
【連作小説】今日も大学は平和です。#9
※本作は、前半からの続きになります。
第6話:文書あるいは縦書き〜先輩と先輩の遭遇〜(後半)
H3
シノムラとうふ店に何回か行ってみたけれど、
何の手がかりも得られなかった。
でも、地下水とにがりだけで作った豆腐や厚揚げは、
スーパーのものとは比べ物にならないくらい美味しかったので満足。
夕飯用に買った厚揚げを食べながらテレビをぼーっと見ていたら、
私はこれで浮気を見つけました、
みたいな内容がゴールデン番組で紹介されていた。
浮気相手と思われる女性のアパートの前で、
彼氏のスマホが見知らぬ Wi-Fi につながっていれば、
動かぬ証拠になる。
「これだ!」
ツカモトをシノムラとうふ店に誘ってスマホをチェックしよう。
土曜日は細菌の培養で大学だし、
日曜日はとうふ店休みだから、
決戦は天皇誕生日!
早速ラインしようっと。
M3
チカカツを実家の手伝いに誘ってみるか。
手伝いだから嫌がられるかな。
「天皇誕生日に実家の手伝いをすることになったんだけど、
一緒に来ない?」
「友達と出かける用事あるから、また今度」
あやしい。
1. 「友達と」「用事」だけで詳しく言わない
2. 友達の名前を出さない
3. 友達の性別があいまい
H4
ついに天皇誕生日がやってきた。
車で大学に入構すると、
もうチカカツは講堂前で待っていた。
車を止めて合図を送ると助手席のドアを開けて乗ってきた。
作戦を悟られないようになるべく自然に振る舞わないと。
「おはよ」
「おはようございます。
何で待ち合わせ朝からなんですか?
朝4時くらいまで大学で研究してて、
3時間くらいしか眠ってないんです」
ツカモトは大学院に進学することになっていて、
卒論提出後すぐに指導教員のアブラヤ教授から、
修士論文用の研究テーマを与えられた、
と言ってたのを思い出した。
「ドライブがてら行きたいところがあるんだけど、
お昼過ぎに閉まっちゃうの」
と言って車をスタートさせる。
シノムラとうふ店に着いた後のことを
頭の中でシミュレーションしすぎて、
運転中に何を話したのかあんまり覚えていない。
ほとんど話をしていなかったのかもしれない。
気がつくとツカモトは助手席で眠っていた。
シノムラとうふ店の駐車場に車を止めて、
優しく起こしてあげる。
「着いたよ」
「すみません。
眠ってしまいました。
あれっ!ここ、シノムラとうふ店!?」
明らかにツカモトは動揺している。
ここは時間的猶予を与えず、
こちらのペースに持ち込もう。
「ちょっと時間見せて」
と言って、いろいろ操作されないうちにスマホをひったくる。
Wi-Fi はーーつながってる!
その可能性はすでに考えた。
作戦Bに変更。
客を装って一緒に入店してツカモトの様子を観察しよう。
実際、客なんだけど。
店のドアを開けると、
「いらっしゃいませ〜」
とレジにいる店員さんから挨拶される。
この店には何回か来たけど初めて見る女性だ。
「今日はどうしたの?珍しいね」
と店員さんがツカモトに声をかけてきた。何でタメ口?
「ん、ちょっとね」
ツカモトもタメ口で答える。もうすでに何回も出入りしている仲だってこと?!
ーーそのあとのことは、あまり覚えていない。
何でも薄揚げと豆乳を買ったことだけは記憶している。
もう夜10時になった。
うじうじしてても仕方がない。
生成AIに人生相談しよう。
これまでのあらすじを入力すると、2人が付き合ってない可能性が残っている事を教えてくれた。
まだ、全然いけるじゃん!
よっし、作戦B改に移行〜!
M4
夜になって大学からチカが帰ってきた。
「ねぇ、チカ。
今日、チカカツがお店にきたの。
それがね、彼女さんっぽい人と一緒に」
「何っ?!」
と言って、チカがさっと3階に上がった、と思ったら、すぐ戻ってきた。
書斎から何やら紙を持ってきたようだ。
「う〜ん」
と唸りながら、あごに手を当てている。
「何、急に?」
横から紙を覗いてみると、家系図を印刷した文書のようだ。
「昔見せてもらった毛筆で書かれた家系図は趣あったけど、
横書きの游明朝 Regular を印刷したものだと威厳がないね。」
「仕方ないだろ。ボロボロの家系図が読めるうちに、ファイルに打ち込んで自作したんだから。
それより、孫の名前はチカトシにしようと思うが、どうだ?」
「まだ、チカカツは学生だし結婚もしてないし、
今日も女の人と来たってだけで、彼女かどうかわからないし、
気が早すぎよ」
「いやいや、何事も早めのスタートが肝心だ。
ほら、僕の名前がチカヒロだろ」
「縦に読んだら『大勝利』ってわけね。
絶対ダメっ!!!」
あとがき
大学に入学したのは30年以上前のことになる。
あの頃は、大学の研究者を目指し、
事件にも色恋沙汰にも巻き込まれない
平穏無事な毎日を過ごすつもりだった。
ところが、研究室に配属されると、
マソラさんから毎日のように小説を読まされ、感想を求められ、
気づけば結婚までしていた。
念願の天文学の研究者にもなれた。
今では息子も大学卒業を控え、どうやら彼女もできたらしい。
家系図ファイルも更新しなくてはならない。
「親利(予定)」
人生というものは、縦にも横にも話が広がるらしい。
今日も大学は平和で何よりである。
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません