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【連作小説】今日も大学は平和です。#8

    第6話:文書あるいは縦書き〜先輩と先輩の遭遇〜(前半)

    H1

    ーーいる。
    姿を見たわけではない。
    確証もない。

    でも、確かに気配を感じる。
    はっきりと感じる。
    頭文字Gーーガールフレンド。

    そうじゃなかったら、
    ガールフレンドの座を狙っている存在。

    今年はすっごい勇気を出して、
    1コ下の後輩ツカモトチカカツを
    バレンタインデートに誘ったのに〜。

    「申し訳ありませんが、
    卒論提出があって忙しい時期なので...」

    と、断られてしまった。
    会えないくらい卒論が忙しいって、
    ホントか!?

    とは言う私の方も、大学院に進学してから研究が忙しく、
    手作りチョコを準備する時間も取れなくて、
    市販だけど、かなりお高いやつを3日遅れてやっとカフェで渡すことができた。

    今日はバレンタインのあとの初めての土曜日のためか、
    大学近くのヨネダコーヒー店には、
    似たような境遇の男女が多い気がする。

    そんなことよりも、
    ツカモトの服装がジーンズからチノパンに変わっている!
    ほのかに甘みのある香りもする!
    いつから香水つけてる!?

    「ハルミさん、聞いてます?」

    「えっ!あっ!うんっ」

    ダメだ。
    しゃべっているのに全然会話が頭に入ってこない。

    「そろそろボクは次の約束があるので。
    ワリカンでいいですよね」

    次の約束って何!?

    ツカモトが持ち上げたトートバッグにうっすらと、
    でも間違いなく「シノムラ マソラ」と書かれている。

    きっと、ヨネダコーヒー店にくる途中で、
    落ちていたトートバッグを拾ったんだーー
    なんてあるわけない!

    シノムラマソラって誰?
    と聞ける性格だったら、もうつき合えてたんだろな、
    と、思いながら会計を済ませて外に出る。

    「チョコ、ホントにありがとうございます。
    すごい嬉しかったです!
    それじゃ!」

    「うん、またね」

    あ〜、今日も何も進展しないまま別れてしまった。
    いやむしろ、頭文字Gがはぐれメタルのように現れた分だけ悪くなった。
    Gさんには、はぐれメタルのように逃げてほしい。

    ちょっと奪還作戦を立てよう。
    いや、まだ奪われてないから。

    ローカル雑誌でたまに紹介される、
    「シノムラとうふ店」と関係あるかも。
    市内と言っても、確か駅の反対側。
    車で30分以上はかかるなぁ。


    M1

    ーーいる。
    姿を見たわけではないけれど、
    声を聞いたわけでもないけれど。

    でも、障子の隙間から見られているような、
    壁から声を聞かれているような、
    そんな感じがする。

    くノー......みたいな、女。

    チカカツの周りをうろちょろしている女性がいる、
    と去年知り合いから聞いたことがある。
    でも、4年生になってからは、
    特にそんな感じはしなかった。

    でも、バレンタインデー以降、
    同じ人なのか別の人なのかわからないけど、
    チカカツに近づこうと、
    月夜にこそこそと地下活動をしているような女性の影を感じる。

    正々堂々と名乗り出たらいいのに。
    とって食べるわけでもないし。


    H2

    隣の遺伝育種科学のゼミのクマダ准教授が
    「シノムラとうふ店」のご近所に住んでいる、
    というタレコミがあり、
    通称クマゼミを訪ねてみる。

    クマダ准教授が言うには、「シノムラとうふ店」は家族経営で、
    おじいさん、お父さん、お母さん、娘さんの4人暮らしらしい。
    お母さんはハルナさんで、娘さんはアキナさんというらしい。
    私がカワイイからか個人情報まで丁寧に教えてくれる。

    お母さんの名前は私の名前のハルミに似ているな。
    ナツナさんやフユナさんはいないのか。
    それはさておき、マソラさんという方はいないようだ。
    シノムラはよくある名字だし、そんな簡単に見つからないか。

    クマダ准教授が続ける。

    「昔はマソラさんも住んでいて、
    大学入学を機に一人暮らしを始めたんだけど、
    今も見かけるからときどき帰ってきてるみたい」

    ビンゴ。
    神様は私に味方してくれている。
    あとは、どうやってGかどうか確かめたらいい?
    直接聞く勇気はないし。


    M2

    「マソラさぁ、天皇誕生日は店を手伝いに来てくれないか?
    朝早くからハルナとアキナが出かけるんでな」

    久しぶりに父さんから電話がかかってきた。
    姉さんもアキナもいないのなら仕方ない。
    卒業祝いにチカカツとどこかに行こうかと思っていたけど、
    また今度にしよう。

    「やっぱり、フリーペーパーでも宣伝してもらうと効果あるモンだね。
    最近は女子大生も豆腐買いにきてくれるようになったよ」

    え?
    まさか、くノ一さん?
    私の実家まで調べに来ているの?
    不気味だけど、見てみたいような、退散してもらいたいような。

    ※本作は前後編です。後半は次の記事に続きます。

    ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません


     
     
    まったりとした日常を切り取った短編小説を書いています。 大きな事件は起きませんが、 読み終わったあとに少し余韻が残る話を目指しています。 1〜2週間に一度、土日の夜に更新しています。

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