AI活用共有会を半年続けて分かった、研修より効いたのは社内コンテストだった

社内でAIを広めたい。研修もやった、事例共有もした。それでも「使う人が増えていく実感」が薄い。そんな停滞感を抱えていたなら、半年やってみた答え合わせを書きます。
決め手は、研修でも事例共有でもありませんでした。コンテストでした。しかも、1回目より2回目の方が明らかに効きました。応募数は60件から25件に減ったのに、です。今回はその逆説の中身を書きます。
以前『社内AIが広まらない本当の理由:教える前に「触る理由」を作る』という記事を書きました。半年経って、また少し見えてきたことがあります。
共有会の主催者になって気づいたこと
月次の共有会を続けてきました。前半は使い方の研修、後半は誰かの活用事例を1〜2本紹介する、という構成です。
参加者は毎回それなりに集まり、アンケートの満足度も悪くありません。それでも「使う人が増えていく実感」が、なかなか追いついてきませんでした。
共有会の運用そのものは、以前『リテラシー差より効いたのは"楽しい入口"だった:AI活用共有会の話』や『地味な共有会を続けたら、役員から「定期で説明してほしい」と言われた話』でも触れました。
理由を後から振り返ると、共有会には聴く人と話す人の役割が固定されていたのだと思います。
話す側は前のめりで準備し、聴く側は受け取って終わる。会の中で全員が当事者になる瞬間が、ほとんど作れていませんでした。
研修も事例共有も、それ自体は否定しません。ただ、「聴いて終わり」の構造を変えない限り、回数を重ねても同じところで止まる感触がありました。
会のフォーマットそのものを揺らす実験が必要だと気付き、試したのが社内コンテストでした。
壁はどこにあったか
最初のコンテストは、社内でAIを触り始めて数か月の段階で開きました。狙いは、興味関心を広げることでした。業務に使った内容から、半分お遊びの使い方まで、幅広く募集しました。
応募は60件集まりました。数字としては成功です。「こんなにみんな触っているのか」という驚きが社内に広がりました。
ただ、運営としては大きく3つ失敗しました。
ひとつ目は、審査員を各部の上司にお願いしたことです。
狙いとしては、上司が審査を通じて良いアイデアを持ち帰り、自部門に展開してくれることを期待していました。実態は、審査する側の上司自身がAIをまだ十分には触れておらず、応募内容の深さを評価しきれない場面が多かったように思います。
これは上司側の問題ではなく、審査の構造設計を私が間違えたという話です。
ふたつ目は、60件を1.5時間で紹介したことです。
1件あたり1.5分しかありません。どれだけ良いアイデアでも、駆け足で流れてしまうと印象に残りません。
みっつ目は、結果として、受賞しなかった良作が「その他大勢」に埋もれてしまったことです。
受賞案件には注目が集まりますが、現場で本当に使えそうな案ほど地味で、駆け足の中で見落とされていました。広げるためにやったコンテストが、広がりを狭めてしまった面がありました。
この出来事から学べること
ここから抽出できる学びを、3つに分けておきます。
ひとつ目は、コンテストの目的を「件数を集める」と「深く聴かせる」のどちらに置くかで、設計が真逆になるということです。
1回目はあきらかに「件数を集める」設計でした。話題を作って関心を広げるには有効でしたが、活用そのものを広げるには別の設計が必要でした。
ふたつ目は、審査する側の理解度が、コンテストの質を決めてしまうという気付きです。
誰が審査するかをデフォルトで上司に置いてしまうと、評価軸が「報告として整っているか」に寄ってしまいがちです。本当に評価したいのが「現場で使えるか」なら、審査する人の選び方を変える必要があります。
みっつ目は、受賞か非受賞かの二分法だけでは、現場への展開に弱いということです。
コンテストの本来の目的が「業務に使えるアイデアを広げる」ことなら、賞という結果よりも、応募内容を全員が知る過程の方が重要でした。
これらの反省を踏まえて、約1年後に2回目のコンテストを開きました。
実際に試したこと
2回目で変えたのは、大きく3つです。
1)審査を従業員全員に開いた
上司審査をやめて、参加者全員が審査する側に回る形にしました。誰かが評価する場ではなく、全員で投票する場に作り変えたかったからです。
これは単に「審査員の人数を増やす」話ではありません。聴く側に「自分が決める」役割を持たせる、という設計の変更でした。
2)投票アプリを自作した
全員投票にするとき、投票そのものが回らなくなる懸念がありました。25件の応募を全員が見て、点数を付けて、集計する。紙の投票用紙だと、これだけで会が終わってしまいます。
そこで、投票補助のための小さなアプリを作りました。アプリの中身は、以前『投票の混乱はUIで減らせる。非エンジニアが作った投票補助の実験』に書いた通りです。投票そのものの時間を圧縮できれば、その分を応募内容の紹介に回せます。
3)賞金を副次的に付けた
賞金は、あくまで「参加してみよう」と思える小さな後押しとして加えました。賞金で釣るのではなく、参加した後の体験で残してもらうつもりでした。
応募数は、結果として60件から25件に減りました。当初は不安もありましたが、これは募集の出し方を絞った結果でもあります。
1回目の駆け足の反省から、「全件を丁寧に紹介できる規模」にあらかじめ寄せていました。
会の運営は、コンテストの目的説明と投票方法の案内を含めて、全体で50分で収まりました。1回目が90分で駆け足だったのに対して、2回目はむしろ短くなったのに丁寧になりました。
やってみて分かったこと

数字で並べると、こうです。
応募数:60件 → 25件
全体時間:90分(駆け足) → 50分(説明含む)
1件あたり紹介時間:約1.5分 → 約2分
応募数も時間も両方減ったのに、コンテストとしては明らかに2回目の方が良くなった、というのが正直な実感です。
何が変わったのかを言葉にすると、たぶんこうです。自分が投票する立場になった瞬間、応募内容の聴き方が変わります。
「この人の話、自分はどう評価するか」を考えながら聴くので、流して聴けなくなります。受け身の事例報告が、能動的な「自分ならどれを推すか」の判断に変わるのです。
その結果、受賞しなかった案件についても「あの案、自分は推した」「あの工夫は自分の業務でも使えそう」という記憶が残ります。1回目で起きていた「良作が埋もれる」現象が、自然と減りました。
一方で、想定外の難しさもありました。応募の絞り込みは結果として効きましたが、お遊び寄りの応募が減ったことで、会の雰囲気が少しだけ硬くなりました。
1回目にあった「半分笑い話のような応募」も、現場の心理的な敷居を下げる役割を持っていたのだと、後から気付きました。このあたりは、件数と密度のトレードオフとして、まだ正解が出ていません。
定例の月次共有会では、ここまで聴く姿勢を動かす変化は起きていません。「全員が評価する場」を年単位の節目に挟むことが、定着のエッセンスのひとつになっているのではないか、というのが半年やってみての仮の結論です。
明日から試せる一歩
社内で同じような共有会やコンテストを運営している方向けに、自分が次にやるなら最初にチェックする項目をまとめておきます。
今の共有会で、聴く人と話す人の役割が固定されていないか見直す
審査をする人が、評価対象を十分に理解できているか先に確認する
応募数より、1件あたりの紹介時間を先に決める
投票や採点の仕組みで、聴く側に「決める役割」を持たせる
お遊び枠を残すかどうかを、最初に意識して設計する
同じフォーマットのコンテストは2回までと決めて、3回目は形を変える前提で考える
次の一手
ここまで書いてきて、まだ自分の中で答えが出ていない問いが残っています。3回目のコンテストをやるかどうか、です。
定着への効きを実感した以上、続けたい気持ちはあります。一方で、同じ形式の3回目は確実に飽きます。マンネリ化する前に一度区切るか、形式を大きく変えて続けるか。
もしあなたの現場で同じような取り組みをしているなら、どこで一度区切るか、どう形を変えるかについて、ぜひ判断を聞かせてほしいと思います。
研修より、事例共有より、コンテストの方が定着に効いた。半年やって出てきたこの結論を、3回目の判断にどう活かすかは、まだ実験の途中です。
この記事が参考になったら「スキ」で教えてください。次の実験の励みになります。
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