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現状はまだRACCOが極少とわかるBYDの輸出と現地生産最新状況

    中国BYDの海外展開が、新たな段階に入りつつある。

    蓋世汽車研究院(Gasgoo Automotive Research Institute)がまとめた2026年1~6月のBYD乗用車輸出データによると、最大の輸出先はブラジルで19万4,686台。2位オーストラリアの5万8,839台に3倍以上の差をつけ、突出した規模となった。

    一方、10位のタイは1万4,321台にとどまる。

    しかし、この数字だけを見て「ブラジルはBYDにとって巨大市場だが、タイはそれほど大きくない」と判断すると、実態を見誤る。

    BYDはすでにタイで年間15万台規模の乗用車工場を稼働させているからだ。

    さらにブラジルでも現地生産が本格化。ウズベキスタンでも量産を行っており、欧州ではハンガリー工場の稼働準備が進む。

    つまりBYDのグローバル化は、すでに「中国でつくって世界へ輸出する」だけの段階から、「需要の大きな市場では現地でつくる」段階へ移行している。

    この変化によって、今後は中国からの輸出台数だけを追っていても、BYDの海外事業規模を正確には把握できなくなる。

    2026年上半期の中国からの輸出状況

    蓋世汽車研究院による2026年1~6月のBYD乗用車輸出先TOP10は以下となった。

    1位 ブラジル:194,686台
    ・BEV:99,504台
    ・PHEV:95,182台

    2位 オーストラリア:58,839台
    ・BEV:42,258台
    ・PHEV:16,581台

    3位 ベルギー:43,848台
    ・BEV:16,810台
    ・PHEV:27,038台

    4位 英国:39,054台
    ・BEV:11,201台
    ・PHEV:27,853台

    5位 ドイツ:28,316台
    ・BEV:11,690台
    ・PHEV:16,626台

    6位 フィリピン:25,989台
    ・BEV:7,477台
    ・PHEV:18,512台

    7位 UAE:18,146台
    ・BEV:848台
    ・PHEV:17,298台

    8位 スペイン:17,609台
    ・BEV:6,879台
    ・PHEV:10,730台

    9位 スロベニア:16,081台
    ・BEV:7,933台
    ・PHEV:8,148台

    10位 タイ:14,321台
    ・BEV:14,307台
    ・PHEV:14台

    最大の特徴は、ブラジルの突出ぶりである。

    19万4,686台という数字は2位オーストラリアの約3.3倍。しかもBEVが9万9,504台、PHEVが9万5,182台とほぼ半々であり、BYDの二つの主要技術体系がともに大規模に投入されている。

    だが、むしろ注目したいのは10位のタイである。

    タイでは「売れていない」?

    タイ向けの中国からの輸出台数は1万4,321台。この数字だけなら、ブラジルの14分の1程度しかない。

    しかしBYDは2024年7月、タイ東部ラヨーン県で初の東南アジア乗用車工場を正式稼働させている。

    同工場は年間15万台の生産能力を持ち、プレス、溶接、塗装、最終組立などの工程を備える本格的な完成車生産拠点である。BYD自身もタイ工場を海外現地生産戦略の重要拠点として位置付けている。

    したがって、中国からタイへの輸出台数が少ないことは、そのままBYDのタイ事業が小さいことを意味しない。

    むしろ逆である。

    現地生産能力を構築したため、中国から完成車として輸出する必要性が低下している。

    BYDの海外展開を分析する際には、「中国から何台輸出したか」だけではなく、「中国からの輸出+海外現地生産」を見る必要が生じている。

    次に同じ変化が起きるのがブラジル

    そして現在、このタイと同じ構造への移行が急速に進んでいるのがブラジルである。

    BYDはブラジル北東部バイーア州カマサリで乗用車生産を開始している。

    2026年8月には、ブラジル市場向けに開発したPHEV「Song Pro Super-Híbrido Flex Fuel」の現地生産車を発表した。同車は電気に加え、ガソリンとエタノールに対応するフレックス燃料仕様で、中国とブラジルの開発チームが共同開発したブラジル専用色の強いモデルである。

    BYDはカマサリ工場で2026年に約18万台を生産する計画で、2027年1月までに現地生産車の部品現地調達率を50%超へ引き上げる方針も示している。(Reuters)

    これは非常に重要な変化である。

    2026年上半期には中国からブラジルへ約19.5万台ものBYD乗用車が輸出された。

    しかしブラジル工場の生産能力が立ち上がれば、その需要の相当部分を現地生産で賄えるようになる。

    つまり今後、仮に中国からブラジルへの輸出台数が減少しても、「BYDのブラジル事業が縮小した」とは限らない。

    むしろ現地生産への置き換えによって輸出が減少する可能性がある。

    ウズベキスタンでPHEVを現地生産

    BYDは中央アジアでも現地生産を開始している。

    ウズベキスタンのジザフ州では、現地自動車メーカーUzAutoとの合弁工場が2024年6月に正式稼働。

    第1段階の年間生産能力は5万台で、「Song PLUS DM-i」と「Chazor(Destroyer 05)」などのPHEVを生産している。

    さらにBYDは、同工場で生産した車両をウズベキスタン国内だけではなく、中央アジア諸国へ輸出する構想も示している。(BYD Global)

    ここまで進むと、貿易統計の読み方はさらに複雑になる。

    中国→ウズベキスタンという輸出だけではなく、中国→ウズベキスタン工場→中央アジア各国という地域内供給網が形成される可能性があるからだ。

    欧州も「中国から輸出」から「欧州で生産」へ

    さらに大きな変化が予想されるのが欧州である。今回の輸出先TOP10には、

    ・ベルギー:43,848台
    ・英国:39,054台
    ・ドイツ:28,316台
    ・スペイン:17,609台
    ・スロベニア:16,081台

    と、欧州5カ国が入った。現時点では、中国から欧州への完成車輸出がBYDの欧州事業を支える重要な供給経路となっている。

    しかしBYDはハンガリー南部セゲドに、欧州初となる乗用車生産拠点を建設している。

    2026年6月にBYDのステラ・リー副総裁がReutersに語ったところでは、同工場での車両組立開始は2026年第4四半期を予定している。

    当初想定より遅れているものの、ハンガリー工場が本格稼働すれば、欧州向け車両の一部は中国からの輸出から欧州域内生産へ切り替わっていく。

    そうなれば、現在の中国発輸出統計とBYDの欧州販売実績の乖離も拡大する。

    「輸出のBYD」から「多国籍生産BYD」へ

    BYDの海外戦略を考えるうえで重要なのは、工場そのものを海外へ移しているだけではない点である。

    タイでは東南アジア市場に対応する生産体制を構築。

    ブラジルではエタノールという同国固有のエネルギー事情に対応したPHEVを、中国・ブラジル共同で開発。

    ウズベキスタンでは中央アジアへの供給拠点化を進める。

    そして欧州ではハンガリーを域内生産拠点として立ち上げようとしている。

    つまり、「中国で開発・中国で生産し、世界へ輸出する」という単純なモデルから、「中国を技術・開発・生産の中核としながら、主要地域にも生産拠点を配置する」モデルへ変化している。

    BEV一本ではないことも輸出統計から鮮明に

    今回のデータでもう一つ注目されるのが、国によってBEVとPHEVの比率が極端に異なることである。

    タイでは1万4,321台のうちBEVが1万4,307台。中国から輸出された車両に限れば、ほぼ100%BEVである。

    一方、UAEは1万8,146台のうちPHEVが1万7,298台。

    英国も3万9,054台のうちPHEVが2万7,853台、フィリピンも2万5,989台のうちPHEVが1万8,512台を占める。

    ブラジルではBEVとPHEVがほぼ半々となった。

    これはBYDが海外展開においても、「BEVとPHEVを併用していく」という戦略を採用していることを示す。

    中国本国でもむしろ、自身の開発したフラッシュ急速充電により急速にPHEVニーズが薄れているように感じるが、海外では別。

    市場ごとの充電環境、燃料事情、税制、走行距離、消費者嗜好などに応じ、BEVとPHEVを使い分けている。

    さらにブラジルでは、PHEVそのものを現地事情に合わせ、エタノール対応へ進化させた。

    製品の輸出から、技術の現地適応へと段階が変わってきたとも言える。

    今後、「中国自動車輸出」には注意が必要

    中国自動車産業を観測するうえで、今回のBYDのデータは別の意味でも重要である。

    これまで中国メーカーの海外進出を測る際には、「中国から何台輸出したか」が極めて分かりやすい指標だった。

    しかし海外現地生産が拡大すれば、この数字の意味は変わる。例えば将来、

    中国からタイへの輸出 減少
    中国からブラジルへの輸出 減少
    中国から欧州への輸出 減少

    という現象が同時に起きたとしても、それだけではBYDの海外事業が縮小したとは判断できない。

    タイ工場、ブラジル工場、ハンガリー工場などへの生産移管が進んだ結果かもしれないからだ。

    今後BYDをはじめとする中国メーカーのグローバル化を見るには、

    ・中国からの完成車輸出台数
    ・海外工場の生産台数
    ・海外市場での登録・販売台数
    ・海外工場から第三国への輸出台数

    を分けて追う必要がある。中国メーカーの「海外販売」と「中国からの輸出」は、もはや同じ数字ではない。

    2026年上半期のランキングで、ブラジルが19万4,686台と突出する一方、巨大な現地工場を持つタイがわずか1万4,321台にとどまったことは、その変化を象徴している。

    日本でRACCOが話題になり、改めてBYD輸入車が脚光を浴びていると同時に、BYDそのものは「中国から世界へ自動車を輸出するメーカー」から、「世界各地で自動車を生産・販売する多国籍メーカー」へと移行し始めている。

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