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小役人日記 新規採用編②最初の仕事

     研修を終え、私の本格的な業務が始まった。初めて配属された課は、直接業務を行うというよりは、他の課の業務を支援するマネジメント的な課であった。そこで、私が仰せつかったのは情報公開業務である。行政文書の開示請求に応じ、公開できない箇所だけを墨消しした上で開示するという業務だ。これにより、行政は国民の的確な理解と批判の下に置かれ、公正で民主的な行政の実現に資するわけである。

     とはいえ、実際に私が行う作業は、かなり地味なものであった。請求された文書を探し出し、個人情報など公開できない部分(不開示情報)を墨消しし、決裁を回した上で請求者へとお渡しする。ただ、それだけである。

     ところが、この業務は、私が仕えた最初の課長である宮本課長によって、恐ろしく高難度の業務へと変貌したのである。

     宮本課長は、霞ヶ関の本省庁から出向してきた方で、その頭脳の回転の早さと、正論を頑として曲げない姿勢から、内外に恐れられていた。同時に、実に人情味あふれる人物でもあり、多くの人を魅了する人間的な魅力を持ちあわせていた。今日に至るまで、私は宮本課長以上の上司を知らないのである。

     さて、話を戻そう。宮本課長は、この情報公開業務に対して非常に厳しかった。この業務において、唯一私が考えて判断するのは、「どの箇所を不開示とするか」である。しかし、実は、そこにもそれほど検討の余地はない。基本的に、氏名や生年月日といった個人情報は墨消しするだけであるし、開示か不開示か迷うような箇所についても、初めて請求されるケースは極めて少ないのだ。過去の事例を参照すれば、大抵は済むのである。

     役人の仕事というものは、良くも悪くも前例踏襲で回っていることが多い。制度が変わらない以上、取り扱いも変わらないというのは一定の合理性があるし、むしろ、担当者によって判断が異なるほうが公平性を欠くからだ。

     しかし、宮本課長は、この私の姿勢が気に入らなかったらしい。決裁を持っていくたびに、こう指摘された。

     「なぜ、この箇所は不開示なのか?」

     私は、

     「一年前の同様の開示請求時にも、不開示としているからです。」

     と答える。だが、これでは宮本課長は許してくれない。

     「情報公開は、公開するのが原則だろう。例外的に不開示とする以上、しっかり理由を説明しろ。過去そうだったから、では駄目だ。仮に過去が間違っていたらどうする。ずっと間違いを繰り返し続けるつもりか?」

     全くもって、そのとおりなのである。何一つとして、宮本課長の発言に間違いはない。私は、役人になったばかりにして、既にどっぷり役人的思考に浸かっていたのだ。そして、とどめにこう言われたのである。

     「中馬、お前そんなんじゃ小役人だぞ。」

     私は、この時から、自分を「小役人」として認知するようになった。そして、そうであり続けないように仕事に向き合いたいと思ったのである。

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    40歳前後の国家公務員。小役人の日常や子どもの頃の出来事など、実話をもとにしたエッセイを書いています。

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