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ルノーは中国から欧州に戻り、BYDは世界に広く展開へ 世界自動車朝刊2026年9月9日

    今日の結論

    9月8日の世界自動車産業では、「どこで最も安く作れるか」より、「どこで作ればその市場へ入れるか」が重要になる動きが重なった。

    Renault傘下のDaciaは、これまで中国で生産していた廉価BEV「Spring」の第2世代を、スロベニアで生産すると正式発表した。理由は製造能力だけではない。欧州生産に切り替えることで、

    • EUの中国製EV追加関税を回避できる

    • フランスなどのEV購入支援対象になれる

    • 欧州で急成長する中国製EVと価格競争しやすくなる

    という政策上の利点が生まれる。(Reuters)

    一方アメリカでは、Sean Duffy運輸長官がFordのJim Farley CEOへ書簡を送り、CATL、Geely、BYDとの関係に「深刻な懸念」があるとして、中国企業への依存縮小を要求した。(Reuters)

    そして中国側では、BYDが2027年の海外出荷について250万台超を目指していると、同社経営陣とのグループ面談に参加した大手証券会社2社が伝えた。BYD自身はReutersの確認要請にコメントしていない。(Reuters)

    つまり世界では同時に二つの力が働いている。

    西側市場は中国との自動車サプライチェーンを分離・地域化しようとする。

    しかし、中国メーカーは逆に、これまで以上の規模で世界市場へ出ようとしている。

    このせめぎ合いが、2026年後半の自動車産業の重要な構造になりつつある。

    1. Dacia Spring、中国生産をやめて欧州へ――「安い場所で作る」だけでは安く売れない

    Daciaは9月8日、第2世代Springを正式発表した。Springは欧州の廉価EV市場で早くから存在感を持ったモデルで、2021年以降、40カ国以上で累計21万台超を販売している。(Renault Group)

    初代の特徴の一つは、中国生産だったことである。

    中国の低コスト生産基盤を使い、欧州へ輸出することで、価格を抑える。数年前なら非常に合理的な方法だった。

    ところが、その計算が変わった。

    第2世代Springは、Renault Twingoなどと基盤を共有し、スロベニアのNovo Mesto工場で生産する。(Reuters)

    価格は1万7,900ユーロからを予定する。

    一見すると、生産コストの高い欧州へ戻せば価格競争力が下がりそうである。実際には逆の力が働く。

    中国製ではフランスの補助対象になれない

    Daciaにとって特に大きかったのがフランスである。

    フランスではEV購入支援制度に環境スコアなどの条件があり、中国生産の現行Springは低所得者向け支援の対象外だった。

    そのため、フランスでEV比率が急上昇したにもかかわらず、Springは十分にその恩恵を受けられなかった。Reutersによれば、フランスの新車市場に占めるEV比率は、

    7月:約35%
    8月:約38%

    まで上昇した。ところがSpringは8月のフランス販売ランキングで55位にとどまった。(Reuters)

    第2世代を欧州生産に変えれば、この問題を解消できる。さらにEUが中国製BEVへ課している追加関税も回避できる。

    つまり今の欧州では、中国で安く作ることよりも、欧州で作り、補助金を受けられ、追加関税を払わないことの方が最終的な販売価格で有利になり得る。

    「China for Europe」が成立しにくくなった

    これはSpringだけの話ではない。

    欧州自動車産業では、この数年間、China for Europeという生産モデルが急速に難しくなっている。

    中国で、電池を調達し、車両を組み立て、欧州へ輸出する。

    純粋な製造コストだけを考えれば合理的だった。

    しかし現在は、関税、補助金要件、環境スコア、現地雇用、政治リスクまで計算しなければならない。

    その結果、製造原価が多少高くても、欧州で組み立てた方が安く売れる場合が出てくる。

    Dacia Springは、その分かりやすい実例である。

    2. 米政府、Fordに「CATL、Geely、BYDとの関係を見直せ」

    アメリカでは、さらに強い力が働いている。

    Sean Duffy運輸長官は9月8日、FordのJim Farley CEOへ書簡を送り、中国企業との提携について「深刻な懸念」を表明した。名指しされたのは、

    • CATL

    • Geely

    • BYD

    である。(Reuters)

    特に問題視されたのが、Michigan州MarshallでFordが建設している電池工場である。

    Fordは工場を自ら所有・運営する一方、CATLからLFP電池技術のライセンスを受ける。

    Ford側から見れば、中国企業から完成電池を輸入するのではなく、中国の技術だけを導入してアメリカ人がアメリカで生産するという現地化策である。

    Fordも今回、「他社が中国製電池を輸入し続ける中、Fordはアメリカで電池を生産するために投資している」と反論した。(Reuters)

    しかし米政府側は、それでもCATLへの技術依存そのものを問題視している。

    「Made in America」でも中国技術なら問題になる

    ここが現在の米自動車政策の重要な変化である。

    従来の通商政策なら問題になるのは、どこで作ったかだった。今回の議論では、それだけではない。

    アメリカで作る。アメリカ人を雇う。Ford自身が工場を所有する。それでも、使っている技術が中国企業由来なら安全保障上問題ではないかと政府が問い始めている。

    さらにDuffy長官は、FordがGeelyやBYDとの協業を検討していることや、Lincoln Nautilusの中国生産を2030年まで続ける計画も批判した。(Reuters)

    数日前の朝刊では、アメリカの主要自動車メーカー自身が議会に対し、中国系車両、ソフトウェア、ハードウェアを恒久的に排除する法制化を求めたことを取り上げた。

    今回は政府がその論理をアメリカメーカー自身の中国提携へ向け始めた。

    ここにはFordにとって厄介な矛盾がある。

    中国企業との協業を切れば、中国勢との電池・EVコスト差を縮めにくくなる。しかし協業すれば、政治・安全保障上の問題になる。

    つまりアメリカメーカーは、中国技術を使わずに、中国メーカーとコスト競争することを求められ始めている。

    これはかなり高いハードルである。

    3. BYD「2027年海外250万台超」報道――事実なら輸出企業の次元が変わる

    その中国側では、正反対の動きが進んでいる。

    Reutersは9月8日、大手証券会社2社が、BYD経営陣とのグループ面談を基に、同社が2027年の海外出荷台数について250万台超を見込んでいると顧客向けに報告したと伝えた。(Reuters)

    注意が必要なのは、この数字が現時点でBYDによる公式ガイダンスではないことである。Reutersの問い合わせに、BYDは直ちには回答していない。

    したがって250万台を確定した会社目標として扱うべきではない。

    ただし、仮にこの規模が実現すれば意味は大きい。

    250万台は、「中国メーカーが海外販売を増やしている」という表現では収まらない。海外市場だけで世界的大手メーカー一社分に近い事業を作る規模になる。

    BYDの海外進出は「輸出」だけではない

    さらにBYDの場合、「海外250万台」がそのまま「中国から250万台を輸出する」という意味になるとは限らない。

    同社はすでに、タイ、ブラジル、ハンガリー、トルコ、ウズベキスタンなどで現地生産体制を整備・拡張している。

    つまり今後の海外販売拡大は、中国から輸出する車両、海外工場で現地生産する車両の両方で進む。

    ここが今日のDaciaのニュースとつながる。

    Daciaは中国から欧州への輸出をやめ、欧州で作る。BYDも欧州で売るため、ハンガリーなどで作る。

    メーカーの出身国は違っても、行き着く答えは同じである。

    売りたい地域で作る。

    これは自動車産業にとって昔からある考え方だが、関税・補助金・安全保障によって、再び強制力を持ち始めている。

    今日の小さな変化

    Teslaの欧州FSD(Supervised)では、スロベニアが9月8日に使用を承認した。これで限定的なFSD利用を認めた欧州の国は6カ国となった。(Reuters)

    9月2日版から追っているEU承認問題の続報であり、本日の新しい主軸には置かない。

    ただし、一国ずつ実績を積み上げながらEU全域承認を目指すTeslaの戦略は明確になってきた。

    今後見るべきなのは国数そのものより、EUレベルの採決で十分な加盟国・人口比を確保できるかである。

    Volkswagenでは、Audi傘下のDucati売却を検討していると報じられた。Audi CEOのGernot Döllner氏は、グループ全体のポートフォリオ見直しの一環としてDucatiについても検討しているが、何も決定していないと説明した。(Reuters)

    これもVolkswagenの大規模再編の延長線上にあるため、具体的な売却交渉へ進むまでは補助線として観測する。

    今日の読み筋

    9月9日版のキーワードは、「グローバル化の再設計」である。

    かつて自動車メーカーがグローバル化する最大の理由は、規模の経済だった。

    最も安く作れる場所で生産する。部品を世界中から調達する。同じ車両を複数市場へ輸出する。それによって1台当たりのコストを下げる。

    現在、その論理に別の条件が加わっている。

    Daciaは中国で安く作れても、欧州で補助金対象になれず、追加関税を払えば不利になる。

    だから欧州へ生産を戻す。

    Fordはアメリカで電池を作っても、CATLの技術を使えば政府から問題視される。

    だから単なる現地生産だけでは「アメリカ製」と認めてもらえなくなる可能性がある。

    その一方でBYDは、海外250万台という次元の事業を視野に入れていると報じられた。

    中国車を閉め出そうとする市場が増えても、中国メーカーの国際化そのものは止まっていない。むしろ、

    • 輸出

    • 現地工場

    • 現地サプライチェーン

    • 現地ブランド

    • 販売金融

    を組み合わせ、より深い形で海外へ入ろうとしている。つまり世界の自動車産業は「脱グローバル化」しているわけではない。

    より正確には、一本につながっていたグローバルサプライチェーンを、地域ごとに作り直している。

    Europe for Europe。America for America。China for China。そして各地域からGlobal Southへ。この構造が強まれば、同じメーカーでも市場ごとに、

    • 生産拠点

    • 電池

    • ソフトウェア

    • サプライヤー

    • 商品仕様

    まで変える必要が出てくる。その結果、世界共通車を大量生産することで得られた規模の経済は弱くなる。

    一方、その複雑さを最も上手に管理できる企業には、新しい規模の経済が生まれる。

    9月8日は、Daciaが中国から欧州へ生産を戻し、アメリカ政府がFordの中国技術利用に異議を唱え、その外側ではBYDがさらに巨大な海外展開を目指すという三つの出来事から、自動車産業の新しいグローバル化の形が見えた一日である。

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