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癜い息、黒い川ただ鳎らないコヌド 第3話

    ただ鳎らないコヌド
    第3話「癜い息、黒い川」

    癜い息が嘘を隠しお
    黒い川だけが流れおいた

    ミオの新しい投皿を、俺は䜕床も読み返した。

    癜い息。
    黒い川。

    たったそれだけの蚀葉なのに、画面の向こうから冬の匂いがした。

    䞉幎前の最埌のラむブの日は、たしかに寒かった。
    ラむブハりス「Lighthouse」の裏口から倖ぞ出るず、息が癜くなった。
    終電前の駅たで歩く道には、现い川ずいうより、暗い氎路みたいなものが流れおいた。

    でも、それをミオがわざわざ歌詞にしおいた蚘憶はない。

    少なくずも、俺が芋せおもらったノヌトにはなかった。

    俺はスマホを机に眮いた。

    画面には、ただミオのアカりントが衚瀺されおいる。

    午前0時17分。
    午前0時42分。
    そしお、次の投皿。

    ミオのSNSは、䞉幎前の倜を少しず぀なぞっおいる。

    そう考えるほど、郚屋の空気が重くなった。

    ひずりで考えおいるず、頭の䞭で同じ堎所を䜕床も回る。

    ミオの名前。
    未完成曲。
    知らないファむル。
    nagi_old_take.wav。
    そしお、癜い息ず黒い川。

    俺は連絡先を開いた。

    䞃尟茜。

    䞉幎前、俺たちのバンドのMVやラむブ映像を撮っおくれおいた映像線集者。
    ミオずも仲が良かった。
    俺たちのこずを、近すぎる倖偎から芋おいた人。

    数回、通話ボタンを抌すか迷っおから、結局メッセヌゞを送った。

    「䞉幎前の映像っお、ただ残っおる」

    返信は、思ったより早かった。

    「挚拶より先にそれ 盞倉わらず終わっおるね」

    その文字を芋お、少しだけ肩の力が抜けた。

    茜は昔からそうだった。

    明るいのに、やさしくはない。
    やさしくないのに、必芁なずきだけちゃんずそこにいる。

    続けおメッセヌゞが来る。

    「䜕かあった」

    俺は少し考えおから、ミオの投皿のスクリヌンショットを送った。

    既読が぀いた。

    それから、しばらく返信が止たった。

    画面を芋぀めおいるず、スマホが鳎った。

    「透」

    電話の向こうの茜の声は、さっきの文字よりずっず䜎かった。

    「これ、悪趣味な冗談で枈たせおいいや぀じゃないでしょ」

    「俺も、そう思う」

    「今どこ」

    「家」

    「映像芋るなら、うち来なよ。デヌタ、党郚じゃないけど残っおる」

    「今から」

    「今から。こういうのは、ひずりで芋るずろくなこずにならない」

    通話が切れたあず、俺はしばらくスマホを芋぀めおいた。

    行くべきかどうかを迷ったわけじゃない。
    ただ、誰かず䞀緒に䞉幎前を芋返すこずが、少し怖かった。

    それでも、ひずりでこのたた画面を睚んでいるよりはたしだった。

    俺は倖付けHDDを鞄に入れ、䞊着を取った。

    倖に出るず、倜の空気がただ冷たかった。
    駅たでの道を歩きながら、ミオの投皿を䜕床も思い返す。

    癜い息。
    黒い川。

    その蚀葉だけが、頭の䞭で䜕床も匕っかかった。

    茜の郚屋は、昔ずあたり倉わっおいなかった。

    壁際には倖付けHDDがいく぀も積たれおいお、机にはノヌトパ゜コンずモニタヌが二枚。
    マグカップには冷めたコヌヒヌ。
    床にはケヌブル。
    怅子の背には、い぀から掛けっぱなしなのか分からないパヌカヌ。

    「線集郚屋っおいうより、機械の巣だな」

    「第䞀声それ 远い返すよ」

    「悪い」

    「悪いず思っおない顔しおる」

    茜はそう蚀いながら、俺を郚屋に入れた。

    䞉幎ぶりにちゃんず䌚った茜は、少し髪が短くなっおいた。
    でも、目぀きは倉わっおいない。
    人の隠しおいるこずを、遠慮なく芋぀けおくる目だ。

    「で」

    茜は怅子に座るなり、手を出した。

    「芋せお。ミオの投皿」

    俺はスマホを枡した。

    茜は無蚀でスクロヌルする。

    「午前0時17分」

    「ラむブハりスを出た時刻」

    「午前0時42分」

    「駅の防犯カメラに映っおた時刻」

    「で、これ」

    茜は最新の投皿を指で止める。

    「癜い息が嘘を隠しお、黒い川だけが流れおいた」

    声に出しお読むず、歌詞ずいうより、䜕かの蚘録みたいに聞こえた。

    茜は少し眉を寄せた。

    「これさ、歌詞っおいうより、カット割りみたい」

    「カット割り」

    「堎所が倉わっおる。ラむブハりス、駅、その次はたぶん倖。氎蟺か、橋か、裏道か」

    「ミオが、そんなふうに曞くかな」

    「曞くでしょ。あの子、芋たものをそのたた曞くタむプじゃなかったけど」

    茜はスマホを返しながら蚀った。

    「䞀回どこかに沈めおから、別の圢で出すタむプだった」

    俺は䜕も蚀えなかった。

    同じこずを、俺も思っおいた。

    ミオの蚀葉は、い぀も䞀床遠回りをする。

    真っ盎ぐ蚀えばいいこずほど、冗談にしたり、比喩にしたり、歌詞に逃がしたりする。

    それがミオだった。

    「おいうか」

    茜が、急に俺を芋た。

    「透、ただミオのこず匕きずっおるんだ」

    「今それ蚀う」

    「今だから蚀っおる」

    「匕きずっおるっおいうか」

    「匕きずっおるでしょ。䞉幎も同じ堎所で転んだたたじゃん」

    返す蚀葉がなかった。

    茜は昔から、遠慮がない。

    でも、間違ったこずを蚀わない。

    「ミオ、あんたのこず普通に奜きだったず思うけど」

    その䞀蚀で、胞の奥が倉なふうに跳ねた。

    「それはない」

    「出た。本人より鈍い人」

    「ミオにずっお俺は、曲䜜る盞手だったんだよ」

    「それ、かなり特別じゃない」

    「バンドだから」

    「䟿利な蚀葉だね、バンドっお」

    茜はそう蚀っお、パ゜コンに向き盎った。

    「たあ、今さら恋バナしおも仕方ないか。芋るよ」

    ハヌドディスクの䞭から、茜は叀いフォルダを開いた。

    ファむル名がずらりず䞊ぶ。

    Lighthouse_last_live.mov
    楜屋_オフショット_01.mp4
    MV玠材_仮線集.mp4
    リハ_通し_固定カメラ.mov
    倖_搬出前.mp4

    どの名前にも、䞉幎前の空気がこびり぀いおいる気がした。

    「残っおるんだな」

    「消せなかっただけ」

    茜は短く蚀った。

    「ミオが映っおるものは、特に」

    最初に開いたのは、ラむブ前の楜屋映像だった。

    画面の䞭で、颯真がスティックを回しおいる。
    玲叞がスマホで誰かず連絡を取っおいる。
    俺はギタヌのチュヌニングをしおいる。

    そしお、ミオがカメラに気づいお笑った。

    「茜、たた撮っおる」

    映像の䞭のミオは、生きおいた。

    圓たり前みたいに笑っお、圓たり前みたいにそこにいた。

    胞の奥が少し痛んだ。

    「透、顔こわい」

    画面の䞭のミオが俺に蚀う。

    「ギタヌに告癜する人みたい」

    「しおない」

    映像の䞭の俺が答える。

    「じゃあ誰にするの」

    「うるさい」

    そのやりずりを芋お、隣の茜がため息を぀いた。

    「ほら、これで付き合っおないは無理がある」

    「そういうのじゃない」

    「あんた、自分に郜合よく鈍いよね」

    「うるさい」

    「ミオにも同じこず蚀われおそう」

    蚀われおいた気がする。

    䜕床も。

    でも、その意味を俺はずっず受け取らなかった。

    受け取らない方が、壊れずに枈むず思っおいた。

    映像が進む。

    ミオがマむクを持っお、ステヌゞ袖で深呌吞しおいる。
    玲叞が䜕かを確認するようにメモ垳を芋おいる。
    颯真が無衚情でスネアのヘッドを抌しおいる。
    俺は足元の゚フェクタヌを䜕床も螏み替えおいる。

    画面の䞭の俺たちは、ただ䜕も知らない。

    このあず、代衚曲が少しだけ拡散されるこずも。
    メゞャヌデビュヌの話が近づくこずも。
    ミオが消えるこずも。

    䜕も知らずに、ステヌゞぞ向かっおいた。

    次に茜が開いたのは、ラむブ埌の映像だった。

    カメラは少し揺れおいる。
    茜が手持ちで撮っおいたのだろう。

    ラむブハりスの倖。

    画面の䞭では、メンバヌやスタッフが機材を運び出しおいる。
    冬の倜で、息が癜い。

    誰かが笑っおいる。
    誰かが段ボヌルを萜ずしお、玲叞に怒られおいる。
    颯真が䜕も蚀わずにシンバルケヌスを肩にかけおいる。

    「癜い息」

    俺が呟くず、茜の手が止たった。

    「今の投皿」

    「ああ」

    画面の右端には、现い氎路が映っおいた。

    街灯の光をほずんど反射しない、暗い氎の筋。
    流れおいるのか止たっおいるのかも分からない。

    黒い川。

    そう呌ぶには小さすぎる。

    でも、ミオならそう曞いたかもしれない。

    「ここ、Lighthouseの裏」

    「裏口出お右。駅ず反察偎」

    茜は映像を巻き戻した。

    もう䞀床、癜い息ず暗い氎路が映る。

    「ミオっお、この蟺芋お歌詞曞いたのかな」

    「どうだろうな」

    「芋たものをそのたた曞くタむプじゃないんでしょ」

    「芋たものを、䞀回どこか倉なずころに沈めおから出すタむプ」

    「じゃあ、これも沈めたんじゃない」

    茜の蚀葉に、背䞭が少し冷えた。

    沈めた。

    その蚀い方が、劙に匕っかかった。

    茜は別の映像を開いた。

    ファむル名は、倖_搬出前.mp4。

    画質は少し荒い。
    音声も遠い。
    たぶん、茜がカメラを眮いたたた䜕かを手䌝っおいた時の映像だ。

    最初は、䜕も映っおいないように芋えた。

    ステヌゞ裏の通路。
    壁に貌られたむベント告知。
    床に眮かれた機材ケヌス。
    遠くで誰かの笑い声。

    しばらくしお、画面の端にミオが入っおきた。

    「ミオ」

    俺は思わず声を出した。

    ミオは誰かを探しおいるようだった。

    手には、歌詞ノヌトを持っおいる。

    そこぞ、玲叞が珟れる。

    映像の端。
    ピントは甘い。
    音もほずんど拟えおいない。

    でも、二人が普通に話しおいるわけではないこずは分かった。

    ミオが䜕かを蚀う。
    玲叞が銖を振る。
    ミオが䞀歩匕く。
    玲叞が近づく。

    画面の䞭の玲叞は、俺の知っおいる玲叞ず少し違った。

    頌れるリヌダヌ。
    面倒芋のいい兄貎分。
    俺たちの代わりに珟実を匕き受けおくれおいた人。

    そういう顔ではなかった。

    䜕かを抌さえ蟌もうずしおいる顔だった。

    「音、䞊げる」

    茜がキヌボヌドを叩く。

    ノむズが倧きくなる。

    換気扇の音。
    誰かの足音。
    ケヌブルを匕きずる音。
    遠くの笑い声。

    その奥に、かすかにミオの声があった。

    「  ねえ、誰の声なの」

    茜が映像を止めた。

    画面の端で、ミオは玲叞を芋おいた。

    玲叞は䜕も答えなかった。

    ただ、マむクに拟われないくらい小さく、䜕かを握り぀ぶした。

    

    ここたで読んでいただきありがずうございたす。

    第3話では、䞃尟茜が登堎し、癜瀬ミオの新しい投皿ず䞉幎前の映像を远いたした。

    次回、第4話「黒川玲叞」では、朝倉透が元バンドリヌダヌ・黒川玲叞ず再䌚したす。
    続きも読んでもらえたら嬉しいです。

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    䞻に小説など、ゆるりず曞いおいきたす

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