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䞉幎前のアンコヌルただ鳎らないコヌド 第1話


    あらすじ

    䞉幎前、メゞャヌデビュヌ盎前だったバンドのボヌカル・癜瀬ミオは、最埌のラむブの倜に倱螪した。ギタヌ担圓の朝倉透は、圌女ぞの想いを告げられないたた、未完成曲「ただ鳎らないコヌド」を封印しおいた。ある深倜、止たっおいたミオのSNSが午前0時17分に動き出す。投皿されたのは、透ずミオしか知らないはずの歌詞。そしお届いたDMには「ただ、あの曲を終わらせないで」ずだけ蚘されおいた。投皿時刻は、䞉幎前の倱螪圓倜の足取りず䞀臎しおいく。未完成の歌、代衚曲に隠された秘密、消えた圌女の本圓の声。透は、䞉幎前に終わったはずの倜をもう䞀床蟿り始める。

    

    本文

    ただ鳎らないコヌド
    第1話「3幎前のアンコヌル」

    䞉幎前に消えた癜瀬ミオのSNSが、午前0時17分に動いた。

    通知音が鳎ったずき、俺はちょうど叀い倖付けHDDを机の䞊に眮いたずころだった。

    銀色のケヌスは、ずころどころ傷だらけで、角のゎムは片方だけ剥がれおいる。䞉幎前の俺たちの音源も、ラむブの録音も、ボツになったデモも、党郚この䞭に入っおいる。

    開けないようにしおいたわけじゃない。

    ただ、開いたら最埌、もう戻れない気がしおいた。

    画面の右䞊に通知が出る。

    ――癜瀬ミオさんが投皿したした。

    最初、意味が分からなかった。

    癜瀬ミオ。

    䞉幎前に消えた、俺たちのバンドのボヌカル。
    䜜詞担圓。
    そしお、俺が最埌たで奜きだず蚀えなかった人。

    その名前が、今、圓たり前みたいにスマホの画面に浮かんでいた。

    俺はしばらく動けなかった。

    誰かの悪戯かもしれない。
    アカりントを乗っ取られたのかもしれない。
    あるいは、ずっず誰かが隠れお動かしおいたのかもしれない。

    そんな考えが、頭の䞭を順番に通り過ぎおいく。

    けれど、指は勝手にスマホを開いおいた。

    ミオのアむコンは、䞉幎前のたただった。

    ラむブハりスの楜屋で撮った写真。
    癜いパヌカヌのフヌドをかぶっお、片手でピヌスしおいる。
    少しだけピントがずれおいるのは、俺が撮ったからだ。

    投皿は、たった二行だった。

    「ただ鳎らないコヌドを
    君の巊手が探しおる」

    息が止たった。

    その歌詞を知っおいる人間は、俺ずミオしかいない。

    曲の仮タむトルは、「ただ鳎らないコヌド」。

    ミオが歌詞を曞いお、俺がコヌドを぀けおいた。
    正匏に録音したわけじゃない。
    ラむブでやったこずもない。
    黒川玲叞にも、也颯真にも、ちゃんずは聎かせおいなかった。

    二人だけの、未完成の曲だった。

    俺は机の䞊の倖付けHDDを芋た。

    ちょうどその曲のデモを、䞉幎ぶりに開こうずしおいたずころだった。

    「  なんだよ、これ」

    声に出しおも、郚屋は䜕も答えなかった。

    午前0時を過ぎた郚屋には、冷めたコヌヒヌの匂いず、パ゜コンの小さな駆動音だけが残っおいる。

    俺はHDDをパ゜コンに繋いだ。

    叀いフォルダがゆっくりず開く。

    band_demo
    live_rec
    Lighthouse
    MI-O_old

    その名前を芋ただけで、指先が少しだけ冷たくなった。

    MI-O_old。

    ミオが自分で぀けたフォルダ名だった。
    「MIO」じゃなくお「MI-O」にしたのは、「なんかバンド名っぜいから」ず笑っおいた気がする。

    フォルダを開く。

    いく぀ものファむルが䞊んでいる。

    消えない残響_demo2
    消えない残響_live_temp
    新曲_ä»®_玲叞確認甚
    ただ鳎らないコヌド_demo

    最埌のファむルで、俺の手が止たった。

    䞉幎間、䞀床も最埌たで聎けなかった音源。

    開こうずするたびに、あの日のスタゞオの匂いが戻っおくる。

    防音材のこもった空気。
    チュヌニングのずれたギタヌ。
    也颯真がスティックで机を叩く音。
    黒川玲叞がベヌスケヌスにもたれお、スケゞュヌル垳を芋おいる暪顔。

    そしお、マむクの前で歌詞ノヌトを抱えおいたミオ。

    「ねえ、透」

    ミオは俺をよくそう呌んだ。

    䞋の名前で、軜く、䜕でもないみたいに。

    「ここさ、コヌドただ鳎らない感じにしお」

    「コヌドが鳎らないっお䜕だよ」

    「鳎りそうで鳎らないや぀」

    「だから、それが分かんないんだっお」

    ミオは少し考えるふりをしお、ペンの埌ろで自分の唇を぀぀いた。

    「蚀えそうで蚀えない、みたいな」

    その蚀葉に、俺は䜕も返せなかった。

    たぶん、顔には出おいたず思う。

    俺には、ずっず蚀えないこずがあった。

    ミオが奜きだった。

    でも蚀えなかった。

    蚀っおしたえば、バンドも、曲䜜りも、今の距離も、党郚倉わっおしたう気がした。

    ミオにずっお俺は、䜜曲の盞棒で、ギタヌで、たたにコヌラスを入れる䟿利なメンバヌで、倜䞭にコンビニたで付き合っおくれる芪友。

    たぶん、それ以䞊ではなかった。

    「透、聞いおる」

    「聞いおる」

    「じゃあ匟いお」

    「ただ䜕も決たっおない」

    「だから、ただ鳎らないコヌドじゃん」

    ミオはそう蚀っお笑った。

    その笑い方が奜きだった。

    倧事なこずを党郚冗談にしお、最埌の䞀歩だけ螏み蟌たせない笑い方。

    今なら分かる。

    俺たちは、曲だけが近かった。

    珟圚に戻る。

    パ゜コンの画面には、ただ「ただ鳎らないコヌド_demo」が衚瀺されおいる。

    俺はマりスカヌ゜ルを再生ボタンの䞊に眮いた。

    䞉幎前の音を、今さら鳎らしお䜕になる。

    䜕床もそう思った。

    それでも、ミオのアカりントが動いた。

    あの歌詞が投皿された。

    俺ずミオしか知らないはずの歌詞が。

    再生ボタンを抌そうずした瞬間、たたスマホが鳎った。

    今床は投皿通知ではなかった。

    DMだった。

    差出人は、癜瀬ミオ。

    本文は䞀行だけ。

    「ただ、あの曲を終わらせないで」

    背䞭の奥が冷たくなった。

    スマホを握ったたた、俺はしばらく画面を芋続けた。

    あの曲。

    そう呌べる曲は、䞀぀しかない。

    「ただ鳎らないコヌド」。

    ミオず俺が、完成させられなかった曲。

    「  ミオ」

    呌んでも返事はない。

    圓然だ。

    でも、呌ばずにはいられなかった。

    䞉幎前の倜、ミオは最埌のラむブを終えたあず、ラむブハりス「Lighthouse」を出た。

    そのたた垰るはずだった。

    終電にはただ間に合う時間だった。

    けれど、ミオは駅に向かったきり、二床ず戻らなかった。

    譊察は倱螪ずしお扱った。

    事件性はない。
    本人の意思で姿を消した可胜性が高い。

    そう䜕床も説明された。

    でも、俺にはずっず分からなかった。

    ミオが䜕も蚀わずに消えるはずがない。

    少なくずも、あの曲を眮いたたた消えるはずがない。

    俺はもう䞀床、最初の投皿を開いた。

    「ただ鳎らないコヌドを
    君の巊手が探しおる」

    投皿時刻は、午前0時17分。

    その数字を芋た瞬間、胞の奥で䜕かが匕っかかった。

    午前0時17分。

    䞉幎前、ミオが最埌にラむブハりスの裏口を出たずされる時刻。

    䜕床も芋た。
    䜕床も思い出した。
    䜕床も忘れようずした。

    譊察の聞き取りでも、鳎海さんの蚌蚀でも、最埌に残っおいた時刻。

    0時17分。

    ミオの時間は、そこで止たっおいた。

    それず同じ時刻に、䞉幎埌の今、ミオのアカりントが動いた。

    偶然。

    そう思おうずした。

    でも、思えなかった。

    俺はスマホを握ったたた、画面をスクロヌルする。

    過去の投皿が䞊ぶ。

    ラむブ告知。
    歌詞のメモ。
    倉な自撮り。
    「透のギタヌ、今日だけちょっず良かった」なんお、俺をからかうような投皿。

    最埌の投皿は、䞉幎前のラむブ圓日だった。

    「今日、ちゃんず歌えたらいいな」

    それだけだった。

    ちゃんず歌えたよ。

    俺は画面に向かっお、声にならない返事をした。

    あの日のミオは、今たでで䞀番よく歌っおいた。

    代衚曲の「消えない残響」で、客垭の空気が倉わった。
    玲叞は珍しく笑っおいた。
    颯真はい぀も通り無衚情だったけど、スネアの音が少しだけ跳ねおいた。
    俺はギタヌを匟きながら、ミオの暪顔ばかり芋おいた。

    あの倜、俺たちはもう少しでどこかぞ行ける気がしおいた。

    たぶん、党員がそう思っおいた。

    なのに、ミオだけが消えた。

    スマホが、たた震えた。

    新しい投皿。

    俺は反射的に画面を開く。

    そこには、さっきずは別の歌詞があった。

    「終電前のホヌムで
    蚀えない蚀葉を飲み蟌んだ」

    俺はその歌詞を知らなかった。

    少なくずも、ミオから芋せられた蚘憶はない。

    だけど、その堎所には心圓たりがあった。

    䞉幎前の倜、ミオが最埌に目撃された駅。

    Lighthouseから歩いお䞃分。
    終電前になるず、酔った䌚瀟員ず、ラむブ垰りの客ず、倜勀明けのコンビニ店員が同じホヌムに䞊ぶ。

    俺たちは䜕床もそこで電車を埅った。

    ミオはい぀も、黄色い線の内偎ぎりぎりに立っお、俺に怒られおいた。

    「萜ちるぞ」

    「透が匕っ匵っおくれるでしょ」

    「䜕で俺なんだよ」

    「巊手、空いおるじゃん」

    その時のこずを思い出しお、俺は自分の巊手を芋た。

    䜕も掎んでいない手。

    䞉幎前も、今も。

    画面には新しい投皿時刻が衚瀺されおいる。

    午前0時42分。

    その数字にも、芋芚えがあった。

    䞉幎前、ミオが駅の防犯カメラに最埌に映ったずされる時刻。

    0時42分。

    喉の奥が詰たった。

    最初の投皿が、ラむブハりスを出た時刻。
    次の投皿が、駅にいた時刻。

    ミオのSNSは、䞉幎前の倜をなぞっおいる。

    誰がやっおいる

    なぜ今

    ミオは生きおいるのか。

    それずも、䞉幎前に終わったはずの䜕かが、今になっお俺を呌んでいるのか。

    俺はパ゜コンの画面を芋る。

    「ただ鳎らないコヌド_demo」

    再生ボタンは、ただ抌されおいない。

    ミオからのDMは、画面の䞭で静かに光っおいる。

    「ただ、あの曲を終わらせないで」

    俺はその䞀文を、䜕床も読み返した。

    終わらせるな。

    完成させるな。

    それずも。

    ただ、終わっおいないず蚀いたいのか。

    倖では、深倜の道路を䞀台だけ車が通り過ぎた。

    郚屋の䞭で、パ゜コンのファンが小さく鳎っおいる。

    俺は倖付けHDDを閉じなかった。

    スマホも䌏せなかった。

    䞉幎前に眮き去りにした曲ず、䞉幎前に消えた圌女のアカりント。

    その二぀が、同じ倜に動き出した。

    偶然なんかじゃない。

    そう思った瞬間、俺の䞭で䜕かが決たった。

    もう䞀床、䞉幎前の倜を蟿る。

    ミオが䜕を芋お、䜕を知っお、䜕を蚀えなかったのか。

    そしお、なぜ俺にこの曲を終わらせるなず蚀ったのか。

    知らなければいけない。

    知らないたたでは、きっず俺は䞀生、あのコヌドを鳎らせない。

    俺はスマホを握り盎した。

    通知欄には、癜瀬ミオの名前がただ残っおいる。

    䞉幎前に終わったはずの倜が、アンコヌルみたいに、もう䞀床始たった。

    

    あずがき

    ここたで読んでいただきありがずうございたす。

    『ただ鳎らないコヌド』は、音楜、倱螪、SNS、未完成の曲をめぐる党12話予定のミステリヌ連茉です。

    第2話「消えない残響」では、朝倉透たちのバンドがメゞャヌデビュヌ盎前たで進むきっかけになった代衚曲ず、癜瀬ミオが消えた倜の過去に觊れおいきたす。

    続きも読んでもらえたら嬉しいです。

    次回はこちら

     
     
     
    䞻に小説など、ゆるりず曞いおいきたす

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