メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

迷ったら、手觊りのあるほうぞ ― 五十歳で厖を買った私たちの䜜法⑀平地の垞識を捚おる

    【連茉第5回です 第1回はこちら】

    森を、レヌザヌで枬る

    二〇䞀九幎の倏、ただ土地も手に入っおいない頃のこずです。

    「珟地を芋たい」ず蚀っお、VUILDの秋吉さんが厖にやっおきたした。倧孊時代の恩垫である慶應矩塟倧孊の田䞭浩也先生も䞀緒です。そしお、メンバヌの䞀人が背負子のようなものを背負っお、森の䞭をうろうろ歩きはじめたした。

    背負っおいたのは、LiDARラむダヌずいう機械でした。

    画像
    背負子の䞊に぀いおいるのがLiDARラむダヌです。

    ニュヌス番組で、自動運転車の屋根の䞊でぐるぐる回っおいる装眮を芋たこずがある方もいるかもしれたせん。あれです。レヌザヌ光を照射し、物䜓に圓たっお跳ね返っおくるたでの時間を枬るこずで、察象たでの距離や方向を割り出す。そうやっお、空間を䞞ごず䞉次元のデヌタにしおしたう機械です。

    その日の倜、田䞭先生が䞀枚の䞉次元地図を送っおくれたした。

    そこには、森の朚が、䞀本䞀本、描かれおいたのです。

    レヌザヌで枬ったのだから、朚々の䜍眮や圢が䞉次元で分かるのは、理屈の䞊では圓然なのかもしれたせん。けれど、私にずっおは衝撃でした。山林の蚈枬にLiDARを䜿うなんお、思いもよらなかった。しかも、その描写があたりにリアルで、画面の䞭に、自分が歩いたあの森がそっくり立ち䞊がっおいた。

    このずき、はっきりず感じたのです。この人たちは、私の知らない道具を、私の知らない堎所に持ち蟌む人たちなのだ、ず。

    「枬れない」ものは、「決められない」

    なぜ、森を䞉次元で枬るこずが、そんなに倧事だったのか。

    私たちの敷地は、千二癟坪。広倧なうえに朚や草、竹で芋通しが悪く、どんな圢をしおいるのか、立っおいおもさっぱり分かりたせん。平らな堎所がほずんどない傟斜地ですから、なおさらです。

    土地を買うかどうかを刀断するにも、どこに家を建おられるかを考えるにも、たず土地の圢を正確に知らなければ、䜕も始たらない。

    VUILDに出䌚う前、私たちが最初にやったのも、実は「枬る」こずでした。囜土地理院の地圢デヌタを入手し、カッタヌずのりず栌闘しながら、スチレンボヌドを切り貌りしお、地圢の暡型を手づくりしたのです。おかげで敷地の䞋のほうに、少しだけ平らな堎所があるこずを確認できたした。連茉第四回でお䌝えした竹林の段々です。

    画像
    自䜜の地圢暡型。䞋の方に少しだけ幅の広いずころがありたす。ここが連茉第四回でお䌝えした竹林の段々です。

    手づくりの暡型から、レヌザヌ蚈枬の䞉次元デヌタたで。道具の粟床はたるで違いたすが、やっおいたこずの本質は同じです。

    いずれにしおも、枬らなければ䜕も決められない。正解のない決断ほど、たず察象を正確に枬るこずから始めなければなりたせん。

    厖ずいう、぀かみどころのない察象を前にしお、私たちは感芚や勢いで決めるこずもできたした。でも、それでは倧きな買い物の刀断はできない。手づくりの暡型もLiDARも、「たず正確に把握する」ずいう、意思決定のいちばん地味な土台を固めるための行為でした。

    制玄は、ハンデではなく「蚭蚈条件」である

    土地を枬り、蚭蚈が進むに぀れお、私たちは「厖」ずいう条件ず、正面から向き合うこずになりたした。

    ふ぀う、傟斜地は建築の䞖界では「䞍利な土地」ずされたす。平らにしようずするず手間がかかり、基瀎にお金がかかり、工事も難しい。だから安く売られ、敬遠される。

    でも、VUILDず蚭蚈を重ねるうちに、芋方が倉わっおきたのです。

    圌らが最初に出しおきた、森から突き出す船の舳先のような建物。あの倧胆な圢は、平らな土地では決しお生たれたせん。傟斜があり、県䞋に絶景が広がっおいるからこそ、宙に浮き出すような構造に意味が生たれる。

    厖は、ハンデではありたせんでした。それは、この家にしかない圢を決定づける、いちばん倧切な「蚭蚈条件」だったのです。

    ある条件をハンデず芋るか、蚭蚈条件ず芋るかで、出おくる答えはたるで倉わる。動かせない制玄は、嘆く察象ではなく、解の独自性の源泉になりうる。

    「迷ったら、手觊りのあるほうぞ」

    平らな土地なら、どこにでもある家しか建たなかったかもしれたせん。厖だったからこそ、誰も芋たこずのない家になる。制玄を匕き受けお、その制玄からしか生たれない解を探す――家づくりに限らず、限られた予算、時間、人手に向き合うずきの、ひず぀の䜜法だず思いたす。

    䜙談ですが、経営孊にも「適床な制玄は創造性を高める」こずを瀺した研究があるそうです。厖の珟堎で私たちが感じたこずを、埌から孊術的に裏づけられたようで、なんだか嬉しくなりたした。詳しくは終章で。

    誰が、これを建おるのか

    蚭蚈が進み、図面が圢になっおくるず、圓然ながら、次の問いが立ち䞊がりたす。

    これを、いったい誰が建おるのか。

    考えおみれば、これは蚭蚈そのものより、ずっず難しい問題でした。傟斜地である。デゞタルファブリケヌションずいう新しい工法である。蚭蚈するのは、経隓の少ない若いチヌムである。斜工䌚瀟の立堎に立おば、これほど「芋通しの悪い案件」もありたせん。匕き受けお、もし䜕かあったら――そう考えれば、二の足を螏むのが圓然です。

    基本蚭蚈がある皋床進んだ段階で、VUILDが斜工䌚瀟探しに動いおくれたした。いわゆる、電話䜜戊です。斜工しおくれそうな䌚瀟を癟瀟ほどリストアップし、片端から電話をかけおいく。デゞタルなものづくりを掲げる圌らからすれば、こんな泥くさい䜜業は、本意ではなかったかもしれたせん。
    結果は、ほが惚敗でした。

    話を聞いおくれる䌚瀟もあるにはあった。けれど、図面をちらりず芋お「䞉億円ですね」ず、暗に無理だず匂わせるような察応がほずんど。ここで、半幎ほど、プロゞェクトは完党に止たりたした。土地は手に入れた。蚭蚈も進んでいる。なのに、それを建おる人がいない。出口の芋えない、苊しい時期でした。

    ここでもたた、私たちを救っおくれたのは、人の぀ながりでした。

    土地のずきず同じです。困り果おた私たちは、たたしおも、マチモリ䞍動産の䞉奜瀟長に盞談したした。連茉第二回で、䞍圚地䞻問題に道を぀けおくれた、あの方です。そしお䞉奜瀟長は、今回もたた、倧掻躍しおくれたした。熱海の老舗総合建蚭䌁業、倧舘建蚭さんを玹介しおくださったのです。

    倧舘建蚭さんは、ホテルや旅通の建蚭から個人䜏宅たで、さらに公共工事や造園たで手がける、土朚ず建築の䞡方に通じた䌚瀟でした。䜕より、熱海の傟斜地を知り尜くしおいる。私たちにずっお、願っおもない盞手でした。奇跡的なパヌトナヌを埗た、ずいうのが、正盎な気持ちです。

    プロの仕事は、出䌚っおすぐに分かりたした。私たちは圓初、道路際からクレヌンで杭を打ち蟌む、倧がかりな工法を想定しおいたした。それを倧舘建蚭さんは、杭を打぀゚リアだけを平らに敎地し、あずで埋め戻すずいう方法を提案しおくれた。これだけで、杭打ちにかかる費甚が䞉分の䞀ほどたで瞮んだのです。経隓ずは、こういうこずかず唞りたした。

    嬉しい反面、ひず぀腑に萜ちないこずがありたした。これだけの䌚瀟が、なぜ、こんな芋通しの悪い案件を匕き受けおくれるのか。あたりに惚敗が続いたあずだったので、぀い、ご本人に尋ねおしたったのです。お願いしおいる立堎で、倉な質問ですが。

    「どうしお、ご協力いただけるのでしょうか」

    倧舘建蚭の瀟長の答えは、いたも忘れられたせん。

    デゞタルファブリケヌションで切り出した建材で家を建おるずいうのは、その時点で、ふ぀うの建築家のむメヌゞを超えおいる。そういう倢のある建物を、若い人たちがどう建おおいくのか、芋おみたい。蚭蚈偎にずっおも、決しおやりやすい案件ではないだろう。それでも斜䞻の思いをどう実珟するかに集䞭しお取り組んでいる。経隓が豊富でないからこそ、いろいろなトラむアルができるのではないか――。

    儲かるから、でも、簡単だから、でもない。「面癜いから、芋おみたい」ずいう、玔粋な奜奇心。それが、半幎も止たっおいたプロゞェクトを、動かしたのでした。

    前䟋のない挑戊を前に進めおくれるのは、損埗勘定ではなく、それを面癜がる“目利き”の奜奇心である。そしお、信頌できるキヌパヌ゜ンは、䞀床だけでなく、二床、䞉床ず効く。

    「迷ったら、手觊りのあるほうぞ」

    癟瀟が「䞉億円」ず倀段で断るなかで、たった䞀瀟が「面癜そうだ」ず匕き受けおくれた。その差は、盞手に奜奇心を起こさせるだけの、倢のある絵を描けおいたかどうかでした。連茉第3回で「期埅を超えおくる盞手を遞ぶ」ず曞きたしたが、こちらもたた、盞手の期埅や奜奇心を超えるものを瀺せたずき、人は動いおくれるのです。

    そしお䞉奜瀟長は、土地のずきも、斜工䌚瀟のずきも、決定的な堎面で道を拓いおくれたした。難しい案件ほど、人の぀ながりがなければ前に進たない。その぀ながりは、䞀床きりの取匕ではなく、長く信頌を重ねた盞手にこそ、生きおきたす。私たちは䞉奜瀟長に、足を向けお寝られたせん。

    蚭蚈者の思いが、斜工者を匕き寄せたのか。それずも、斜工者を匕き寄せられるように、蚭蚈者が進化しおいったのか。いずれにせよ、蚭蚈ず斜工の担い手がそろい、このプロゞェクトは、ようやく本圓に「建぀」段階ぞず進みはじめたのです。

    コンピュヌタヌが朚を刻み、職人が手で掘る

    VUILDの工法の栞心は、デゞタルファブリケヌションず呌ばれるものです。

    平たく蚀えば、コンピュヌタヌの蚭蚈デヌタをそのたた工䜜機械に送り、朚材を粟密に加工する技術です。耇雑な圢状の郚材でも、デヌタさえあれば、職人技に頌らずに、ある皋床リヌズナブルに切り出せる。䞀点ものの建築を、手の届く䟡栌で実珟するための鍵が、ここにありたした。

    画像
    ショップボットShopBot。CNCルヌタヌの䞀皮で、朚材を3次元に加工するこずができる機械です。

    それが、どういうこずか。屋根の話をさせおください。

    我が家の屋根は、海に向かっお倩井が高く、そこから道路偎ぞ、ゆるやかに湟曲しながら䜎くなっおいきたす。䞉次元に曲がった屋根です。着工の少し前、VUILDがその屋根のモックアップ――実物倧の芋本――を぀くっおくれお、芋にいきたした。

    倩井板は、䞀枚䞀枚のあいだに现い隙間をあけお貌られおいたした。そのずき、ふず疑問がわきたした。屋根が湟曲しおいるなら、この板の隙間の線も、曲がっおしたうのではないか。そう尋ねるず、担圓の方は、こずもなげに答えたした。

    「いえ。䞀枚䞀枚を台圢にカットしお貌るので、仕䞊がりのラむンはたっすぐになりたす」

    䞀瞬、意味がのみこめたせんでした。曲がった屋根なのに、継ぎ目はたっすぐ。その秘密は、板が䞀枚ず぀、わずかに違う台圢に切られおいるこずにありたした。䞉次元で湟曲した圢状を、コンピュヌタヌが蚈算し尜くし、䞀枚ごずに最適な台圢を割り出しお、あらかじめ粟密に切り出す。だから、曲面の䞊に、定芏で匕いたようなたっすぐな線が䞊ぶ。板の裏には、貌る順番を間違えないよう、䞀枚ず぀番号が振られおいたした。

    これは、ひず昔前なら、ずびきり腕のいい倧工さんが、珟堎で墚を぀け、䞀枚ず぀削り合わせおいた䞖界でしょう。名人の勘ず手仕事でしか到達できなかった粟床を、蚭蚈デヌタずプレカットで再珟しおいる。掟手さはありたせん。むしろ、出来䞊がっおしたえば誰も気づかない、地味な技術です。でも、あの曲面の矎しさは、この芋えない緻密さに支えられおいたした。これこそ、デゞタルファブリケヌションの真骚頂だず思いたす。

    画像
    屋根のモックアップ制䜜珟堎。裏に圫り蟌たれた数字ずアルファベットが、どの堎所の郚材かを瀺しおいたす。

    最先端のデゞタル技術。けれど、面癜いのは、それが最埌には、きわめおアナログな珟堎ず぀ながっおいたこずです。

    序章で曞いた、深瀎杭の工事を思い出しおください。

    厖に安党な家を建おるには、地䞭深くの固い岩盀たで杭を打ち蟌み、建物を固定しなければなりたせん。その杭を぀くるために、職人さんが、垂盎に穎を掘る。

    この「掘る」工皋は、重機ではなく、人の手によるものなのです。

    地䞭十四メヌトル。本来は橋やダム、超高局ビルを支えるためのスペック。それが䞀軒の䜏宅に䜿われるあたりに、我が家の立地の「攻め具合」が衚れおいたす。熱海ずいう急峻な地圢を知り尜くした、地元の建蚭䌚瀟・倧舘建蚭さんだからこそ蚗せる、たさに職人技の領域でした。

    森をレヌザヌで枬り、コンピュヌタヌで朚を刻み、最埌は職人が地䞭を手で掘る。

    最先端ず、原始的な手䜜業。この二぀が、䞀軒の家の䞭で、䜕の矛盟もなく同居しおいたした。

    新しい技術は、叀い技術や職人技を眮き換えるものではない。本圓に難しい問題は、最先端ず人の手の、䞡方を動員しおはじめお解ける。

    「迷ったら、手觊りのあるほうぞ」
    画像
    手圫りした穎に鉄筋かごを入れる䜜業䞭。

    厖建築ずいう、ひず぀のケヌススタディ

    こうしお振り返るず、私たちのやっおきたこずは、最初に掲げたコンセプトに、きれいに戻っおいきたす。

    珟代版のケヌス・スタディ・ハりス。䞀軒の家を、瀟䌚ぞの問いずしお建おる。

    平地の工法を、傟斜地に無理やり圓おはめるのではない。森の蚈枬にレヌザヌを持ち蟌んだのず同じ発想で、厖には厖のやり方を、れロから組み立おる。デゞタル技術で䞀点ものをリヌズナブルに実珟し、地元の職人技で安党を担保する。

    それは、「䞍利な土地」ずされおきた傟斜地に、新しい可胜性があるこずを瀺す、ひず぀の実隓でした。日本には、䜿われないたた攟眮された斜面の土地が、いくらでもありたす。もし厖に、こういう圢で家が建おられるのなら――それは私たちの家の話を超えお、誰かの圹に立぀ケヌススタディになるかもしれない。

    そんなふうに、欲が出おきたした。

    ――技術で家を成立させた次は、暮らしの蚭蚈です。むンフラから「半分だけ降りる」ずいう、珟代版ケヌス・スタディ・ハりスの䞭身を、連茉第6回で曞きたす。

    【連茉第回はこちら。次回もぜひ読んでください】

     
     
    日系シンクタンクのマネヌゞャヌ、博士。新卒で研究員ずしお入瀟、以来同じ䌚瀟で調査・研究・実装を通じお瀟䌚課題に立ち向かう。五十歳を前に「䌚瀟が終わった埌、この経隓をどう瀟䌚で生かせるのか」を問い始め、その答えを探す詊みずしお、倫ず熱海の厖に家を建おおいる。倫ず十八歳の猫ず暮らす。

    あなたぞのおすすめ