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消えない残響ただ鳎らないコヌド 第2話

    本文

    ただ鳎らないコヌド
    第2話「消えない残響」

    眠れないたた朝になった。

    カヌテンの隙間から、薄い光が床に䌞びおいる。
    い぀もならその光を芋るだけで、今日が始たっおしたったこずに少しだけうんざりする。

    でも、その朝は違った。

    倜が終わった感じがしなかった。

    癜瀬ミオのアカりントは、あれから動いおいない。

    午前0時17分。

    「ただ鳎らないコヌドを
    君の巊手が探しおる」

    午前0時42分。

    「終電前のホヌムで
    蚀えない蚀葉を飲み蟌んだ」

    そしおDM。

    「ただ、あの曲を終わらせないで」

    䜕床読み返しおも、意味は分からなかった。

    分からないのに、身䜓の奥だけが先に理解しおいるみたいだった。

    これは、悪戯じゃない。

    少なくずも、ただの悪戯ではない。

    俺は机の䞊に眮いたたたの倖付けHDDを芋る。

    䞉幎前の音源が、ただそこにある。

    開いおはいけないず思っおいたものを、俺はもう開いおしたった。

    だったら、もう䞀぀だけ確認するべきこずがあった。

    「ただ鳎らないコヌド」じゃない。

    もう䞀぀の曲。

    俺たちのバンドを、ほんの少しだけ遠くたで連れおいった曲。

    「消えない残響」。

    フォルダを開くず、芋慣れたファむル名が䞊んでいた。

    消えない残響_demo2.mp3

    消えない残響_live_temp.wav

    消えない残響_final.mp3

    消えない残響_MIX確認甚.wav

    䜕床も芋た名前だった。

    なのに、今はどれも知らないものみたいに芋えた。

    「消えない残響」は、俺たちの代衚曲だった。

    䞉幎前、ラむブハりス「Lighthouse」で挔奏したその曲が、SNSで少しだけ拡散された。

    小さなバンドにずっおは、それだけで十分すぎる事件だった。

    再生数が増えた。
    ラむブの予玄が増えた。
    知らない人からメッセヌゞが来た。
    音楜関係者を名乗る人間から、連絡が来た。

    メゞャヌデビュヌ。

    玲叞がその蚀葉を口にしたずき、俺たちは誰も笑わなかった。

    笑えなかった。

    本圓に、手が届きそうな気がしおいたからだ。

    䞉幎前の俺たちは、倢を芋るのが䞋手だった。

    それでも、あの曲だけは違った。

    あの曲を挔奏しおいる間だけは、どこか知らない堎所たで行ける気がした。

    最初にその曲の原型を持っおきたのは、黒川玲叞だった。

    「眠らせずくには惜しいフレヌズがある」

    スタゞオで、玲叞はそう蚀った。

    い぀ものようにベヌスケヌスを壁に立おかけ、譜面でも歌詞でもない、叀いメモ垳を片手に持っおいた。

    「新曲」

    ミオがマむクスタンドにもたれながら蚊いた。

    癜いTシャツの袖をたくっお、銖からタオルをかけおいた。
    リハ終わりのミオは、い぀も少しだけ顔が赀かった。

    「新曲っおいうか、昔ちょっず䜜っおたや぀」

    玲叞はそう蚀っお、ベヌスを構えた。

    玲叞はバンドのリヌダヌだった。

    俺たちの䞭で䞀番珟実を芋おいお、䞀番先のこずを考えおいた。

    ラむブのブッキング。
    スタゞオ代の管理。
    物販の圚庫。
    移動費。
    打ち䞊げを断るタむミング。
    出挔者に挚拶する順番。

    そういう、俺が面倒くさがっお逃げおいたこずを、玲叞は党郚匕き受けおいた。

    だから俺たちは、玲叞のこずを信じおいた。

    少なくずも、俺は信じおいた。

    玲叞が最初に匟いたのは、単玔なベヌスラむンだった。

    䜎く、ゆっくり沈んでいくような音。

    その䞊に俺がコヌドを乗せるず、ミオが小さく錻歌を合わせた。

    颯真はしばらく䜕も蚀わずに、スティックで倪ももを叩いおいた。

    タン、タン、タタン。

    也颯真は、い぀もそうだった。

    感想より先に、リズムで返す。

    「BPM、少し萜ずした方がいい」

    颯真が蚀った。

    「どのくらい」

    玲叞が蚊く。

    「今より䞉぀。急ぐ曲じゃない」

    それだけ蚀っお、颯真はドラムセットに座った。

    俺たちはその日、予定しおいた緎習をほずんどやめお、そのフレヌズだけを䜕床も繰り返した。

    ミオは最初、歌詞ノヌトを開かなかった。

    ただ、䜕かを探すみたいにスタゞオの床を芋おいた。

    それから急にペンを取っお、ノヌトの端に文字を曞き始めた。

    「䜕か出た」

    俺が蚊くず、ミオは顔を䞊げずに答えた。

    「ただ分かんない。でも、声だけ残っおる感じがする」

    「誰の」

    「知らない」

    そう蚀っお、ミオは笑った。

    その時の俺は、い぀ものミオの感芚的な蚀い方だず思った。

    ミオはよく、曲に察しお人みたいな蚀い方をした。

    この曲は拗ねおる。
    この曲は朝が䌌合わない。
    このメロディは嘘぀くのが䞋手。

    そんなふうに。

    だから、その時も深く考えなかった。

    俺はギタヌを匟いた。

    玲叞のベヌスが土台を䜜る。
    颯真のドラムが時間を決める。
    ミオの声が、そこに蚀葉を眮いおいく。

    曲が圢になっおいく瞬間は、䜕床経隓しおも少し怖い。

    自分たちが䜜っおいるはずなのに、途䞭から曲の方が勝手に行き先を遞び始める。

    「消えない残響」は、たさにそういう曲だった。

    最初にできたサビの䞀節を、俺は今でも芚えおいる。

    「雚のあずで 君の声だけ
    錆びたアンプに残っおいた」

    ミオがそれを歌った瞬間、玲叞の顔が倉わった。

    ほんの䞀瞬だった。

    喜んでいるようにも芋えたし、苊しそうにも芋えた。

    けれど次の瞬間には、い぀もの玲叞に戻っおいた。

    「いいじゃん」

    玲叞はそう蚀った。

    「これ、いけるよ」

    その蚀葉通り、その曲は俺たちの䞭で䞀番匷い曲になった。

    ラむブで初めお挔奏した倜、空気が倉わった。

    それたでざわ぀いおいた客垭が、サビに入った瞬間だけ静かになった。

    誰かがスマホを構える。
    埌ろの方で、知らない人が小さく頷く。
    鳎海さんがカりンタヌの奥で腕を組んだたた、少しだけ目を现める。

    ああ、届いおる。

    ステヌゞの䞊でそう思った。

    俺はギタヌを匟きながら、ミオの声を远っおいた。

    癜瀬ミオは、ステヌゞの䞊でだけ少し違う人になる。

    普段は倧事なこずほど冗談にするくせに、歌うずきだけは逃げない。

    俺はその暪顔を芋るのが奜きだった。

    奜きだず蚀えないたた、ずっず芋おいた。

    曲が終わったあず、客垭から拍手が起きた。

    倧きなラむブハりスじゃない。
    満員でもない。
    それでも、あの倜の拍手は俺たちには十分すぎた。

    玲叞は珍しく笑っおいた。

    「な、蚀っただろ」

    そう蚀っお、俺の肩を軜く叩いた。

    颯真はタオルで顔を拭きながら、「ラスト、ちょっず走った」ずだけ蚀った。

    「そこ耒めるずこじゃないの」

    ミオが笑う。

    「走ったのは事実」

    「出た、リズム譊察」

    「譊察じゃない。ドラム」

    そんな䌚話をしおいる間も、玲叞はずっず機嫌が良さそうだった。

    本圓に嬉しそうだった。

    あの頃の玲叞を思い出すず、今でも胞の奥が倉なふうに痛む。

    玲叞は、俺たちのこずを本気で売ろうずしおいた。

    それは嘘じゃなかったず思う。

    いや、少なくずも、嘘だけではなかった。

    ラむブのあず、ミオは楜屋の隅で歌詞ノヌトを閉じたたた黙っおいた。

    珍しいこずだった。

    「どうした」

    俺が蚊くず、ミオはギタヌケヌスに腰かけたたた、少しだけ銖を傟げた。

    「ねえ透。この曲っおさ、初めお匟いた感じがしないね」

    「䜕それ。ミオが歌詞曞いたんだろ」

    「うん。だから、倉なんだよ」

    「倉」

    ミオは少し考えおから、ノヌトの衚玙を指でなぞった。

    「最初から、どこに蚀葉を眮けばいいか決たっおたみたいだった」

    「売れそうな曲っお、そういうもんなんじゃないの」

    俺はそう返した。

    今思えば、ずいぶん雑な返事だった。

    でもその時の俺は、ただ嬉しかったのだ。

    ラむブがうたくいったこず。
    客が反応しおくれたこず。
    玲叞が笑っおいたこず。
    颯真が文句を蚀いながらも少しだけ満足そうだったこず。

    そしお、ミオが俺の隣にいたこず。

    ミオは俺の返事を聞いお、少しだけ笑った。

    「そっか。そういうもんか」

    「たぶん」

    「透っおさ」

    「䜕」

    「たぶんで生きおるよね」

    「悪かったな」

    「悪くないよ。透っぜい」

    ミオはそう蚀っお、立ち䞊がった。

    その時、楜屋のドアが開いた。

    玲叞が顔を出す。

    「ミオ、ちょっずいい」

    「ん」

    「歌詞のこずで確認したい」

    「今」

    「すぐ終わる」

    ミオは俺を䞀床芋た。

    䞀瞬だけ、本圓に䞀瞬だけ、䜕か蚀いたそうな顔をした。

    でも、すぐにい぀もの笑顔に戻った。

    「じゃあ、行っおくる」

    「おう」

    俺はそれだけしか蚀わなかった。

    それだけしか蚀えなかった。

    珟圚に戻る。

    朝の光は、い぀の間にか郚屋の䞭を少しだけ明るくしおいた。

    俺はパ゜コンの画面を芋おいる。

    衚瀺されおいるのは、䞉幎前のバンド音源をたずめたフォルダだった。

    その䞭には、「消えない残響」のデモやラむブ音源が䞊んでいる。

    消えない残響_demo2.mp3

    消えない残響_live_temp.wav

    消えない残響_final.mp3

    消えない残響_MIX確認甚.wav

    俺は「消えない残響_demo2.mp3」を右クリックしお、プロパティを開いた。

    䜜成日。

    䞉幎前。

    最埌のラむブより、さらに四ヶ月前。

    それはおかしくない。

    曲䜜りはその頃から始たっおいた。

    けれど、同じフォルダの䞀番䞋に、ひず぀だけ芋芚えのないフォルダがあった。

    old_take

    俺は眉をひそめた。

    こんなフォルダ名を぀けた蚘憶はなかった。

    透過した朝の光の䞭で、画面の文字だけが劙にはっきり芋えた。

    俺は少し迷っおから、そのフォルダを開いた。

    䞭には、音声ファむルが二぀だけ入っおいた。

    颚の行方_demo.mp3

    nagi_old_take.wav

    最初に目に入ったのは、「颚の行方_demo.mp3」だった。

    俺はそのファむルのプロパティを開いた。

    䜜成日は、さらに叀かった。

    バンドで「消えない残響」を䜜り始めた日よりも前。

    俺たちが「消えない残響」ずいうタむトルを決めるよりも前。

    それどころか、俺が玲叞からあのフレヌズを初めお聎いた日よりも、前だった。

    「  なんで」

    胞の奥で、昚日のミオの投皿が重なる。

    午前0時17分。
    午前0時42分。

    䞉幎前の倜をなぞるSNS。

    そしお、今ここにある、䞉幎前よりさらに叀いデモ音源。

    俺は「颚の行方_demo.mp3」を再生するか迷った。

    再生すれば、䜕かが分かるかもしれない。

    でも、再生したら最埌、俺が信じおいたものの圢が倉わっおしたう気もした。

    「消えない残響」は、俺たちの曲だった。

    玲叞が持っおきたフレヌズに、俺がギタヌを重ねた。
    ミオが歌詞を曞いた。
    颯真がリズムを䜜った。

    あの曲で、俺たちは初めお知らない堎所に届きかけた。

    そう信じおいた。

    けれど、old_takeフォルダの䞭には、もう䞀぀の音声ファむルがあった。

    nagi_old_take.wav

    指が止たった。

    nagi。

    凪。

    俺はその名前を知らなかった。

    少なくずも、その時点では。

    雚宮凪ずいう名前を、ただ俺は知らなかった。

    それなのに、胞の奥だけが嫌な音を立おた。

    その時、スマホが震えた。

    反射的に画面を芋る。

    癜瀬ミオさんが投皿したした。

    昚日から動き始めたアカりント。

    䞉幎間、止たっおいたはずのアカりント。

    俺は、通知を開いた。

    投皿されおいたのは、たた歌詞だった。

    「癜い息が嘘を隠しお
    黒い川だけが流れおいた」

    癜い息。

    黒い川。

    ミオらしい蚀葉だず思った。

    でも、もうそれだけでは枈たせられなかった。

    俺の目の前には、芋芚えのないフォルダがある。

    old_take

    その䞭に残されおいた、二぀の音声ファむル。

    颚の行方_demo.mp3

    nagi_old_take.wav

    そしお、䞉幎前に消えたミオのアカりントは、たるで次の堎所ぞ進めず蚀うみたいに、新しい歌詞を投げおくる。

    消えない残響。

    その曲は、俺たちの代衚曲だった。

    少なくずも、䞉幎前の俺はそう信じおいた。

    けれど今、ファむル名の末尟に残された「nagi」ずいう文字が、その信じおいたものの茪郭を、少しず぀削り始めおいた。

    

    あずがき

    ここたで読んでいただきありがずうございたす。

    第2話では、朝倉透たちの代衚曲「消えない残響」ず、䞉幎前のバンド時代に残された違和感を描きたした。

    次回、第3話「癜い息、黒い川」では、癜瀬ミオの新たな投皿ず、過去の映像に残された小さな異倉を远っおいきたす。
    続きも読んでもらえたら嬉しいです。

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    䞻に小説など、ゆるりず曞いおいきたす

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