
トヨタ最大のライバルVWが大規模な改革を断行へ 世界自動車朝刊2026年9月4日
今日の結論
9月3日の世界自動車産業では、これまで議論されてきた構造変化が、実際の企業再編や市場撤退へ変わった。
Volkswagenは監査役会で「Future Plan 2030」を全会一致で承認した。世界で追加約5万人の人員調整が必要との前提を置き、モデル数を2035年までに約半減、商品複雑性を75%削減する。ヨーロッパでは50万台超の過剰生産能力を認め、4工場について2031~34年以降の生産割り当てを現時点では確保できないと正式に認めた。(Volkswagen Group)
アメリカではGM、Ford、Toyota、Volkswagen、Hyundai、Honda、Stellantisなどを代表する業界団体が、中国系車両だけでなく中国系ソフトウェアとハードウェアまで市場から排除する法案の年内成立を議会へ要求した。すでにPolestarは中国Geely傘下であることを理由に2027年型以降の販売認可を得られず、アメリカ撤退を余儀なくされ、9月3日に年間販売見通しを下方修正した。(Reuters)
一方、イギリスでは8月のBEV登録が前年同月比約30%増え、新車市場で約30%を占め、単独のパワートレインとして最大になった。政府がZEV規制緩和を検討している最中に、需要側では逆に電動化が加速している。(Reuters)
今日の三つの材料は、EV・中国車・既存メーカー再編を別々に見るより、「どの商品を、どの市場で、どの規模で売ることが許され、採算が取れるのか」その境界線が急速に書き換えられていると見る方が分かりやすい。
1. Volkswagen、史上最大の再編を正式承認――「1000万台企業」をやめる
Volkswagenグループ監査役会は9月3日、「Future Plan 2030」を全会一致で承認した。同社自身が89年の歴史で最も広範な変革プログラムと位置付けている。(Volkswagen Group)
数週間にわたり経営陣、労組、ニーダーザクセン州の対立を追ってきたが、今回は明確に新しい段階である。
議論ではなく、正式な経営計画になった。
最大の変化は、Volkswagenがこれまでの規模そのものを見直すことである。Future Planでは、グループの年間販売規模について900万台を前提とする。
そして2030年に営業利益率9%を目指す。2026年上半期の営業利益率は3.8%だったため、単純なコスト改善では達成できない。(Reuters)
そのため商品側にも大きく手を入れる。2035年までに、モデルポートフォリオを約50%削減、商品バリエーションなどの複雑性を約75%削減する。(Volkswagen Group)
これは「たくさんのブランドで、たくさんの車種を、世界中で売る」Volkswagenの従来型モデルそのものを変える話である。
車種を減らせば、1車種当たりの生産量を増やせる。部品種類を減らせる。開発費を集中できる。ソフトウェアの派生仕様も減らせる。工場の生産効率も上げられる。
つまりVolkswagenが狙っているのは、単なる人員削減ではなく、巨大企業特有の複雑性を減らすことである。
追加5万人、4工場には後継車がない
最も重いのは人員と工場である。Volkswagenは既存の削減策とは別に、グループ全体で約5万人の追加的な人員調整が必要とした。管理職も含む。(Volkswagen Group)
Reutersによれば、すでに進行中の約5万人削減に加わるため、合わせれば規模は極めて大きい。(Reuters)
さらにVolkswagen自身が、ヨーロッパの生産能力は現在の需要を50万台超上回っていると認めた。そして、
Emden
Zwickau
Hanover
Neckarsulm
について、2031~34年に現在の製品が終了した後、競争力のある後継生産を現時点では確保できないとした。代替用途も検討する。(Volkswagen Group)
ここは重要である。
数日前までは「4工場閉鎖案」として報道されていた。正式計画では現時点で閉鎖を決めたわけではない。しかし、「次に何を作るか決まっていない」ことを会社自身が正式に認めた。自動車工場にとって、これは極めて重い。
中国でも「成長」を前提にしなくなった
Future Planには、中国についても重要な一文がある。Volkswagenは中国市場について、自動車市場全体の成長期待を修正する。そのうえで、中国から「Global South」への輸出を拡大する。(Volkswagen Group)
これは中国市場戦略の変化でもある。
これまでVolkswagenにとって中国は、中国で作って、中国で売る巨大市場だった。しかし中国では市場シェアを中国勢に奪われ、価格競争も激しい。一方で中国には依然として、
サプライヤー
EV技術
電池
ソフトウェア
低コスト生産能力
が存在する。そこで中国拠点を、南米、中東、東南アジア、アフリカなどへ商品を供給する拠点としても活用する。
Tesla上海工場が輸出比率を高めている構造とも似ている。中国市場で売るための中国工場から、世界で競争するための中国生産基盤へ役割が広がっている。
2. アメリカ、自動車メーカー自身が「中国車禁止」の法制化を要求
アメリカでは、自動車メーカー側が中国車排除をさらに強く求め始めた。Alliance for Automotive Innovationは9月3日、議会に対して、中国系自動車メーカーのアメリカ市場参入を阻止する法案を2026年中に成立させるよう要求した。(Reuters)
同団体には、
GM
Ford
Toyota
Volkswagen
Hyundai
Honda
Stellantis
などが参加している。ここで重要なのは、「中国から完成車を輸入させない」という話だけではないことである。
対象は、車両、ソフトウェア、ハードウェアまで含む。(Reuters)
理由は国家安全保障である。
Bluetooth、Wi-Fi、携帯通信、一部の衛星通信などを搭載したコネクテッドカーは、大量のデータを収集できる。
そのため中国と関係する車両や技術を、単純な輸入品ではなく、情報インフラとして扱う。
「中国で作ったか」ではなく「誰が所有しているか」
さらに重要なのが、議会で検討されている所有比率である。
現在の法案案には、中国企業が15%超を所有する企業を対象とする規定があり、そのまま成立すればMercedes-Benzまで対象になり得るとTed Cruz上院商務委員長が指摘している。
Mercedes-Benzには中国側株主が合計で20%近い持分を保有しているためである。(Reuters)
これは自動車の「原産国」という概念を大きく変える。
従来なら、どこで組み立てたか、どこの部品を使ったか、が関税や通商政策の中心だった。
しかしコネクテッドカーでは、誰が会社を所有しているか、誰がソフトウェアを開発したか、データがどこへ流れるか、まで市場アクセスの条件になる。この変化をすでに現実として受けている企業がPolestarである。
Polestar、米市場排除で通期見通しを下方修正
スウェーデンのEVメーカーPolestarは9月3日、2026年の販売見通しを引き下げた。従来は年間販売台数について「前年比2桁台前半」の成長を見込んでいた。新しい予想は1桁台前半から半ばである。(Reuters)
原因の一つがアメリカである。
Polestarはスウェーデン企業だが、Geely Holdingが過半を所有している。そのためトランプ政権は2027年モデル以降、アメリカで車両を販売する認可を与えず、Polestarはアメリカ市場から事実上撤退することになった。(Reuters)
第2四半期にはアメリカ事業再編に伴って約1億3,000万ドルの費用も計上した。在庫、残価保証、従業員、サプライヤーなどに関連する。(Reuters)
これは非常に分かりやすい事例である。
通商政策が、「将来中国車がアメリカへ来るかもしれない」という段階ではなく、現在存在するグローバル自動車メーカーの経営成績を変える段階へ入った。
3. イギリス、BEVが最大パワートレインに――規制緩和論と市場が逆方向
イギリスでは8月、新車登録が前年同月比17.5%増の9万3,977台となった。その中でBEVは2万7,876台。前年同月比約30%増え、市場シェアも約30%となった。(Reuters)
ハイブリッドは約29%。ガソリン車は約21.5%だった。つまり8月単月では、BEVがイギリス新車市場で最大の単独パワートレインになった。(Reuters)
もちろん8月は販売台数の少ない月であり、一カ月だけで市場全体の構造転換を断定するべきではない。
それでもタイミングが興味深い。
イギリス政府は現在、ZEV Mandateの見直しを進めている。現行制度ではメーカーに対し、2026年には販売の33%、2030年80%、2035年100%をゼロエミッション車とする方向で段階的な義務を設定している。政府は現在、その負担を緩和する複数案を検討している。(Reuters)
つまり、政策側では「EV移行が速すぎるのではないか」という議論がある一方、需要側ではBEV販売が増えている。
ここに現在のヨーロッパEV政策の難しさがある。
原油高という新しい追い風
EV需要増加の背景には商品価格やモデル拡充だけでなく、燃料価格もある。Reutersは、イラン情勢を背景とする世界的な原油価格上昇によって、ヨーロッパで消費者がEVへ向かっていると指摘している。(Reuters)
これは8月後半から確認している変化でもある。
EV普及政策ではこれまで、補助金、税制、CO2規制が中心だった。しかし燃料価格が高くなれば、EVを選ぶ経済合理性そのものが変わる。
つまりEV普及が、政府が買わせる市場から、燃料費を比較して消費者が選ぶ市場へ近づく可能性がある。
Tesla首位だが、BYDが6.4%まで来た
ブランド別にも変化がある。2026年累計のイギリスBEV市場では、Teslaが8.8%で首位、Kiaが6.7%、BYDが6.4%、となった。(Reuters)
Teslaは前年の約10%からシェアを落としている。一方、BYDは急速に差を縮めている。イギリス市場では中国ブランドをアメリカのように排除する政策は取られていない。
その結果、同じ中国車でも、アメリカでは法的に市場から締め出そうとしている一方、イギリスでは既存メーカーと普通にシェアを競っている。
この差は今後さらに大きくなる可能性がある。
今日の小さな変化
フランス政府はTeslaのFSD(Supervised)について、2台の車両を使った独自試験を開始した。Philippe Tabarot運輸相が9月3日に明らかにしたもので、EUでの承認判断に向け、安全性を独自に評価する。(Reuters)
これは9月2日版で取り上げたTeslaによる欧州FSD安全データ公表の続報であるため、本日の主軸には置かない。
ただし流れとしては重要である。
Teslaがデータを提示する。規制当局がそれをそのまま受け入れるのではなく、自分たちで車両を走らせて確認する。
自動運転の競争で「AI性能をメーカーが主張する」段階から、「規制当局が独立して検証する」段階へ進んでいる。
この動きは引き続き追う必要がある。
今日の読み筋
9月4日版のキーワードは、「市場アクセスそのものが競争力になる」である。
Volkswagenには巨大な工場網とブランド群がある。
しかし需要に対して50万台超の余剰能力があれば、その規模は競争力ではなくコストになる。そこでモデルを半分にし、複雑性を75%減らし、人員もさらに約5万人調整する。
Polestarには商品がある。
しかし中国企業の所有という理由でアメリカ市場へアクセスできなくなれば、その商品を売ることはできない。その結果、販売計画そのものを変える。
BYDには競争力のあるEVがある。
アメリカでは市場へ入る前から排除法制が検討される。イギリスでは同じBYDがBEV市場の6.4%を占め、TeslaとKiaへ迫る。
これは世界自動車市場が一つではなくなっていることを示している。
アメリカでは、国家安全保障によって市場を分ける。
ヨーロッパでは、規制と市場競争を組み合わせながらEVへ移行する。
中国では、巨大な市場と生産能力を維持しながらGlobal Southへの輸出を増やす。
VolkswagenのFuture Planも、この世界を前提にしている。
同社は商品プラットフォーム、E/Eアーキテクチャー、ADAS、ソフトウェアを「西側」と「東側」の市場要求へ合わせると正式に明記した。
かつてグローバル自動車メーカーが目指したのは、世界共通の商品と部品を大量生産し、規模の経済を最大化することであった。
いま起きているのは逆方向である。
市場ごとに、規制が違う。許される企業が違う。使用できるソフトウェアが違う。EV需要も違う。関税も違う。
したがってメーカーは、世界全体で最大規模になることより、それぞれの市場へアクセスできる形で事業を設計することを求められる。
9月3日は、その変化がVolkswagenの歴史的再編、Polestarのアメリカ撤退、イギリスのBEV拡大という三つの異なる出来事から同時に見えた一日である。
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