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40年越しの待ち合わせ。【好きに還る旅④】

    京都へ向かう電車の中で、
    私は、ひとつだけ決めていたことがあった。

    急がないこと。


    窓の外を、
    40年前も、そして数年前も、
    通い慣れた風景が流れていく。

    (あ、家族が入院してた病院…..。)

    ……。

    AIと今回の旅したくを作ったとき、
    「あなたは何を大事にしたい?」

    と聞かれた。

    そこで見つかったのは、
    「自分のペースで過ごしたい」という、小さな願いだった。

    ▶︎ AIと「旅したく」を作ってみたら、思った以上に自分が整理された。【好きに還る旅③】

    だから今回は、
    京都で何かを探す旅じゃない。

    急がずに過ごしたら、何が向こうからやって来るのか。
    それを受け取る旅だった。

    ・

    やがて、京都駅。
    今でも何度も訪れてる街だけれど、
    泊まるために降り立つのは40年ぶりだった。

    ホテルの扉を開ける。

    本。
    本、本、本。

    表紙をこちらに向けた本たちが、
    「急がなくていいよ」
    とでも言うように並んでいた。

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    チェックインまで少し時間があったので、ロビーでビールを一杯。
    「お酒がお好きでしたら、こちらの棚もぜひ。」
    スタッフさんのやわらかな声に誘われて、手に取ったのは『のんべえ』。
    なんとも私らしい(笑)。

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    ブックペアリングの
    プレゼントの本は
    「泣けるジャンル」を選んだ。

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    部屋へ向かう2階廊下のテーマは「笑う」。
    泣ける本を抱えて、笑う廊下を歩く。
    そんな偶然が、もう楽しすぎ。

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    部屋に荷物を置いて
    歩いてすぐの和菓子屋さんで練り切りを買い、

    部屋で煎茶を淹れる。
    ひと息ついて、

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    さて、どんな本と出会えるのかな?
    プレゼントの青い包みを開くと、

    小川糸さんの『とわの庭』。

    部屋の本棚にも、小川糸さん。
    「ああ、また会えた。」
    『ライオンのおやつ』で激しく感動して以来の、
    こんな再会まで用意されていた。

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    本をめくる。
    思いつくままノートを記す。
    ちょっと疲れたから、お風呂。
    持参のバスソルトと
    ラベンダー&ゼラニウム精油を入れて。

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    足がしっかり伸ばせるバスタブっていいなぁ〜
    身体を沈めて
    湯船の際まで顔を近づけ、
    く〜〜んと深く息を吸い込む。
    「ふぁ〜〜〜、ゆるむぅ〜」

    湯上がりにまた、本。
    またノート。
    ちょっと一息、ほうじ茶。

    京都駅で買ってきたパックを開けた瞬間、
    手が止まった。

    このティーバッグ。

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    数年前、
    家族が入院してた頃、
    私が手作りして差し入れたのと
    ほぼ同じや。

    あの頃は
    無事に、とか、
    どうか、とか、
    そういう願いを挟むことはなくて。

    ただ淡々と、
    茶葉をバッグに詰めて、シールして。
    手を動かす。
    それだけの行為が、
    私のバランスを取ってくれてた。

    もしかしたら、
    願いを何も挟まない、あの手の動きのことを、「祈り」って呼ぶんかもしれんなぁ

    ……。

    香ばしい湯気を
    く〜んと吸い込んでから、ひと口すする。

    今日の私も、
    ただ、お茶を淹れてるだけ。
    それだけで、こんなに満たされる。


    さて、お楽しみの、

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    京都駅で買ってきた
    はも寿司。

    だし巻きのひと切れを口に入れた瞬間、身体が先に「好き」を教えてくれた。
    耳の奥が、かすかに
    ふぁんふぁん回ってる感じがする。
    これはきっと私の身体が喜ぶ味。

    幸せって、
    案外こんなひと切れで満たされるんやなぁと思った。

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    その夜は、本に囲まれたまま眠った。
    ……爆睡のはずだった。

    深夜1時。目が覚める。

    明日、早いんやから
    はよ寝ないと。
    そう思うほど、
    眠りは遠ざかっていき、

    静かな部屋で、
    40年前の景色が浮かび始めた。

    大学生だった頃の京都。
    北区の交差点。
    甘くなっていたバイクのブレーキ。
    危ないと気づいていたのに、乗り続けていたこと。

    言いたかったのに、言えなかった「イヤ」。

    好きかどうか、自分の本当の気持ちを確かめる前に選んだこと。

    ひとつ。
    また、ひとつ。

    ホテルの本棚みたいに、
    記憶がおもてをこちらへ向けて、
    静かに並び始めた。

    夕方に
    だし巻きひと切れで身体じゅうが喜んでいた、
    その同じ身体が今、
    40年前の私を思い出している。

    時間って、まっすぐ流れるものじゃないんやな。
    そう思っていたら気づいた。

    20歳の私を、60過ぎた私が責め始めていた。

    「あの時、なんで。」
    「どうして。」

    責める言葉は、
    止まることなく浮かんでくる。
    思い出したくなかった記憶と共に。
    どんどん、どんどん。

    ……あかん。

    「丹田のお鍋」や。

    交差点で起こったことも。
    言えなかった「いや」も。
    胸の奥から湧いてきた苦さも。

    ひとつずつ、浮かんでくるたびに
    丹田のお鍋へ入れていく。

    ぐるぐる
    かき混ぜて

    ことこと。

    あとはおまかせ、
    静かに蓋をした。

    いつ眠ったのかは、覚えていない。

    ・

    朝5時。アラームより先に目が覚めた。

    昨夜の重たさは、
    不思議なくらい残っていなかった。

    まず、お湯を沸かす。
    持ってきたほうじ茶を、
    部屋のマグカップに入れる。

    熱いお湯を注いだ瞬間、
    ふわっと香ばしい香りが立ちのぼった。

    はぁ……。

    この香りが、
    身体をゆっくり朝へ連れていってくれる。

    いつもホテルでは、備え付けのティーバッグで済ませていた。でも今回は、自分で選んだものを持ってきた。
    それだけで
    朝の気分が少し違って見えた。

    窓の外は、もう夏の光。

    さて。

    パン屋さんまで歩こう。
    そんなふうに玄関を出て、スマホの地図を開いた。

    徒歩30分(AIが作ったしおり情報)……のはずが、45分(笑)。

    クロード、だいぶざっくりやんか。
    思わず笑って、予定を変更した。

    そうだ、東寺へ行こう。

    その寄り道が、この朝のいちばんの贈り物になった。

    路地を曲がると、一匹の猫。

    「はなちゃん、今ごろ何してるかな。」

    そんなことを思いながら歩く。

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    昔よく通った銭湯を思い出させるような、
    銭湯の前を通り過ぎる。

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    東寺へ入る。
    蓮の花が、朝の光を受けて咲いていた。

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    御影堂では、
    ちょうど勤行が始まっていた。

    線香の香り。読経の声。

    見上げると、真っ青な空。

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    そして、門の前で足が止まった。

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    『岐に臨んで 幾たびか泣く』

    お大師さまの言葉だった。
    思わず、心の中でつぶやく。

    「……昨夜の私、見てはりました?」

    誰かに答えをもらったわけじゃない。
    励まされたわけでもない。
    でも、
    その一言を読んだだけで
    胸の奥にあった何かが、
    すっと静かになった。

    昨日の夜、
    布団の中で40年前を思い出していた私が、
    今、この青空の下を歩いている。

    何かが解決したわけじゃない。
    でも、
    朝の京都は、
    「それでいい」とは言わずに、
    ただ静かに、そこにいてくれた。

    部屋へ戻り、シャワーを浴びて、
    パンとコーヒーでゆっくり朝ごはん。

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    チェックアウトまで、また本をめくる。ノートを記す。

    ゆったりとした時間が、
    もう少し続いてほしいと思った。

    十時半ごろ、フロントから電話が鳴った。「チェックアウトのお時間が過ぎていますが……」

    思わず笑ってしまう。
    「11時ですよね。」
    確認すると、ホテル側の勘違いだったらしい。
    チェックアウトのとき、
    スタッフさんが丁寧に頭を下げてくださった。

    こんな小さな行き違いまで、なんだかこの旅らしい。
    ちょっとしたスパイスみたいだな(笑)

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    チェックアウトしたあとも、しばらくロビーで過ごした。
    本棚を眺めたり、ノートを書いたり。
    帰ろうと思う時間まで、
    まだ少しだけ、この空気の中にいたかった。

    そのとき。
    一冊の本の前で、足が止まる。

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    黄色い表紙。
    手書きで書かれたタイトル。

    『きっと今はハッピーエンドへの途中、』
    著者は、ほうじ茶さん(!)

    なんだか気になって、手に取った。
    表紙を開き、裏扉が目に入る。

    選ばなかった人生も、
    選べなかった人生も、
    全部、今の私だと思う。


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    ……

    昨夜、布団の中で責め続けられてた20歳の私。

    今朝、東寺で見上げた青空。
    そのあとに、この言葉。
    読んだのは、まだ裏扉だけだった。
    それなのに、
    そっと抱きしめられたような気がした。
    黄色い表紙の本を手にテーブルへ戻る。

    女性が一人、私の前を通り過ぎてトイレの方へ。

    私も少しして、トイレへ。

    洗面台の横にスマホが置き忘れてあるのに気づく。
    (これ、絶対困るやつや!!)
    フロントへ届けて席へ戻ると、

    さっきの女性が帰り支度を始めてたので、気になって声をかけてみた。

    「あの……スマホ。トイレに忘れてませんか」

    「あ!忘れてます」

    ほっとした笑顔を見届けて、
    私も帰る支度をした。

    旅って、こんな小さな出来事まで、
    あとから思い出になる。

    急がないと決めて過ごした一泊は、
    何か特別な答えをくれたわけじゃなかった。

    でも、
    急がなかったからこそ、
    向こうからやってきたものがあった。

    深夜、
    40年前の私。

    朝、お大師さまの言葉。

    そして、

    旅の終わりに待っていた、
    黄色い表紙の一冊。

    どれも、
    探しに行ったものじゃなかった。
    ただ、
    その時その時、
    目の前に現れたものを
    手に取っていただけだった。

    そうして、
    そろそろ帰ろうと思った。

    ホテルを出て、駅へ向かう。

    ・
    玄関を開けると、
    はなちゃんが、いつもと変わらない顔で迎えてくれる。

    夕方。

    夫の晩ごはんを用意して、
    私は朝買ったサンドイッチとワインを持って、
    自分の部屋へ戻った。

    窓を開ける。
    風が入ってくる。

    その風にあたりながら、
    ふと、黄色い本を思い出した。

    あの本とは、
    最初から待ち合わせをしていたのかもしれない。
    40年かけて。
    京都の本棚の前で。

    なかなか、いい待ち合わせだった。

    🌱
    この記事には、書かなかったことがあります。
    旅から帰って、あの夜を振り返っていたら——
    え? 責める前に、することがある?
    ▶︎深夜1時。20歳の私を責め続けた夜のこわばりを、やさしくほどく。【往復書簡|好きに還る旅 番外編】
    途中まで無料で読めます。

    🌱
    ▶︎マガジン「好きに還る旅」
    好きを辿っていったら、自分に還っていた。今も続いているシリーズです


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    #泊まってよかった宿


     
     
    🍎 心のフィルターは時々掃除したほうがいいね。 家庭内別居という暮らしのなかで 日々の出来事の受け取り方を見つめながら ✨身体と感情、想いを見える化し 自分の機嫌を自分で整える力を育てています このnoteは 食べること、感じること、 命の感覚をゆるゆると取り戻していく場所