に対して、連続パーで気づけば、あと少しで追いつくところまで来ていた。

    パーシモン!たのむぜ

    ボールをティにおいて、拾いもののパーシモンのヘッドをみつめる。

    親父のパーシモンも当たれば飛んだかもな。

    ガツン

    ナイスショットだった。
    しかし、あたりが良すぎた。
    このゴルフは、あたりが良すぎてもオーバーする。

    トムが走っていく。

    「これで、二人そろってプレ4だら」

    二人そろって、73号棟へ上る。

    「ほだほだ!」

    課長は、グリーンのある70号棟へ絶妙なショットを放つ。

    グリーンへ落ちたボールはコロコロとまっすぐ、カップへ向かう。

    え、まさか!

    カーン

    直接カップイン!
    これはいくらなんでも・・・分が悪い。

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    二匹のトムの出現にあらぬ方向へショット!

    課長のスーパーショットに打ちのめされて、ボールをもらおうとトムの方を向いた。

    え

    トムが二匹いる!
    どういうことだ。

    ちょっと動揺してしまった。瓜二つの猫が二匹いた。
    疲労感とちょっぴり敗北感によるうわの空で一匹のトムからボールを受け取り、ショット!

    ボールはむなしく、それて消える。
    一匹のトムが走っていく。

    「やった、わしの勝ちじゃん!」

    飛び上がって喜ぶ課長と、もう一匹のトム。

    それをみて、茫然と、そして少しやけくそになった私は、冗談のつもりで実家の方向を向いた。まだトムはボールを拾ってこない。だが、ポケットに事務所で拾ったあの特製の四角いディンプルのボールがある。

    ティにボールを据える。

    パーシモンをゆっくり振り上げて、ゆったりとしたスイングで振り下ろす。

    「おい!」

    課長の声が聞こえたような気がしたが、ガツンという音とともに、ボールはかなたへ飛んだ。

    団地から戌渡川を越えて、実家の方向へ!

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