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【連載小説】カーム・リアリスティック 第27話「穏やかな選択」

    「お客さん、着きましたよ」
    運転手の声で目が覚めた。
    いつの間にか眠っていたらしい。
    夢の中で、昔飼っていた鍵尻尾の白猫と、白衣を着た母の姿が見えた。

    「穏やかなところに、着きましたよ」
    運転手がニヤリと笑った瞬間、当然扉が開いた。

    防護服を着た複数の腕が私を掴み、無理やり車内から引きずり出される。
    「離して!どこなのよ、ここ!」

    暗闇から足音が近づいてくる。
    「お前は散々、ここで焼いただろ?」
    その声に、背筋が凍った。

    「…お父さん?」

    周囲を見回す。
    かつてカムリアの実験を繰り返した、屋外の廃施設だ。
    気づけば、周りを防護服を着た処理班に囲まれ、銃口を向けられている。

    父がゆっくりと暗闇から姿を現した。
    冷たい目で私を見つめている。

    「絵里、選びなさい」
    その声は、かつての優しい父のものではなかった。

    「お前はもう、穏やかには生きられない」
    「初めから、駒だったんだよ」

    ゆっくりと近づいてくる。
    「すべての罪を償うか…それとも、穏やかに死ぬか」
    「選びなさい」


    「…私は」
    言いかけた時だった。

    父の手からオレンジ色の炎が上がった。
    「熱っ…」
    咄嗟に手を振り払うが、瞬く間に全身を包んだ。
    静かな夜空を炎が焦がす。
    処理班の男たちからも、次々と同じ炎が噴き出した。

    私は呆然とその光景を見つめていた。
    足が動かない。声も出ない。

    運転手がゆっくりと防護服のフードを外した。
    そこに立っていたのは、間違いなく久世の姿だった。

    「あれだけの怪我をしておいて、なぜ動けるんだ!」
    かすれた声で父が叫ぶ。
    火の手が顔を焼き始め、溶けていくのが見えた。

    久世は静かに、冷たく微笑んだ。
    「抗体の完全な適応者は、一人だけだとでも思っていたのか?」

    ズボンのポケットからUSBメモリを取り出した。
    「こいつは久美先生のとっておきだ」
    「カムリアと抑制剤の接種者、全員の代謝促進を急激に上げるプログラムだよ」

    「もちろん、俺も無事じゃない」
    そう言いながら白い煙の上がる手で、私の頭を優しく撫でた。

    「久美先生は最後まで、君のことを思っていたよ」
    その瞬間、遠くで猫の鳴き声が聞こえた。


    「終わったのね」
    いつの間にか、秘書が私のすぐ横に立っていた。
    冷たい微笑みを浮かべながら、私に言った。

    「さあ。ご令嬢?これからどうする気?」
    すでに秘書の首筋からも、白色の煙が上がっている。

    震える息をゆっくりと整え、燃え続ける父の姿を見つめた。
    …もう、たくさんだ。

    「私は、穏やかに生きるわ」

    はっきり、力強く言った。


    女性主人公。
    企業陰謀。
    そして、逃亡劇。

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    山奥に住むユキノオー。 小説を書いています。

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