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Photo by8pmayo8

母体の神秘|牛と人の子宮の違い|直腸検査で胎児が出てきちゃった話【家畜人工授精師シリーズ3】

    直腸検査の時に胎児が出てきちゃった話。

    ある日、
    妊娠鑑定をして欲しいと頼まれて直腸検査で牛の肛門に手を突っ込んだ瞬間、
    牛の陰部から、
    羊膜に包まれた胎児がするりと出てきてしまい、
    驚愕しました。

    まぁ、
    妊娠してないとその場で判断は出来たのですが、
    私が原因で流産したのでは!?
    と大変嫌な気持ちになりまして、
    所長に電話した所、

    「お前の直検程度で流産しないわ!」

    と怒られました。

    元々、
    数日前から胎盤は剥がれており、
    子宮体内から出てしまい、
    膣内に降りていた所、
    直検で手を入れた力で出てきただけのようでした。

    私に原因はありませんでしたが、
    命を扱う仕事なだけに、
    いい気持ちはしませんでした。

    その牛の卵巣を確認し、
    次の妊娠に向けてどう処置するか、
    自然発情を待つか判断します。

    それが仕事でした。

    と言うわけで、
    今回はメス牛について書いていきます。

    前回はオスの種牛でした。

    記事の最後にもリンクを貼っておきます。

    まずは、
    私が出会った牛の胎児について説明します。

    受精後30~40日ほど。
    大きさ4㎝ほどの胎児が羊膜の中に胎児が入っていました。
    あまり上手な絵ではありませんが、
    こんな感じです。

    胎児の姿を見ていると、
    生物の進化の歴史を思わせる不思議さがあります。


    画像
    真ん中のイラストが胎児4㎝くらい。
    胎児を包んでいるのが羊膜。
    本来無色透明の羊水で満たされているが、
    羊水が赤く濁っており、
    胎児を正常に育てられなかった様子。
    もしくは、臍帯等が溶けたか。
    さらに羊膜を包んでいるのが胎膜。
    胎膜は牛の子宮の形に沿っていて細長い。

    動物園などで、
    動物の胎児を月齢ごとに展示してある施設もあるので、
    機会があったら見てみて欲しいです。

    雌牛について

    メス牛は誕生してから、生涯を終えるまで、
    大体は産まれた牧場で暮らすことが多いです。

    産まれてからしばらくは母乳(牛乳)や代用乳を飲み、
    離乳すると、
    育成に分類され、
    複数の牛と暮らします。

    初めての発情が見られると、
    農家さんは授精師に連絡。
    問診と直腸検査で発情を確認したら、
    人工授精を行います。

    妊娠したかどうかをみるのに、

    人は妊娠検査薬を使って5週間前後。
    牛は直腸検査で3~4週間で検査できます。

    触れるって早い!

    人と近い生理周期

    馬は季節繁殖で、
    春に出産しますが、
    牛は通年で妊娠できます。

    実は牛にも生理周期があり、
    生理があります。

    でも、
    生理の条件が違います。

    人は子宮内膜が受精卵のベッドになり、
    これが28日おきに剥がれ落ちるため、
    大体月に一度「月経」が起きます。

    牛にも子宮内膜はありますが、
    人のように厚い子宮内膜を毎月作り直す仕組みではありません。
    子宮内膜の上にある、
    子宮小丘と呼ばれる部位に着床し、
    胎盤が結合します。

    排卵後にホルモンの変化によって少量の出血がみられることがあります。

    人の方が、
    子宮内膜が剥がれ落ちる分、
    出血量も多く日にちも長いです。

    牛は、
    子宮内の一部から出血するので、
    出血が膣から排出されずに終わる場合もあります。
    逆に、
    出血があった事で、
    無事排卵した。

    と判断することもできます。

    排卵後に出血して受精卵は大丈夫なの?
    と思われますか?

    大丈夫なのです。

    皆さんは卵子と精子の出会う場所、
    知っていますか?

    子宮体内?

    いいえ。

    卵管という部位で出会います。

    これは、
    牛も人も一緒です。

    牛の子宮と人の子宮。
    子宮体の形が違います。
    卵巣と卵管が2つある所は同じです。

    下記に図を載せます。

    発情の発見から人工授精まで

    発情の発見、
    つまり、
    排卵する準備が出来たよ!
    と知らせる行為が牛にはあります。

    ・やたら鳴く
    ・他のメス牛にマウンティングする
    ・顎を他の牛のきこうや背中に擦り付ける
    ・陰部から発情粘液が出てくる

    など、
    目視で分かるものが多くあります。

    この性質が、
    人工授精が普及する要因の一つになっています。

    発情行動を発見すると、
    農家さんは授精師に連絡します。

    授精師到着
    →牛確認と問診
    →直腸検査
    →卵巣に卵胞を触診で確認
    →人工授精

    2〜4週間後以降
    →触診で妊娠鑑定

    受胎を確認すると、
    めでたく繁殖牛デビュー。

    いっぱい食べて280日程で出産します。

    妊娠期間も、
    人とほぼ一緒ですね。

    産後すぐ、
    初乳を搾って、
    人の手で子牛に授乳します。

    初乳はすぐに飲ませないと、
    免疫が吸収できなくなってしまいます。

    深夜でも出産があれば、
    農家さんは牛舎へ向かいます。

    難産なら獣医さんも呼び出されます。

    命の現場。

    出産の時は

    「オスでもメスでもいいから無事に産まれますように」

    と農家さんは祈ります。

    子宮の形

    牛と人の子宮の形は全然違います。

    家畜人工授精師の資格を取る時に、
    牛の生殖器解剖の授業があります。

    人も牛も臓器は資料でしか見ないと思うのですが、
    形が全然違います。

    実は私、
    人の子宮も見たことあるのです。

    私の母が子宮体ガンで、
    子宮摘出手術をしました。

    付き添いの家族ということで、
    摘出された子宮を見ました。
    子宮体内にあるガンを目視で確認しました。

    教科書に載っていた通りの握りこぶしくらいのサイズで、
    形は三角というよりも丸く感じました。

    この子宮で私は細胞分裂を繰り返し、
    生命として、
    育てられて来たんだなと、

    それが、
    摘出されて、
    目の前にあるのだなと、
    目に焼き付けました。

    その後、
    医療廃棄物として処理されると聞きました。

    私が母の子宮を見ている隣で

    「こんな気持ち悪いもん見せるなよ!」
    と怒鳴る男性の声。
    パーテーションの向こうから聞こえてくる話し声で、
    奥さんが出産時に子宮脱を起こし、
    摘出した様子でした。

    私には少し悲しく聞こえました。

    牛の子宮脱は見ました。
    座っている牛の陰部から大きな紫の袋が出ていました。
    仕事の都合上処置が見られず残念でした。

    膣脱は、
    獣医さんと一緒にお腹に押し戻したことがあります。
    手でぐい〜と押し入れ、
    戻しました。
    その後、
    獣医師の指導のもとで、
    膣脱は癖になるので、
    見つけたら押し入れていました。

    牛は四足歩行なのでお腹に戻せば戻りますが、
    人は二足歩行。
    戻せなかったのかな…

    奥さん、
    目覚めた時に子宮失くしたと知ったらショック受けるんじゃないかな。

    予想することしかできませんでしたが、
    ご家族が幸せでいることを願います。

    牛の子宮と人の子宮

    牛の子宮は左右二つに分かれています。
    サイズは未経産の牛と経産牛で全く違います。
    出産を重ねると大きくなっていきます。
    卵巣のサイズも様々です。
    1㎝くらいのものからテニスボールサイズのものまで触診しました。

    画像
    左が人の子宮5~8㎝くらい。
    右が牛の子宮かなりサイズはまばら。
    A:子宮頸管
    B:卵巣
    C:卵管(精子と卵子が出会う場所)
    D:子宮体
    E:子宮角
    F:子宮体腔

    形が違いますね。
    同じ哺乳類でも子宮の形や胎盤の形も全然違います。
    もっと細かく部位と名称は存在しますが、
    これだけ分かっていれば大丈夫だと思います。

    牛の子宮は2つに分かれてますよね。
    右の卵巣に卵胞があって人工授精しても、
    妊娠鑑定で触診すると、
    胎児が左の子宮角に居ることもありました。
    本当に不思議!
    母体の神秘!

    私は産後、
    「胎盤を近くで見たい」と助産師さんに伝えたのですが、

    分娩台の上から部屋の端の方にいる助産師さんがちょろっと持ち挙げて見せてくれただけでした。
    もっとじっくり見たかったです。
    触って確認したかった。
    ※職業病です(笑)

    出血量が多く、
    動けなかったことが本当に悔やまれます。

    次は卵巣の話。

    女性の身体を知ることは、
    自分自身を知ること。
    パートナーを知ることでもあります。

    牛の話を入口に、
    命の仕組みを一緒に見ていきましょう。


    シリーズ一覧

    ①100円の命と、雌なのに子宮が無い牛に出会った日の話【家畜人工授精師シリーズ1】
    ②優秀なオスが数頭いればいい世界|種牛|生命としての性を語る【家畜人工授精師シリーズ2】
    ③母体の神秘|牛と人の子宮の違い|直腸検査で胎児が出てきちゃった話【家畜人工授精師シリーズ3】(この記事)
    ④卵巣の話|卵子は生まれる前から増えない|自分の身体を知る教養【家畜人工授精師シリーズ4】

    絵がもうちょっと上手に描ければいいのに。

    タブレットでのお絵描きにまだ慣れず。
    画力の成長も見守っていて下さいね。

    参考資料は家にあるのですが、
    著作権があること、
    リアルな写真が苦手な方でも見られるように手書きを選択しました。

    参考資料
    家畜人工授精講習会テキスト(社団法人日本家畜人工授精師協会)
    大学時代の家畜の繁殖の教科書とノート
    性の進化史 松田洋一
    雌牛の繁殖障害カラーアトラス 獣医繁殖学教育協議会

     
     
    大人の自由研究を書いています。私が気になったことを、大人になった今の知識と経験で調べ、生物・教育の視点から身の回りの「なぜ?」を掘り下げています。雪国在住。農業系大学卒。家畜人工授精師・保育士。

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