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【連載小説】カーム・リアリスティック 第22話「父親」

    車内は異様なほど静かだった。
    エンジン音とタイヤが路面を削る音だけが、虚しく響いている。

    腕時計の針を見る。午前9時を回ろうとしていた。
    車は高速道路を穏かに走り続ける。

    「最初から、おかしいとは思わなかったのか?」
    久世は前を向いたまま、淡々と続けた。
    「君をタクシーに乗せたこと。君の服のサイズがぴったりだったこと」
    「全部、偶然だと思っていた?」

    「…お母さんから聞いたんでしょ」
    そっけなく答える。

    私の問いには答えなかった。
    「俺は最初、宮崎製薬に父親の復讐ができればそれでよかった」
    そこで、こいつが久世コーポレーションの社長の息子だと、ようやく思い出す。

    「…だから君のお父さんにも死んでもらった」
    一瞬、車内の空気が凍りついた気がした。
    拳を強く握りしめ、声が震えるのを抑えきれなかった。

    「あんたがお父さんをっ…!」

    久世は表情一つ変えずに答えた。
    「正確には、死ぬように仕向けた」

    「渡された研究データを見たよ」
    「俺の父親は、久美先生の研究の第一被験者だった」

    「やっぱりだ」
    久世の声が微かに震えた。
    その眼には涙が浮かんでいる。

    「だけど、俺の復讐はまだ終わっていない」
    ハンドルを握る手に、自然と力が入る。

    「頼む」
    「いま一度、役員会議でカムリアについて説明してほしい」
    嗚咽しながら、そう言った。

    「出席しないというなら、抑制剤はもう渡せないな」


    重苦しい空気のまま、車が都内に入る。
    私は久世の問いには答えなかった。
    こいつは父を殺したのだ。
    協力する義理はない。

    しばらく沿岸沿いを進み、宮崎製薬の本社が見えてきた。
    気休めのサプリメントで騙して建てた、白く角ばった立派な建物。
    学生時代、この張りぼてが嫌いだった

    広々とした駐車場の入り口に、園田が乗ってるであろう黒いSUVが停まっているのが見えた。
    緊張感から、額に汗が滲む。

    車を入り口の隅に止める。

    そうだ。もう、私は決めなければならない。

    「さあ。絵里さん」
    「答えは出たかな?」

    「…わかったわ」
    「でも勘違いしないで。これは贖罪よ」
    久世の目を見てきっぱりと言った。

    「私がしてきたことへの…」
    「いえ、私がこれから生きていくための」

    「そうこなくちゃ」
    久世が車を降り、ボンネットから新品のスーツを取り出した。

    奇しくも、父に買ってもらったものと同じブランドだ。
    初めて出勤したときも、このスーツを着ていた。
    化学を信じていた、あの時の記憶が鮮明に蘇る。

    「さあ。行きましょう」

    ジャケットを羽織り、覚悟を決めた。


    女性主人公。
    企業陰謀。
    そして、逃亡劇。

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    山奥に住むユキノオー。 小説を書いています。

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