
【連作小説】今日も大学は平和です。#7
※本作は、前半からの続きになります。
第5話:デジャヴュ、あるいは縦書き〜後輩の受難〜(後半)
うーむ。
デジャヴュか?
いや、これは完全に自己剽窃である。
自己剽窃がいかにダメか、研究倫理研修で学んだはずなのに。
マソラさんは、外国に行ったことがない、とか言っていたから、
結局、BBCネタも思いつかず、
ババ、バンドウ、チバを Big Bang Cosmology とかけて
BBC に落ち着いたようである。
倫理観の欠如したマソラさんは、
エサを待っているゴマフアザラシのような顔をしている。
少しオブラートに包んだ言い方にするか。
「膨大なコピペですね」
「少しはオブラートに包んだような言い方にしてよ!
卒論で時間がなかったの!
それにコピペじゃなくて本歌取り!」
いや、ジェネリック並みに同じ有効成分を同じ量含んでいる、
といっても過言ではないレベルである。
それに、そんなにまじめに卒論を書いていたとは全く思えないが、
それを言うと怒られそうなのでスルーする。
「アブラヤ先生は既に病院送りにされた設定だと思ったんですが、
そんな同じシチュエーションが二度もありますかね」
「それは別世界の話。
パラレルワールドになってるの。
ワリコミさんの余剰次元についての修士論文中間発表で
そんなことあるって言ってたでしょ」
余剰次元はパラレルワールドではないし、
そんなことあるとは一言も言っていない。
「警備員と警部と警部補の名前が変更されてますが、
そこは一番変更しなくていい箇所では?」
「そこまで一緒だと自己剽窃になるでしょ」
自己剽窃というワードを認識していながらこの作品を書いているなら、
かなり悪質な犯行である。
前作同様、タナカ意外な犯人説はあり得ない。
理工学部設定のため、相変わらず女性は登場しておらず、
どうでもいいリアリティはキープしているようである。
「作品にとって重要じゃないところは突っ込まないで、
さっさと次に行って」
作品にとって剽窃以上に重要なことなどあるだろうか?
ー4ー
「警部、このスリーピングメッセージは『ケ』から始まっているから、
名前に『ケ』のつく学生が犯人なんじゃないですか?」
「全員じゃねーか!
情報量のない発言するなよ」
「どういう文字を書いているかが重要じゃなくて、
文字数に意味があるとか」
「ダイイングメッセージは5文字だからケンタロウが犯人ということ?」
「そうです。
ケンタロウと書こうとしたけど、
犯人にダイイングメッセージが見つかって消されたら困るから、
咄嗟に5文字で意味不明な言葉を書くことにした、というわけです」
「死にそうなとき、咄嗟に意味不明な言葉を思いつくわけないだろ。
ケは名前の頭文字を指しているかもしれないけど、
モ、エ、ナ、ロがつながらないな。
順序変えて考えてみるか」
「あっ!カタカナのエとかロじゃなくて漢字の工とか口じゃないですか?」
「モとナはどう解釈すんの?」
「毛と十を書いたけど、うまく書けなくて、
モとナになったんじゃありませんか?
ケもカタカナじゃなくて、
1ヶ月のヶだったりするかもしれません」
「言葉の最初がヶのわけないだろ!
だいたい、ヶ、毛、工、十、口をつなげて、
何て読むんだよ!」
「ヶ毛工十口です」
「ここまでで謎を解くための材料は全て出そろった。
全ての手がかりは、第1章から第4章までの間に記されている。
ぜひ、警察より先に犯人を言い当てて欲しい」
「またその読者への挑戦状パターンですか?
そもそも第3章、第4章だけでわかるじゃないですか」
「えっ?もう、わかったの?」
「はい。
今回は原稿が、久しぶりに横書きで書かれていることが重大なヒントです。
なので、今回もダイイングメッセージは、
横書きでないと意味が通じないか、成り立たないものです。
そういうものは数式とか英語とかですが、
もう数式ネタの作品は出たので、
今回は英語ネタだと思いました。
研究内容は日本語でビッグバン宇宙論と書けばいいのに、
わざわざ英語で書いているし」
「う〜。
こういうのって、普通、空気を読んで
もう少しためがあるっていうかさ〜」
「ダイイングメッセージは当然、
危機的な状況で急いで書かれているものなので、
確実に文字を判別できるわけではありません。
雑に『ケモエナロ』と手で書いて、日本人に見せたら、
このミステリの登場人物がしたように、
似ているひらがな、カタカナ、漢字を当てはめて
読もうとするでしょう。
日本人ではなく、欧米から来た留学生に見せたら、
どうなるでしょうか?
似ているラテン文字に当てはめて読もうとします。
『ケ』は『K』、『モ』は『E』、『エ』は『I』、『ナ』は『T』、『ロ』は『O』と
認識するでしょう。
つまり『KEITO』。
犯人はチバ ケイトです」
「む〜」
「手書きでローマ字を書いても、
犯人は日本人なので自分の名前だと認識される可能性は低い、
とアブラヤ先生なら咄嗟に考えつきそうです」
「今回も完敗だ」
「あと、ミステリとは関係ないですが、
略字で BBC は無理矢理すぎませんか?」
「そんなことないよ。
第1章と第2章の登場人物のセリフの最初の文字を縦に読んでみて」
「それは C-C-B です!」
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません