
【連載小説】カーム・リアリスティック 最終話「灰の穏やかさ」
「いまさら穏やかに生きるだとっ…!何を言っている!」
父が燃え盛る体を必死に支えながら、胸ポケットから拳銃を取り出した。
銃口をこちらに向けて、炎に焼け爛れながら叫ぶ。
「教えてやろうか?お前は私と久美の最高傑作だ!」
「初めからモルモットだったんだよっ!」
父の最後の言葉に、反論はしなかった。
私は私だ。
燃え盛る炎をじっと睨みつける。
引き金に指を掛けた、その瞬間だった。
銃声が鳴り響く。
咄嗟に、秘書が私の体に覆いかぶさってきた。
彼女の背中が大きく震え、生温かい血が私の胸に広がる。
「…どうして」
驚きが隠せなかった。
「私は最初から、あなたの味方だったわけじゃない」
血反吐を吐きながら、秘書が弱々しく微笑んだ。
「でも、最後くらいは…穏やかでいてほしいと思ったの」
その言葉を最期に、彼女は倒れた。
父を見た。すでに指先から、炭化が始まっている。
右手に持っていた拳銃が滑り落ちる。
顔の皮膚は焦げ、骨が見えている。
「…ふざけるな」
かすれた断末魔とともに、父の体は完全に黒い灰の山になった。
ようやく立ち上がり、周りを見渡す。
焦げた臭いと黒煙が立ち込めている。
炎が建物にまで延焼し、轟々と夜空をオレンジ色に焦がす。
ふと、秘書のポケット目をやる。
錠剤の入った白い瓶が見えた。
抑制剤だ。
これを使えば、私だけでも助かるだろう。
一瞬だけ、躊躇う。
「私にはもう、こんなもの必要ない」
覚悟を決める。
錠剤を取り出し、静かに踏み潰した。
燃え盛る廃墟を背に、暗闇をひとり歩き出す。
体には、カムリアの影響が徐々に表れ始めている。
腕や首筋から、青白い炎の筋が浮かび上がり、じわりじわりと熱を帯びていく。
それでもなお、泣きながら微笑んだ。
やっと分かった。
本当の穏やかさは、灰になる一瞬だけかもしれない。
女性主人公。
企業陰謀。
そして、逃亡劇。
▼シリーズを一気読みしたい方はこちら
▼前の話はこちらから